先日のニュースで見た方も多いと思いますが、広島県三原市の温泉施設「みはらし温泉」で、レジオネラ菌による集団感染が発生しました。
県の報告では、感染したのは男女40人(男34人、女6人;30〜80歳代)で、発熱やせきなどの症状を訴えて38人が入院しています。このうち50代の男性が死亡し、2人が重症のようです。
教科書で習うレジオネラ症の典型的な感染パターンでしたね。
杜撰な施設管理の結果で、多くの方が未だ苦しみ、さらに死亡者まで出てしまいました。謹んで哀悼の意を表します。
今回はそんな恐ろしいレジオネラについて詳しくなりましょう。
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レジオネラ症とは
レジオネラ肺炎は1976年、米国フィラデルフィアにおける在郷軍人集会(Legion)で集団肺炎として発見されたことから、legionnaires’ diseaseと命名されました。
レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)を代表とする細菌感染症で、劇症型の肺炎と一過性のポンティアック熱に分けられます。
レジオネラ属菌は、もともと環境に普通に存在する菌ですが、循環水を利用したお風呂など、エアロゾルを発生させる人工環境(噴水等の水景施設、ビル屋上に立つ冷却塔、ジャグジー、加湿器等)が多くなっているため、レジオネラ症が一定数発生しています。
院内感染、市中感染ともに季節によらずみられ、特にヨーロッパではしばしば旅行と関連してもみられています。
人から人への感染はありません。
レジオネラ肺炎は市中肺炎の3~10%を占め、潜伏期は2~10日です。
一方、ポンティアック熱は、発病率が95%、潜伏期間が1~2日ですが、集団発生でないと報告にあがりにくいようです。
レジオネラ症の臨床症状
レジオネラ肺炎は、臨床症状では他の細菌性肺炎との区別は困難です。
全身性倦怠感、頭痛、食欲不振、筋肉痛などの症状に始まり、乾性咳嗽(2~3日後には、膿性~赤褐色の比較的粘稠性に乏しい痰の喀出)、高熱、悪寒、胸痛が見られるようになります。
傾眠、昏睡、幻覚、四肢の振せんなどの中枢神経系の症状が早期に出現するのも本症の特徴とされます。
胸部X 線所見では肺胞性陰影であり、その進行は速いです。
レジオネラ症の治療・予防
レジオネラは細胞内寄生細菌であるので、宿主細胞に浸透するエリスロマイシン、リファンピシン、ニューキノロンなどの抗菌薬を使用する必要があります。
有効な抗菌薬の投与がなされない場合は、7日以内に死亡することが多いようです。
エアロゾルの発生する可能性のある温水は、適切な殺菌剤による処理をおこなうか、換水するなどの注意が必要であります。
また、高齢者や新生児のみならず、免疫機能が低下した者では肺炎を起こす危険性が通常より高いので、特に注意する必要があります。
レジオネラの感染症法における取り扱い
レジオネラ症は4類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る必要があります。
過去の大規模レジオネラ感染(日本)
平成 14 年 7 月、宮崎県でオープンしたばかりの温泉入浴施設を利用した多数の人が、肺炎のような病気を発症していることが分かり、レジオネラ肺炎と診断されました。
その後の調査で、この温泉入浴施設の浴槽水から、患者から検出されたレジオネラ属菌と同一の菌が検出され、この施設が感染源であることが判明しました。
最終的に、患者(感染の疑いを含む)は 295 人に達し、死者 7 人を出す惨事となり、国内最大のレジオネラ症集団感染事故となっています。
レジオネラ症発生防止対策(東京都)
– 菌を増やさない:消毒や栄養源の除去により増殖させない
– 生物膜(ぬめり)をつけない:生物膜等を浴槽・プールや循環系統(配管・ろ過器等)に付着させない
– エアロゾルを吸い込ませない:エアルゾルの発生を防ぎ、入浴者へ吸い込ませない
(東京都福祉保健局の管理マニュアル参照)
余談ですが、銭湯などでお湯が溢れるほど入っているのは、浮いたゴミを流すためだそうです。知らなかった。
最近の海外での大規模レジオネラ感染(アメリカ)
2015年の夏に、ニューヨーク市でレジオネラのアウトブレイクがあり、128名の感染者、死亡者12名でありました。
感染源はホテルの冷却塔でエアロゾルにより市内に拡散されて他施設の冷却塔でも増殖が確認されていたそうです。
※参考:公益社団法人 全国水利用設備環境衛生協会HP(国内・国外のレジオネラ感染症の情報が確認できます)
まとめ
レジオネラ症は、死者が出ると大きく取り上げられますが、実は国内外において毎年多くの患者が出ている感染症の一つです。
人から人への感染はないものの、エアロゾルで感染するため、集団感染してしまいます。
一方で、自身での予防が難しいため、温泉やプールなどの施設の管理体制が求められます。
しかし、どういった症状がでるのかをしっかり覚えておくことで、感染を疑い、早期に病院へ行くことができます。
2015年のアメリカでのアウトブレイク、そして今回の感染、ということもあり、第103回の薬剤師国家試験には出る可能性がある問題ではないでしょうか。
ということで今回勝手に予想してみました。
過去には必須問題で出ていましたが、理論や実践に組み込まれてくる可能性も大ですね。
(参考)
第98回薬剤師国家試験
レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)感染症及びその治療について正しいのはどれか。1つ選べ。
1 . 原因菌は、グラム陰性球菌である。
2 . 主に血液を介して感染する。
3 . 市中肺炎の中で最も頻度が高い。
4 . 集団発生が見られる。
5 . ペニシリン系抗生物質の静脈内投与が、第一選択である。
第103回看護師国家試験
循環式浴槽の水質汚染によって発生するのはどれか。
1. B型肝炎
2. マラリア
3. レジオネラ肺炎
4. 後天性免疫不全症候群〈AIDS〉