薬剤師みかんのおくすり手帳https://gorokichi.com/okusuri-jouhou医師・看護師・薬剤師(薬学生)のための新薬まとめSun, 30 Nov 2025 08:13:31 +0000jahourly1【2025年11月27日発売】ドルミカムシロップ2mg/mL(ミダゾラム)の特徴、作用機序https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1453https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1453#respondThu, 27 Nov 2025 03:00:00 +0000https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/?p=1453

『みなさん、こんにちは。今回は2025年11月に新たに発売された麻酔前投薬治療薬「ドルミカムシロップ2mg/mL」について、簡単にまとめました。』

はじめに:ドルミカムシロップとは

ドルミカムシロップ2mg/mL(一般名:ミダゾラム)は、小児を対象とした麻酔前投薬専用の経口ミダゾラム製剤です。手術や麻酔は患者さんにとって大きなストレスとなりますが、とくに小児では、保護者と離れる不安や環境の変化から泣いたり興奮したりしやすく、麻酔導入や気管挿管が困難になることがあります。その結果、分泌物による気道閉塞や嘔吐による誤嚥、不整脈など、周術期合併症のリスクが高まることが知られています。

小児麻酔の現場では、こうした不安や興奮を和らげ、スムーズな麻酔導入をサポートする麻酔前投薬(プレメディケーション)が重要な役割を担っています。理想的な麻酔前投薬は、効果発現が速やかで持続は長すぎず、投与経路はできる限り侵襲の少ない経口投与が望まれます。しかし、これまで国内で麻酔前投薬として承認されていたミダゾラム製剤は筋肉内投与のみであり、「小児向けの経口プレメディケーション製剤がほしい」という現場のニーズが大きく、学会からも開発要望が出されていました。

ドルミカムシロップは、こうした背景を受けて誕生した、国内初の小児麻酔前投薬用ミダゾラムシロップ製剤です。ストロベリー様のにおいを有し、小児でも受け入れやすい味と剤形に配慮されている点も特徴です。GABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位を介して抑制性神経伝達を増強し、催眠・鎮静・抗不安作用を発揮することで、小児の不安を軽減し、麻酔導入を円滑に進めることが期待されます。

製品概要(承認日、発売日、製造販売元など)

  • 商品名:ドルミカムシロップ2mg/mL
  • 一般名:ミダゾラム
  • 薬効分類:催眠鎮静剤
  • 剤形・性状:無色澄明のシロップ剤で、ストロベリー様のにおいがある。
  • 効能・効果:麻酔前投薬(小児を対象)
  • 製造販売元:丸石製薬株式会社
  • 製造販売承認取得日:2025年9月19日
  • 薬価基準収載日:2025年11月12日
  • 発売日:2025年11月27日

作用機序と特徴

ミダゾラムは、ベンゾジアゼピン系に分類される催眠鎮静薬で、脳内のGABAA受容体に存在する「ベンゾジアゼピン結合部位」に結合し、抑制性神経伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)の作用を増強します。これにより、神経細胞へのクロライドイオンの流入が促進され、神経の興奮性が低下することで、催眠・鎮静・抗不安・健忘作用を発揮すると考えられています。

ドルミカムシロップ2mg/mLの主な特徴は以下の通りです。

  • 経口投与可能な麻酔前投薬:小児に対して侵襲の少ない経口投与が可能で、筋注に比べて心理的負担を軽減しやすい。
  • 比較的速やかな効果発現:全身麻酔前に投与することで、不安軽減および鎮静を得て、麻酔導入・気管挿管をスムーズに行うことが期待される。
  • シロップ剤で小児に服用しやすい:ストロベリー様のにおいを付与し、小児が受け入れやすい剤形に工夫されている。
  • 薬物動態:主にCYP3A4で代謝され、活性代謝物(1-ヒドロキシ体など)が生じる。小児においては体重や年齢によってクリアランスや半減期に差がみられるため、投与量は添付文書に基づき慎重に調整する必要がある。

一方で、ベンゾジアゼピン系薬剤であることから、呼吸抑制や呼吸停止、循環動態の変動をきたすリスクがあり、添付文書では十分なモニタリング体制のある施設で、経験ある医師のもとで使用するよう強く警告されています。

効能・効果・適応症

効能・効果:
麻酔前投薬

なお、生後6ヵ月未満の小児における有効性および安全性は確立していないとされており、この年齢層に対しては適応外となります。

用法・用量と投与時の注意点

基本用法・用量(添付文書):

  • 通常、小児にはミダゾラムとして1回0.25~1.0mg/kg(最大用量20mg)を、麻酔開始前に経口投与する。

用法・用量に関連する主な注意点:

  • 投与量は、国内外の臨床成績や最新のガイドラインを参考に、年齢・全身状態・併用薬などを考慮して個別に決定する。
  • 肥満小児では、標準体重に基づいて投与量を算出する。
  • ミダゾラムへの反応には個人差が大きく、特に衰弱患者、心不全患者、肝機能障害患者、他の中枢神経抑制薬併用時では作用が強くあらわれやすいため、投与量を減じることが推奨されている。
  • 投与タイミングは、麻酔導入の予定時刻や効果発現時間を考慮し、適切な時間帯に設定する。
  • 本剤は経口投与専用であり、注射には用いない。

重要な警告・注意点(概要):

  • 呼吸抑制・呼吸停止により、速やかな処置が行えなかった症例では、死亡や低酸素脳症に至った報告がある。
  • 呼吸・循環動態を連続的に観察できる設備と、緊急時対応が可能な施設でのみ使用する。
  • 小児の鎮静管理に熟練した医師が、リスクとベネフィットを十分に評価した上で投与する。
  • 過量投与が疑われる場合は、必要に応じてベンゾジアゼピン受容体拮抗薬(フルマゼニル)の使用を検討するが、作用時間の違いによる再鎮静にも注意が必要。

相互作用・代謝経路

ミダゾラム(ドルミカムシロップ)は、主としてCYP3Aで代謝される薬剤であり、CYP3Aを阻害・誘導する薬剤との相互作用が重要です。また、中枢神経抑制作用を有する薬剤との併用により、鎮静および呼吸・循環抑制が増強される可能性があります。

1. 併用禁忌(併用しないこと)

HIVプロテアーゼ阻害剤など強力なCYP3A阻害薬

  • リトナビルを含有する薬剤(ノービア、カレトラなど)
  • ホスアンプレナビル(レクシヴァ)
  • ダルナビルを含有する薬剤(プリジスタ、プレジコビックス、シムツーザ)
  • コビシスタット含有薬剤(ゲンボイヤ、プレジコビックス、シムツーザ など)
  • ニルマトレルビル・リトナビル(パキロビッドパック)
  • ロナファルニブ(ゾキンヴィ)

これらの薬剤は強力なCYP3A阻害作用を有し、ミダゾラムの代謝を著明に抑制することで、血中濃度を大きく上昇させます。その結果、過度の鎮静や呼吸抑制、呼吸停止を起こすおそれがあるため、併用禁忌とされています。

2. 併用注意(併用に注意すること)

(1)中枢神経抑制作用を有する薬剤・アルコール

  • 中枢神経抑制剤(フェノチアジン誘導体、バルビツール酸誘導体、麻薬性鎮痛剤など)
  • モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤
  • アルコール(飲酒)

これらと併用すると、鎮静・麻酔作用が増強され、呼吸数や血圧、心拍出量の低下が生じるおそれがあります。相加的に中枢神経抑制作用(鎮静・麻酔作用、呼吸・循環動態への影響)を増強するため、併用の必要性を慎重に検討し、投与量減量やモニタリング強化が必要となります。

(2)主にCYP3Aで代謝される薬剤

  • カルバマゼピン
  • クロバザム
  • トピラマート など

ミダゾラムと同じくCYP3Aで代謝される薬剤では、代謝の競合により、本剤または相手薬剤の血中濃度が上昇し、作用が増強されるおそれがあります。抗てんかん薬などを併用している小児では、薬物治療全体のバランスを考慮し、必要に応じて血中濃度モニタリングや用量調整を検討します。

(3)CYP3Aを阻害する薬剤

  • カルシウム拮抗薬:ベラパミル塩酸塩、ジルチアゼム塩酸塩
  • アゾール系抗真菌薬:ケトコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール など
  • シメチジン
  • マクロライド系抗菌薬:エリスロマイシン、クラリスロマイシン
  • ホスネツピタント塩化物塩酸塩
  • カロテグラストメチル
  • ピミテスピブ
  • エンシトレルビルフマル酸
  • ベルモスジルメシル酸塩
  • カピバセルチブ
  • グレープフルーツジュースなど

これらはCYP3Aを阻害し、ミダゾラムの代謝を抑制することで、本剤の血中濃度を上昇させ、中枢抑制作用を増強させるおそれがあります。併用が避けられない場合には、投与量の減量や投与間隔の調整、呼吸・循環の厳重なモニタリングが必要となります。グレープフルーツジュースも同様にCYP3A阻害作用を持つため、服用前後の摂取は避けるよう指導します。

(4)CYP3Aを誘導する薬剤

  • リファンピシン
  • カルバマゼピン
  • エンザルタミド
  • ダブラフェニブ
  • ミトタン
  • アメナメビル
  • ロルラチニブ
  • イプタコパン塩酸塩水和物
  • フェニトイン
  • フェノバルビタール
  • セイヨウオトギリソウ(St. John’s Wort)含有食品など

これらはCYP3Aを誘導することで、ミダゾラムの代謝を促進し、血中濃度を低下させます。その結果、本剤の鎮静作用が減弱し、期待する効果が得られない可能性があります。併用時は効果の変化を慎重に観察し、必要に応じて用量調整を行います。

(5)抗悪性腫瘍剤・プロポフォール

  • ビノレルビン酒石酸塩、パクリタキセル等:骨髄抑制等の副作用が増強するおそれがある。本剤がCYP3Aを阻害し、これらの薬剤の代謝を抑制することで、血中濃度が上昇すると考えられている。
  • プロポフォール:麻酔・鎮静作用が増強され、血圧低下や心拍出量低下などの循環抑制が強く出る可能性がある。相互に中枢抑制作用を増強し、さらにCYP3A阻害により本剤の血中濃度が上昇したとの報告もある。

代謝経路のまとめ

  • ミダゾラムは肝臓のCYP3A4により主に1-ヒドロキシ体、4-ヒドロキシ体へと代謝される。
  • 代謝物は主として尿中に排泄される。
  • 肝機能障害やCYP3A阻害薬の併用により、半減期延長・血中濃度上昇が生じやすい。

食事の影響について

ドルミカムシロップそのものは、通常の食事との間に明確な制限は設けられていませんが、グレープフルーツジュースはCYP3A阻害作用により本剤の血中濃度を上昇させる可能性があるため、服用前後の摂取は避けることが望まれます。

また、アルコールは中枢抑制作用を相加的に増強させるため、成人患者への応用が検討される場面などでは、飲酒の回避を指導する必要があります。小児への使用が中心となる本剤においては、保護者への説明の中で、他の薬やサプリメント、ハーブ製品(セイヨウオトギリソウを含む)などの摂取状況も確認しておくと安全です。

主な副作用と安全性情報

ベンゾジアゼピン系薬剤の特徴を踏まえ、ドルミカムシロップでも以下のような副作用が注意喚起されています。

  • 呼吸抑制・呼吸停止:最も重要な安全性上のリスクであり、適切な監視と緊急対応体制が必須。
  • 過鎮静・傾眠・錯乱:意識レベルの低下や反応性の低下がみられることがある。
  • 循環動態の変動:血圧低下、心拍数変動、心拍出量低下など。
  • 興奮、逆説的反応:まれに不穏・興奮・攻撃性が出現することがあり、投与中止や対症療法を検討する。
  • 消化器症状:悪心、嘔吐など。

過量投与や感受性の高い患者では、過鎮静から呼吸抑制へ進行するリスクがあるため、経過観察とモニタリング(呼吸数、SpO2、血圧、心拍など)を十分に行うことが重要です。必要に応じてフルマゼニルの使用を考慮しますが、作用時間の違いによる再鎮静には十分注意が必要です。

処方時のチェックリスト(医師向け)

  • 麻酔前投薬としての使用目的が明確であり、小児麻酔に精通した医師が管理できる体制か。
  • 施設として、呼吸・循環を連続的に観察できるモニタリング設備と、緊急時の蘇生・気道確保が可能な環境が整っているか。
  • 対象が生後6ヵ月以上の小児であることを確認しているか。
  • 基礎疾患(心不全、呼吸器疾患、肝・腎機能障害、神経疾患など)を把握し、必要な用量調整を行っているか。
  • HIVプロテアーゼ阻害剤など併用禁忌薬の有無を確認しているか。
  • CYP3A阻害・誘導薬、他の中枢神経抑制薬、抗てんかん薬等との併用状況を確認しているか。
  • 肥満児では標準体重に基づいて投与量を算出しているか。
  • 投与タイミング(麻酔導入との間隔)を、効果発現時間を踏まえて設定しているか。
  • フルマゼニルなど緊急時使用薬がすぐに使用できるように準備されているか。

服薬指導のポイント(薬剤師向け)

  • ドルミカムシロップは麻酔開始前の一時的な投与であり、家庭で継続内服する薬ではないことを保護者に説明する。
  • 医師が指示した投与量(mL換算)を、体重に応じて正確に調製し、投与直前に確認する。
  • ストロベリー様のにおいがあるが、嫌がる場合は看護師・医師と連携し、無理な投与で誤嚥を招かないよう配慮する。
  • グレープフルーツジュースや一部の薬剤が相互作用を起こす可能性があることを注意
  • フルマゼニル投与歴がある患者では、本剤の鎮静作用が変化・遅延する可能性があることを念頭に置き、医師に情報提供する。

ケアポイント(看護師向け)

  • 投与前に、体重・全身状態・バイタルサインを確認し、予定投与量が妥当かどうか医師と情報共有する。
  • 投与後は、意識レベル、呼吸数、SpO2、血圧、心拍数などを連続的または頻回に観察し、異常があれば速やかに医師へ報告する。
  • 小児が保護者と離れるタイミングや環境に配慮し、不安や恐怖を軽減する声かけ・環境調整を行う。
  • 飲み込みが不十分な場合や、嫌がって暴れる場合は、誤嚥リスクを考慮して投与方法を見直す必要があるため、安易に再投与しない。
  • 手術室・麻酔科スタッフとの情報連携(投与時刻、投与量、投与後の様子)を確実に行い、麻酔導入時の判断材料として共有する。

まとめ

『ドルミカムシロップは、小児の手術前の不安をやわらげて、麻酔導入をスムーズにしてくれるお薬ですね。呼吸や循環への影響にはしっかり注意が必要ですが、チームで連携しながら使っていくことで、親子ともに少しでも安心して手術に臨めるようなお手伝いができるといいな、と思います。』

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【2025年11月27日発売】ボルズィ錠(ボルノレキサント)の特徴、作用機序https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1451https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1451#respondThu, 27 Nov 2025 03:00:00 +0000https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/?p=1451

『みなさん、こんにちは。今回は2025年11月に新たに発売された不眠症治療薬「ボルズィ錠」について、簡単にまとめました。』

はじめに:ボルズィ錠とは

不眠症は、入眠困難(なかなか眠れない)、中途覚醒(途中で何度も目が覚める)、早朝覚醒(早く目が覚めてしまう)といった睡眠の不調が続き、その結果として日中の倦怠感、意欲の低下、集中力の低下、食欲低下などを引き起こし、仕事や学業、家事・育児など日常生活の質(QOL)を下げてしまう疾患です。一般成人の30~40%が何らかの不眠症状を持つとされ、女性に多く、加齢とともに増加する傾向が報告されています。

不眠の背景には、ストレス、精神疾患、神経疾患、身体疾患、アルコールや薬剤の影響など、さまざまな要因が関与しており、治療では睡眠衛生指導(生活リズム・光暴露・運動・カフェイン摂取の見直し等)とともに、必要に応じて薬物療法を行います。薬物療法としては、ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬などから、患者さんの不眠タイプや背景に応じて慎重に薬剤選択を行うことが求められます。

ボルズィ錠(一般名:ボルノレキサント水和物)は、覚醒維持に重要な役割を担う「オレキシンA・B」が結合する受容体(OX1R・OX2R)を選択的にブロックするオレキシン受容体拮抗薬です。消半減期を短く抑えることを意識して設計されたオキサアジナン誘導体であり、夜間の過剰な覚醒状態を抑えつつ、日中の機能低下を最小限にすることを目指して開発された、新しい不眠症治療薬のひとつです。

製品概要(承認日、発売日、製造販売元など)

  • 商品名:ボルズィ錠2.5mg・5mg・10mg
  • 一般名:ボルノレキサント水和物
  • 薬効分類:オレキシン受容体拮抗薬/不眠症治療薬
  • 製造販売元:大正製薬株式会社
  • 販売元:大正製薬株式会社、Meiji Seika ファルマ株式会社
  • 効能・効果:不眠症
  • 用法・用量:通常、成人にはボルノレキサントとして1日1回5mgを就寝直前に経口投与。症状により適宜増減するが、1日1回10mgを超えない。
  • 製造販売承認取得日:2025年8月25日
  • 薬価基準収載日:2025年10月22日
  • 発売日:2025年11月27日

作用機序と特徴

覚醒状態の維持には、視床下部から放出される神経ペプチド「オレキシンA・オレキシンB」が重要な役割を果たします。これらはOX1R・OX2Rと呼ばれる受容体に結合し、覚醒系の神経ネットワークを活性化することで、覚醒状態を保っています。不眠症では、こうした覚醒シグナルが過剰に働いている「過覚醒状態」が病態の一因と考えられています。

ボルズィ(ボルノレキサント)は、OX1R・OX2Rの両方を阻害する二重オレキシン受容体拮抗薬(DORA)であり、オレキシンA・Bが受容体に結合するのを競合的にブロックします。その結果、覚醒シグナルが抑制され、過剰な覚醒状態から睡眠状態へスムーズに移行させると考えられています。

本剤はオキサアジナン誘導体で、オキサアジナン環を導入することにより、オレキシン受容体阻害活性脂溶性の低減(消半減期短縮)を両立させた薬物動態プロファイルを目指して開発されています。実際の臨床試験では、睡眠潜時の短縮、睡眠維持の改善とともに、日中の主観的眠気や認知機能への影響は大きくないことが示されており、夜間の睡眠改善と日中のパフォーマンス維持の両立が期待される薬剤です。

効能・効果・適応症

効能・効果:
不眠症

入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒などの症状を有し、日中の生活に支障をきたしている不眠症患者が対象となります。なお、睡眠衛生指導等の非薬物療法を十分に行った上で、それでも十分な改善が得られない場合に薬物療法の適応が検討されます。

用法・用量と投与時の注意点

基本用法・用量(成人):

  • 通常、成人にはボルノレキサントとして1日1回5mgを就寝直前に経口投与する。
  • 症状により適宜増減するが、1日1回10mgを超えないこと。

用量調節に関する主な注意点(添付文書より抜粋要約):

  • 中程度のCYP3A阻害薬(例:フルコナゾール、エリスロマイシン、ベラパミル塩酸塩等)との併用時は、本剤の血漿中濃度が上昇し傾眠等の副作用が増強するおそれがあるため、1日1回2.5mgとすること。
  • 中等度肝機能障害(Child-Pugh分類B)の患者でも同様に血漿中濃度上昇・傾眠の増強が懸念されるため、1日1回2.5mgとすること。
  • 重度肝機能障害(Child-Pugh分類C)を有する患者は禁忌とされている。
  • 他の不眠症治療薬との併用時の有効性および安全性は確立していないため、基本的には単剤投与が前提となる。

重要な基本的注意(患者指導に関わるポイント):

  • 不眠症あるいは本剤の影響により、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがある。
  • 自動車運転や高所作業など危険を伴う機械操作の可否を慎重に判断し、眠気等がある場合は従事させないよう指導する。
  • 症状が改善した場合には、漫然と投与を継続せず、本剤継続の要否を適宜検討する。

相互作用・代謝経路

ボルノレキサントは主としてCYP3Aで代謝されるとされており、CYP3A阻害薬・誘導薬との相互作用が重要です。また中枢神経抑制作用を有する薬剤・アルコールとの併用にも注意が必要です。

1. 併用禁忌(併用しないこと)

強いCYP3A阻害薬(本剤の血中濃度が著明に上昇)

  • イトラコナゾール
  • ポサコナゾール
  • ボリコナゾール
  • クラリスロマイシン
  • リトナビル含有製剤
  • エンシトレルビルフマル酸
  • コビシスタット含有製剤
  • セリチニブ

これらの薬剤は強いCYP3A阻害作用を有し、ボルノレキサントの代謝を強く抑制することで血漿中濃度が大きく上昇し、傾眠などの中枢抑制作用が過度に増強するおそれがあるため、添付文書上併用禁忌とされています。

2. 併用注意(併用に注意すること)

(1)中程度のCYP3A阻害薬

  • フルコナゾール
  • エリスロマイシン
  • ベラパミル塩酸塩 など

これらの薬剤は中程度のCYP3A阻害作用を有し、本剤の代謝を抑制することで血漿中濃度を上昇させ、傾眠等の副作用が増強するおそれがあります。そのため、併用時はボルズィの用量を1日1回2.5mgに減量して使用することとされています。

(2)CYP3A誘導薬

  • リファンピシン
  • カルバマゼピン
  • フェニトイン など

これらはCYP3A誘導作用により、本剤の代謝を促進し血漿中濃度を低下させることで、本剤の作用を減弱させるおそれがあります。必要性を慎重に検討し、併用する場合には不眠症状の変化を十分に観察します。

(3)グレープフルーツジュース

  • 本剤の作用を増強させるおそれがある。
  • グレープフルーツ由来成分がCYP3Aを阻害し、ボルノレキサントの代謝を抑制することで、血漿中濃度が上昇すると考えられています。

患者には服用時はグレープフルーツジュースを避けるよう指導します。

(4)中枢神経抑制薬

  • フェノチアジン誘導体
  • バルビツール酸誘導体 など

これら中枢神経抑制薬と併用すると、相互に抑制作用が増強され、過度の眠気、ふらつき、転倒リスクなどが高まるおそれがあります。併用が避けられない場合は、用量調整や活動制限を含め慎重な管理が必要です。

(5)アルコール(飲酒)

  • アルコールと本剤はともに中枢神経抑制作用を有し、精神運動機能の相加的低下を来す可能性があります。
  • ふらつき、判断力低下、転倒・事故のリスクが増大するため、服用中の飲酒は避けるよう指導します。

(6)他の不眠症治療薬

  • 他の睡眠薬との併用時の有効性・安全性は確立していません。
  • 原則として単剤で使用し、他剤から切り替える場合は休薬や漸減を検討します。

代謝経路のまとめ

  • 主としてCYP3Aによる代謝を受ける。
  • 肝機能障害(特に中等度以上)では血中濃度が上昇しやすいため、用量調整または禁忌対象となる。
  • 強いCYP3A阻害薬との併用でAUCが大きく上昇することが薬物動態試験で確認されている。

食事の影響について

ボルズィ錠は就寝直前に服用することが推奨されており、添付文書上、通常の食事に関する大きな制限は示されていません。一方で、グレープフルーツジュースはCYP3A阻害作用により血中濃度を上昇させる可能性があるため、服用前後の摂取は避けることが望まれます。

また、アルコールは中枢抑制作用が相加的に強まり、翌朝まで眠気やふらつきが残るリスクがあるため、服用中の飲酒は控えるよう指導することが重要です。

主な副作用と安全性情報

臨床試験および市販後情報から、以下のような副作用が報告されています。

  • 傾眠(眠気):最も重要かつ頻度の高い副作用。5mg群・10mg群ともに数%台で認められ、長期投与試験でも主要な副作用でした。
  • 浮動性めまい
  • 悪夢などの睡眠関連精神症状
  • 倦怠感
  • 血中乳酸脱水素酵素(LDH)増加などの検査値異常

添付文書上は、「傾眠」「日中の眠気」「注意力・集中力低下」に特に注意するよう記載されており、自動車運転や危険を伴う機械操作を避けるべき状況について、医師から患者さんへ十分な説明を行うことが求められています。

また、重度肝機能障害患者は禁忌とされ、中等度肝機能障害では用量減量(1日1回2.5mg)と慎重な観察が必要です。

処方時のチェックリスト(医師向け)

  • 不眠症状が慢性的に存在し、日中の機能低下を伴う「不眠症」と診断できているか。
  • 睡眠衛生指導(生活リズム、光環境、カフェイン・アルコール等)の介入が行われているか。
  • 他の睡眠薬からの切り替えの場合、減量・中止スケジュールを検討しているか。
  • 肝機能障害の有無(特に中等度〜重度)を確認しているか。
  • 強いCYP3A阻害薬(イトラコナゾール等)との併用がないか(あれば禁忌)。
  • 中程度のCYP3A阻害薬(フルコナゾール等)併用時には用量2.5mgへの減量が必要であることを認識しているか。
  • リファンピシン等のCYP3A誘導薬の併用により効果減弱が予想される症例では、必要性を慎重に評価したか。
  • アルコール多飲や中枢抑制薬併用など、転倒リスク因子を把握しているか。
  • 症状改善後には漫然と継続せず、減量や中止も含め投与継続の要否を定期的に評価する計画があるか。

服薬指導のポイント(薬剤師向け)

  • 「就寝直前に1日1回服用する薬」であることを明確に伝える。
  • 飲み忘れた場合、その夜を過ぎてから気づいたときは服用しないことを説明する(翌日に2回分をまとめて飲まない)。
  • 服用中は飲酒を控えること、グレープフルーツジュースは避けることを案内する。
  • 日中の眠気・ふらつき・注意力低下を感じた場合は、すぐに主治医へ相談するよう促す。
  • 他の睡眠薬や精神科薬、感冒薬(鎮静成分含有)を自己判断で追加しないよう注意喚起する。
  • 中等度のCYP3A阻害薬を併用中で用量が2.5mgに設定されている場合、その理由(相互作用と安全性)をわかりやすく説明する。

ケアポイント(看護師向け)

  • 入院中・外来ともに、日中の眠気・ふらつき・転倒の有無を定期的に確認する。
  • 夜間の睡眠状況(入眠までの時間、中途覚醒の回数など)を聞き取り、薬剤効果の評価に役立てる。
  • 高齢患者や多剤併用患者では、他の中枢抑制薬やアルコール摂取の有無を確認し、必要に応じて医師・薬剤師と情報共有する。
  • 肝機能障害の既往や検査値の変化がないかを確認し、中等度以上の障害が疑われる場合は速やかに報告する。
  • 自動車運転や危険作業に従事している患者には、眠気や注意力低下のリスクを丁寧に説明し、勤務・生活調整の必要性を一緒に検討する。

まとめ

『ボルズィは、オレキシンをターゲットにした新しいタイプの睡眠薬で、夜の「過覚醒」をやわらげてくれるお薬ですね。飲み方や一緒に使うお薬、アルコールとの関係にはちょっとした注意が必要ですが、患者さんの生活リズムに寄り添いながら、無理のない睡眠リズムづくりのお手伝いができたらうれしいな、と思います。』

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【2025年11月21日発売】ネクセトール錠180mg(ベムペド酸)の特徴、作用機序https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1449https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1449#respondFri, 21 Nov 2025 03:00:00 +0000https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/?p=1449

『みなさん、こんにちは。今回は2025年11月に新たに発売された高コレステロール血症・家族性高コレステロール血症治療薬「ネクセトール錠180mg」について、簡単にまとめました。』

はじめに:ネクセトール錠180mgとは

高コレステロール血症は、動脈硬化性疾患の主要な危険因子のひとつであり、心筋梗塞や脳梗塞などの予防のためには、LDLコレステロール(LDL-C)を管理目標値以下にコントロールし続けることが重要とされています。家族性高コレステロール血症(FH)は遺伝性にLDL-Cが高値となる疾患で、ヘテロ接合体(HeFH)だけでなく、より重症なホモ接合体(HoFH)も存在し、若年から動脈硬化が進行しやすいことが知られています。

ガイドラインではまずスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害剤)が第一選択薬とされますが、最大耐量のスタチンでも管理目標に到達しない例や、筋症状などの副作用のためスタチンによる治療が難しい症例も少なからず経験されます。そのような患者に対しては、エゼチミブやPCSK9阻害薬、インクリシランなど、スタチンとは異なる作用機序のLDL-C低下薬の追加・切り替えが検討されます。

ネクセトール錠180mg(一般名:ベムペド酸)は、HMG-CoA還元酵素のさらに「ひとつ上流」を標的とするATPクエン酸リアーゼ(ACL)阻害剤です。1日1回経口投与でLDL-Cを低下させる新規機序の薬剤であり、スタチンで効果不十分な症例、あるいはスタチン治療が適さない症例に対する新たな治療選択肢として期待されています。

製品概要

  • 商品名:ネクセトール錠180mg
  • 一般名:ベムペド酸
  • 薬効分類:ATPクエン酸リアーゼ阻害剤
  • 製造販売元:大塚製薬株式会社
  • 効能・効果:高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症
  • 用法・用量:通常、成人にはベムペド酸として180mgを1日1回経口投与
  • 承認取得日:2025年9月19日
  • 薬価基準収載日:2025年11月12日
  • 発売日:2025年11月21日

なお、本剤はHMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分、またはスタチンによる治療が適さない患者に使用する薬剤と位置づけられています。また、家族性高コレステロール血症のうちホモ接合体(HoFH)に対しては使用経験がなく、治療上やむを得ない場合に非薬物療法(LDLアフェレーシスなど)の補助としての適用が考慮されます。

作用機序と特徴

ベムペド酸は肝細胞内でCoA活性体(ETC-1002-CoA)に変換され、ATPクエン酸リアーゼ(ATP citrate lyase:ACL)を選択的に阻害します。ACLはコレステロール合成経路において、HMG-CoA還元酵素より上流に位置する酵素であり、クエン酸からアセチルCoAを生成するステップを担っています。

  • ACL阻害により、肝臓でのコレステロール合成が低下
  • 肝細胞表面のLDL受容体(LDLR)の発現が誘導される
  • 血中LDL-Cが増加したLDLRに取り込まれ、結果としてLDL-Cが低下

ベムペド酸は主に肝臓で活性化され、骨格筋ではほとんど活性化されないとされており、その点が「筋障害リスクを比較的抑えつつLDL-Cを低下させる」可能性がある点として注目されています。一方で、本剤はスタチンの血中濃度を上昇させ得るため、スタチン併用時には逆に横紋筋融解症などのリスクが増加する可能性がある点に留意が必要です。

効能・効果・適応症

効能・効果(添付文書記載):
高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症

適用前には、診察および血清脂質検査などにより、対象が高コレステロール血症または家族性高コレステロール血症であることを確認した上で使用を検討します。また、HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分、あるいはスタチン治療が適さない患者に限定して使用します。

用法・用量と投与時の注意点

基本用法・用量:

  • 通常、成人にはベムペド酸として180mgを1日1回経口投与する。

用法・用量に関連する注意点:

  • スタチン治療が適さない場合を除き、HMG-CoA還元酵素阻害剤との併用が推奨されます。
  • 投与中は定期的に脂質プロファイルを測定し、反応が不十分な場合は投与継続の是非を検討します。
  • 食事療法・運動療法・禁煙など、生活習慣介入と併せて使用することが基本です。
  • 本剤投与により尿酸値上昇・高尿酸血症・痛風があらわれることがあるため、既往のある患者では特に注意が必要です。
  • 重度の肝機能障害(Child-Pugh C)患者では非結合形の血中濃度が上昇し得るとされ、慎重な適応判断が求められます。
  • 妊婦・授乳婦には使用しないこととされており、生殖能を有する女性には適切な避妊指導が必要です。

相互作用・代謝経路

ベムペド酸は主にNADPH依存性酸化およびUGT2B7によるグルクロン酸抱合で代謝され、CYP依存性代謝の寄与は小さいとされています。一方で、他剤との相互作用に関する検討は複数行われており、臨床的に注意すべき薬剤が存在します。

1. HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン系)

アトルバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチンとの併用試験において、本剤併用により各スタチンおよびその活性代謝物のCmax・AUCが最大でおよそ1.5~2倍程度まで上昇することが報告されています。

  • 機序:主として有機アニオン輸送系(OATP・OAT系など)やグルクロン酸抱合への影響が関与すると考えられています。
  • 臨床的影響:スタチン血中濃度上昇 → 筋障害・横紋筋融解症リスク増大。
  • 対応:スタチン併用時はCKの定期測定、筋痛・脱力・こむら返りなどの症状に注意し、症状出現時には速やかな受診と検査を指導します。

2. エゼチミブ

  • エゼチミブのグルクロン酸抱合体(活性代謝物)のCmax・AUCが約1.7~1.8倍に上昇。
  • ベムペド酸側の曝露への影響は軽度(Cmax・AUCともに約1.1倍程度)。
  • 臨床的には併用可能とされますが、胆石症や肝機能異常などエゼチミブの副作用リスクに留意します。

3. プロベネシド(UGT阻害剤)

  • プロベネシド併用により、ベムペド酸のAUCが約1.7倍程度に上昇。
  • 機序:UGT2B7阻害によりベムペド酸の抱合代謝が抑制。
  • 腎機能障害や高尿酸血症を背景にプロベネシドを使用している症例では、本剤の血中濃度上昇と尿酸値上昇が重なり得るため、より慎重なモニタリングが必要です。

4. その他の脂質異常症治療薬との併用

フィブラート系、PCSK9阻害薬、インクリシランなどとの併用は臨床試験で実施されていますが、本剤側からの大きな薬物動態相互作用は報告されていません。ただし、スタチンや他の脂質異常症治療薬と併用する場合には、それぞれの添付文書に記載された禁忌・重要な注意点を必ず確認した上で使用する必要があります。

代謝・排泄の概要

  • 代謝:主にNADPH依存性酸化およびUGT2B7によるグルクロン酸抱合
  • 蛋白結合率:約99%以上と高い
  • 排泄:放射能試験ではおよそ6割が尿中、約4分の1が糞便中に排泄

食事の影響について

健康成人での食事影響試験において、空腹時と食後投与時でCmaxおよびAUCの差はわずか(Cmax比約0.88、AUC比約0.98)と報告されており、食事の影響はほとんどないとされています。

そのため、服用時間は1日1回、患者の生活リズムに合わせて一定のタイミングで継続することが重要であり、特段の「食前・食後」の指定はありません。

主な副作用と安全性情報

臨床試験で認められた主な副作用は以下のとおりです。

  • 高尿酸血症/尿酸値上昇:比較的高頻度。痛風発作の誘発に注意。
  • 肝機能検査値上昇(AST・ALT・ALP・ビリルビンなど):定期的な肝機能検査が推奨。
  • 腎機能関連検査値の変化:血中クレアチニン、尿素窒素の軽度上昇、eGFR低下など。
  • 血液関連:貧血、ヘモグロビン低下など。
  • 筋障害・筋痙縮・四肢痛:単剤では頻度は高くないものの、スタチン併用でリスク増大に注意。
  • その他:四肢痛、関節症状、消化器症状など。

特に高尿酸血症・痛風の既往がある患者では、症状の悪化や新たな発作に注意し、血清尿酸値を定期的にモニタリングすることが推奨されます。

処方時のチェックリスト(医師向け)

  • 高コレステロール血症または家族性高コレステロール血症であることを確認したか。
  • 食事療法・運動療法などの基本療法が実施されているか。
  • スタチン治療で効果不十分、またはスタチン不耐(禁忌・副作用)の条件を満たしているか。
  • HoFH症例ではないか(HoFHの場合は非薬物療法の補助としてやむを得ない場合に限定)。
  • 投与前に肝機能・腎機能・CK・尿酸値等の検査を実施しているか。
  • 痛風の既往や高尿酸血症の有無を確認したか。
  • 併用中のスタチンやエゼチミブなど、他の脂質異常症治療薬を把握し、相互作用リスクを評価したか。
  • 妊娠の可能性がないか、避妊の必要性を説明したか。
  • 2026年11月末日までは1回14日分までの投薬制限があることを念頭に置き、処方日数を調整しているか。

服薬指導のポイント(薬剤師向け)

  • 1日1回服用であること、毎日同じ時間帯に継続することの重要性を説明する。
  • 食事の影響は少ないが、「飲み忘れ防止のための工夫」を患者と相談し決める。
  • スタチン併用中の場合、筋肉痛・こむら返り・筋力低下などが続いたら受診するよう強調する。
  • 高尿酸血症・痛風の既往がある場合、関節痛や足趾の腫れなどの症状にも早期受診を促す。
  • 他の脂質異常症治療薬やサプリメント(ナイアシンなど)を自己判断で追加しないよう注意喚起する。
  • 妊娠を希望する場合や授乳中の場合は、必ず主治医に相談するよう伝える。

ケアポイント(看護師向け)

  • 定期受診時に服薬状況を確認し、飲み忘れや中断がないかチェックする。
  • 体重、血圧、生活習慣(食事・運動・喫煙)の変化を継続的に評価し、必要に応じて指導につなぐ。
  • 痛風発作様の症状(足の親指の疼痛・発赤など)がないか観察し、患者にも注意点を共有する。
  • 筋肉痛や脱力感を訴える場合は、スタチン併用の有無も含めて医師へ情報共有する。
  • 検査予定(脂質・尿酸・肝機能・CKなど)と結果を患者と一緒に確認し、治療継続の意義をわかりやすく説明する。

まとめ

『ネクセトールは、スタチンだけではLDLコレステロールのコントロールが難しい方や、スタチンが使いにくい方にプラスできる新しいタイプのお薬ですね。尿酸値や筋肉の症状などに気をつけながら、患者さん一人ひとりのリスクに合わせて、より安心できる脂質管理につなげていけたらいいな、と感じました。』

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【2025年11月21日発売】フジケノン粒状錠125(ケノデオキシコール酸)の特徴、作用機序https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1447https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1447#respondFri, 21 Nov 2025 03:00:00 +0000https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/?p=1447

『みなさん、こんにちは。今回は2025年11月に新たに発売された脳腱黄色腫症(CTX)治療薬「フジケノン粒状錠125」について、簡単にまとめました。』

はじめに:フジケノン粒状錠125とは

脳腱黄色腫症(CTX:Cerebrotendinous Xanthomatosis)は、胆汁酸合成に関与するCYP27A1遺伝子の変異により、一次胆汁酸であるケノデオキシコール酸(CDCA)の合成が著しく低下する希少疾患です。日本では指定難病に分類され、2023年度の特定医療費受給者証所持者数は54名とされています。

CDCAが不足することで負のフィードバックが働かず、コレステロールから代謝される中間代謝物「コレスタノール」が過剰に産生されます。血中コレスタノールは中枢神経系(脳・脊髄)、腱(アキレス腱など)、水晶体、血管壁など全身に沈着し、以下のような多彩な症状を引き起こします。

  • 小脳失調、錐体外路症状
  • 認知症様症状、精神症状
  • 白内障(若年期から発症)
  • 腱黄色腫(特にアキレス腱)

一度重度の神経症状が確立すると治療による改善は限定的であり、早期診断・早期治療が非常に重要とされています。CTX診療ガイドラインでも、CDCAの補充療法が治療の第一選択と位置づけられていますが、これまで国内では「CTXに対する効能・効果を正式に持つCDCA製剤」が存在しませんでした。

今回発売されたフジケノン粒状錠125は、国内で初めて「脳腱黄色腫症」を効能・効果に持つCDCA製剤であり、早期からの介入を可能とする新たな治療選択肢として期待されています。

製品概要

  • 商品名:フジケノン粒状錠125
  • 一般名:ケノデオキシコール酸
  • 薬効分類:脳腱黄色腫症治療剤
  • 製造販売元:藤本製薬株式会社
  • 効能・効果:脳腱黄色腫症
  • 規格:1包中125mg(5錠入りの粒状錠)
  • 承認取得日:2025年9月19日
  • 薬価基準収載日:2025年11月12日
  • 発売日:2025年11月21日

作用機序と特徴

ケノデオキシコール酸(CDCA)は、生体内の胆汁酸合成経路における主要な一次胆汁酸です。CTXではCDCA欠乏によりCYP7A1(胆汁酸合成の律速酵素)への負のフィードバックが働かず、コレスタノール産生が亢進します。

● フジケノン(CDCA)の作用機序

  • CDCAを外から補充することで、CYP7A1に対する負のフィードバックを回復
  • その結果、コレスタノールの過剰産生を抑制
  • 血中コレスタノール濃度を低下させ、臓器沈着・進行を抑える

CDCAはCTX治療の中心的役割を担うとされ、国際的にも早期治療の重要性が強調されています。フジケノンは直径約4mmの粒状錠であり、嚥下困難な小児・高齢者にも使いやすい製剤です。

効能・効果・適応症

効能・効果:
脳腱黄色腫症

用法・用量と投与時の注意点

成人:

  • ケノデオキシコール酸として1日250mgより開始
  • 250mgずつ増量し、維持量:1日750mg
  • 1日3回に分割し連日経口投与
  • 最大:1日1000mgまで
  • 1回あたり375mg超は不可

小児:

  • 1日量5mg/kgより開始
  • 5mg/kgずつ増量し、維持量:1日15mg/kg
  • 1日3回に分割
  • 上限:1日15mg/kg または 750mg(いずれも超えない)
  • 1回あたり250mg超は不可

注意点:

  • 維持量への漸増は2週間ごとに実施
  • 定期的に肝機能検査を行い、重度の肝機能障害があれば中止
  • 胆道閉塞がある患者には禁忌

相互作用・代謝経路

● 制酸作用を有するアルミニウム含有製剤(例:水酸化アルミニウムゲル)

  • 本剤の吸収が低下 → 効果減弱のおそれ
  • 機序:アルミニウムがCDCAを吸着し吸収阻害
  • 対応:できるだけ服用間隔をあける

● 陰イオン交換樹脂(コレスチラミン・コレスチミド)

  • 本剤と結合し吸収阻害 → 効果減弱
  • 機序:陰イオン交換樹脂がCDCAと強く結合

● ウルソデオキシコール酸

  • CDCAおよびUDCA双方の吸収が減弱
  • 機序:吸収が競合する
  • 対応:服用間隔をあけることが望ましい

● IBAT阻害剤(エロビキシバット)

  • CDCAの再吸収が阻害され、効果減弱のおそれ
  • 機序:胆汁酸トランスポーター(IBAT)阻害

● シクロスポリン・シロリムス

  • 本剤のコレスタノール抑制作用を打ち消す可能性
  • 機序:胆汁酸代謝への影響や免疫抑制剤の作用

● フェノバルビタール・プリミドン

  • 本剤の「プールサイズ」(胆汁酸量)を減少させる可能性
  • 機序:酵素誘導などに伴う胆汁酸代謝の変化

● 経口避妊薬

  • 本剤の胆汁酸プールサイズが減少 → 作用減弱

● 代謝経路(ポイント)

  • IBATによる吸収+腸肝循環で作用を発揮
  • 肝で抱合 → 胆汁排泄 → 再吸収の循環(腸肝循環)
  • アルブミン結合率約98.5%

食事の影響について

食事による明確な吸収変動の記載はありませんが、胆汁酸は食事刺激に応じて腸肝循環が変動するため、臨床的には「毎日同じタイミングで服用」することが推奨されます。

主な副作用と安全性情報

  • 肝機能異常(ALT/AST/ALP/ビリルビン上昇)
  • 鼓腸
  • 下痢、軟便、悪心、嘔吐
  • 食欲不振
  • 腹部不快感、腹部膨満感
  • 過敏症:発疹、瘙痒
  • 倦怠感、めまい、顔のむくみ

定期的な肝機能検査は必須であり、重度の肝障害が確認された場合は中止とされています。 また、胆道閉塞のある患者へは禁忌です。

処方時のチェックリスト(医師向け)

  • CTXと確定診断されているか(CYP27A1遺伝子、血清コレスタノールなど)
  • 早期治療介入が必要な症例であるか
  • 肝機能検査を投与前に実施したか
  • 胆道閉塞がないことを確認したか
  • 併用薬(制酸剤、陰イオン交換樹脂、UDCA、IBAT阻害剤など)をチェックしたか
  • 漸増スケジュールを患者・家族と共有したか
  • 小児の場合は、体重換算・上限量を厳密に確認したか
  • 14日分制限(2026年11月末まで)を考慮した処方設計か

服薬指導のポイント(薬剤師向け)

  • 漸増スケジュールの確認
  • 制酸剤・陰イオン交換樹脂・ウルソなどの併用薬の有無を確認
  • 肝機能検査の重要性を説明
  • 粒状錠(直径4mm)のため、小児や嚥下困難者にも服用しやすいことを説明
  • 腹部症状(下痢・膨満感)が続く場合は早めに医師へ連絡するよう指導

ケアポイント(看護師向け)

  • 服薬スケジュール(増量2週間ごと)を家族と共有
  • 肝機能障害徴候(黄疸、倦怠感、食欲不振)に注意
  • 腹部症状の訴えの変化を観察
  • 小児では体重変化を定期的にチェックし用量調整に反映
  • 併用薬が吸収阻害に影響していないか確認

まとめ

『フジケノンは、これまで選択肢が限られていた脳腱黄色腫症に、ようやく承認された大切なお薬ですね。早く始めるほど将来の症状を抑えることにもつながるので、患者さんやご家族と一緒に、無理のない服薬計画を作っていけたらいいな、って思います。』

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【2025年11月12日発売】アイマービー点滴静注1200mg(ニポカリマブ)の特徴、作用機序https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1444https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1444#respondWed, 12 Nov 2025 03:00:00 +0000https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/?p=1444

『みなさん、こんにちは。今回は2025年11月に新たに発売された全身型重症筋無力症(gMG)治療薬「アイマービー」について、簡単にまとめました。』

はじめに:アイマービー点滴静注1200mgとは

重症筋無力症(MG:myasthenia gravis)は、自己免疫機序により神経筋接合部での神経伝達が阻害されることで、筋力低下や易疲労性が生じる疾患であり、日本では指定難病に指定されています。2024年度の特定医療費受給者証所持者数は28,323人と報告されており、その約80%が全身型MG(gMG)、残り20%ほどが眼筋型MGです。

MGは、自己抗体(抗AChR抗体・抗MuSK抗体など)が病態に深く関与しており、特にIgG抗体の病原性が重要と考えられています。標準治療としては、少量ステロイド、免疫抑制薬、抗コリンエステラーゼ薬などが用いられ、症状が改善しない場合には血液浄化療法(PE/DFPP)、免疫グロブリン静注(IVIg)、さらに新規の抗補体抗体製剤や抗FcRn抗体製剤が検討されます。

日本の診療ガイドラインでも、治療抵抗性MGや、効果の不十分な症例に対して新たな薬物療法が強く望まれており、長期的な症状改善と寛解導入を目的とした治療選択肢が求められていました。

アイマービー(一般名:ニポカリマブ)は、FcRn(新生児Fc受容体)を標的とした抗FcRnモノクローナル抗体製剤で、病原性IgGの選択的低下を目指す新しい作用機序の治療薬です。成人および12歳以上の小児に使用でき、2週間間隔で点滴投与することでIgG濃度を低下させ、症状改善を誘導します。新たな治療選択肢として、難治性MG領域での活用が期待されています。

製品概要

  • 商品名:アイマービー点滴静注1200mg
  • 一般名:ニポカリマブ(遺伝子組換え)
  • 薬効分類:抗FcRnモノクローナル抗体製剤
  • 製造販売元:ヤンセンファーマ株式会社
  • 効能・効果:全身型重症筋無力症(ステロイド剤又はステロイド剤以外の免疫抑制剤が十分に奏効しない場合に限る)
  • 承認取得日:2025年9月19日
  • 薬価基準収載日:2025年11月12日
  • 発売日:2025年11月12日
  • ※300mg製剤:薬価収載済みだが未発売(2025年11月12日時点)

作用機序と特徴

アイマービー(ニポカリマブ)は、FcRn(新生児Fc受容体)に結合し、内因性IgGが細胞内でリサイクルされる仕組みを阻害することで、IgGのリソソーム分解を促進します。

● FcRnの役割

  • IgGは血管内皮細胞などで取り込まれ、FcRnと結合することで分解から逃れ再放出される
  • FcRn阻害によりIgGの再利用が阻害され、IgGは分解方向へ

● アイマービーの作用機序

  • FcRnに高親和性で結合し、IgGのリサイクルをブロック
  • 病原性自己抗体(抗AChR抗体などを含むIgG)も血中で低下
  • IgG以外の免疫グロブリン(IgA、IgMなど)への影響は少ないとされる

従来治療で十分な改善が得られないgMG患者では、IgG自己抗体を標的としたFcRn阻害薬は作用機序的に理にかなった治療法であり、症状改善を目指す新たな選択肢となります。

効能・効果・適応症

効能・効果(添付文書記載そのまま):
全身型重症筋無力症(ステロイド剤又はステロイド剤以外の免疫抑制剤が十分に奏効しない場合に限る)

用法・用量と投与時の注意点

用法・用量(添付文書記載):

  • 通常、成人および12歳以上の小児には、ニポカリマブとして初回に30mg/kgを点滴静注
  • 以降は1回15mg/kgを2週間隔で点滴静注

投与に関わる注意点:

  • 初回から24週までに症状改善が得られない場合、投与継続要否を検討
  • IgGが低下するため、感染症の発症・悪化のリスクがある
  • 治療中および終了後も定期的に血液検査(IgG、血球、炎症マーカー等)を行う
  • 感染症徴候(発熱、咳、悪寒、傷の化膿など)があれば速やかに受診
  • 点滴投与後のアレルギー反応に注意し、投与中は適切な観察が必要

相互作用・代謝経路

ニポカリマブは抗体製剤であり、CYP阻害や誘導を介した薬物相互作用はほとんどありません。しかし、IgGを低下させる作用から、以下の点が臨床的に重要な注意点となります。

● 相互作用(添付文書・インタビューフォームに基づく要点)

1. ワクチン

  • IgG低下によりワクチンの効果が減弱する可能性
  • 不活化ワクチン:接種可だが効果減弱に注意
  • 生ワクチン:原則接種を避けること(免疫抑制状態によるリスク増大)

2. 免疫抑制剤

  • ステロイド・タクロリムス・シクロスポリンなどとの併用は可能だが、感染症リスクが相加的に増加
  • 白血球減少などが出現しやすい

3. 静注免疫グロブリン(IVIg)

  • IVIgは大量IgGを投与する治療であり、FcRn阻害によるIgG低下が「相殺」される可能性
  • 併用する場合は投与計画を慎重に調整する必要がある

4. 血漿交換(PE)・免疫吸着(IA)

  • IgGが直接除去される治療であり、本剤の効果持続が短縮
  • タイミングによっては効果が大きく変動

※CYP阻害/誘導・P-gp・BCRPなどの取り扱い:
抗体医薬品のため、これらによる薬物相互作用は基本的にありません。

● 代謝経路

  • 通常の抗体医薬品と同様、網内系での分解が主体
  • 腎排泄や肝代謝酵素によるクリアランスは主要経路ではない
  • 半減期は中等度で、2週間隔投与が薬物動態的に適する

食事の影響について

点滴静注製剤のため、食事の影響は受けません。 ただし、治療開始前後の体調管理(発熱・感染症徴候を避けるための生活指導)は重要です。

主な副作用と安全性情報

  • 感染症(最重要):上気道感染、肺炎、尿路感染など
  • IgG低下:免疫低下により細菌/ウイルス感染症リスク増大
  • 頭痛、倦怠感、悪心:比較的高頻度
  • 注射部位反応:疼痛、発赤、腫脹など
  • アレルギー反応:投与中の観察が必要
  • 貧血・白血球減少:定期的な血液検査が必要

添付文書の【重要な基本的注意】では、 「治療期間中および治療終了後も、IgG低下による感染症に十分注意し、異常時は速やかに受診」 と明記されています。

処方時のチェックリスト(医師向け)

  • gMGであり、既存の免疫抑制治療で十分な効果が得られていないか
  • 成人または12歳以上であるか
  • IgG低下による感染リスクについて説明し、同意を得ているか
  • ワクチン接種計画(生ワクチン回避など)を確認したか
  • IVIg・PE/IAなど急性治療とのスケジュール調整を行ったか
  • 投与前にIgG・白血球・CRP・肝腎機能などの検査を実施したか
  • 投与中も適切なタイミングで血液検査を行う計画を立てたか
  • 感染兆候(発熱、咳、化膿など)への初期対応の指示を患者へ行ったか
  • 2週間隔の点滴通院が可能か確認したか

服薬指導のポイント(薬剤師向け)

  • IgG低下→感染しやすくなる点を丁寧に説明
  • 発熱・咳・喉の痛み・傷の悪化などあれば早期受診を促す
  • ワクチン接種(特に生ワクチン)に関して医師へ必ず確認させる
  • IVIg併用やPEなどとスケジュールが重ならないよう注意喚起
  • 通院間隔が2週間であること、点滴時間がある程度かかることを説明

ケアポイント(看護師向け)

  • 投与前後のバイタル・症状(感染徴候)の観察
  • 点滴中のアレルギー反応、血管痛、血圧低下などに注意
  • 治療後のIgG低下に伴う感染管理(手洗い・マスクなど)を指導
  • 体調変化(倦怠感、悪心、微熱、咳)を見逃さないよう声かけ
  • 2週間隔の受診スケジュールを共有し、通院支援が必要か確認
  • IVIg・PEなど別治療の計画と重複しないよう部門間で情報共有

まとめ

『アイマービーは、重症筋無力症でお悩みの方に、新しい治療の選択肢を提供してくれるお薬なんですね。感染症にはちょっと気をつけないといけませんが、一人ひとりの症状に寄り添いながら、より安心して過ごせる毎日につないでいけたら…そんなふうに思います。』

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【2025年11月12日発売】イブトロジーカプセル200mg(タレトレクチニブアジピン酸塩)の特徴、作用機序https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1442https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1442#respondWed, 12 Nov 2025 03:00:00 +0000https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/?p=1442

『みなさん、こんにちは。今回は2025年11月に新たに発売されたROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がん治療薬「イブトロジー」について、簡単にまとめました。』

はじめに:イブトロジーカプセル200mgとは

イブトロジーカプセル200mg(一般名:タレトレクチニブアジピン酸塩)は、ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)を対象とした経口のチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)です。ROS1融合遺伝子はNSCLC全体の約1〜2%で認められる比較的稀なドライバー変異ですが、若年、非喫煙者、腺がんに多く、進行期では脳転移と関連し予後不良であることが知られています。

肺癌診療ガイドラインでは、ROS1融合遺伝子陽性IV期NSCLCの一次治療としてROS1-TKI単剤療法が推奨されており、既にクリゾチニブやエヌトレクチニブなどが使用されています。一方で、これらのROS1-TKIに対する耐性獲得や、G2032R変異を代表とする耐性変異、さらには中枢神経系(CNS)転移への十分な効果が課題として挙げられてきました。

イブトロジーは、ROS1融合タンパクを標的としつつ、代表的な耐性変異にも活性を持ち、中枢神経系への移行性も期待される新しいROS1-TKIです。コンパニオン診断として「AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネル」が承認されており、分子プロファイリングに基づいた精密医療の一翼を担う薬剤として位置づけられています。

製品概要

  • 商品名:イブトロジーカプセル200mg
  • 一般名:タレトレクチニブアジピン酸塩
  • 薬効分類:抗悪性腫瘍剤/チロシンキナーゼ阻害剤
  • 製剤・規格:1カプセル中タレトレクチニブ200mg含有カプセル剤
  • 製造販売元:日本化薬株式会社
  • 効能・効果:ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
  • 製造販売承認取得日:2025年9月19日
  • 薬価基準収載日:2025年11月12日
  • 発売日:2025年11月12日
  • コンパニオン診断:AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネル

作用機序と特徴

タレトレクチニブは、ROS1などを標的とするチロシンキナーゼ阻害薬です。ROS1融合遺伝子陽性腫瘍では、ROS1融合タンパクのキナーゼ活性が恒常的に亢進し、その下流のシグナル(MAPK/ERK経路やPI3K/AKT経路など)を介して腫瘍細胞の増殖・生存が促進されます。本剤はこのROS1キナーゼを阻害することで、ROS1融合タンパクのリン酸化を抑制し、腫瘍増殖抑制作用を発揮すると考えられています。

特徴として、以下の点が挙げられます。

  • ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発NSCLCを対象とした経口ROS1-TKIであること
  • 代表的な耐性変異であるG2032R変異を含む複数のROS1耐性変異に対しても活性を有することが期待されていること
  • CNS活性が報告されており、脳転移症例に対しても治療選択肢となり得ること
  • 間質性肺疾患、肝機能障害、QT間隔延長などの重篤な有害事象が重要なリスクとして位置づけられていること

効能・効果・適応症

効能・効果(添付文書記載):
ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌

用法・用量と投与時の注意点

用法・用量(添付文書記載):
通常、成人にはタレトレクチニブとして1日1回600mgを空腹時に経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。

イブトロジーカプセル200mgを用いる場合、通常は1回600mg=200mgカプセル3カプセルを1日1回内服します。

減量レベルの目安:

  • 通常投与量:600mg 1日1回
  • 1段階減量:400mg 1日1回
  • 2段階減量:200mg 1日1回
  • 200mgでも忍容不能な場合:投与中止

用法・用量に関連する主な注意点:

  • 食後投与ではCmaxおよびAUCが上昇するため、食事の前後2時間の服用は避け、空腹時に投与する。
  • 肝不全・肝機能障害があらわれることがあるため、投与開始前および投与中は定期的に肝機能検査を行う。
  • QT間隔延長があらわれることがあるため、心電図および電解質(K、Mg、Caなど)を定期的に評価する。
  • 間質性肺疾患のリスクがあるため、呼吸困難、咳嗽、発熱などの初期症状に注意し、必要に応じて胸部CT検査などを行う。
  • 間質性肺疾患が疑われる場合には投与を中止し、適切な治療を行う。

相互作用・代謝経路

代謝の概要:
タレトレクチニブは主にCYP3Aで代謝されるとともに、

  • CYP1A2に対して:誘導作用
  • CYP2D6に対して:阻害作用
  • BCRP、MATE1、MATE2-Kに対して:阻害作用

を示すことが報告されています。このため、本剤は「他剤から影響を受ける」と同時に、「他剤の血中濃度にも影響し得る」薬剤です。

1. 本剤の血中濃度を変化させる薬剤

  • 強い/中等度のCYP3A阻害薬
    例:イトラコナゾール、エリスロマイシン、フルコナゾール、グレープフルーツジュース など
    → CYP3A阻害によりタレトレクチニブの血中濃度が上昇し、副作用が増強するおそれがあります。
    対処:可能な限り併用を避け、やむを得ず併用する場合は本剤の減量を検討しつつ、肝機能異常、QT延長、消化器症状などの出現に注意深くモニタリングします。
  • CYP3A誘導薬
    例:リファンピシン、フェニトイン、カルバマゼピン など
    → CYP3A誘導により本剤の血中濃度が低下し、有効性が減弱するおそれがあります。
    対処:可能な限り併用を避け、CYP3A誘導作用のない薬剤への切り替えを検討します。
  • プロトンポンプ阻害薬(PPI)
    例:オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールナトリウム など
    H2受容体拮抗薬
    例:ファモチジン、シメチジン など
    → 胃内pH上昇によりイブトロジーの吸収が低下し、血中濃度が低下する可能性があります。
    対処:原則として併用を可能な限り避け、やむを得ず使用する場合は、有効性低下の有無を慎重に評価します。
  • 制酸剤
    例:炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム 等
    → 同様に胃内pHを上昇させることで本剤の吸収を低下させるおそれがあります。
    対処:併用する場合は、本剤との投与間隔を2時間以上あけるようにします。

2. 本剤が他剤の血中濃度に影響する相互作用

  • CYP1A2基質薬
    例:カフェイン、テオフィリン、チザニジン など
    → タレトレクチニブはCYP1A2を誘導するため、これらの薬剤の血中濃度が低下し、有効性が減弱する可能性があります。
  • CYP2D6基質薬
    例:デキストロメトルファン、イミプラミン、アミトリプチリン など
    → CYP2D6阻害により、これらの薬剤の血中濃度が上昇し、副作用(中枢神経症状、心毒性など)が増強するおそれがあります。
  • BCRP基質薬
    例:ロスバスタチン、サラゾスルファピリジン、イマチニブ など
    → BCRP阻害により、これらの薬剤の血中濃度が上昇し、筋障害(ロスバスタチン)、骨髄抑制(イマチニブ)などのリスクが増加する可能性があります。
  • MATE1/MATE2-K基質薬
    例:メトホルミン、プロカインアミド、シメチジン など
    → MATE1/2-K阻害により、これらの薬剤の血中濃度が上昇し、乳酸アシドーシス(メトホルミン)、不整脈(プロカインアミド)等のリスクが高まる可能性があります。
  • QT延長作用を有する薬剤
    例:クラリスロマイシン、ハロペリドール、メサドン など
    → いずれもQT延長作用を持つため、併用によりQT間隔延長が増悪するおそれがあります。心電図モニタリングを行い、必要に応じて併用薬の変更を検討します。

ROS1-TKIは多剤併用下で使用されることが多く、相互作用の把握は安全な治療の鍵となります。実際の処方時には、添付文書の相互作用欄を確認しつつ、薬剤師を含むチームでレジメン設計を行うことが重要です。

食事の影響について

イブトロジーを食後に投与するとCmax・AUCが上昇することが報告されています。そのため、添付文書では「食事の影響を避けるため、食事の前後2時間の服用は避けること」とされています。

実臨床では、

  • 「朝食の2時間以上前」あるいは「就寝前(夕食から2時間以上あけて)」など、空腹時となる時間帯に服用する
  • 毎日ほぼ同じ時間帯に内服するようスケジュールを固定し、アドヒアランスを高める

といった工夫が現実的です。

主な副作用と安全性情報

イブトロジーで注意すべき主な副作用は以下の通りです。

  • 肝不全・肝機能障害:トランスアミナーゼ上昇、ビリルビン上昇など。重度の場合は肝不全に至ることがあるため、定期的な肝機能モニタリングが必須です。
  • 間質性肺疾患(ILD):呼吸困難、咳嗽、発熱などの初期症状に注意し、画像検査で確認が必要です。発現時は速やかに中止・治療介入が必要となります。
  • QT間隔延長:心電図上のQT延長が高頻度で認められており、電解質異常やQT延長薬併用時には特に注意が必要です。
  • 消化器症状:下痢、悪心、嘔吐、便秘、腹痛などが高頻度にみられます。
  • 代謝異常:食欲減退、高コレステロール血症、高尿酸血症、高トリグリセリド血症など。
  • 神経系:末梢性ニューロパチー、味覚異常、めまい、頭痛など。
  • 皮膚・付属器:発疹、皮膚乾燥、そう痒、光線過敏反応、脱毛症、手足症候群様症状、爪の障害など。

これら重大な副作用や頻度の高い有害事象は、RMP上も重要な安全性検討事項として位置づけられており、治療開始前から十分な説明とモニタリング計画が求められます。

処方時のチェックリスト(医師向け)

  • ROS1融合遺伝子陽性であることを、承認されたコンパニオン診断(AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネル)で確認したか。
  • 切除不能な進行・再発NSCLCであり、本剤適応に合致しているか。
  • 間質性肺疾患、肝機能障害、QT延長などの重篤なリスクについて、患者・家族へ十分に説明し、同意を得ているか。
  • 投与開始前に、肝機能検査、血液検査、心電図、電解質、胸部画像検査を実施しているか。
  • QT延長や既存の間質性肺疾患など、本剤により悪化し得る基礎疾患・リスク因子を把握しているか。
  • 強い/中等度CYP3A阻害薬・誘導薬、PPI、H2ブロッカー、制酸剤、QT延長薬などの併用薬を確認し、必要に応じて変更・用量調整を行っているか。
  • メトホルミン、ロスバスタチン、テオフィリン、三環系抗うつ薬など、本剤の影響を受けやすい薬剤の併用状況を把握しているか。
  • 空腹時投与(食事前後2時間の服用回避)が可能な生活パターンかを確認し、服用時間帯を患者と相談して決めているか。
  • 重篤な有害事象発現時の休薬・減量・中止の基準を把握し、施設内で共有しているか。
  • 定期フォローの頻度(検査スケジュール・診察間隔)を明確にし、多職種チームと共有しているか。

服薬指導のポイント(薬剤師向け)

  • イブトロジーは「1日1回、空腹時」に内服する薬であり、食事の前後2時間は服用しないことを具体的な時間帯で説明する。
  • 飲み忘れた場合の対応(気づいた時点でできるだけ早く1回分を服用し、2回分をまとめて服用しない 等)を医師の方針に沿って案内する。
  • PPI、H2ブロッカー、制酸剤の併用状況を確認し、必要に応じて「服用時間の間隔をあける」「代替薬を検討する」などを医師へ提案する。
  • 併用薬の中にCYP3A阻害薬・誘導薬、CYP1A2/2D6/BCRP/MATE基質薬、QT延長薬が含まれていないかをチェックし、リスクが高い組み合わせは疑義照会する。
  • 下痢、悪心、嘔吐などの消化器症状への対処(補液、食事内容の工夫、市販薬の自己使用の可否など)について、事前に説明しておく。
  • 息切れ・咳・発熱などの呼吸器症状、動悸・めまい・失神などの心症状が出た場合は、自己中断せず早急に受診するよう促す。
  • 日光や強い紫外線で皮膚障害が悪化する可能性があるため、帽子・日焼け止めなどの光線防御を勧める。
  • 多剤併用が多い患者では、お薬手帳や一覧表で「空腹時投与」「服用間隔」「注意すべき併用薬」を視覚的に整理して渡す。
  • 長期内服が前提となるため、飲み忘れ防止の工夫(タイマー、スマホアプリ、ピルケースなど)を患者と一緒に考える。

ケアポイント(看護師向け)

  • 初回投与前に、呼吸状態、心電図所見、肝機能、電解質、体重などのベースライン情報を記録しておく。
  • 診察ごとに、呼吸困難、咳嗽、発熱など間質性肺疾患を疑う症状の有無を系統的に聴取し、変化があれば医師に共有する。
  • めまい、動悸、失神などQT延長を疑う症状がないか、服薬後のタイミングも含めて観察する。
  • 下痢・悪心・食欲不振などにより水分・栄養摂取が不足していないか、体重変化も含めてフォローする。
  • 皮膚乾燥、発疹、光線過敏、手足症候群様症状など、皮膚・爪の変化をチェックし、早期にスキンケアや皮膚科紹介につなげる。
  • 患者が「食事の前後2時間は服用しない」というルールを理解できているか、生活パターンに即した服用時間が設定されているかを一緒に確認する。
  • 検査スケジュール(肝機能・血球数・電解質・心電図・画像検査)の予定を共有し、受診忘れがないよう声かけを行う。
  • 仕事や家事、介護などとの両立に関する不安、長期治療への心理的負担などにも目を向け、多職種と連携して支援する。
  • 副作用・症状・生活状況を含めた情報をカルテ・カンファレンスなどでこまめに共有し、チーム医療の中で治療方針の調整に役立てる。

まとめ

『イブトロジーは、ROS1融合遺伝子陽性の肺がんに対して、脳転移も含めた治療の幅を広げてくれるお薬ですね。相互作用や間質性肺疾患など、気をつけるポイントは多いんですけど、チームでしっかりフォローしながら使っていくことで、患者さんの日常生活に寄り添った治療につなげていけたらいいなって思います。』

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【2025年11月12日発売】ゾフルーザ顆粒2%分包(バロキサビル マルボキシル)の特徴、作用機序https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1439https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1439#respondWed, 12 Nov 2025 03:00:00 +0000https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/?p=1439

『みなさん、こんにちは。今回は2025年11月に新たに発売されたインフルエンザウイルス感染症治療薬「ゾフルーザ顆粒2%分包」について、簡単にまとめました。』

はじめに:ゾフルーザ顆粒2%分包とは

インフルエンザは、A型・B型インフルエンザウイルスによる急性呼吸器感染症であり、毎年冬季を中心に流行を繰り返す疾患です。国内ではしばしば大規模な流行が起こり、学齢期の児や高齢者、基礎疾患を有する方では重症化リスクが高いことが知られています。典型的な症状は、突然の高熱、悪寒、倦怠感、頭痛、筋肉痛・関節痛、咽頭痛、咳などで、学校・職場・家庭といった集団生活の場を通じて急速に広がります。

インフルエンザの治療では、ノイラミニダーゼ阻害薬やキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬といった抗インフルエンザウイルス薬が用いられますが、服薬回数や剤形の制約から、小児や嚥下困難な患者さんでは十分に使いこなせない場面もありました。ゾフルーザ(一般名:バロキサビル マルボキシル)は、インフルエンザウイルスの「mRNA合成」を標的とするキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬として2018年に錠剤が登場し、「1回内服で治療を完結できる」点が大きな特徴です。

今回新たに発売されたゾフルーザ顆粒2%分包は、同じ有効成分を含有する内用顆粒製剤であり、小児や錠剤の嚥下が難しい患者さんにも使用しやすい剤形として開発されました。特に、従来は錠剤での投与が難しかった低年齢児や体重10kg未満の小児まで投与対象が拡大されたことにより、「ゾフルーザ顆粒 特徴」「ゾフルーザ顆粒 作用機序」といった観点からも、今後の日常診療での活用が期待される薬剤です。

製品概要

  • 商品名:ゾフルーザ顆粒2%分包
  • 一般名:バロキサビル マルボキシル
  • 薬効分類:抗インフルエンザウイルス剤
  • 製剤・規格:顆粒剤 2%分包(1包500mg中 バロキサビル マルボキシル10mg含有)
  • 製造販売元:塩野義製薬株式会社
  • 効能・効果:A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の治療及びその予防
  • 製造販売承認取得日:2025年9月19日(顆粒製剤および小児用量追加)
  • 薬価基準収載日:2025年11月12日
  • 発売日:2025年11月12日
  • その他:治療目的で使用した場合のみ保険給付対象(予防投与は自費負担に留意)

作用機序と特徴

バロキサビル マルボキシルはプロドラッグであり、体内で加水分解されて活性体(S-033447)となった後に、インフルエンザウイルス特有の酵素である「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ」を選択的に阻害します。この酵素は、ウイルスが宿主mRNAのキャップ構造を“盗む(cap-snatching)”ことで自身のmRNA合成を行う際に必須の酵素です。本剤はこのプロセスをブロックすることで、ウイルスmRNAの産生を抑制し、ウイルス増殖そのものを抑えます。

ノイラミニダーゼ阻害薬が「増えたウイルスの放出・拡散」を抑えるのに対し、バロキサビルは「ウイルス増殖段階のもっと上流」を標的とする点が特徴であり、ウイルス力価の低下が早いことが報告されています。これにより、症状の持続時間短縮だけでなく、周囲への感染性低下にも寄与する可能性が示唆されています。

ゾフルーザ顆粒2%分包の主な特徴は以下のとおりです。

  • キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害による新規機序の抗インフルエンザウイルス薬であること
  • 体重別の用量設定に基づく「単回経口投与」で治療が完結すること
  • 顆粒製剤であり、小児や嚥下困難な患者にも投与しやすいこと
  • 治療のみならず「インフルエンザ発症予防(暴露後予防)」にも使用可能なこと
  • 一方で、低感受性株(I38変異など)の出現や地域社会への伝播が懸念されており、小児への安易な投与拡大は慎重に行うべきとされていること

添付文書の警告でも、「体重20kg未満の小児への投与は、他剤の使用を十分検討したうえで必要性を慎重に判断すること」が明記されており、バロキサビル マルボキシルの作用機序の特性と耐性リスクを踏まえた適正使用が重要です。

効能・効果・適応症

ゾフルーザ顆粒2%分包の効能・効果は以下の通りです(添付文書記載のまま)。

効能・効果:
A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の治療及びその予防

なお、10mg錠は「治療」のみ、20mg錠および顆粒2%分包は「治療および予防」の両方に適応を有している点が整理ポイントです。

用法・用量と投与時の注意点

ゾフルーザ顆粒2%分包の用法・用量は以下の通りです(顆粒製剤に関する部分を抜粋)。

治療時の用法・用量(単回経口投与)

通常、以下の用量を単回経口投与する。

  • 成人および12歳以上の小児
    ・体重80kg以上:顆粒8包(バロキサビル マルボキシルとして80mg)
    ・体重80kg未満:顆粒4包(同40mg)
  • 12歳未満の小児
    ・体重40kg以上:顆粒4包(40mg)
    ・体重20kg以上40kg未満:顆粒2包(20mg)
    ・体重10kg以上20kg未満:顆粒1包(10mg)
    ・体重10kg未満:顆粒50mg/kg(バロキサビル マルボキシルとして1mg/kg)

予防時の用法・用量(単回経口投与)

通常、以下の用量を単回経口投与する。

  • 成人および12歳以上の小児
    ・体重80kg以上:顆粒8包(80mg)
    ・体重80kg未満:顆粒4包(40mg)
  • 12歳未満の小児
    ・体重40kg以上:顆粒4包(40mg)
    ・体重20kg以上40kg未満:顆粒2包(20mg)
    (2025年11月時点では、予防での10kg以上20kg未満・10kg未満への用量設定は治療と異なる場合があるため、最新の添付文書を必ず確認する)

用法・用量に関連する主な注意点

  • 治療は症状発現後できるだけ早期(通常48時間以内)に開始することが望ましい。
  • 予防投与は、インフルエンザ患者との接触後2日以内に開始することが推奨されており、1回服用後10日を超える予防効果は確認されていない。
  • 10mg錠と20mg錠・顆粒2%分包の生物学的同等性は示されていないため、10mg用量を投与する際は顆粒を使用し、20mg以上の用量では10mg錠を用いないなど、剤形ごとの使い分けが必要である。
  • 本剤の投与によりインフルエンザが完全に治癒するわけではなく、細菌性二次感染が疑われる場合は適切な抗菌薬投与を検討する。

相互作用・代謝経路

ゾフルーザ顆粒2%分包(バロキサビル マルボキシル)は、添付文書上、相互作用(10.2 併用注意)としてワルファリンのみが明記されています。その他の抗凝固薬・抗血小板薬との具体的な相互作用は添付文書には列挙されていませんが、出血関連の安全性情報から、臨床的には注意が望まれます。

ワルファリンとの併用(併用注意)

  • 併用後にプロトロンビン時間(PT)の延長が報告されており、出血(血便、鼻出血、血尿など)があらわれる可能性がある。
  • 機序は明確ではないものの、非臨床試験ではビタミンK不足下でPT・APTT延長が認められており、ビタミンK依存性凝固因子への影響が示唆される。
  • ワルファリン服用中の患者にゾフルーザ顆粒を投与する場合には、出血症状の有無を慎重に観察し、必要に応じてPT-INR測定間隔の調整や用量調整を検討する。

代謝経路の概要

  • バロキサビル マルボキシルは、小腸・血液・肝臓中のエステラーゼにより速やかに活性体へ加水分解される。
  • 活性体は主としてUGT1A3によるグルクロン酸抱合、CYP3Aによる酸化などで代謝される。
  • 放射性試験では投与量の約8割が糞中、約1〜2割弱が尿中へ排泄される。

ただし、UGT1A3やCYP3Aの阻害薬・誘導薬との具体的な併用注意は添付文書上には記載されておらず、現時点で臨床的に問題となるレベルの相互作用は明確ではありません。実臨床では、ワルファリン併用時の出血リスクに特に注意しつつ、他の多剤併用状況も含め総合的に観察することが重要です。

食事の影響について

バロキサビル マルボキシル40mgを空腹時および普通食摂取後に単回投与した試験では、食後投与で活性体のCmaxは約半分、AUCは約3分の2程度に低下することが示されています。一方で、国内外の第III相試験では食事条件を特に規定せず有効性が確認されていることから、添付文書上は「食事に関する特段の規定はなし」とされています。

現場での運用としては、

  • 原則として食事の有無にかかわらず投与可能であるが、吸収低下を避けるためには可能であれば空腹時投与が望ましいと考えられること
  • 二価金属イオン(カルシウム、マグネシウムなど)を多く含む食品・サプリメントや制酸剤を同時に摂取する場合、理論上はキレート形成による吸収低下の可能性があること

を踏まえ、「ゾフルーザ顆粒 特徴」として、単回投与であることを優先し、患者の服用しやすさに配慮しつつ、可能なら食前または食間での服用を検討するといった柔軟な指導が現実的です。

主な副作用と安全性情報

ゾフルーザ(錠剤・顆粒共通)の主な副作用としては、以下が報告されています。

  • 消化器症状:下痢、悪心、嘔吐、腹痛など
  • 肝機能検査値異常:AST・ALTの上昇など
  • 頭痛、咽頭痛などの軽度の全身症状

一方、重要な安全性情報として特に留意すべき点は次の通りです。

  • 出血傾向:血便、鼻出血、血尿など出血関連事象が市販後に一定数報告されており、「重要な特定されたリスク」として位置づけられている。ビタミンK不足があるとPT/APTT延長をきたす可能性があることから、新生児・乳児などビタミンK欠乏リスクが高い症例では特に注意。
  • 異常行動:他の抗インフルエンザウイルス薬と同様、服用の有無や種類にかかわらず、インフルエンザ罹患時には小児・未成年者を中心に異常行動が報告されている。転落などの事故防止が重要。
  • 耐性・低感受性ウイルス:特に小児でI38変異などの低感受性株出現が問題となっており、体重20kg未満の小児では安易な投与拡大を避けるべきとされている。

添付文書の【警告】には、

  • 本剤投与の必要性を慎重に検討すること
  • 体重20kg未満の小児には他の抗インフルエンザウイルス薬の使用を考慮したうえでとくに慎重に投与を検討すること
  • 予防使用はワクチン接種に替わるものではないこと

などが明記されており、「便利な単回投与薬」である一方で、耐性や安全性を意識した慎重な運用が求められます。

処方時のチェックリスト(医師向け)

  • インフルエンザの診断が臨床的・検査的に妥当か(細菌感染症や他疾患の可能性がないか)。
  • 症状発現から48時間以内か、予防であれば患者との接触後2日以内かを確認したか。
  • 患者の年齢・体重に応じたゾフルーザ顆粒2%分包の用量を正しく選択しているか。
  • 体重20kg未満の小児に対して、オセルタミビル等の他剤との比較検討を十分行ったうえで、本剤投与の必要性を慎重に判断したか。
  • 出血リスクのある基礎疾患(肝障害、血小板減少症など)やワルファリン服用の有無を確認したか。
  • ワルファリン併用中の患者では、投与後のPT-INRモニタリング計画と出血時の対応を検討しているか。
  • ワクチンによる予防が基本であり、本剤の予防投与は補助的手段であることを患者に説明したか。
  • 小児・未成年患者では、異常行動に関する説明と家庭内での見守り体制について保護者へ指導したか。
  • 「治療」として保険給付されること、予防使用時の保険適用(自費)の扱いについて、必要に応じて患者・家族に説明したか。

服薬指導のポイント(薬剤師向け)

  • ゾフルーザ顆粒2%分包は単回投与で治療・予防が完結する薬であることを説明し、その1回を確実に服用してもらうよう強調する。
  • 顆粒は水や少量の飲料・食物と混ぜて服用可能であるが、指示に従い確実に全量を摂取するよう説明する。
  • 体重別の用量に基づいて分包数が決まるため、保護者に「全部で何包を1回で飲むのか」を具体的に確認してもらう。
  • 可能であれば食前や食間など、医師の方針に沿った「飲むタイミング」を決めてもらい、飲み忘れを防ぐ。
  • ワルファリン服用中の場合は、血便・黒色便、鼻出血、血尿、皮下出血などの出血症状に注意するよう説明する。
  • 投与後数日してから出血が現れることもあるため、「薬を飲んだ翌日以降もしばらく様子を見て異常があれば受診する」よう伝える。
  • インフルエンザ罹患時は薬の有無にかかわらず異常行動が起こりうること、そのため発熱後2日間程度は保護者の目の届く環境で過ごす重要性を説明する。
  • ゾフルーザは細菌感染症には効かないこと、発熱や咳が長引く・悪化する場合は肺炎などの合併症を疑って再受診が必要であることを案内する。
  • ワクチン接種は引き続き重要であり、「ゾフルーザを飲んだからワクチンが不要」という誤解を避けるよう説明する。

ケアポイント(看護師向け)

  • 入院・外来を問わず、ゾフルーザ顆粒の投与前に体重と年齢を再確認し、分包数が適切かダブルチェックする。
  • 小児・高齢者では、顆粒の溶解方法・飲ませ方を保護者・家族と共有し、誤飲や飲み残しがないようサポートする。
  • 投与後は、出血症状(便の色、尿の色、鼻出血など)、皮下出血、倦怠感の変化などを観察し、異常があれば医師に速やかに報告する。
  • 発熱後2日間は異常行動による転落・飛び出し事故などに十分注意し、自宅療養中の保護者には「目が届く環境で過ごす」よう再度伝える。
  • 耐性・低感受性株の問題も踏まえ、「なんとなく毎回ゾフルーザ」という運用にならないよう、医師と相談しつつ症例ごとに薬剤選択の妥当性を確認する。
  • ワルファリン等を併用している患者では、採血スケジュール(PT-INR測定)の調整や、出血徴候の観察ポイントをチーム内で共有する。
  • 家庭内に高リスク患者(高齢者、妊婦、基礎疾患を持つ家族)がいる場合には、予防投与の適応やワクチン接種状況について、医師・薬剤師と連携しながら情報提供を行う。
  • インフルエンザ流行期には、ゾフルーザ以外の抗インフルエンザ薬との違い(服薬回数・剤形・適応年齢など)も簡潔に説明できるよう準備しておく。

まとめ

『ゾフルーザ顆粒2%分包は、1回飲むだけで治療や予防ができて、小さなお子さんにも使いやすいお薬ですね。その分、低感受性ウイルスや出血のリスクにも気を配りながら、ワクチンや他のお薬とうまく組み合わせて、その子その人に合ったインフルエンザ対策を一緒に考えていけたらいいな、と思います。』

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【2025年11月12日発売】ヘルネクシオス錠60mg(ゾンゲルチニブ)の特徴、作用機序https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1437https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1437#respondWed, 12 Nov 2025 03:00:00 +0000https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/?p=1437『みなさん、こんにちは。今回は2025年11月に新たに発売されたHER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がん治療薬「ヘルネクシオス」について、簡単にまとめました。』

はじめに:ヘルネクシオス錠60mgとは

ヘルネクシオス錠60mg(一般名:ゾンゲルチニブ)は、HER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)を対象とした経口チロシンキナーゼ阻害薬です。肺がんは日本におけるがん死亡の主要原因のひとつであり、その大部分をNSCLCが占めます。診断時には進行した状態で見つかることも少なくなく、5年生存率はおよそ30%を下回るとされています。

HER2遺伝子変異はNSCLCの約2〜4%で認められ、とくに腺がん、非喫煙者、女性に多いことが知られています。HER2変異陽性NSCLCは予後不良で脳転移のリスクも高く、従来は「EGFR変異」「ALK融合」などに比べると標的薬が限られていました。そのため、全身化学療法後に病勢が増悪した症例に対して、HER2変異を直接標的とする経口薬への期待が高まっていました。

ヘルネクシオスは、HER2エクソン20挿入変異をはじめとするHER2遺伝子変異を有するNSCLCに対して、1日1回内服で全身治療を行うことができるHER2選択的チロシンキナーゼ阻害薬です。承認は「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」を対象としており、コンパニオン診断としてOncomine Dx Target TestマルチCDxシステムによるHER2変異の確認が前提となります。

製品概要

  • 商品名:ヘルネクシオス錠60mg
  • 一般名:ゾンゲルチニブ
  • 薬効分類:抗悪性腫瘍剤/HER2阻害剤
  • 剤形・規格:黄色のフィルムコート錠(1錠中ゾンゲルチニブ60mg含有)
  • 製造販売元:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
  • 劇薬・処方箋医薬品(注意:医師等の処方箋により使用)
  • 製造販売承認年月日:2025年9月19日
  • 薬価基準収載年月日:2025年11月12日
  • 発売日:2025年11月12日
  • 希少疾病用医薬品指定:HER2遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発NSCLCを予定効能として指定

作用機序と特徴

ゾンゲルチニブは、HER2(ERBB2)受容体のチロシンキナーゼドメインに選択的に作用する低分子チロシンキナーゼ阻害薬です。HER2エクソン20挿入変異などを有する変異型HER2のキナーゼ活性を抑制することで、下流のシグナル伝達経路(主としてMAPK/ERK経路やPI3K/AKT経路)を阻害し、腫瘍細胞の増殖シグナルを遮断します。その結果として腫瘍増殖抑制およびアポトーシス誘導作用を発揮すると考えられています。

本剤の特徴として、以下の点が挙げられます。

  • HER2遺伝子変異陽性NSCLCに対する国内初の経口HER2選択的TKIであること
  • 1日1回120mgの経口投与で、食事の有無にかかわらず投与可能であること
  • HER2遺伝子変異の確認(コンパニオン診断)が必須であり、分子標的治療としての位置づけが明確であること
  • 主な安全性上の重要なリスクとして、肝機能障害、重度の下痢、血球減少、間質性肺疾患、心機能障害(LVEF低下)、胚・胎児毒性が挙げられており、定期的なモニタリングが推奨されていること

効能・効果・適応症

ヘルネクシオス錠60mgの効能・効果は、添付文書上以下の通りです。

効能・効果:
がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌

投与対象は、十分な経験を有する病理医または検査施設における検査によりHER2(ERBB2)遺伝子変異が確認された患者に限られます。また、重篤な合併症リスクを考慮し、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師が、緊急時の対応が可能な医療施設で投与することが警告事項として求められています。

用法・用量と投与時の注意点

用法・用量(成人):
通常、成人には、ゾンゲルチニブとして1日1回120mgを経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。

ヘルネクシオス錠60mgを用いる場合、通常は60mg錠を2錠、1日1回の内服となります。飲み忘れや嘔吐時の再投与など、実臨床で想定されるシチュエーションについては添付文書・適正使用ガイドに従った対応が求められます。

休薬・減量・中止の目安(抜粋):
本剤投与により有害事象が発現した場合には、休薬・減量・中止の基準に従って対応します。

  • 肝機能障害(ALT/AST Grade3–4、総ビリルビン上昇):Grade1以下またはベースラインまで回復するまで休薬し、60mgへ減量して再開。ALT/AST≧基準値上限の3倍かつ総ビリルビン≧2倍、または総ビリルビンGrade4などでは投与中止。
  • 下痢:Grade2で止瀉薬により2日以上持続する場合やGrade3–4の場合は休薬し、症状改善後60mgで再開。適切な支持療法により改善しない場合は中止も検討。
  • 血球減少、LVEF低下、間質性肺疾患が疑われる症状(呼吸困難、咳嗽、発熱など)がみられた場合も、重症度に応じて休薬・中止を検討。

1日1回60mgまで減量しても忍容性が得られない場合は、本剤の投与中止が推奨されます。

相互作用・代謝経路

ゾンゲルチニブは主としてCYP3Aなどにより代謝され、薬物代謝酵素およびトランスポーターとの相互作用が報告されています。添付文書の情報を整理すると、以下のようにまとめられます。

1. ヘルネクシオス側が影響を受ける相互作用

  • 強いCYP3A阻害薬:イトラコナゾールなど
    イトラコナゾール(200mg 1日1回)併用により、ゾンゲルチニブのAUCおよびCmaxが増加(およそ1.4倍前後)します。強いCYP3A阻害薬併用時にはゾンゲルチニブの曝露増加に注意が必要であり、有害事象の出現状況を慎重に観察します。
  • 強いCYP3A誘導薬:カルバマゼピン、リファンピシンなど
    カルバマゼピン併用時にはゾンゲルチニブのAUCが約60%減少、Cmaxも有意に低下し、曝露量が大きく減少します。リファンピシン600mg 1日1回併用をモデル解析すると、Cmax約60%減少、AUC約80%減少と予測され、強力なCYP3A誘導薬との併用はゾンゲルチニブの有効性低下につながる可能性が高いため併用は避けることが推奨されます。
  • 中等度~弱いCYP3A誘導薬:エファビレンツなど
    中等度または弱いCYP3A誘導薬併用時には、臨床的に問題となるほどの曝露低下は認められておらず、通常は用量調整不要とされています。ただし、効果不十分例では個別に評価が必要です。

2. ヘルネクシオスが他剤に及ぼす影響

  • CYP2C8基質:レパグリニド
    ゾンゲルチニブ併用により、レパグリニドのCmaxが約44%、AUCが約30%増加し、CYP2C8に対する弱い阻害作用が示唆されています。低血糖リスクなどを念頭に、血糖値や症状を観察しながら用量調整を検討します。
  • BCRP/OATP1B1/1B3基質:ロスバスタチン
    ロスバスタチンとの併用でCmaxが約3倍、AUCが約2.3倍に増加しています。筋障害(ミオパチー、横紋筋融解症)リスクを考慮し、ロスバスタチンなどBCRP/OATP基質薬の用量調整や代替薬の検討が推奨されます。

上記以外にも、CYP3A・CYP2C8・P-gp・BCRP・OATP1B1/1B3の基質となる薬剤との併用時には、血中濃度上昇に伴う有害事象や効果減弱に注意が必要です。多剤併用となりやすいがん患者では、薬剤ごとの代謝・輸送経路を意識したレジメン設計が重要です。

食事の影響について

健康成人を対象とした試験では、高脂肪・高カロリー食摂取30分後にゾンゲルチニブを投与した場合、空腹時投与と比較してtmaxはやや遅延し、AUCおよびCmaxは約26%程度増加しました。一方で、この曝露増加は臨床的に問題となるレベルではなく、個体間変動がむしろ小さくなることも示されています。

この結果から、ヘルネクシオス錠は食事の有無にかかわらず投与可能とされています。実臨床では、患者の服薬習慣を踏まえて「毎日同じタイミング(たとえば朝食後など)で服用する」よう指導することで、アドヒアランス向上が期待できます。

主な副作用と安全性情報

臨床試験および市販後の情報から、ヘルネクシオスで注意すべき副作用として以下が挙げられています。

  • 消化器系:悪心、下痢、口内炎など
  • 皮膚・付属器:発疹、皮膚乾燥、そう痒症、爪の障害(変形、変色、脆弱化など)
  • 心機能:左室駆出率(LVEF)低下、心不全のリスク
  • 血液:血球減少(好中球減少、貧血、血小板減少など)
  • 肝臓:AST/ALT上昇、ビリルビン上昇を伴う肝機能障害
  • 呼吸器:間質性肺疾患(ILD)が報告されており、重篤化・致死的経過の可能性もある
  • その他:胚・胎児毒性の懸念(妊娠可能年齢女性への避妊指導が必要)

とくに重要なリスクとして、肝機能障害、重度の下痢、血球減少、間質性肺疾患、心機能障害が挙げられており、血液検査・肝機能検査・心機能検査(LVEF評価)・胸部画像などを定期的に行いながら治療を続けることが推奨されます。

また、妊婦または妊娠している可能性のある女性には原則禁忌とされており、治療中および治療終了後一定期間の適切な避妊が必要です。授乳中の女性についても、授乳中止が推奨されます。

処方時のチェックリスト(医師向け)

  • HER2(ERBB2)遺伝子変異陽性であることを、承認されたコンパニオン診断(Oncomine Dx Target Test マルチCDxシステムなど)で確認したか。
  • がん化学療法後に病勢増悪した切除不能な進行・再発NSCLCであるかを再確認したか。
  • 患者および家族に、本剤の有効性と重篤な副作用リスク(ILD、肝障害、心機能障害等)について十分に説明し、同意を得ているか。
  • 初回投与前に、肝機能検査(AST/ALT、ビリルビン)、血液検査(血球数)、心機能評価(LVEF)を実施しているか。
  • 間質性肺疾患リスク(既往のILD、放射線治療歴、併用薬など)を評価し、投与の妥当性を検討したか。
  • 強いCYP3A誘導薬(カルバマゼピン、リファンピシンなど)の併用を避ける計画になっているか。
  • ロスバスタチンなどBCRP/OATP基質薬等の併用状況を確認し、必要に応じて用量調整・代替薬を検討したか。
  • 妊娠可能年齢の患者では、妊娠有無を確認し、治療中および治療終了後の避妊について説明したか。
  • 治療中のモニタリング計画(定期的な血液・肝機能・心機能・胸部画像検査)を立てているか。
  • 重度の有害事象が出現した場合の休薬・減量・中止のアルゴリズムを把握し、施設内で共有しているか。

服薬指導のポイント(薬剤師向け)

  • 本剤は1日1回120mg(60mg錠×2錠)を定時に服用する薬であることを説明し、「毎日同じ時間帯」での内服を促す。
  • 食事の有無にかかわらず服用可能だが、飲み忘れ防止のために「朝食後」など一定のタイミングを決めるよう提案する。
  • 飲み忘れた場合の対応(思い出した時点で1回分を服用し、2回分を一度に飲まないことなど)について、医師の方針に沿って具体的に説明する。
  • 強いCYP3A誘導薬やロスバスタチンなどとの併用がある場合、そのリスク(効果減弱・副作用増強)をわかりやすく説明し、疑義照会の上で服薬内容を整理する。
  • 下痢、発疹、口内炎、皮膚・爪の変化、息切れ、咳、発熱、むくみ、動悸などが出現した場合には、自己判断で中断せず、早めに受診するよう伝える。
  • 心不全症状(息切れ、体重急増、下肢浮腫、易疲労感など)が出た場合は、受診を急ぐ必要があることを強調する。
  • 妊娠・授乳に関する注意(治療中および終了後一定期間は避妊が必要、授乳は基本的に中止)を、患者の背景に応じて丁寧に説明する。
  • 多剤併用となることが多いため、OTC薬・健康食品・サプリメントの併用についても確認し、相互作用のリスクをチェックする。
  • 長期継続が想定されるため、服薬カレンダーやアプリなど、アドヒアランスを支えるツールの活用を提案する。

ケアポイント(看護師向け)

  • 初診・投与開始時に、患者の呼吸状態、体重、浮腫、疲労感などを記録し、ベースラインの把握に努める。
  • 診察ごとに、呼吸困難、咳嗽、発熱など間質性肺疾患を疑う症状の有無を聴取し、変化があれば医師へ速やかに報告する。
  • 下痢や食欲不振、口内炎の程度を確認し、水分摂取量や栄養状態の悪化がないか観察する。
  • 皮膚乾燥、発疹、そう痒、爪の変化など皮膚症状がQOLに影響しやすいため、スキンケアや爪ケアの指導を行い、必要時には皮膚科受診を提案する。
  • 心不全の兆候(息切れ、夜間呼吸困難、体重増加、下肢浮腫など)を定期的に確認し、異常があれば早期に医師へ共有する。
  • 血液検査・心機能評価・画像検査など、定期検査スケジュールを患者と一緒に確認し、受診忘れがないよう声かけを行う。
  • 妊娠可能年齢の患者には、避妊の重要性や妊娠時のリスクについて、医師・薬剤師の説明内容を補足・確認する形でフォローする。
  • 長期治療に伴う心理的負担(不安・抑うつ・仕事や家庭への影響など)にも目を向け、多職種と連携しながら支援する。
  • 服薬状況・副作用・生活状況を包括的に把握し、チーム医療の中で情報共有しやすい形で記録する。

まとめ

『HER2遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんに対して、ヘルネクシオスは経口で継続できる新しい治療の選択肢になりそうですね。しっかりと検査でHER2変異を確認したうえで、安全性のモニタリングを続けながら使うことで、患者さんの日常生活にできるだけ寄り添った治療ができるといいな、と思います。』

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【2025年11月6日発売】ヨビパス皮下注ペン(パロペグテリパラチド)の特徴、作用機序https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1435https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1435#respondThu, 06 Nov 2025 03:00:00 +0000https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/?p=1435

『みなさん、こんにちは。今回は2025年11月に新たに発売された副甲状腺機能低下症治療薬「ヨビパス皮下注ペン」について、簡単にまとめました。』

はじめに:ヨビパス皮下注ペンとは

副甲状腺機能低下症は、副甲状腺ホルモン(PTH)の欠乏によってカルシウム・リン代謝異常が生じる稀な疾患で、指定難病に分類されています。2023年度の特定医療費受給者証所持者数は330人とされており、患者数は極めて少ないものの、治療の難しさは大きく、生活の質に大きな影響を及ぼします。

低カルシウム血症により、手足のしびれ、テタニー、全身痙攣、喉頭痙攣などの神経筋症状、さらに白内障や抑うつ、不整脈など多彩な症状を呈する可能性があります。従来の治療は活性型ビタミンD製剤やカルシウム製剤を用いる補充療法が中心でしたが、適切な血中カルシウム濃度の維持が困難であったり、過量投与により高カルシウム血症や高カルシウム尿症、腎石灰化、尿路結石といった合併症を招く課題がありました。

ヨビパス(パロペグテリパラチド)は、日本で初めて承認されたPTH補充療法薬であり、PTHの生理的リズムに近い形で血中濃度を維持できる徐放性プロドラッグとして開発されました。1日1回の皮下投与により、24時間にわたり安定したPTH濃度を維持し、カルシウム・リン代謝をより生理的に調整できる新たな治療選択肢として期待されています。

製品概要

  • 商品名:ヨビパス皮下注168μg・294μg・420μgペン
  • 一般名:パロペグテリパラチド
  • 薬効分類:副甲状腺機能低下症治療剤
  • 製造販売元:帝人ファーマ株式会社
  • 効能・効果:副甲状腺機能低下症
  • 製造販売承認日:2025年8月25日
  • 薬価基準収載日:2025年11月5日(想定)
  • 発売日:2025年11月6日

作用機序と特徴

ヨビパス(パロペグテリパラチド)は、PTH(副甲状腺ホルモン)の徐放性プロドラッグです。投与後、皮下組織で徐放性に活性化され、PTH作用を24時間持続的に発揮します。

● 作用機序のポイント

  • PTH1受容体に作用し、カルシウム再吸収を促進
  • 腎臓でリン再吸収を抑制し、血中リン濃度を調整
  • 1α水酸化酵素を刺激し、活性型ビタミンD産生を促進
  • 結果として血中のカルシウム濃度を生理的レンジに維持

ヨビパスは、従来の「カルシウムとビタミンDを大量に補う治療」と異なり、PTHそのものを置換するため、より生理的に近い代謝調整が期待できます。

過去の治療の課題であった高カルシウム血症・高カルシウム尿症・腎合併症のリスクを低減し得る点も重要な利点です。

効能・効果・適応症

効能・効果:

副甲状腺機能低下症

用法・用量と投与時の注意点

用法・用量(添付文書の記載要約):
通常、成人にはパロペグテリパラチドとして適量を1日1回皮下投与する。

投与開始前の重要ポイント:

  • 患者の血清カルシウム値が「正常範囲内」または「軽度低値」であることを確認
  • ビタミンD欠乏が疑われる場合は、ビタミンD補充や栄養指導を先行

投与時の注意点(添付文書より):

  • 高カルシウム血症のリスクがあるため、定期的に血清カルシウムを測定する
  • めまい、立ちくらみ、起立性低血圧などが生じる可能性があるため、危険作業(運転・高所作業)に注意
  • 投与後は症状の変化(痺れ、筋肉のこわばりなど)を観察する

相互作用・代謝経路

ヨビパス(パロペグテリパラチド)は、PTH補充薬であり、添付文書上の相互作用記載は非常に限られています。

● 添付文書に記載されている主な相互作用:

  • 高カルシウム血症を増悪させる薬剤(サイアザイド系利尿薬など)
    カルシウム再吸収が増加するため、併用で高カルシウム血症リスクが上昇。
  • ビタミンD製剤・カルシウム製剤
    併用により血清カルシウム値が上昇しやすいため、用量調整が必要。

なお、本剤は生体内で徐放性に活性化され、作用機序はホルモン様反応によるため、主たる代謝酵素による薬物相互作用(CYP阻害/誘導など)の記載はありません。

食事の影響について

本剤は皮下注投与のため、食事の影響はありません。 ただし、患者教育として以下の点が重要です:

  • カルシウム摂取量が過剰にならないよう注意
  • ビタミンD不足は効果を低下させるため、バランスの良い食事を推奨

主な副作用と安全性情報

主な副作用:

  • 高カルシウム血症(最重要)
  • 悪心、腹痛
  • 注射部位反応(発赤・腫脹・疼痛)
  • 頭痛、めまい、倦怠感
  • 立ちくらみ、起立性低血圧

重大な副作用:

  • 明らかな高カルシウム血症(嘔気、便秘、筋力低下、脱水、意識障害など)
  • 過剰投与による低リン血症

投与中は定期的な血清カルシウム、リン、クレアチニン測定が推奨されます。

処方時のチェックリスト(医師向け)

  • ビタミンD欠乏は補正されているか
  • 血清カルシウム値が正常域または軽度低値であるか
  • 腎機能(高カルシウム尿症リスク)を把握しているか
  • サイアザイド系利尿薬、ビタミンD製剤、カルシウム製剤の併用状況を確認
  • PTH補充で高カルシウム血症が生じた際の対処計画を準備しているか
  • 患者が毎日自己注射できる状態か(手技理解、視力、指先能力、家族サポート)

服薬指導のポイント(薬剤師向け)

  • 毎日同じ時間帯に皮下注射する重要性を説明
  • ビタミンD・カルシウム製剤との併用量を確認し、過量にならないよう指導
  • 高カルシウム血症の初期症状(便秘、口渇、悪心、倦怠感)を説明
  • 冷蔵保存・使用期限・持続時間などの取り扱いを案内
  • 注射部位は毎回ローテーションするよう説明

ケアポイント(看護師向け)

  • 注射手技(針の刺入角度・皮膚つまみ・ローテーション)の確認
  • 投与後のめまい・立ちくらみに注意し、転倒防止を徹底
  • 患者が自宅で注射を継続できるよう、繰り返し手技確認を行う
  • 採血スケジュール(Ca、P、Cr)の管理サポート
  • 症状悪化(痺れ、筋硬直、動悸など)の早期発見に努める

まとめ

『ヨビパスは、今まで難しかったPTH不足の治療をぐっと身近にしてくれる新しいお薬やね。毎日の注射は大変やけど、症状の安定にもつながるから、一緒にうまく使いながら安心できる生活を目指していこな〜』

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【2025年11月4日発売】アネレム静注用20mg(レミマゾラムベシル酸塩)の特徴、作用機序https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1433https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/1433#respondTue, 04 Nov 2025 03:00:00 +0000https://gorokichi.com/okusuri-jouhou/?p=1433

『みなさん、こんにちは。今回は2025年11月に新たに発売された全身麻酔・鎮静用剤「アネレム静注用20mg」について、簡単にまとめました。』

はじめに:アネレム静注用20mgとは

アネレム静注用20mg(一般名:レミマゾラムベシル酸塩)は、全身麻酔の導入および維持、さらに消化器内視鏡診療時の鎮静に用いられる超短時間作用型ベンゾジアゼピン系静脈麻酔薬です。国内では、これまで全身麻酔薬としてプロポフォールやミダゾラムが広く用いられてきましたが、循環抑制や持続時間、覚醒遅延、注射部位反応など、それぞれに注意すべき特徴がありました。また、消化器内視鏡診療では患者さんの苦痛や不安を軽減し、検査・処置の質を保つために鎮静が行われることが増加しています。

一方で、既存の鎮静薬は効果発現・持続時間や循環動態への影響の点から、長時間の内視鏡治療には適していても、短時間の検査では扱いにくいケースがあるなど、臨床現場には新たな選択肢が求められていました。アネレムは、こうしたニーズに応えるべく開発された薬剤で、既存の50mg規格に加えて、今回新たに消化器内視鏡診療時の鎮静の適応を踏まえた低用量規格(20mg)が追加されたことで、よりきめ細かな用量調整と安全な鎮静管理が期待されます。

製品概要

  • 商品名:アネレム静注用20mg
  • 一般名:レミマゾラムベシル酸塩
  • 薬効分類:全身麻酔・鎮静用剤(ベンゾジアゼピン系)
  • 製造販売元:ムンディファーマ株式会社
  • 効能・効果:

    ・全身麻酔の導入及び維持

    ・消化器内視鏡診療時の鎮静
  • 製造販売承認取得日:2025年6月24日
  • 薬価基準収載日:2025年8月14日
  • 発売日:2025年11月4日

作用機序と特徴

アネレム(レミマゾラム)は、ベンゾジアゼピン系に属する超短時間作用型静脈麻酔薬です。主な抑制性神経伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)がGABAA受容体に結合する作用を増強し、中枢神経系における抑制性神経伝達を促進することで、鎮静・催眠作用を発揮すると考えられています。具体的には、GABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位に作用することで、GABAが結合した際のCl⁻イオン流入を増強し、神経の興奮性を低下させます。

本剤は、主に肝臓のエステラーゼにより速やかに加水分解され、代謝物は薬理活性をほとんど持たないとされています。そのため、半減期が短く、投与を中止すると比較的速やかに効果が減弱する点が特徴です。また、同じくベンゾジアゼピン系であるフルマゼニルにより拮抗可能であり、過鎮静や覚醒遅延が問題となる場面でも可逆性を担保しやすいという利点があります。

さらに、プロポフォールと比較して循環抑制作用や注射部位反応が少ないことが報告されており、全身麻酔だけでなく、消化器内視鏡診療時の鎮静においても有用な選択肢になり得る薬剤と位置付けられています。

効能・効果・適応症

効能・効果:

  • 全身麻酔の導入及び維持
  • 消化器内視鏡診療時の鎮静

用法・用量と投与時の注意点

〈全身麻酔の導入及び維持〉



  • 導入:

    通常、成人にはレミマゾラムとして12mg/kg/時の速度で、患者の全身状態を観察しながら、意識消失が得られるまで静脈内へ持続注入する。なお、患者の年齢、状態に応じて投与速度を適宜減速する。
  • 維持:

    通常、成人にはレミマゾラムとして1mg/kg/時の速度で静脈内への持続注入を開始し、適切な麻酔深度が維持できるよう患者の全身状態を観察しながら、投与速度を適宜調節する。ただし上限は2mg/kg/時とする。

    覚醒徴候が認められた場合は、最大0.2mg/kgを静脈内投与してもよい。


〈消化器内視鏡診療時の鎮静〉



  • 通常、成人にはレミマゾラムとして3mgを、15秒以上かけて静脈内投与する。

  • 効果が不十分な場合は、少なくとも2分以上の間隔を空けて、1mgずつ15秒以上かけて静脈内投与する。

  • 患者の年齢、体重、全身状態等を考慮し、適切な鎮静深度が得られるよう投与量を適宜減量する。



投与時の注意点:



  • 〈消化器内視鏡診療時の鎮静〉では、呼吸状態・循環動態など全身状態を注意深く継続的に監視できる設備、ならびに緊急時対応が可能な体制を備えた医療施設でのみ使用する。

  • 鎮静深度には個人差が大きいため、過鎮静や呼吸抑制を避けるべく、少量から慎重に投与し、段階的に増量する。

  • 必要に応じてベンゾジアゼピン拮抗薬であるフルマゼニルを手元に準備しておくことが望ましい。

  • 本剤の影響が完全に消失するまでは、自動車の運転や危険を伴う機械操作に従事しないよう患者へ十分に説明する。

相互作用・代謝経路

代謝経路の概要:


レミマゾラムは主に肝臓の組織エステラーゼにより加水分解され、CYP(チトクロームP450)による代謝への依存性は低いとされています。そのため、薬物代謝酵素CYPを介した薬物相互作用は比較的少なく、臨床上問題となる薬物相互作用は主に薬力学的(中枢抑制作用の増強)なものが中心となります。



併用禁忌:

添付文書上、特定の薬剤が明確な「併用禁忌」として示されているわけではなく、主に併用注意薬が中心となります。


併用注意(添付文書記載の代表例):



  • 中枢神経抑制剤全般

    ・他の麻酔・鎮静剤(プロポフォール、デクスメデトミジン、ケタミン、セボフルランなどの揮発性吸入麻酔薬 など)

    ・麻薬性鎮痛剤(レミフェンタニル等)

    ・抗不安薬・抗アレルギー性緩和精神安定剤(ヒドロキシジン等)

    ・局所麻酔剤(リドカイン等)

    ・アルコール(飲酒)



    これらはいずれも中枢神経抑制作用を有するため、アネレムとの併用により鎮静作用が相互に増強され、血圧低下、呼吸抑制、覚醒遅延などが起こるおそれがあります。併用する際は、アネレムの投与速度・投与量を減量し、バイタルサインを厳重にモニタリングしながら慎重に投与します。



レミマゾラム自体はエステラーゼで速やかに代謝されるため、CYP阻害薬・誘導薬による血中濃度変動の影響は比較的小さいとされていますが、全身状態が不安定な患者では相互作用の影響が顕在化しやすいため、併用薬の薬理作用を十分に考慮した上で投与設計を行う必要があります。

食事の影響について

アネレム静注用20mgは静脈内投与製剤であり、経口吸収を介さないため、食事による影響は基本的には受けません。ただし、消化器内視鏡診療時の鎮静に使用する場面では、検査自体が絶飲食を前提として行われることが多いため、施設ごとの絶飲食指示に従うことが重要です。

主な副作用と安全性情報

重大な副作用:

  • 依存性:
    連用により薬物依存を生じることがあり、投与量の急激な減少や中止により、痙攣発作、せん妄、振戦、不眠、不安、幻覚、妄想、不随意運動などの離脱症状があらわれることがあります。長期連用は避け、必要最小限の期間にとどめることが求められます。
  • 徐脈:
    徐脈があらわれることがあり、異常が認められた場合には抗コリン薬(例:アトロピン)の静脈内投与などを行います。
  • 低血圧:
    血圧低下があらわれることがあり、必要に応じて頭部挙上・輸液・昇圧薬の投与など適切な処置を行います。
  • 低酸素症・呼吸抑制:
    呼吸抑制や低酸素血症があらわれることがあり、異常が認められた場合には気道確保、酸素投与、必要に応じて人工呼吸などを行います。
  • 覚醒遅延:
    覚醒が遅延することがあり、特に高齢者や肝機能障害のある患者では慎重な投与と十分な観察が必要です。

その他の副作用:

  • 血圧低下、心拍数減少
  • 酸素飽和度低下、呼吸数減少
  • 注射部位反応(疼痛、発赤などは比較的少ないと報告)
  • 悪心・嘔吐
  • 頭痛、めまい
  • 一過性の健忘

いずれの副作用も、麻酔科医または鎮静管理に習熟した医師の管理下で、適切なモニタリングと対応が行われることが前提となります。

処方時のチェックリスト(医師向け)

  • 全身麻酔もしくは消化器内視鏡鎮静において、アネレムの適応・用量が妥当か確認したか。
  • ASA分類、持病(心疾患、呼吸器疾患、脳器質疾患など)、高齢者・肥満・睡眠時無呼吸など、リスク因子を把握しているか。
  • 呼吸状態・循環動態を継続的にモニタリングできる環境(モニター、酸素、気道管理器具等)が整備されているか。
  • 麻薬性鎮痛薬、その他の中枢神経抑制薬との併用時に、過鎮静にならないよう投与設計を行っているか。
  • 必要に応じてフルマゼニルを使用できる体制があるか。
  • 鎮静後の覚醒状況を評価し、自動車運転など危険作業禁止について患者へ説明したか。

服薬指導のポイント(薬剤師向け)

  • 本剤が超短時間作用型のベンゾジアゼピン系静脈麻酔薬であることを医療スタッフ間で共有する。
  • 調製時は添付文書に従い、適切な溶解液・濃度で調製し、使用期限・保管条件を遵守する。
  • 他の麻酔薬・鎮痛薬・鎮静薬との併用状況を確認し、重複や相互作用のリスクを医師へ情報提供する。
  • フルマゼニルを含む関連薬剤(麻酔関連薬)の在庫・ロット・期限管理を行う。
  • 患者向けには、検査・処置後の眠気やふらつきに注意し、当日の自動車運転や危険作業を控えるべきであることをわかりやすく説明する(院内掲示や書面での説明も有用)。

ケアポイント(看護師向け)

  • 投与前にバイタルサイン(血圧、心拍数、SpO₂、呼吸数)と意識レベルを確認しておく。
  • 投与中は呼吸状態・循環動態を連続的にモニタリングし、呼吸抑制や低血圧の早期兆候を見逃さない。
  • 肥満、睡眠時無呼吸症候群、上気道閉塞リスクのある患者では、気道管理器具の準備と、迅速な対応ができるようチーム内で連携しておく。
  • 検査・処置終了後は、覚醒状況と呼吸状態を十分に観察し、歩行やトイレ移動の際は転倒リスクに配慮する。
  • 患者・家族には、「当日は眠気やふらつきが残ることがある」「自動車や自転車の運転はしない」などの注意点をやさしい言葉で繰り返し伝える。

まとめ

『アネレムは、全身麻酔にも内視鏡の鎮静にも使える、ちょっと頼もしい新しいお薬やね。短くしっかり効いて、必要なときにはフルマゼニルで戻せるっていうのも安心ポイント。チームみんなでモニタリングを丁寧にしながら、患者さんにとって“こわくない麻酔・鎮静”を一緒につくっていきたいなぁ』

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