「目薬をさしたら、しばらく目頭を押さえておいてくださいね」
薬局でこう説明されたことはありませんか?でも、「なんで目頭?」「本当に意味があるの?」と思ったことがある方もいるのではないでしょうか。
実はこれ、調べてみると「半分は本当、半分は思い込み」という、なかなか興味深い結論が出てくるんです。論文を掘り下げながら、わかりやすくお伝えします。
この記事でわかること
- 「目頭を押さえる」と目の中で何が起きているか
- 全身への副作用を減らす効果:論文で確認されていること
- 目薬の効果(眼圧低下)が上がるかどうか:意外な研究結果
- 最新の国際ガイドライン(EGS 2025年)はどう言っているか
- 結局、押さえたほうがいいの?現実的な答え
そもそも「目頭を押さえる」とはどういう操作?
目薬をさした後、目の内側(鼻側)の角にある小さな穴に指を当てて軽く押さえる動作を鼻涙管圧迫(びるいかんあっぱく)または英語でNasolacrimal Occlusion(NLO)といいます。目を閉じるだけの閉瞼(へいけん)も同様の目的で行われます。
なぜそこを押さえるかというと、目薬は涙と一緒に鼻涙管という細い管を通って鼻の粘膜へと流れていくからです。鼻の粘膜は血管が非常に豊富で、ここで薬が吸収されると血液に乗って全身へ回ってしまいます。

目薬をさした後に「薬の苦い味がした!」という経験がある方は、まさにこの経路で薬が鼻→のどに流れたサインです。緑内障の目薬(特にβブロッカーのチモロールなど)は心臓や肺にも影響するので、この全身吸収を減らすことが大切なんです。
目頭を押さえると何が変わるの?
簡単に言うと、目頭を押さえることで鼻涙管への薬の流れ出しをブロックし、2つの効果を期待できます。
- ① 目への薬の吸収を増やす(薬効アップ)
- ② 全身への薬の吸収を減らす(副作用ダウン)
一見どちらも良いことずくめに見えます。でも実は、①と②ではエビデンスの強さがまったく違うんです。
全身副作用を減らす効果:これは本当
Zimmerman TJ ら(Arch Ophthalmol. 1984)
この分野で最も重要な研究が、1984年にZimmermanらが発表したヒトを対象とした実験です。
緑内障治療薬のチモロール(βブロッカー系)0.5%を使い、点眼後に何もしない群・目頭を押さえる群・目を閉じる群を比較しました。血液中のチモロール濃度を精密測定した結果——
- 鼻涙管圧迫(NLO)を5分間行った場合:全身吸収が約67%減少
- 目を閉じる(ELC)を5分間行った場合:全身吸収が約65%減少
さらにこの研究では、前房(目の中)への薬物濃度も増加したことが確認されており、「全身への副作用を減らしながら、目への吸収を増やす」という一石二鳥の効果が示されました(Zimmerman TJ et al., Arch Ophthalmol. 1984;102:551-553)。

67%減というのはかなりインパクトのある数字です。チモロールは心拍数を下げる作用があるため、心疾患や喘息のある方への影響が問題になることがあります。目頭を押さえるだけでその全身吸収を3分の2も減らせるなら、やる意味は十分あります。
Kaila T ら(J Ocul Pharmacol. 1986)
続いて1986年のKailaらの研究では、健常者8名を対象に、チモロール点眼後の全身吸収を比較しました。
鼻涙管圧迫を行った場合と普通に点眼した場合を比べると、NLOによって全身吸収が有意に減少することが確認されています。ただしこの研究では個人差が大きく、NLOによって逆に初期吸収が増える被験者もいたことが記録されています(Kaila T et al., J Ocul Pharmacol. 1986;2(4):365-369)。

「個人差がある」というのは正直なデータですね。効果のメカニズムは同じでも、解剖学的な違いや圧迫の強さによって吸収のパターンが変わるのだと思います。
Müller L ら(Clin Exp Ophthalmol. 2020)
より最近の研究として、2020年にMüllerらが「ティッシュプレス法」という新しい手技を提案した論文があります。
21名を対象にしたクロスオーバー試験で、目頭圧迫(NLO)と、目を閉じた後に丸めたティッシュを閉じたまぶた全体に軽く押し当てて余分な薬液を吸収させる新手技(ティッシュプレス法)を比較した結果、どちらも全身吸収を同程度に減らす効果があり、新手技のほうが簡単で患者さんに実施しやすいという結論でした(Müller L et al., Clin Exp Ophthalmol. 2020;48:24-30)。
目頭を押さえる動作は、実は患者さんにとって意外と難しく、正確に行えていないケースが多いことも指摘されています。
眼圧を下げる効果(薬効アップ):根拠が乏しい
「目頭を押さえると目薬の効きがよくなる」——これは本当でしょうか?
ここが、この記事で最も驚きのある部分です。
Maul EA ら(Br J Ophthalmol. 2012):RCTの結果
ジョンズ・ホプキンス大学のMaulらは、プロスタグランジン製剤(緑内障点眼の主流)を慢性使用中の患者51名を対象に、しっかりとしたRCT(ランダム化比較試験)を行いました。
片目を介入眼(閉瞼あり)、もう片目をコントロール眼(閉瞼なし)として、1分間の閉瞼と3分間の閉瞼それぞれの効果を眼圧で比較した結果——
閉瞼を行っても、行わなかった場合と比べて眼圧低下効果に有意な差はありませんでした。
つまり、「目を閉じる・目頭を押さえることで目薬がより効くようになる」という期待は、少なくともプロスタグランジン製剤については支持されなかったのです(Maul EA et al., Br J Ophthalmol. 2012;96(2):250-253. PMID: 21515561)。

これ、私も最初は「えっ!」となりました。全身吸収を減らす効果は確かにあるのに、眼圧低下効果は変わらない……。これはプロスタグランジン製剤が角膜からの吸収が非常に効率よく行われるため、鼻涙管への流出を防がなくても十分な量が目に入っているからと考えられています。
Cochraneレビュー(2017年):証拠不十分
医学における最高レベルのエビデンスとされるCochraneレビューでも、点眼手技(閉瞼・鼻涙管圧迫)の眼圧低下効果への寄与については、現時点では結論が出ていないとされています。
対象となった2つのRCTはいずれもプロスタグランジン製剤を使用した研究であり、βブロッカーなど他の薬剤での大規模な検討は今後の課題として残っています。
最新ガイドライン(EGS第6版・2025年)はどう言っているか
欧州緑内障学会(EGS)が2025年に発行した最新ガイドライン第6版(Br J Ophthalmol. 2025)のp.184には、点眼手技についてこう明記されています。
- 鼻涙管圧迫は、目薬の眼圧低下効果を高めない可能性がある
- しかし全身への副作用を減らす効果は期待できる
世界トップレベルの緑内障専門家集団が、論文データを踏まえてこの立場をとっています。「効果あり・なし」を正直に分けて示しているところが、このガイドラインらしい誠実さだと思います。

EGSガイドラインは「薬効(眼圧)には寄与しないかもしれないけれど、副作用を減らすためにやる意味はある」という整理をしています。特にβブロッカー系の目薬を使っている方(チモロール、カルテオロールなど)には、全身副作用リスクの観点から、やはり目頭を押さえることをお勧めしたいです。
「目頭を押さえる」「目を閉じる」どちらがいい?
実はどちらも効果は同程度とされています(Zimmerman 1984)。
ただし目頭圧迫(NLO)は、正確に行うのが難しいという課題があります。多くの患者さんが正確に涙点を圧迫できていないという研究報告もあり、2020年のMüllerらはティッシュを使った代替手技を提案するほどです。
実用面では「目を閉じる」のほうが確実に実施しやすいという利点があります。
| 手技 | 全身副作用低減 | 眼圧低下への寄与 | やりやすさ |
|---|---|---|---|
| 目頭を押さえる(NLO) | 約60〜67%減 | 有意差なし(プロスタグランジン製剤) | △ 正確に行うのが難しい |
| 目を閉じる(ELC) | 約65%減 | 有意差なし(プロスタグランジン製剤) | ○ 誰でも簡単 |
| 何もしない | 全身吸収が多い | - | ○ |
患者さんからよくある質問
Q. 何秒くらい押さえればいいの?or 閉眼すればいいの?

研究では「5分間」の効果を検証したものが多いですが、1分間のNLOだけでも全身吸収を50%減らすという報告もあります。5分は難しくても、最低1〜2分を目安にするのが現実的です。点眼後に軽く目を閉じて、ゆっくり10〜20数えるくらいが取り組みやすいと思います。
Q. すべての目薬でやったほうがいい?

特にβブロッカー系(チモロール、カルテオロール、ベタキソロールなど、)は心臓・肺への影響があるため、目頭を押さえるor閉眼する意義が大きいです。プロスタグランジン系は眼圧低下効果への上乗せは期待しにくいですが、全身副作用を減らす意味でやって損はありません。
Q. 目頭ってどこを押さえればいい?

目の鼻側(内側)にある小さな点が涙点です。目頭から1〜2mm内側あたりを、人差し指の腹で軽く押さえます。強く押す必要はなく、涙の流れをふさぐイメージで優しく当てるだけで大丈夫です。
Q. 目薬が2種類あるとき、どちらの後も押さえる?

はい、それぞれの点眼後に行うのが理想です。5分の間隔をあける間に目頭を押さえる、もしくは閉眼する習慣をつけると、待ち時間も有効活用できて一石二鳥ですよ。
まとめ
- 目頭を押さえる(鼻涙管圧迫)は、目薬が鼻涙管を通じて全身に吸収されるのを防ぐ操作
- 全身副作用を減らす効果は論文で実証済み(チモロールの全身吸収を約60〜67%減少:Zimmerman 1984)
- 眼圧低下効果(薬効アップ)への寄与は、現時点では根拠が乏しい(Maul 2012のRCT、Cochraneレビュー)
- 目を閉じるだけでも同程度の全身吸収抑制効果があり、実施しやすい
- EGS最新ガイドライン(2025年)も「眼圧低下には寄与しない可能性があるが、全身副作用を減らす効果は期待できる」と整理
- 特にβブロッカー系の目薬を使用中の方は、全身副作用リスクの観点から実施を推奨

「目頭を押さえると薬がよく効く」という説明は、実は正確ではなかったかもしれません。正しくは「全身への副作用を減らすためにやる」というのが今の科学的な立場です。でも、だからこそやらなくていいというわけではなく——特にβブロッカーを使っている方には、引き続きしっかりお伝えしていきたいと思います。根拠を知った上で指導できると、患者さんへの説明も変わってきますよね。
参考情報
- Zimmerman TJ, Kooner KS, Kandarakis AS, Ziegler LP. Improving the therapeutic index of topically applied ocular drugs. Arch Ophthalmol. 1984;102(4):551-553. PMID: 6704011.
- Kaila T, Huupponen R, Salminen L. Effects of eyelid closure and nasolacrimal duct occlusion on the systemic absorption of ocular timolol in human subjects. J Ocul Pharmacol Ther. 1986;2(4):365-369. PMID: 3503120.
- Maul EA, Friedman DS, Quigley HA, Jampel HD. Impact of eyelid closure on the intraocular pressure lowering effect of prostaglandins: a randomised controlled trial. Br J Ophthalmol. 2012;96(2):250-253. PMID: 21515561.
- Müller L, Jensen BP, Bachmann LM, Wong D, Wells AP. New technique to reduce systemic side effects of timolol eye drops: The tissue press method—Cross-over clinical trial. Clin Exp Ophthalmol. 2020;48(1):24-30. PMID: 31525271.
- Xu L, Wang X, Wu M. Topical medication instillation techniques for glaucoma. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Feb 20;2(2):CD010520. PMID: 28218404.
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025;109(Suppl 1):1-212. p.184.