抗体医薬品は、がん治療や免疫系疾患、脂質異常症、骨粗しょう症など、多くの疾患に用いられています。
そのため、医薬品の売り上げランキングを見ても、上位には抗体医薬品が多く並んでいます。
医薬品の売り上げに関してはこちらの記事をご参考ください。
日本で売れている薬 ~医薬品売上ランキング~
抗体医薬品だけでなく低分子標的薬を含めて知りたい方こちらをご参考ください。
これまでに日本で発売された分子標的薬の一覧
日本の抗体医薬品は、今でも臨床で使われているリツキサン(リツキシマブ)から始まったのはご存知ですか?
画期的な新薬としてオプジーボ(ニボルマブ)が誕生し、適応が拡大したことで作用機序だけでなく薬価などいろいろと話題になりましたが、発売からもう5年になります。
オプジーボの発売より前にも、発売後のこの5年間にも、多くの抗体医薬品が発売されていますが、日本でどのような薬が開発されているのかご存知ですか?
今回は、日本で発売された抗体医薬品を古い順から一覧にまとめました。
医療関係者、薬剤師国家試験を控える薬学生の皆さまにご参考になればと思っています。
抗体医薬品とは
抗体医薬品とは、名前の通り、抗体を利用した医薬品のことです。
抗体は免疫グロブリン(Immunoglobulin)というタンパク質です。異物が体内に入ると、その異物にある抗原と特異的に結合する免疫グロブリンが作られ、異物を排除するように働きます。
これらの抗体を利用する生体が持つ免疫システムは、獲得免疫と呼ばれますが、異物である抗原は、がん細胞に特異的に発現しているものから正常細胞に発現する分子や受容体など、様々なものがあります。そのため、無数の抗体が存在しうるわけです。
そこに目を付けたのが、抗体医薬品による分子標的治療です。
遺伝子工学の手法を用いることで作られた抗体医薬品には、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体があります。
その中でも、ヒト抗体の度合いが多いほど、安全性が高いと考えられています(異物として認識してアレルギー反応を起こさない)。
それらの抗体を動物細胞や大腸菌などから作成していくわけです。
大部分の抗体医薬品が、チャイニーズハムスターの卵巣由来の細胞株CHO (Chinese Hamster Ovary) 細胞を用いて作られています。
動物生物由来でないと、タンパク質の糖修飾などができないのでね。
そういった手間もあり、抗体医薬品が薬価が高くなる要因にもなっています。
抗体医薬品の分類は、名称(ステム)でわかります。
ステムを勉強したい方はこちらの記事をご参考ください。
ステムで薬の名前を暗記!【一覧リスト】薬が覚えられない人必見!
抗体医薬品の一覧(日本で承認された順)
~2010年に承認された抗体医薬品
リツキシマブ(リツキサン)
承認年:2001
標的分子:CD20
主な適応疾患:B細胞性非ホジキンリンパ腫
トラスツズマブ(ハーセプチン)
承認年:2001
標的分子:HER2
主な適応疾患:転移性乳がん
バシリキシマブ(シムレクト)
承認年:2002
標的分子:CD25
主な適応疾患:腎移植後の急性拒絶反応
インフリキシマブ(レミケード)
承認年:2002
標的分子:TNFα
主な適応疾患:関節リウマチ
パリビズマブ(シナジス)
承認年:2002
標的分子:RSV F protein
主な適応疾患:RSウイルス感染
ゲムツズマブ オゾガマイシン(マイロターグ)
承認年:2005
標的分子:CD33
主な適応疾患:CCR4陽性成人T細胞白血病リンパ腫
トシリズマブ(アクテムラ)
承認年:2005
標的分子:IL-6R
主な適応疾患:キャッスルマン病、関節リウマチ
ベバシズマブ(アバスチン)
承認年:2007
標的分子:VEGF
主な適応疾患:結腸・直腸がん
イブリツモマブ チウキセタン (90Y)(ゼヴァリン)
承認年:2008
標的分子:CD20
主な適応疾患:B細胞性非ホジキンリンパ腫
イブリツモマブ チウキセタン (111In)(ゼヴァリン)
承認年:2008
標的分子:CD20
主な適応疾患:イブリツモマブ チウキセタンの集積部位の確認
セツキシマブ(アービタックス)
承認年:2008
標的分子:EGFR
主な適応疾患:頭頚部がん、結腸・直腸がん
アダリムマブ(ヒュミラ)
承認年:2008
標的分子:TNFα
主な適応疾患:関節リウマチ
オマリズマブ(ゾレア)
承認年:2009
標的分子:IgE
主な適応疾患:喘息
ラニビズマブ(ルセンティス)
承認年:2009
標的分子:VEGF-A
主な適応疾患:加齢黄斑変性
エクリズマブ(ソリリス)
承認年:2010
標的分子:C5
主な適応疾患:発作性夜間ヘモグロビン尿症
パニツムマブ(ベクティビックス)
承認年:2010
標的分子:EGFR
主な適応疾患:結腸・直腸がん
2011年~2018年までに承認された抗体医薬品
ゴリムマブ(シンポニー)
承認年:2011
標的分子:TNFα
主な適応疾患:関節リウマチ
ウツテキヌマブ(ステラーラ)
承認年:2011
標的分子:IL12, IL23-p40
主な適応疾患:尋常性乾癬
カナキヌマブ(イラリス)
承認年:2011
標的分子:IL-1β
主な適応疾患:クリオピリン関連周期性症候群
セルトリズマブ ペゴル(シムジア)
承認年:2012
標的分子:TNFα
主な適応疾患:関節リウマチ、重症クローン病
モガムリズマブ(ポテリジオ)
承認年:2012
標的分子:CCR4
主な適応疾患:CCR4陽性成人T細胞白血病リンパ腫
デノスマブ(プラリア)
承認年:2012
標的分子:RANKL
主な適応疾患:骨病変,骨粗鬆症
ペルツズマブ(パージェタ)
承認年:2013
標的分子:HER2
主な適応疾患:HER2陽性手術不能または再発乳がん
トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ)
承認年:2013
標的分子:HER2
主な適応疾患:HER2陽性転移・再発乳がん
オファツムマブ(アーゼラ)
承認年:2013
標的分子:CD20
主な適応疾患:慢性リンパ性白血病
ブレンツキシマブ ベドチン(アドセトリス)
承認年:2014
標的分子:CD30
主な適応疾患:ホジキンリンパ腫
アレムツズマブ(マブキャンパス)
承認年:2014
標的分子:CD52
主な適応疾患:B細胞性慢性リンパ性白血病
ナタリズマブ(タイセブリ)
承認年:2014
標的分子:α4 integrin
主な適応疾患:多発性硬化症
ニボルマブ(オプジーボ)
承認年:2014
標的分子:PD-1
主な適応疾患:悪性黒色腫
セクキヌマブ(コセンティクス)
承認年:2014
標的分子:IL17-A
主な適応疾患:尋常性乾癬,関節症性乾癬
イピリムマブ(ヤーボイ)
承認年:2015
標的分子:CTLA4
主な適応疾患:黒色腫
ラムシルマブ(サイラムザ)
承認年:2015
標的分子:VEGFR2
主な適応疾患:胃がん
エボロクマブ(レパーサ)
承認年:2015
標的分子:PCSK9
主な適応疾患:高コレステロール血症
ペムブロリズマブ(キイトルーダ)
承認年:2016
標的分子:PD-1
主な適応疾患:黒色腫
イダルシズマブ(プリズバインド)
承認年:2016
標的分子:dabigatoran
主な作用:ダビガトランを特異的に中和
メポリズマブ(ヌーカラ)
承認年:2016
標的分子:IL-5
主な適応疾患:喘息
エロツズマブ(エムプリシティ)
承認年:2016
標的分子:SLAMF7
主な適応疾患:多発性骨髄腫
イキセキズマブ(トルツ)
承認年:2016
標的分子:IL-17A
主な適応疾患:尋常性乾癬
アリロクマブ(プラルエント)
承認年:2016
標的分子:PCSK9
主な適応疾患:高コレステロール血症
ブロダルマブ(ルミセフ)
承認年:2016
標的分子:IL17R
主な適応疾患:尋常性乾癬
ベリムマブ(ベンリスタ)
承認年:2017
標的分子:BLyS
主な適応疾患:全身性エリテマトーデス
ダラツムマブ(ダラザレックス)
承認年:2017
標的分子:CD38
主な適応疾患:多発性骨髄腫
アベルマブ(バベンチオ)
承認年:2017
標的分子:PD-L1
主な適応疾患:メルケル細胞がん
ベズロトクスマブ(ジーンプラバ)
承認年:2017
標的分子:Clostridium difficile toxin B
主な適応疾患:クロストリジウム・ディフィシル感染症の再発抑制
サリルマブ(ケブザラ)
承認年:2017
標的分子:IL-6R α subunit
主な適応疾患:関節リウマチ
アテゾリズマブ(テセントリク)
承認日:2018/1/19
標的分子:PD-L1(がん細胞や抗原提示細胞が発現する)
主な適応疾患:非小細胞肺癌、乳癌
デュピルマブ (デュピクセント)
承認日:2018/1/19
標的分子:IL-4受容体
主な適応疾患:アトピー性皮膚炎、気管支喘息
ベンラリズマブ(ファセンラ)
承認日:2018/1/19
標的分子:IL-5受容体
主な適応疾患:気管支喘息
イノツズマブ オゾガマイシン(ベスポンサ)
承認日:2018/1/19
標的分子:CD22
主な適応疾患:CD22陽性の急性リンパ性白血病
グセルクマブ (トレムフィア)
承認日:2018/3/23
標的分子:IL-23
主な適応疾患:尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、掌蹠膿疱症
エミシズマブ (ヘムライブラ)
承認日:2018/3/23
標的分子:活性型血液凝固第IX因子及び血液凝固第X因子
主な適応疾患:先天性血液凝固第VIII因子欠乏患者における出血傾向の抑制
オビヌツズマブ(ガザイバ)
承認日:2018/7/2
標的分子:CD20
主な適応疾患:CD20陽性の濾胞性リンパ腫
デュルバルマブ (イミフィンジ)
承認日:2018/7/2
標的分子:PD-L1
主な適応疾患:非小細胞肺癌の維持療法
ベドリズマブ(エンタイビオ)
承認日:2018/7/2
標的分子:α4β7インテグリン
主な適応疾患:潰瘍性大腸炎、クローン病
ブリナツモマブ(ビーリンサイト)
承認日:2018/9/21
標的分子:CD19/CD3(B細胞系の細胞表面に発現するCD19及びT細胞表面に発現するCD3に結合)
主な適応疾患:B細胞性急性リンパ性白血病
2019年承認
ロモソズマブ (イベニティ)
承認日:2019/1/8
標的分子:スクレロスチン
主な適応疾患:骨折の危険性の高い骨粗鬆症
※スクレロスチンは、Wntシグナルの伝達経路を介した骨形成を抑制する因子です。このスクレロスチンの働きを阻害することで、骨形成の促進ならびに骨吸収の抑制作用が示されます。
リサンキズマブ(スキリージ)
承認日:2019/3/26
標的分子:IL-23
主な適応疾患:尋常性乾癬,関節症性乾癬,膿疱性乾癬,乾癬性紅皮症
ラブリズマブ (ユルトミリス)
承認日:2019/6/18
標的分子:補体C5
主な適応疾患:発作性夜間ヘモグロビン尿症
ネシツムマブ (ポートラーザ)
承認日:2019/6/18
標的分子:EGFR
主な適応疾患:切除不能な扁平上皮非小細胞肺癌
ブロスマブ (クリースビータ)
承認日:2019/9/20
標的分子:線維芽細胞増殖因子23(FGF23)
主な適応疾患:FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症
ブロスマブ (クリースビータ)の特徴
2020年代に承認されたもの 一覧
2020年承認
ブロルシズマブ (ベオビュ)
承認日:2020/3/25
標的分子:VEGF-A
主な適応疾患:中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性
トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)
承認日:2020/3/25
標的分子:HER2
主な適応疾患:化学療法歴のあるHER2陽性の乳癌
※HER2についてはトラスツズマブ(ハーセプチン)を参照
サトラリズマブ(エンスプリング)
承認日:2020/6/29
標的分子:IL-6受容体
主な適応疾患:視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)
チルドラキズマブ (イルミア)
承認日:2020/6/29
標的分子:IL-23α(p19)サブユニット
主な適応疾患:尋常性乾癬
イサツキシマブ(サークリサ)
承認日:2020/6/29
標的分子:CD38
主な適応疾患:多発性骨髄腫
※CD38についてはダラツムマブ(ダラザレックス)を参照
セツキシマブ サロタロカン(アキャルックス)
承認日:2020/9/25
標的分子:EGFR
主な適応疾患:頭頸部癌
2021年承認
ガルカネズマブ(エムガルティ)
承認日:2021/1/22
標的分子:CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)
主な適応疾患:片頭痛
イネビリズマブ(ユプリズナ)
承認日:2021/3/23
標的分子:AQP4(アクアポリン4)
主な適応疾患:視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)
ダラツムマブ・ボルヒアルロニダーゼアルファ(ダラキューロ)
承認日:2021/3/23
標的分子:CD38
主な適応疾患:多発性骨髄腫、全身性ALアミロイドーシス
ポラツズマブ ベドチン(ポライビー)
承認日:2021/3/23
標的分子:CD79b
主な適応疾患:びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
フレマネズマブ(アジョビ)
承認日:2021/6/23
標的分子:CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)
主な適応疾患:片頭痛
エレヌマブ(アイモビーグ)
承認日:2021/6/23
標的分子:CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)1型受容体
主な適応疾患:片頭痛
ジヌツキシマブ(ユニツキシン)
承認日:2021/6/23
標的分子:GD2(神経細胞などの表面に存在する糖脂質)
主な適応疾患:大量化学療法後の神経芽腫
カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)
承認日:2021/7/19
標的分子:SARS-CoV-2
主な適応疾患:SARS-CoV-2による感染症及びその発症抑制
アニフロルマブ(サフネロー)
承認日:2021/9/27
標的分子:IFNAR1(I型インターフェロンα受容体のサブユニット1)
主な適応疾患:全身性エリテマトーデス
エンホルツマブ ベドチン(パドセブ)
承認日:2021/9/27
標的分子:Nectin-4
主な適応疾患:がん化学療法後に増悪した尿路上皮癌
ソトロビマブ(ゼビュディ)
承認日:2021/9/27
標的分子:SARS-CoV-2
主な適応疾患:SARS-CoV-2による感染症
さいごに
いかがでしたでしょうか。
抗体医薬品は、特異的に作用させられるため、近年開発が進んでいます。
そのため、今までに考えられていなかったような様々な分子を標的とした医薬品が作られています。
薬剤師国家試験には、発売されてすぐの医薬品は出題されませんが、話題になっているもの、臨床で多く使われているものは発売後2、3年経ってから出題されたりします。
臨床実務実習で実際に見た、あるいは聞いたものは押さえておいた方が良いかもしれません。
将来、病院や薬局で働く人は特に新しい医薬品についても知っておいても損はないと思います。
抗体医薬品だけでなく低分子標的薬を含めて知りたい方こちらをご参考ください。
これまでに日本で発売された分子標的薬の一覧