おくすり情報

パキロビッドパック(ニルマトレルビル・リトナビル)の特徴・作用機序

開発の経緯について

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に起因する感染症であり、主に、他の臓器に影響を及ぼす可能性のある呼吸器系疾患である。
COVID-19 の初期症状は、インフルエンザや感冒に似ており、発症初期に判別することは困難である。SARS-CoV-2 曝露から発症までの潜伏期間は1~14 日間であり、通常は5 日程度で発症することが多いとされている。発症前から感染性があり、発症から間もない時期の感染性が高いこと及び無症候性の場合もあることが市中感染の原因とされており、ウイルスの伝染を制御することを困難にしている。発熱、咳嗽、倦怠感、呼吸困難、味覚障害、嗅覚障害等の症状が多くの患者に認められ、約80 %の患者は軽症のまま1 週間程度で治癒するが、約20 %は肺炎症状が増悪し、約5 %は人工呼吸器を必要とする急性呼吸窮迫症候群や多臓器不全に至り、2~3 %が致命的な経過をたどる。
2022 年2 月時点においてCOVID-19 パンデミックは進行中であり、ワクチンを接種できない免疫不全患者が存在し、ワクチン接種を完了した人においてもSARS-CoV-2 の変異株が免疫系を回避する可能性があることから、ウイルス伝播を減少させ、臨床的回復までの期間を短縮し、重症化、入院及び死亡を予防できる安全かつ有効な治療が求められていた。
コロナウイルスは4 つの構造タンパク質をコードするプラス鎖一本鎖のRNA をウイルスゲノムとして有するエンベロープウイルスである。本剤の有効成分はニルマトレルビルとリトナビルであり、ニルマトレルビルはSARS-CoV-2 のメインプロテアーゼ(以下、Mpro:3CL プロテアーゼ又はnsp5とも呼ばれる)を選択的に阻害する。Mpro はウイルス複製に不可欠なウイルスゲノムにコードされた酵素であり、ウイルスのpp1a 及びpp1ab ポリタンパク質を複数の接合部位で消化し、RdRp、ヘリカーゼ及びMpro 自体などのウイルス複製及び転写に重要な一連のタンパク質を生成する。リトナビルはMpro に対しては活性を有していないが、ニルマトレルビルのCYP3A を介した代謝を阻害することにより、血漿中ニルマトレルビル濃度を上昇させる。
本剤はSARS-CoV-2 の直接ウイルス検査結果が陽性でCOVID-19 の重症化(入院又は死亡など)のリスクが高い成人患者における軽度から中等度のCOVID-19 に対する治療を目的としており、本剤の安全性、忍容性及び薬物動態(以下、PK)の評価を目的とした日本人を含む国際第Ⅰ相試験(C4671001試験)と、重症化リスクの高い症候性の成人COVID-19 外来患者を対象とした国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験(C4671005 試験)を実施した結果、本剤の有効性及び安全性が認められた。
重症化リスク因子を有する成人及び12 歳以上かつ体重40 kg 以上の小児における軽度から中等度のCOVID-19 による感染症に対して、米国では2021 年12 月にEmergency Use Authorization を取得した。欧州においては、欧州医薬品委員会(CHMP)より酸素補給を必要とせず、重症化リスクの高いCOVID-19 の成人患者に対する本剤の使用について承認勧告が出され、2022 年1 月に欧州医薬品庁(EMA)より条件付き販売承認を取得した。

作用機序

 ニルマトレルビルはSARS-CoV-2 メインプロテアーゼ(Mpro:3CL プロテアーゼ又はnsp5 とも呼ばれる)を阻害し(IC50 = 19.2 nmol/L)、ポリタンパク質の切断を阻止することで、ウイルス複製を抑制する。
 リトナビルは検討した最高濃度(3 μmol/L)までSARS-CoV-2 に対して抗ウイルス活性を示さなかった。リトナビルはニルマトレルビルのCYP3A による代謝を阻害し、ニルマトレルビルの血漿中濃度を増加させる。

製品情報

商品名パキロビッドパック
一般名
(洋名)
ニルマトレルビル、リトナビル
(Nirmatrelvir、Ritonavir)
承認年月日2022年2月10日
発売年月日2022年2月14日
メーカーファイザー株式会社
名前の由来海外に準じた。
ステム-vir:抗ウイルス薬
-navir:HIV プロテアーゼ阻害薬

[こちらも参照:ステムで薬の名前を暗記!【一覧リスト】薬が覚えられない人必見!]

効能又は効果

SARS-CoV-2による感染症

重要な事項

 本剤は、本邦で特例承認されたものであり、承認時において有効性、安全性、品質に係る情報は限られており、引き続き情報を収集中である。そのため、本剤の使用に当たっては、あらかじめ患者又は代諾者に、その旨並びに有効性及び安全性に関する情報を十分に説明し、文書による同意を得てから投与すること。

禁忌

・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・次の薬剤を投与中の患者:アンピロキシカム、ピロキシカム、エレトリプタン臭化水素酸塩、アゼルニジピン、オルメサルタン メドキソミル・アゼルニジピン、アミオダロン塩酸塩、ベプリジル塩酸塩水和物、フレカイニド酢酸塩、プロパフェノン塩酸塩、キニジン硫酸塩水和物、リバーロキサバン、リファブチン、ブロナンセリン、ルラシドン塩酸塩、ピモジド、エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン・イソプロピルアンチピリン、エルゴメトリンマレイン酸塩、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、フィネレノン、シルデナフィルクエン酸塩(レバチオ)、タダラフィル(アドシルカ)、バルデナフィル塩酸塩水和物、ロミタピドメシル酸塩、ベネトクラクス〈再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の用量漸増期〉、ジアゼパム、クロラゼプ酸二カリウム、エスタゾラム、フルラゼパム塩酸塩、トリアゾラム、ミダゾラム、リオシグアト、ボリコナゾール、アパルタミド、カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、ホスフェニトインナトリウム水和物、リファンピシン、セイヨウオトギリソウ(St. John’s Wort、セント・ジョーンズ・ワート)含有食品
・腎機能又は肝機能障害のある患者で、コルヒチンを投与中の患者

用法及び用量

 通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、ニルマトレルビルとして1回300mg及びリトナビルとして1回100mgを同時に1日2回、5日間経口投与する。

注意

・SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始すること。臨床試験において、症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。
・中等度の腎機能障害患者(eGFR[推算糸球体ろ過量]30mL/min以上60mL/min未満)には、ニルマトレルビルとして1回150mg及びリトナビルとして1回100mgを同時に1日2回、5日間経口投与すること。重度の腎機能障害患者(eGFR 30mL/min未満)への投与は推奨しない。

代謝・代謝酵素について

 ニルマトレルビル:P-gp の基質である。また、CYP3A4 を可逆的及び時間依存的に阻害し、P-gp を阻害する。リトナビル:CYP3A と特に強い親和性を示し、CYP3A で酸化される種々の併用薬剤の代謝を競合的に阻害する。グルクロン酸抱合を促進し、CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19 を誘導することがわかっている。併用薬剤の血中濃度を低下させ、薬効が減弱する場合には併用薬剤の用量調節が必要となる可能性がある。

食事の影響

 高脂肪食摂食後にニルマトレルビル250 mg(経口懸濁液)をリトナビル100 mg 併用下で単回経口投与したとき、空腹時投与と比較してニルマトレルビルのCmax の平均値は約15 %、AUClast の平均値は約1.6 %増加した(外国人データ)。なお、この評価に用いた懸濁液と市販用製剤であるニルマトレルビル150 mg 錠剤との生物学的同等性は確認されていない。本剤は、食事の有無にかかわらず投与できる。

副作用(抜粋)

 重大な副作用として、肝機能障害(頻度不明)、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)(いずれも頻度不明)、アナフィラキシー(頻度不明)が報告されている。その他の副作用として、1%以上の頻度では味覚不全、下痢・軟便が報告されている。
 

こちらのサイトは記載日時点の添付文書、インタビューフォームをまとめたものです。記載内容には十分な注意を払っておりますが、医療の情報は日々新しくなるため、誤り等がある場合がございます。参考にする場合は必ず最新の添付文書等をご確認ください。

情報更新日:2022年10月

モバイルバージョンを終了