ファイザーが開発を中止した新規PCSK9阻害薬、Bococizumabについて(論文紹介)

今月、NEJMで2つの論文が掲載されました。

1つ目に、Lipid-Reduction Variability and Antidrug-Antibody Formation with Bococizumab
(ボコシズマブによる脂質低下のばらつきと抗薬物抗体形成)

2つ目に、Cardiovascular Efficacy and Safety of Bococizumab in High-Risk Patients
(高リスク患者におけるボコシズマブの心血管に対する有効性と安全性)

1つ目の論文は、
ボコシズマブ(bococizumab)を 6 件の多国間治験をしたとき、投与した患者のほとんどで抗薬物抗体が出現し、LDL コレステロール値の低下効果を有意に減弱させたという論文です。また、抗薬物抗体が出現しなかった患者でも、コレステロール値の相対的低下に大きなばらつきが認められました。

2つ目の論文は、
ボコシズマブ(bococizumab) とプラセボとを比較する 2 件の無作為化試験のうち,よりリスクの低い患者を対象とした試験では,主要有害心血管イベントに関してボコシズマブに利益は認められなかったが,よりリスクの高い患者を対象とした試験では有意な利益が認められました。という論文です。

NEJMはこちら

ウェブからでは契約していないと全文は見れませんが、iOSのアプリ経由だと全文が見れます。

 

実は今回の論文のボコシズマブ(bococizumab) は、ファイザーが2016年の11月に、臨床試験の途中(bococizumab SPIRE (Studies of PCSK9 Inhibition and the Reduction of vascular Events) 第3相試験)で開発を中止したものです。(原文

原文を読むと、
有効性の面で、繰り返し投与することにより効果減弱が認められたことにより長期の持続効果が期待できず、期待する心発作や心卒中イベントの減少が得られなかったこと。
安全性の面で、免疫原性の増大およびインフュージョンリアクションが高頻度での発現があったこと。
が記載されていました。

PCSK9阻害薬とは?

PCSK9とは、ヒトプロ蛋白質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin Type 9)の略称です。

1986年、BrownとGoldsteinにより、LDL受容体経路の特性を初めて明らかになりました。
そして2003年、Abifadelらにより、PCSK9が発見されました。

PCSK9は主に肝細胞より分泌されるタンパク質であり、肝細胞表面のLDL受容体数を調節することにより、LDL-コレステロールのクリアランスに生理的な役割を果たすことがわかりました。
つまり、PCSK9は、LDL受容体の利用率を低下させることで、LDLコレステロール値を上昇させます

PCSK9阻害薬の作用機序

LDL受容体は、LDLコレステロールとPCSK9と結合することにより複合体となり肝細胞内に取り込まれます。
この複合体は肝細胞内に取り込まれた後、肝細胞内で分解されます。
このようにPCSK9はLDL受容体数を減らすことで、血中のLDLコレステロールを上昇させることができます。

つまり、PCSK9阻害薬はLDL受容体を減らすPCSK9をターゲットとして阻害します。
その結果、LDL受容体が増え、血中から肝細胞内へのLDLコレステロールの取り込みが促進し、血中LDLコレステロールを低下させます。

現在使われているPCSK9阻害薬

日本で現在使われているPCSK9阻害薬は、エボロクマブ(製品名:レパーサ)およびアリロクマブ(製品名:プラルエント)です。
2016年4月に発売したエボロクマブ(製品名:レパーサ) は、アステラス・アムジェン・バイオファーマ株式会社がリリースした PCSK9阻害薬の国内第一号。

2016年9月に発売したアリロクマブ(製品名:プラルエント)は、サノフィ株式会社がリリースした PCSK9阻害薬の国内第二号。

いずれも、脂質異常症治療薬の新しい作用機序として認可された注射薬です。

PCSK9阻害薬の効能・効果は「家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症」となっており、「心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分な場合に限る」という縛りがあります。

またスタチン製剤と併用しなければ処方ができません。

なぜスタチン系(HMG-CoA還元酵素阻害薬)と併用しなければいけないのか?

PCSK9阻害薬がスタチンの弱みをカバーしています。
というのも、PCSK9は脂質合成の転写因子であるSREBP(sterol regulatory element-binding protein)によって調整されており、そのSREBPはPCSK9の合成を促進させる作用があります。

スタチン系(HMG-CoA還元酵素阻害薬)はSREBPを活性化しPCSK9を増加させるため、投与量を増やしてもLDLコレステロールがなかなか下がらないといった欠点がありました。

しかし、PCSK9を阻害薬と併用することで、スタチンの弱みを補完し相乗効果を発揮することができると考えられました。

そのため、日本国内の認可時にはスタチン系との併用のみにし、日本人における単独投与での有効性・安全性は確立していないということになっています。

まとめ

今回の論文では、
2016年にファイザーが発表した開発を中止せざるをえなかった、第3相試験のことが記された論文になります。
抗体医薬品はタンパク質である以上、免疫細胞がその薬物を異物と認識して抗体を作ってしまう可能性があります。
今回のボコシズマブ(bococizumab)に対してもそれができてしまい、効果が減弱してしまったのでしょう。

スタチン系薬物においては、効果があまりでない患者がいます。
そういった患者に対して有効とされている、コレステロール治療に対する分子標的薬のPCSK9阻害薬の新薬が臨床試験の途中で落ちてしまうのは非常に残念です。

ただ、スタチン系薬物も安価ではなく、さらに抗体薬は高価である、かつ生物学的製剤であることを念頭に置いておく必要がありますね。

 

 

本記事は、インタビューフォーム、pcsk9.jp、pfizerのHPNEJMを参考に作成しました。

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