この記事でわかること
- 心不全治療における「Fantastic Four」とは何か
- 4剤それぞれ(ARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬)の薬理と特徴
- 開始用量・用量調整の実践ポイント
- 病態別(HFrEF / HFmrEF / HFpEF)での使い分け
- 副作用・モニタリング項目の一覧
- 患者さんへの説明トーク例(Q&A形式)
2025年3月、日本循環器学会・日本心不全学会から「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」が約7年ぶりに全面改訂されました。このガイドラインでは、Fantastic Fourの位置づけがこれまで以上に明確になり、薬剤師にとっても押さえておきたい内容が充実しています。今回はFantastic Fourについて、薬理から服薬指導まで一緒に整理していきましょう!

2025年改訂版では、ガイドライン名から「急性・慢性」という表記が削除されました。心不全を時期で区切らず、一貫したマネジメントを重視するという意味合いが込められています。細かいけど地味に大事なポイントですよ。
Fantastic Fourとは?基礎知識
「Fantastic Four(ファンタスティック・フォー)」とは、HFrEF(駆出率低下型心不全、LVEF≦40%)に対して予後改善効果が確立された4種類の薬剤の総称です。2021年にドイツ・ハノーバー医科大学(Hannover Medical School/MHH)のBauersachs氏がEuropean Heart Journal誌でこの呼称を提唱し、世界的に広まりました。
4剤の構成は以下のとおりです。
- ① ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬):サクビトリルバルサルタン(エンレスト®)
- ② β遮断薬:カルベジロール、ビソプロロールなど
- ③ MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬):スピロノラクトン、エプレレノン
- ④ SGLT2阻害薬:ダパグリフロジン(フォシーガ®)、エンパグリフロジン(ジャディアンス®)
2025年改訂版JCS/JHFSガイドラインでは、HFrEFに対してこれら4剤すべてがクラスⅠ推奨として明記され、「可能な限り早期から導入し、忍容できる目標量まで速やかに増量していくこと」が強く推奨されています。

以前は「順番通りに1剤ずつ導入」が主流でしたが、最新のエビデンスでは「順番よりも4剤全部を導入すること」という考え方にシフトしています。STRONG-HF試験でも、退院後早期からの高用量導入が予後改善につながることが示されました。薬剤師として服薬管理に関わる際も、「4剤そろっているか」を確認すると、医師がFantastic Fourを意識していることを感じることができますね。
① ARNI(サクビトリルバルサルタン|エンレスト®)
薬理・特徴
ARNIはネプリライシン阻害薬(サクビトリル)とARB(バルサルタン)の合剤です。ネプリライシンを阻害することで、心保護作用をもつナトリウム利尿ペプチド(BNP・ANP)の分解を抑制し、血管拡張・利尿・心肥大抑制・抗線維化作用を発揮します。同時にRAASを抑制することで、過剰な神経体液性因子の活性化を是正します。
PARADIGM-HF試験では、エナラプリルとの比較で心血管死・心不全入院を有意に低下させることが証明されています。
病態別推奨
- HFrEF(LVEF≦40%):クラスⅠ推奨
- HFmrEF(LVEF 41〜49%):検討可
- HFpEF(LVEF≧50%):明確なエビデンスなし
開始用量・用量調整のポイント(添付文書参考)
- 開始用量:1回50mg、1日2回
- 2〜4週間ごとに段階的に増量(50mg → 100mg → 200mg、各1日2回)
- 目標用量:1回200mg、1日2回
- ACE阻害薬からの切り替え時は、最終内服後36時間以上の休薬期間が必要(血管浮腫リスクのため)
- ARBからは休薬なしで切り替え可能
- 収縮期血圧100mmHg未満、eGFR30未満の患者には慎重投与
副作用・モニタリング
- 低血圧:最も頻度が高い(PARADIGM-HFで約8.8%)。初回投与後・増量後の血圧測定を徹底する
- 血管浮腫:ACE阻害薬との併用は禁忌。頻度は低い(約0.2%)が重篤になりえる
- 高カリウム血症:約4.0%。腎機能障害・糖尿病合併例は特に注意
- 腎機能低下:約2.4%。Cr・eGFRを定期フォロー
- BNPの見かけ上の上昇:ネプリライシン阻害によりBNPが分解されにくくなるため上昇することがある。モニタリングにはNT-proBNPを使用すること

ARNI投与中にBNPが上昇しても「心不全が悪化した!」と慌てないで。これはネプリライシン阻害によるBNP分解抑制の影響であって、病態の悪化とは別の話です。評価はNT-proBNPで行うこと、これが現場で非常に大切なポイントです。患者さんの検査値を見るときも要チェックです。
② β遮断薬
薬理・特徴
心不全では交感神経系が過剰に活性化しており、それが心筋リモデリング・致死性不整脈・心機能低下を引き起こします。β遮断薬はこの過剰な交感神経活性を抑制することで、長期的な心室リモデリング逆転(reverse remodeling)効果をもたらし、LVEFの改善につながります。この reverse remodeling 効果は用量依存性であり、目標用量を目指した漸増が重要です。
また、心室頻拍・心室細動といった致死性不整脈の予防効果も確立されています。COPERNICUS試験(カルベジロール)、MERIT-HF試験(メトプロロール)、CIBIS-II試験(ビソプロロール)などで死亡率低下が証明されています。
国内で心不全に使用できる主な薬剤はカルベジロール(アーチスト®)、ビソプロロール(メインテート®)などです。
病態別推奨
- HFrEF:クラスⅠ推奨
- HFmrEF:検討可
- HFpEF:心拍数コントロール目的に限定
開始用量・用量調整のポイント
- 必ず少量から開始し、2週間ごとを目安に倍量ずつ増量
- カルベジロール:開始1.25mg 1日2回 → 維持量2.5〜10mg 1日2回(日本添付文書準拠。欧米臨床試験の目標用量25mg 1日2回とは異なるため注意)
- ビソプロロール:開始0.625〜1.25mg 1日1回 → 目標5〜10mg 1日1回
- 急性増悪期(うっ血がある状態)への新規導入は避ける
- 服用中の急な中止は心不全悪化のリスクがあるため、自己判断での中止厳禁
副作用・モニタリング
- 徐脈:心拍数50/分未満は減量・中止を検討
- 低血圧:収縮期血圧90mmHg未満に注意
- 倦怠感・めまい:開始初期に多いが、2〜4週で軽快することが多い
- 気管支痙攣:気道疾患合併例では非選択性β遮断薬に注意。ビソプロロールなどβ1選択性製剤を選択する
- 血糖管理への影響:低血糖症状の遷延や高血糖に注意(糖尿病合併例)

「心不全なのにβ遮断薬って心臓を弱める薬じゃないの?」という疑問があるかもしれません。急性期には確かに注意が必要ですが、慢性期に少量からゆっくり増やしていくことで、むしろ心機能が回復することが多いんです。最初の倦怠感で自己中止してしまうケースも多いので、飲み始めの時期の声かけが大事です。
③ MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)
薬理・特徴
MRAはアルドステロンの受容体への結合を阻害することで、心筋線維化・炎症・リモデリングを抑制します。カリウム保持性利尿薬として知られていますが、予後改善効果はその利尿作用以上の機序によるものです。
RALES試験(スピロノラクトン)、EPHESUS試験・EMPHASIS-HF試験(エプレレノン)で死亡率低下が証明されています。
国内で使用できる薬剤はスピロノラクトン(アルダクトンA®)とエプレレノン(セララ®)です。エプレレノンはスピロノラクトンより受容体選択性が高く、女性化乳房・月経不順などの性ホルモン様副作用が少ない一方で、添付文書上の禁忌がやや多いことに注意が必要です(糖尿病+微量アルブミン尿合併例、eGFR50未満など)。
病態別推奨
- HFrEF:クラスⅠ推奨
- HFmrEF:検討可
- HFpEF:クラスⅡb(エビデンス限定的)
開始用量・用量調整のポイント
- スピロノラクトン:開始12.5〜25mg 1日1回、目標25mg 1日1回(無理な増量は不要)
- エプレレノン:開始25mg 1日1回、目標50mg 1日1回
- eGFR30未満・血清カリウム値5.0mEq/L以上は慎重投与または禁忌
- RAAS阻害薬(ACE-I/ARB/ARNI)との併用時は高カリウム血症に特に注意
副作用・モニタリング
- 高カリウム血症:最重要。開始後1〜2週での血清カリウム測定を推奨
- 腎機能低下:Cr・eGFRを定期モニタリング
- 女性化乳房・乳房痛:スピロノラクトンに多い。症状が出た場合はエプレレノンへの変更を検討
- 月経不順・勃起不全:スピロノラクトンの性ホルモン様作用による
- NSAIDs・カリウム製剤との相互作用に注意

MRAを新規導入したときは、血清カリウムの上昇確認を忘れずに。特にARNIやSGLT2阻害薬と組み合わせている患者さんは高カリウムになりやすいので要注意です。「バナナやアボカドを毎日食べていたり、青汁を毎日飲んでいたりしませんか?」という食事確認も服薬指導の一声として有効ですよ。
④ SGLT2阻害薬
薬理・特徴
SGLT2阻害薬は腎近位尿細管のSGLT2を阻害してグルコース・ナトリウムの再吸収を抑制します。利尿・降圧効果に加え、心臓・腎臓への多面的な保護効果(心筋エネルギー代謝改善・炎症抑制・心筋線維化抑制・前負荷および後負荷軽減)を発揮します。
国内で心不全に使用できる薬剤はダパグリフロジン(フォシーガ®)10mgとエンパグリフロジン(ジャディアンス®)10mgです。
DAPA-HF試験・DELIVER試験(ダパグリフロジン)、EMPEROR-Reduced試験・EMPEROR-Preserved試験(エンパグリフロジン)でHFrEFからHFpEFの全域において心血管死・心不全入院の抑制が証明されました。Fantastic Fourの中で唯一すべての病態(HFrEF・HFmrEF・HFpEF)でクラスⅠ推奨(ESC 2023基準)となっている薬剤です。
病態別推奨
- HFrEF:クラスⅠ推奨
- HFmrEF:クラスⅠ推奨
- HFpEF:クラスⅠ推奨(ESC 2023)
開始用量・用量調整のポイント
- 心不全での用量は固定(ダパグリフロジン10mg、エンパグリフロジン10mg、各1日1回)
- 増量は行わない(糖尿病での用法・用量とは異なる点に注意)
- eGFR20以上で使用可能(2025年改訂ガイドラインCQ1より、eGFR20〜30でも条件付き推奨)
- eGFR20未満は現時点でRCTのエビデンスが不十分であり、慎重な判断が必要
- 糖尿病の有無にかかわらず心不全に適応あり
- 入院中からの早期導入も積極的に検討されている
副作用・モニタリング
- 尿路・性器感染症:グルコース尿によりリスクが増加。陰部の清潔保持を指導する
- 脱水・低血圧:利尿剤との併用時は特に注意。体重や血圧を定期確認
- 正常血糖ケトアシドーシス(euDKA):糖尿病合併例で発症リスクあり。手術・絶食前には一時中止が推奨される
- Fournier壊疽(壊死性筋膜炎):まれだが重篤。陰部の痛みや発熱があれば即受診するよう指導する
- フレイル・サルコペニア患者での脱水リスクに注意(2025年改訂ガイドラインCQ2で弱推奨)

SGLT2阻害薬は「糖尿病の薬」というイメージが強いですが、心不全患者さんには糖尿病の有無にかかわらず使えます。2025年改訂ガイドラインでは全病態でクラスⅠ推奨となっており、Fantastic Fourの中でも特にオールラウンダーな存在です。「なんで糖尿病でもないのにこの薬が?」という患者さんの疑問には、「心臓と腎臓を守るために使っているんです」とひと言添えてあげてください。
病態別(HFrEF / HFmrEF / HFpEF)の使い分けまとめ
| 薬剤 | HFrEF(EF≦40%) | HFmrEF(41〜49%) | HFpEF(EF≧50%) |
|---|---|---|---|
| ARNI(エンレスト®) | クラスⅠ推奨 | 検討可 | エビデンス不十分 |
| β遮断薬 | クラスⅠ推奨 | 検討可 | 心拍数管理に限定 |
| MRA(スピロノラクトン等) | クラスⅠ推奨 | 検討可 | クラスⅡb(限定的) |
| SGLT2阻害薬(フォシーガ®等) | クラスⅠ推奨 | クラスⅠ推奨 | クラスⅠ推奨(ESC 2023) |

HFpEFは以前「治療薬がほとんどない」と言われていましたが、SGLT2阻害薬が初めて予後改善を証明し、大きな転換点となりました。2025年改訂ガイドラインではHFpEFへの言及も充実しており、フィネレノン(糖尿病・CKD合併例)もクラスⅡaで新たに記載されています。今後の動向にも注目したいですね。
副作用・モニタリングまとめ
| 薬剤 | 主な副作用 | 必須モニタリング | 服薬指導のポイント |
|---|---|---|---|
| ARNI(エンレスト®) | 低血圧、高K血症、腎機能低下、血管浮腫 | 血圧、K、Cr/eGFR、NT-proBNP(BNPは偽高値になるため不可) | ACE-I中止後36時間空ける。めまい・立ちくらみに注意 |
| β遮断薬 | 徐脈、低血圧、倦怠感、気管支痙攣 | 脈拍、血圧、体重(浮腫の有無) | 急な中止は厳禁。開始初期の倦怠感は数週間で改善することが多い |
| MRA(スピロノラクトン等) | 高K血症、腎機能低下、女性化乳房 | 血清K(開始1〜2週後必須)、Cr/eGFR | カリウムの多い食品の過剰摂取を避ける |
| SGLT2阻害薬 | 尿路・性器感染、脱水、euDKA、Fournier壊疽 | 血圧、eGFR、体重 | 陰部の清潔保持。手術・絶食前には一時中止を医師に相談 |
患者説明トーク(Q&A形式)
Q1. 心不全なのにβ遮断薬って、心臓を弱める薬じゃないですか?

良いご質問です!確かに急性期には注意が必要ですが、慢性期にゆっくり増やしていくと、心臓を過剰に刺激している交感神経の働きを抑えて、長期的に心機能を回復させる効果があります。大切なのは急に飲むのをやめないこと。少量から時間をかけて体に慣らしていきましょう。
Q2. 糖尿病はないのに「糖尿病の薬」が処方されました。なぜですか?

SGLT2阻害薬(フォシーガ®・ジャディアンス®)はもともと糖尿病薬として開発されましたが、心臓と腎臓を守る効果が非常に強く、今では糖尿病のない心不全の患者さんにも使われるようになりました。最新のガイドラインでも、心不全治療の「4本柱」のひとつとして推奨されている大切なお薬です。
Q3. 4種類もお薬が増えてしまいました。全部必要なんでしょうか?

それぞれのお薬が、心臓を守る異なる仕組みで働いています。1剤だけでは守れない部分を他のお薬がカバーする、いわばチームプレーです。「4剤すべてを使うこと」が入院や死亡のリスクを最も下げることが、世界の大規模な研究で証明されています。副作用が心配なときは遠慮なく薬剤師や医師に相談してください。
Q4. エンレストを飲み始めてから、BNP(心不全の検査値)が上がったと言われました。悪化したんですか?

エンレストはBNPを分解する酵素を抑える作用があるため、お薬の効果としてBNPが見かけ上上昇することがあります。これは心不全が悪化しているわけではありません。エンレストを使用している場合はNT-proBNPという別の指標で評価するのが正確ですので、担当医にご確認ください。
Q5. SGLT2阻害薬で「トイレが近くなった」のですが大丈夫ですか?

これはお薬の作用のひとつで、余分な水分や塩分を尿から排出することで心臓の負担を軽くしています。ただし脱水に注意が必要です。のどの渇き・めまい・立ちくらみが強いときは早めにご相談ください。また尿路感染症を防ぐために、陰部は清潔に保つようにしてください。
まとめ
- 2025年改訂JCS/JHFSガイドラインでFantastic Four(ARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬)がHFrEFへの標準治療として明確に位置づけられた
- 「順番より全員導入」が重要。可能な限り早期から4剤を導入し、目標用量を目指す
- SGLT2阻害薬は唯一すべての病態(HFrEF・HFmrEF・HFpEF)でクラスⅠ推奨(ESC 2023)
- ARNI使用中のモニタリングはBNPではなくNT-proBNPで行う(BNPはネプリライシン阻害により偽高値になる)
- ACE阻害薬からエンレストへ切り替える際は36時間以上の休薬が必要(血管浮腫防止)
- MRA導入後は1〜2週後に血清カリウム測定を忘れずに
- SGLT2阻害薬は糖尿病の有無にかかわらず心不全に使用可能
- β遮断薬は急な中止で心不全が急激に悪化するリスクがある。患者への継続服用指導が重要
- HFpEFへの新たな治療選択肢(フィネレノンなど)も今後の動向に注目
参考情報
- 日本循環器学会/日本心不全学会:2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(2025年3月28日公開)
- 日本循環器学会/日本心不全学会:2021年JCS/JHFSガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
- Bauersachs J. Heart failure drug treatment: the fantastic four. Eur Heart J 2021; 42: 681–683.
- McMurray JJV, et al. Angiotensin–Neprilysin Inhibition versus Enalapril in Heart Failure(PARADIGM-HF試験). N Engl J Med 2014; 371: 993–1004.
- McMurray JJV, et al. Dapagliflozin in Patients with Heart Failure and Reduced Ejection Fraction(DAPA-HF試験). N Engl J Med 2019; 381: 1995–2008.
- Packer M, et al. Cardiovascular and Renal Outcomes with Empagliflozin in Heart Failure(EMPEROR-Reduced試験). N Engl J Med 2020; 383: 1413–1424.
- Anker SD, et al. Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction(EMPEROR-Preserved試験). N Engl J Med 2021; 385: 1451–1461.
- エンレスト錠 添付文書 2025年9月改訂(第9版)
- アーチスト錠 添付文書(カルベジロール、大日本住友製薬)
- 日本心不全学会:薬剤師による心不全服薬管理指導の手引き 第1版