イソジンシュガー(ユーパスタ)とゲーベンの使い分け|「滲出液」と「壊死組織」で決める褥瘡外用薬の選び方

褥瘡や皮膚潰瘍でよく見かける「イソジンシュガー」と「ゲーベン」。どちらも創傷に使う外用薬ですが、実は水分の“向き”が真逆で、間違えると治りを遅らせてしまうことがあります。この記事では、一次資料(添付文書・日本褥瘡学会ガイドライン)をもとに、この2剤の使い分けを薬剤師目線で整理します。疑義照会や服薬指導の判断材料としてお役立てください。

この記事でわかること

  • イソジンシュガーとゲーベンの作用機序・基剤の違い(なぜ「水分の向き」が真逆なのか)
  • 滲出液が多い創/乾いた黒色壊死の創、それぞれで選ぶべきなのはどちらか
  • ゲーベンの添付文書上の「適応症」に潜む、見落とされがちな薬剤師的ポイント
  • DESIGN-R®2020と褥瘡ガイドラインの中での2剤の位置づけ、周辺外用薬との関係
  • 禁忌・使用上の注意の比較(サルファ剤過敏、ヨウ素過敏など)
  • 褥瘡に関わる診療報酬(褥瘡ハイリスク患者ケア加算など)の最新情報

基礎解説:この2剤は「水分の向き」が真逆

まず結論から言うと、両者の一番の違いは創に水分を「吸わせる」のか「与える」のかという点にあります。ここを押さえると、あとの使い分けは驚くほどシンプルに整理できます。

イソジンシュガー(精製白糖・ポビドンヨード)=“吸う”側

「イソジンシュガー」は現場で定着した通称で、一般名は精製白糖・ポビドンヨード。効能・効果は「褥瘡、皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、下腿潰瘍)」で、褥瘡そのものが適応症に明記されているのが特徴です。

なお、通称の由来となったイソジンシュガーパスタ軟膏(塩野義製薬)は、2025年12月に販売中止が発表され、在庫消尽(出荷終了予定2026年5月)をもって販売を終了しています。ただし一般名の精製白糖・ポビドンヨード配合軟膏そのものは継続しており、現在はユーパスタ軟膏(テイカ製薬)ネオヨジンシュガーパスタ、ポビシュガーパスタなどが流通しています。「イソジンシュガー」は今や特定商品というよりこの配合軟膏の総称として使われている、と捉えておくとよいでしょう。

作用は2つの成分が担います。白糖は高濃度の糖による局所浸透圧の上昇で、創部の浮腫軽減と滲出液の吸収を促し、さらに線維芽細胞を活性化して肉芽形成を後押しします。もう一方のポビドンヨードが殺菌作用を担い、MRSAを含む幅広い菌に対応します。基剤はマクロゴール系(水を吸う性質)なので、製剤全体として吸水性に働きます

ゲーベン(スルファジアジン銀)=“与える”側

「ゲーベン」はスルファジアジン銀クリーム。作用は、銀イオンが細菌の細胞膜・細胞壁に作用して抗菌力を発揮するもので、緑膿菌やカンジダを含む広域スペクトルを持つのが強みです。基剤は水分を多く含むO/W型(水中油型)乳剤性クリームで、プロピレングリコールを含有。つまり製剤全体としては創に水分を与える方向に働きます

この「水分を与える」性質こそが臨床上のキモです。乾いて硬くなった黒色壊死組織(焼痂)を軟化させ、自己融解的なデブリードマンを促すという使われ方につながります。

覚え方はゴロで一発です。「シュガーは吸う、ゲーベンはgive(ギブ)」。砂糖が湿気を吸うイメージでシュガーは滲出液を吸い、ゲーベンは頭の「ゲ」がgive=水を与えるイメージ、と紐づけます。じつは製品名の「ゲーベン(Geben)」はドイツ語で“与える”を意味するとされ、このゴロは語源的にも理にかなっています。さらに病態とセットにするなら「ジュクジュクにシュガー(吸う)、カラカラにゲーベン(give)」。擬音と薬名を先にくっつけておくと、ジュクジュクの創にゲーベンを塗って浸軟させたり、カラカラの創にシュガーを塗ってさらに乾かしたりといった取り違えを防げます。剤形と基剤の水分含有率については、当サイトの「軟膏とクリームの使い分け」の記事でも詳しく整理していますので、あわせてご覧ください。

使い分けの核心:滲出液と壊死組織で見る

滲出液が多い・ジュクジュク → イソジンシュガー

滲出液が多い創には、吸水作用のあるイソジンシュガーが向きます。日本褥瘡学会『褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)』でも、滲出液が多い場合には吸収作用のある外用薬としてカデキソマー・ヨウ素、ポビドンヨード・シュガー(=イソジンシュガー)を用いることが勧められています(推奨度B)。感染を伴う肉芽形成期にも使いやすい一手です。

乾いた硬い黒色壊死 → ゲーベン

逆に、乾いて硬い黒色壊死組織が固着している創には、水分を与えて壊死を軟化させるゲーベンが向きます。硬い焼痂をゲーベンで軟化させながら外科的・自己融解的にデブリードマンを進める、というのは臨床でよく行われる使い方です。滲出液の少ない、あるいは乾燥した創面が主な出番になります。

「緑膿菌」の視点も忘れずに

感染菌の観点も選択に影響します。ゲーベンは緑膿菌に強い抗菌力を持つため、緑膿菌の関与が疑われる創では有力な選択肢になります。一方、滲出液が多く感染も気になる創では、吸水と殺菌を両立するイソジンシュガーが使いやすい場面が多くなります。

比較項目イソジンシュガー(精製白糖・ポビドンヨード)ゲーベン(スルファジアジン銀)
水分への作用吸水(滲出液を吸う)供給(創に水分を与える)
基剤マクロゴール系(吸水性)O/W乳剤性クリーム(水分が多い)
主な狙い滲出液コントロール・殺菌・肉芽形成黒色壊死組織の軟化・広域抗菌
向く創滲出液が多い創、感染〜肉芽形成期乾いた硬い壊死、緑膿菌が気になる創
避けたい創乾燥した創(さらに乾かす)滲出液が多い創(浸軟させる)
抗菌の特徴ヨウ素による広域殺菌(MRSA含む)銀イオンによる広域抗菌(緑膿菌・カンジダに強い)
主な注意点ヨウ素過敏、甲状腺機能異常、疼痛・刺激感サルファ剤過敏、軽症熱傷・新生児は禁忌、長期使用回避
薬価の目安約7〜9.7円/g12.8円/g(後発品なし)

現場では「感染しているからイソジン系」「壊死があるからゲーベン」と菌や壊死だけで選びがちですが、最初に滲出液の量を見て水分の向きを合わせるのが失敗しないコツです。滲出液の量(湿潤バランス)→壊死の有無→感染菌、の順で考えると迷いにくくなります。

添付文書の「適応症」に注目:ここが薬剤師の差が出るポイント

実は見落とされがちな重要な違いがあります。ゲーベンの添付文書上の効能・効果には「褥瘡」という文字がありません。

ゲーベン(2025年12月改訂)の効能・効果は、適応菌種(ブドウ球菌属、レンサ球菌属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、緑膿菌、カンジダ属)に対する「外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、びらん・潰瘍の二次感染」です。つまり厳密には「創の二次感染」に対する外用抗菌薬という位置づけで、褥瘡はあくまで薬効分類(褥瘡・皮膚潰瘍治療薬)上のグループとして扱われています。

一方、イソジンシュガー(ユーパスタ、2024年4月改訂・第2版)は効能・効果に「褥瘡」が明記されています。褥瘡の壊死組織軟化目的でゲーベンを使うことはガイドラインの保存的治療アルゴリズムでも支持される確立した使い方ですが、「添付文書の適応症の書きぶりが両者で異なる」という事実は、薬剤師として押さえておきたいところです。

ゲーベンは“褥瘡薬”というより“創の広域抗菌クリーム(副次的に壊死を軟化する基剤特性を持つ)”と捉えると、使いどころが腑に落ちます。

DESIGN-R®2020・ガイドラインの中での位置づけ

褥瘡の評価には、日本褥瘡学会のDESIGN-R®2020が広く使われます。深さ(D)、滲出液(E)、大きさ(S)、炎症/感染(I)、肉芽組織(G)、壊死組織(N)、ポケット(P)の7項目で創を評価し、この所見に応じて外用薬を選ぶのが基本的な考え方です。今回の2剤は、主にE(滲出液)・N(壊死組織)・I(感染)の所見で使い分けることになります。

この2剤の“まわり”にある主な褥瘡外用薬

実際の褥瘡治療では、創の時期に応じてさらに多くの外用薬が使い分けられます。全体像をつかむために、代表的な品目を一覧にしました(各薬剤の詳細は、別途「褥瘡外用薬 総まとめ」で解説予定です)。

一般名代表的な商品名主な狙い滲出液との相性
精製白糖・ポビドンヨードユーパスタ/イソジンシュガー吸水・殺菌・肉芽形成多い創に向く
カデキソマー・ヨウ素カデックス強い吸水・感染制御多い創に向く
ヨウ素ヨードコート吸水・感染制御多い創に向く
スルファジアジン銀ゲーベン壊死軟化・広域抗菌(緑膿菌)少ない・乾燥した創に向く
ブロメラインブロメライン軟膏蛋白分解酵素による壊死除去健常皮膚の保護が必要
トラフェルミンフィブラストスプレー肉芽形成促進(bFGF)良性肉芽期
アルプロスタジル アルファデクスプロスタンディン軟膏血流改善・肉芽・上皮化乾燥〜軽度湿潤
ブクラデシンナトリウムアクトシン軟膏肉芽形成・血管新生・上皮化軽度の吸水性あり

黒色期(壊死)→ゲーベンやブロメラインで除去、黄色期(感染・滲出)→イソジンシュガーやカデックスで吸水・殺菌、赤色期(肉芽形成)→フィブラストやプロスタンディン、白色期(上皮化)→アクトシンなど、という“創の色(時期)で流れをつかむ”と全体像が整理しやすくなります。今回の2剤は、その中でも黒色期〜黄色期をまたぐ主役級と覚えておくとよいですね。

使用上の注意・禁忌の比較

項目イソジンシュガーゲーベン
主な禁忌本剤成分・ヨウ素に過敏症の既往本剤成分・サルファ剤に過敏症の既往/低出生体重児・新生児/軽症熱傷
注意したい患者甲状腺機能異常のある患者(ヨウ素吸収)薬物過敏症・光線過敏症・エリテマトーデスの既往など
主な副作用疼痛、刺激感、皮膚炎、まれにショック・アナフィラキシー様症状汎血球減少・白血球減少、皮膚壊死、間質性腎炎、接触皮膚炎、光線過敏症
使い方の要点潰瘍面を清拭後、1日1〜2回塗布1日1回、約2〜3mmの厚さ。翌日は前日分を洗い落としてから塗布
その他の注意広範囲・長期でヨウ素吸収に留意長期使用を避ける/広範囲でプロピレングリコールによる高浸透圧/塩化物系消毒薬で変色

ゲーベンは「毎回、前日分を洗い落としてから塗り直す」のが原則です。古いクリームの上に塗り重ねると感染制御の妨げになります。また軽症熱傷は禁忌(疼痛が出やすい)で、「やけどにゲーベン」を一律に是としないのも押さえておきたいポイント。長期連用でサルファ剤の全身性副作用(血液障害など)に注意が必要な点も、漫然投与を疑うきっかけになります。

制度・報酬関連:褥瘡ケアに関わる主な加算

褥瘡は外用薬の選択だけでなく、診療報酬・介護報酬の面でも体系的な管理が求められる領域です。2026年7月時点の主なものを整理します。

名称区分点数・要点
褥瘡ハイリスク患者ケア加算入院(医科)入院中1回500点。専従の褥瘡管理者が予防治療計画に基づく総合的な褥瘡対策を実施した場合に算定
在宅患者訪問褥瘡管理指導料在宅(医科)750点。在宅褥瘡対策チームによるカンファレンス等を要件に、6月以内に3回まで算定可
褥瘡マネジメント加算介護LIFE関連加算。褥瘡ケア計画の作成・見直し(少なくとも3月に1回)等が要件

あわせて押さえておきたいのが評価スケールと危険因子アセスメントです。入院時の褥瘡対策では、危険因子(病的骨突出、皮膚湿潤、浮腫、医療関連機器の使用など)の評価と、DESIGN-R®2020による経過評価が土台になります。さらに近年の改定で褥瘡の危険因子に「スキン-テア(皮膚裂傷)」の保有・既往が追加されるなど、予防的なアセスメントがより重視される方向にあります。

外用薬の選択は、こうした加算の枠組みの中で「創の評価(DESIGN-R)→計画→処置→再評価」というPDCAの一部として動いています。薬剤師が滲出液や壊死の所見を読んで剤形を提案できると、チーム医療の中での存在感がぐっと高まりますね。

患者説明トーク(Q&A)

Q. どちらも褥瘡の薬なのに、なぜ薬が変わるのですか?

A. 同じ褥瘡でも、傷の状態は日々変化します。ジュクジュクと水分が多い時期と、黒く硬くなった組織がある時期とでは、必要な薬が変わるんです。今の傷の状態にいちばん合う薬を選んでいますので、ご安心くださいね。

Q. 白い薬(ゲーベン)は毎回洗い流してから塗るように言われました。面倒ですが必要ですか?

A. はい、この薬は前日に塗った分を清拭やぬるま湯でやさしく落としてから、新しく塗り直すのが基本です。古い薬を残したまま重ね塗りすると効果が十分に発揮されないため、少し手間ですが大切な手順です。落とし方が難しいときは、遠慮なくスタッフにご相談ください。

Q. 茶色い薬(イソジンシュガー)を塗るとしみる感じがします。大丈夫ですか?

A. この薬は塗ったときに刺激感や痛みを感じることがあります。多くは一時的ですが、痛みが強い・長く続く・赤みやかぶれが広がるといった場合は、そのまま我慢せずお知らせください。傷の状態を見て、薬の調整を検討します。

まとめ

  • イソジンシュガーは吸水(滲出液を吸う)、ゲーベンは水分供給(創に与える)で、水分の向きが真逆。
  • 滲出液が多い創はイソジンシュガー、乾いた硬い黒色壊死はゲーベン、が基本。
  • ゲーベンは緑膿菌・カンジダを含む広域抗菌が強み。感染菌の視点でも選ばれる。
  • ゲーベンの添付文書上の適応症は「創の二次感染」で、褥瘡は薬効分類上の位置づけ。イソジンシュガーは「褥瘡」が明記——この違いが薬剤師の差。
  • 禁忌はイソジンシュガー=ヨウ素過敏、ゲーベン=サルファ剤過敏・軽症熱傷・新生児。ゲーベンは長期使用を避ける。
  • 選択の順番は「滲出液の量→壊死の有無→感染菌」で考えると迷いにくい。

関連書籍・商品

参考情報

  • ユーパスタ軟膏 電子添文(2024年4月改訂・第2版)/テイカ製薬
  • 「イソジンシュガーパスタ軟膏 販売中止のご案内」(2025年12月11日)/塩野義製薬
  • ゲーベンクリーム1% 電子添文(2025年12月改訂)/田辺ファーマ
  • 日本褥瘡学会『褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)』2015年
  • 日本褥瘡学会『改定DESIGN-R®2020 コンセンサス・ドキュメント』
  • 日本褥瘡学会「褥瘡の治療について」(一般向け解説ページ)
  • 厚生労働省 令和6年度診療報酬改定関連通知(褥瘡ハイリスク患者ケア加算、在宅患者訪問褥瘡管理指導料)
  • PMDA 医療用医薬品 情報検索

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