
みなさん、こんにちは。今回は2024年11月に新たに発売されたアルツハイマー病治療薬「ケサンラ」について、簡単にまとめました。
はじめに:ケサンラとは
ケサンラ点滴静注液350mg(一般名:ドナネマブ〈Donanemab〉)は、アルツハイマー病(Alzheimer’s Disease:AD)による軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)および軽度の認知症の進行抑制を目的とした治療薬です。 アルツハイマー病は加齢に伴って発症する代表的な神経変性疾患で、日本におけるMCIの患者数は2025年には約564万人(有病率15.4%)に達すると推定されています。 発症初期から徐々に記憶や思考、判断力が低下し、進行すると日常生活の自立が困難になります。ADの発症メカニズムとして「アミロイドカスケード仮説」があり、アミロイドβ(Amyloid beta:Aβ)の脳内蓄積が中核的な役割を果たすとされています。
製品概要
- 販売名:ケサンラ点滴静注液350mg
- 一般名:ドナネマブ(遺伝子組換え)
- 製造販売元:日本イーライリリー(株)
- 薬効分類:その他の中枢神経系用薬
- 薬価収載日:2024年11月20日
- 発売日:2024年11月26日
- 包装:20mL/1バイアル
作用機序と特徴
ケサンラは、神経毒性が強いとされるN3pGアミロイドβに選択的に結合し、ミクログリアによる貪食を促進することで脳内のアミロイドβプラークを除去します。これにより、アルツハイマー病の初期病態に介入し、進行を抑制することが期待されています。
効能・効果・適応症
アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度の認知症の進行抑制。
用法・用量と投与時の注意点
通常、成人にはドナネマブとして1回700mgを4週間隔で3回、その後は1400mgを4週間隔で30分以上かけて点滴静注します。投与中にアミロイドβプラークの除去が確認された場合はその時点で投与を完了します。
相互作用・代謝経路
出血リスクを高める薬剤(抗凝固薬、抗血小板薬、血栓溶解薬)との併用に注意が必要です。ドナネマブはIgG1モノクローナル抗体であり、主に異化経路で代謝されます。
食事の影響について
点滴静注薬のため、食事の影響は受けません。
主な副作用と安全性情報
代表的な副作用は、infusion reaction(8.3%)、ARIA(アミロイド関連画像異常:36.8%)、頭痛、悪心などです。特にARIAに関しては投与開始前後のMRIモニタリングが必要です。
処方時のチェックリスト(医師向け)
- アミロイドβ病理の診断がPET等で確認されているか
- 軽度認知障害または軽度の認知症であるか(中等度以降は対象外)
- 重度の白質病変、5個以上の脳微小出血、1cmを超える脳出血の有無
- ARIAに関する事前説明とインフォームドコンセントの取得
- 投与施設の検査・管理体制(MRI、PETなど)が整っているか
服薬指導のポイント(薬剤師向け)
- 外来で点滴投与を受ける薬剤であるため、服薬アドヒアランスよりも受診の継続性が重要です。
- MRI検査のスケジュールや副作用(特にARIA)の早期認識に関する啓発が大切です。
一言アドバイス:「MRIの予約日や副作用のサインに気をつけて、何かあればすぐに主治医に相談を!」とお伝えしましょう。
まとめ

ケサンラは、アルツハイマー病の初期病態に介入できる数少ない抗体薬のひとつです。慎重な患者選定と定期的なモニタリングを前提に、進行抑制の一助として活用が期待されます。