軟膏とクリームの使い分け|薬剤師が押さえる基剤・剤形選択と「混合・希釈の可否」

「同じ成分なのに、なぜ軟膏とクリームがあるの?」——服薬指導で聞かれることもあるこの質問、患者さん向けには「べたつくかどうか」で説明できますが、薬剤師の現場ではもう一歩踏み込んだ判断が必要になります。剤形が違えば皮膚透過性も、希釈への強さも、混合したときの安定性も変わるからです。この記事では、患者さん向けの解説では触れられにくい「基剤の薬理」と「調剤判断」を中心に、軟膏とクリームの使い分けを整理していきます。

この記事でわかること

  • 軟膏・クリーム・ローションの違いは「主薬」ではなく「基剤」の違いであること
  • 病態(湿潤か乾燥か)と部位による剤形選択の基本原則
  • 「軟膏のほうがよく効く」という思い込みが必ずしも正しくない理由(皮膚透過性)
  • 希釈への強さが軟膏とクリームで異なる薬理学的な背景
  • 軟膏とクリームを混合したときに起こる配合変化と、調剤報酬(計量混合調剤加算)の考え方
  • 同じ成分で複数剤形が展開されている代表的なステロイド外用剤

基礎解説:違いは「基剤」にある

外用剤は、薬効成分である主薬と、それを溶かして皮膚にとどめる基剤の組み合わせでできています。軟膏・クリーム・ローションという剤形の違いは、主薬ではなく基剤の違いによって生まれます。基剤は大きく次のように分類されます。

基剤の種類代表的な剤形特徴適した状態
油脂性基剤(ワセリン等)軟膏刺激が少なく保護・保湿に優れる。べたつくびらん・潰瘍面を含め、ほぼどんな皮膚状態でも使用可
乳剤性基剤(O/W型=水中油型)クリーム(バニシングクリーム)のびがよく洗い流しやすい。水分が多くさっぱり乾燥のない部位。使用感重視の場面
乳剤性基剤(W/O型=油中水型)クリームO/W型よりしっとり。保湿性が比較的高いやや乾燥した部位
水溶性基剤(マクロゴール等)軟膏(マクロゴール軟膏など)分泌物を吸収する滲出の多い湿潤・びらん面
その他ローション・ゲル・スプレー・テープ広範囲・有毛部に塗りやすい/テープは密封で吸収を高める頭皮・広範囲、硬い局面(テープ)

クリームは油と水を界面活性剤で乳化させた製剤で、乳化剤や防腐剤などの添加物を含みます。この「乳化している」という構造が、後述する使用感・透過性・混合安定性のすべてに関わってきます。

患者さんには「軟膏=油ベースで守る薬、クリーム=水と油を混ぜたのびのよい薬」と伝えると伝わりやすいです。ただし薬剤師として押さえておきたいのは、クリームは添加物が多いぶん基剤由来の接触皮膚炎が起こりやすいという点。かぶれの相談を受けたときは、主薬ではなく基剤を疑う視点も持っておきたいですね。

剤形選択の原則:病態と部位で決める

病態(湿潤か乾燥か)で選ぶ

もっとも基本となる軸が、患部の湿潤状態です。ジュクジュクと滲出のある急性期・びらん面には、刺激が少なくどんな状態にも使える軟膏が第一選択になります。クリームは乳化剤や防腐剤を含むため、傷やびらん面に塗るとしみやすく、刺激となることがあります。

一方、カサカサと乾燥した慢性期の病変では、使用感を優先してクリームを選んでもかまいません。ただし注意したいのは、O/W型クリームは水分を多く含むため、塗布後に水分が蒸発してかえって乾燥を助長することがある点です。強い乾燥や保湿目的では、軟膏のほうが適していることが少なくありません。

部位で選ぶ

顔・間擦部・広範囲・有毛部など、べたつきが問題になりやすい部位では、のびがよく洗い流しやすいクリームやローションが好まれます。頭皮や爪まわりにはサラサラのローションが塗りやすく、硬い局面やケロイドにはテープ剤で密封して吸収を高める、といった選択肢もあります。

「効果」で選ぶのか「使用感」で選ぶのかを分けて考えると整理しやすいです。びらん・滲出があるかどうかは効果と安全性の問題なので譲れませんが、乾燥した病変で剤形が拮抗するなら、最後は患者さんが継続して塗れる使用感を優先する——アドヒアランスの観点でも理にかなっています。

薬剤師が押さえたい「直感に反する」3つの薬理

1. クリームのほうが皮膚透過性が高いことがある

「軟膏がいちばんよく効く」というイメージは、必ずしも正しくありません。基剤中に水と油の両方を含むクリームは、水溶性・脂溶性いずれの主薬も溶かしやすく、基剤中に主薬がよく溶けている場合があります。実際、プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルでは、電子添文の動物試験(ラット)でも、血中濃度のピーク到達が軟膏の塗布後8時間に対しクリームは4時間と早く、吸収量もクリームが上回っています。ヘアレスマウスを用いた別の検討では、同成分の皮膚透過速度はクリームが軟膏の約7.8倍だったとの報告もあります。

ただしこれは主薬と基剤の組み合わせによって変わるものであり、「クリームが常に強い」わけでもありません。剤形=効力の単純な序列ではない、と理解しておくことが大切です。

2. 希釈への強さが基剤で違う

ステロイド外用剤を保湿剤などで希釈する場面は少なくありませんが、希釈耐性は基剤で大きく異なります。軟膏では、おおむね4〜16倍程度の希釈まで血管収縮反応(効果の指標)が低下しないと報告されています。これは、軟膏では主薬の多くが結晶型で基剤中に飽和して存在し、希釈で加わった基剤に結晶が新たに溶け出すため、溶解している主薬の濃度が保たれるためです。

一方クリームは、主薬が基剤中に完全に溶解しているため、希釈するとそのまま溶解主薬濃度が下がり、効果が減弱しやすくなります。つまり「薄めても効果が保たれやすいのは軟膏」であり、混合・希釈の可否を考えるうえで重要な違いです。

3. 混合すると乳化が壊れることがある(配合変化)

クリームは乳化という繊細なバランスの上に成り立っているため、他剤と混合すると乳化系が壊れ、分離・水分蒸発・主薬の安定性低下を招くことがあります。O/W型とW/O型で挙動が異なり、軟膏(油脂性基剤)とクリーム(乳剤性基剤)を混ぜる場合も注意が必要です。混合を行う際は、経験則ではなく配合変化の成書で可否を確認するのが安全です。

この3点は、患者さん向けの「軟膏・クリームの違い」の説明資料ではまず出てきません。だからこそ、服薬指導で医師の処方意図を読むときや、疑義照会の判断材料として薬剤師の差になる部分です。「なぜこの剤形なのか」を一次資料ベースで説明できると、信頼にもつながります。

同じ成分で剤形が複数あるステロイド外用剤(代表例)

同一成分で軟膏・クリーム・ローションなどが展開されている代表的な品目です。ランクは日本皮膚科学会の分類に基づく区分を示しています。

一般名代表的な商品名ランク主な剤形展開
クロベタゾールプロピオン酸エステルデルモベートストロンゲスト(I群)軟膏・クリーム・スカルプローション
ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステルアンテベートベリーストロング(II群)軟膏・クリーム・ローション
ジフルプレドナートマイザーベリーストロング(II群)軟膏・クリーム
ベタメタゾン吉草酸エステルリンデロンV/ベトネベートストロング(III群)軟膏・クリーム・ローション
プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルリドメックスミディアム(IV群)軟膏・クリーム・ローション
ヒドロコルチゾン酪酸エステルロコイドミディアム(IV群)軟膏・クリーム

同一成分でも、剤形が変われば適する病態・部位が変わります。ステロイドのランク(強さ)そのものの整理や力価の考え方については、当サイトのランク・力価に関する記事もあわせてご参照ください。

FTU(フィンガーチップユニット)と剤形

塗布量の目安として広く使われるのがFTU(フィンガーチップユニット)です。1FTUは、口径5mmのチューブから成人の人差し指の先端から第一関節まで押し出した量で、約0.5gに相当します。これで成人の手のひら約2枚分(体表面積の約2%)を塗布できるのが目安です。ただし約0.5gになるのは25〜50gチューブの場合で、5g・10gなどの小さいチューブでは1FTUが0.2〜0.3g程度と少なくなる点には注意が必要です。

注意点として、ローションは軟膏・クリームと押し出し方が異なるため、1FTUの取り方も変わります(ローションは1円玉大に出した量が1FTU=約0.5gの目安)。剤形が変わったら塗布量の説明も変える、という視点を持っておきたいところです。

制度・報酬関連:軟膏とクリームを混合したときの算定

軟膏とクリームを混合して調剤した場合、計量混合調剤加算の対象になります(2種類以上の医薬品を計量・混合した場合に、1調剤につき算定)。2026年6月1日施行の調剤報酬点数表では、点数は次のとおりです。

計量混合調剤加算(1調剤につき)点数
液剤35点
散剤又は顆粒剤45点
軟・硬膏剤80点

算定にあたって押さえておきたいポイントは次のとおりです。

  • 調剤した医薬品と同一剤形・同一規格の薬剤が薬価収載されている場合は算定できません。
  • 精製水・滅菌精製水との混合など「単なる希釈」は算定対象になりません。
  • 予製剤による場合は、所定点数の100分の20で算定します。
  • 同一の調剤行為について、自家製剤加算(外用薬の軟・硬膏剤は90点)とは併算定できません(別剤であればそれぞれ算定可)。
  • 混合すれば無条件で算定できるわけではなく、医薬品の特性を理解し薬学的に問題ないと判断したうえで行う必要があります。判断した根拠を記録しておくと、個別指導の観点でも安心です。

「軟膏とクリームだから計量混合80点」と機械的に算定するのではなく、そもそも混ぜて安定性に問題がないか、同一剤形・規格の市販品がないかを確認するのが薬剤師の仕事です。配合変化の確認と算定判断はセットで考えたいですね。

患者説明トーク(Q&A)

Q. 同じ薬なのに、軟膏とクリームで何が違うのですか?

A. お薬の成分は同じでも、それを溶かしている「土台」が違います。軟膏は油ベースで、傷やジュクジュクした所にもしみにくく、しっかり守ってくれますクリームは水と油を混ぜたもので、のびがよくべたつきにくいのが特長です。塗る場所やお肌の状態に合わせて使い分けています。

Q. べたつくのが苦手なので、クリームに替えてもらえますか?

A. 乾燥した部分でしたら、使用感でクリームを選ぶこともできます。ただ、ジュクジュクしている所や傷がある所は、クリームだとしみたり刺激になったりすることがあるので、その場合は軟膏のほうが向いています。今のお肌の状態を教えていただけますか。

Q. 軟膏とクリームを自分で混ぜて使ってもいいですか?

A. 自己判断で混ぜるのはおすすめできません。混ぜると成分の安定性が変わってしまうことがあります。塗る量を増やしたい、使用感を変えたいといったご希望があれば、医師や薬剤師にご相談ください。

Q. たっぷり塗ったほうが早く治りますか?

A. 量が多すぎても効果が比例して上がるわけではありません。目安は「人差し指の先から第一関節まで出した量で、手のひら2枚分」。ティッシュが軽くくっつくくらいの、少ししっとりする量が適量です。

まとめ

  • 軟膏・クリーム・ローションの違いは主薬ではなく「基剤」の違いによる。
  • ジュクジュクした急性期・びらん面には刺激の少ない軟膏、乾燥した慢性期や使用感重視ではクリームが選択肢。ただしO/W型クリームは乾燥を助長することがある。
  • 「軟膏がいちばん効く」は思い込み。クリームのほうが透過性が高い例も報告されており、剤形は効力の単純な序列ではない。
  • 希釈には軟膏のほうが強い(結晶型の主薬が新たに溶解するため)。クリームは希釈で効果が減弱しやすい。
  • クリームは乳化が繊細で、混合により分離・不安定化が起こりうる。配合変化は成書で確認を。
  • 軟膏とクリームの混合は計量混合調剤加算(軟・硬膏剤80点)の対象。ただし同一剤形・規格の市販品がある場合や単なる希釈は算定不可。

参考書籍・おすすめ書籍

混合調剤の可否をその場で確認したい方には、『軟膏・クリーム配合変化ハンドブック』(じほう)が定番です。どの外用剤同士が混合できるか・避けるべきかが一覧で確認でき、計量混合調剤加算の算定判断とあわせて手元に置いておくと安心です。

剤形・規格・薬価をまとめて確認するなら、毎年改訂される『今日の治療薬』(南江堂)が便利です。同一成分の剤形展開を素早く把握でき、疑義照会や服薬指導の下調べに役立ちます。

参考情報

  • マルホ 医療関係者向けサイト「服薬指導に役立つ皮膚外用剤の基礎知識」(主薬の皮膚透過性・希釈・混合の項)
  • 厚生労働省/日本薬剤師会「調剤報酬点数表」(令和8年6月1日施行)計量混合調剤加算・自家製剤加算
  • 日本皮膚科学会・日本アレルギー学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」ステロイド外用薬のランク分類・FTU
  • 各製剤の電子添文(デルモベート、アンテベート、マイザー、リンデロンV、リドメックス、ロコイド 各軟膏・クリーム・ローション)
  • 病院DI資料等「軟膏剤・クリーム剤の混合と問題点」希釈と血管収縮効果に関する報告

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