NUDT15遺伝子多型とは?日本人に多い理由・遺伝子型別リスク・保険検査を薬剤師が解説

この記事でわかること

  • アザチオプリン・メルカプトプリンで日本人に副作用が多い理由──NUDT15遺伝子多型の正体がわかる
  • 遺伝子型(Arg/Arg・Arg/Cys・Cys/Cys)ごとの副作用リスクと初期投与量の考え方が整理できる
  • 欧米ではなぜ問題にならないのか──日本発・アジア人固有の薬理遺伝学的発見の背景がわかる
  • 薬局で知っておくべき保険検査の算定要件と患者説明のポイントが手に入る
  • NUDT15が正常でも起きる副作用(TPMT関連・その他)との違いが整理できる

目次

  1. チオプリン製剤とは──アザチオプリン・メルカプトプリンの基礎
  2. 「なぜ日本人に副作用が多いのか」──欧米との決定的な違い
  3. NUDT15遺伝子多型の仕組み──代謝の「最後のブレーキ」が壊れるとどうなるか
  4. 遺伝子型別のリスクと対応方針【一覧表・カード解説】
  5. NUDT15以外の遺伝子多型(TPMT)との比較
  6. 実際の重篤事例──見落とした場合に何が起きるか
  7. 検査の保険算定と薬剤師の関わり方
  8. 患者説明トーク【窓口で使えるQ&A】
  9. まとめ
  10. 参考情報

チオプリン製剤とは──アザチオプリン・メルカプトプリンの基礎

チオプリン製剤とは、アザチオプリン(商品名:アザニン®、イムラン®)メルカプトプリン水和物(商品名:ロイケリン®)の総称です。

体内でプリン体代謝(DNA合成)を阻害することで免疫細胞の増殖を抑え、以下の疾患・状況で広く使われています。

  • 炎症性腸疾患:潰瘍性大腸炎、クローン病(寛解維持・ステロイド減量目的)
  • リウマチ性疾患:SLE(全身性エリテマトーデス)、多発性筋炎、強皮症など難治性疾患
  • 臓器移植後:免疫抑制(拒絶反応予防)
  • 自己免疫性肝炎
  • 小児急性リンパ性白血病(ALL):メルカプトプリンが維持療法の中心薬

アザチオプリンはプロドラッグであり、体内でグルタチオン-S-トランスフェラーゼによってメルカプトプリン(6-MP)に変換されてから効果を発揮します。つまりアザチオプリンとメルカプトプリンは、体内では同じ代謝経路を通ります。

潰瘍性大腸炎の患者さんが「アザニン」を飲んでいることは薬局でも見かけることがありますね。ステロイドを減らしながら長期に維持するための薬として処方されることが多いです。
ただ、この薬には個人差がとても大きいことが昔から知られていた──その謎が、遺伝子研究によって解き明かされたのがNUDT15の話です。


「なぜ日本人に副作用が多いのか」──欧米との決定的な違い

チオプリン製剤は欧米でも長年使われてきた薬ですが、重篤な副作用(急性高度白血球減少・全脱毛)の頻度が日本人・アジア人では欧米人よりも明らかに多いことが以前から経験的に知られていました。

この謎に答えを出したのが2014年の韓国の研究グループによるゲノムワイド相関解析です。クローン病患者を対象とした解析で、NUDT15遺伝子のコドン139の変異(R139C多型)がチオプリン関連白血球減少症と強く相関することが初めて示されました。

▶ 人種による保有頻度の決定的な差

NUDT15 R139C(Cys変異型)の保有頻度:
日本人・東アジア人:ヘテロ型(Arg/Cys)約20%、ホモ型(Cys/Cys)約1%
白人(欧米人):ヘテロ型でも1%未満と極めてまれ

つまり、欧米の医師はこの副作用を経験したことがほぼなく、議論すら生まれていなかった。「アジア人に特有の現象」だったのです。

さらに、「全脱毛」という副作用も注目されます。チオプリンによる全脱毛はアジアで1〜2%程度と「まれだが遭遇するとトラブルになりやすい副作用」として知られていましたが、白人ではほぼ0%でした。この頻度がNUDT15変異型ホモの一般人口での頻度と一致することが後に判明し、「アジア人固有の現象がNUDT15遺伝子多型で説明できる」ことが確認されました。

これ、個人的にすごく好きな発見の話なんです。「なぜ日本人だけこんなに副作用が出るのか」という長年の謎が、ゲノム解析によって初めて説明できました。
そして日本の研究者(東北大学・角田洋一先生グループ)が世界初の体外診断用医薬品「MEBRIGHT NUDT15キット」を開発し、2018年に承認・2019年2月に保険適用──日本発の薬理遺伝学的発見として誇れる話ですね。


NUDT15遺伝子多型の仕組み──代謝の「最後のブレーキ」が壊れるとどうなるか

チオプリンの代謝経路とNUDT15の役割

チオプリン製剤が体内で活性化される

アザチオプリン→6-MP(メルカプトプリン)→さらに代謝されて最終活性代謝産物の6-チオグアニントリリン酸(6-TGTP)6-チオデオキシグアニントリリン酸(6-TdGTP)になる。これらがDNA/RNA合成を阻害し、免疫細胞の増殖を抑える本体。

NUDT15が「最後のブレーキ」として働く

NUDT15タンパク質は6-TGTPと6-TdGTPを脱リン酸化(分解)する酵素。薬効を示す最終代謝産物を不活化する「ブレーキ役」。このブレーキが正常に機能しているうちは、過剰な免疫抑制は起きない。

Cys変異型ではブレーキが壊れる

NUDT15遺伝子コドン139のアルギニン(Arg)がシステイン(Cys)に変わると、NUDT15タンパク質の酵素活性が著しく低下する。ブレーキが効かなくなるため、相対的に6-TGTPが増加し続ける。

骨髄抑制・全脱毛が起きる

過剰蓄積した6-TGTPは免疫細胞だけでなく骨髄の造血幹細胞も傷害

急速かつ高度の白血球減少(服用後8週以内に白血球数2,000/μL未満)全脱毛が起きてしまいます。骨髄抑制が遷延した場合、致死的な感染症のリスクもありえるのです。
重要なのは、NUDT15はチオプリン代謝の「最後の段階」で働く酵素という点です。上流の代謝で6-TGNの量が同じでも、NUDT15の活性が低ければ相対的に毒性を持つ6-TGTPが増加し、白血球減少を引き起こします。

「ブレーキが壊れた状態で薬をフルスロットルで投与している」──そのイメージが直感的ですよね。
Cys/Cys型の患者さんは、ごく少量のチオプリンでも急激に骨髄が抑制されてしまう。「薬が効きすぎる」のではなく、「代謝(解毒)できない」のが問題なんです。


遺伝子型別のリスクと対応方針【一覧表・カード解説】

Arg/Arg型・Arg/His型

日本人での頻度:約81%(Arg/Arg)

NUDT15酵素活性は正常。通常量での投与が可能。

▶ 通常量(0.5〜2mg/kg/日程度)で開始可
ただし副作用のすべてがNUDT15多型に起因するわけではないため、定期的なモニタリング(血算・肝機能)は必須

Arg/Cys型・Cys/His型

日本人での頻度:約18%(Arg/Cys)

NUDT15酵素活性が中程度に低下(ヘテロ接合体)。個体差が大きく必ずしも減量が必要でない場合もあるが、副作用リスクは正常型より高い。

▶ 低用量(通常量の半分程度を目安)から開始
血算を頻回に確認しながら慎重に増量

Cys/Cys型

日本人での頻度:約1%(変異型ホモ)

NUDT15酵素活性が著しく低下。服用後8週以内に100%近くの頻度で重篤な白血球減少・全脱毛が発症(MENDEL Studyでは変異型ホモ全例が副作用のため治療中止)。

▶ チオプリン製剤の使用を原則として回避
代替治療(生物学的製剤など)を検討

副作用頻度の比較(炎症性腸疾患患者データより)

遺伝子型日本人頻度急性高度白血球減少(8週以内)全脱毛対応
Arg/Arg・Arg/His約81%約0.4%なし(0%)通常量
Arg/Cys(ヘテロ)約18%約5.2%なし(0%)半量から開始
Cys/Cys(ホモ)約1%93.5%以上必発(100%)使用回避
重要な注意点:NUDT15が正常でも副作用はゼロではない

NUDT15遺伝子型が予測できる副作用は主に「服用後早期の急性白血球減少」と「全脱毛」です。肝機能障害・膵炎・感染症・間質性肺炎などの副作用はNUDT15多型とは関係なく起きます。
Arg/Arg型(低リスク型)であっても、定期的な血液検査・肝機能モニタリングは継続が必要です。

「遺伝子検査検査で問題なかった」と患者さんが安心してしまうことがあるんですが、それは誤解なんですよね。全脱毛・急性白血球減少は予測できても、慢性的な肝障害や感染リスクはNUDT15とは別の話
「検査が正常でも、血液検査は毎回ちゃんと確認しますよ」とセットで伝えておくことが大事ですね。


NUDT15以外の遺伝子多型(TPMT)との比較

欧米ではチオプリンの副作用予測にTPMT(チオプリン-S-メチルトランスフェラーゼ)遺伝子多型が長年使われてきました。TPMT低活性型では6-TGNが蓄積して骨髄抑制が起きます。

では、なぜ日本ではTPMTではなくNUDT15が重要なのでしょうか?

比較項目TPMT遺伝子多型NUDT15遺伝子多型
主に問題になる人種欧米人(白人)日本人・東アジア人
低活性型(ホモ)の頻度白人で約0.3%日本人で約1%
副作用の発現時期用量依存的・比較的緩やか服用後8週以内・急性かつ高度
特徴的な副作用骨髄抑制(汎血球減少)骨髄抑制+全脱毛(アジア人固有)
代謝経路での位置6-MPの代謝(中間段階)6-TGTP・6-TdGTPの脱リン酸化(最終段階
日本の保険検査保険未収載(現在保険適用外)2019年2月より保険適用(2,100点)

日本人ではTPMT低活性型の頻度は非常に低く(欧米に比べてさらに少ない)、一方でNUDT15多型の頻度はより高いため、日本においてはNUDT15遺伝子型を調べることの臨床的有用性が高いとされています。


実際の重篤事例──見落とした場合に何が起きるか

事例1:Cys/Cys型を確認せず開始→再生不良性貧血(皮膚科の臨床 2021年)

82歳男性。水疱性類天疱瘡に対してステロイド投与中、アザチオプリンを追加開始。投与開始わずか17日後に汎血球減少が出現。同薬剤を中止しても汎血球減少は遷延し、再生不良性貧血の診断となった。後にNUDT15遺伝子型を解析したところCys/Cys型と判明。事前に検査していれば回避できた事例として報告された。

事例2:NUDT15検査未実施での死亡例(厚生労働省研究班報告)

厚生労働省研究班が6,876例を対象とした調査では、アザチオプリン投与後に死亡した9例が確認された。注目すべきは、9例全員でNUDT15遺伝子多型検査が未実施または検査歴不明だったことである。遺伝子検査の普及が生存に影響する可能性が示唆された。

小児ALLでのCys/Cys型──メルカプトプリンが「毒」になる

小児急性リンパ性白血病(ALL)の維持療法でメルカプトプリンが標準的に使われています。しかしCys/Cys型の小児患者は、標準用量(45〜55mg/m²)の投与が不可能であり、耐用量は5〜10mg/m²(1/5〜1/10)と報告されています。事前検査なしでの標準投与は、致死的な骨髄抑制を引き起こす危険があります。

Cys/Cys型の小児患者への標準量投与──これは本当に怖い話です。
白血病を治療しているつもりが、骨髄を壊してしまうかもしれない。
「遺伝子検査2,100点(約2万1千円)で防げる命がある」というのが、この検査の意義なんです。

白血病の治療をプロトコル(JALSG・JPLSG、JSCT)で行われている場合は、事前の検査が必須でその結果に応じた用量設定をされていることが多いですね。


検査の保険算定と薬剤師の関わり方

NUDT15遺伝子多型検査の保険算定

保険点数:2,100点(算定要件あり)

算定できる患者:チオプリン製剤(アザチオプリン・メルカプトプリン)の投与対象となる以下の疾患の患者

  • 難治性の炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)
  • 急性リンパ性白血病などの血液疾患
  • 治療抵抗性のリウマチ性疾患(SLE・多発性筋炎・強皮症など各種)
  • 自己免疫性肝炎

算定は投与開始前に1回限り。

検査法:リアルタイムPCR法で全血からゲノムDNAを抽出し、コドン139の遺伝子型を約2時間で判定可能。
(外注している施設が多いため、結果が1-2週間待ちということがあります)

薬剤師として知っておくべきポイント

  • アザチオプリンが初めて処方された患者に対し、「NUDT15遺伝子検査は受けている可能性がある」ことを知っていると、処方監査での用量確認、服薬指導の質を高める
  • 検査未実施で投与が開始された場合、服用後4〜8週間は血算の結果を特に注意深くモニタリングするよう患者・処方医に働きかける
  • 「急に髪が抜けてきた」「だるくて動けない」「口の中が荒れてきた」などの症状は骨髄抑制の初期サイン──すぐに受診を促す
  • NUDT15検査結果が記録された薬歴を残しておくことで、将来チオプリンが再処方された際のリスク管理に役立てる

患者説明トーク【窓口で使えるQ&A】

今後「アザニン」という薬が処方される予定なのですが、遺伝子検査をしていて結果を待っています。

この薬は体質(遺伝子の型)によって副作用の出やすさが大きく違うことがわかっています。検査で事前に確認することで、安全な量から始めたり、リスクが高い場合は別の治療になることがあります。

検査で「普通の型」と言われました。副作用は心配しなくていいですか?

Arg/Arg型(普通の型)であれば、服用後すぐに急激な白血球減少や全脱毛が起きるリスクは非常に低いです。ただし、肝機能障害や感染症への注意は遺伝子型に関わらず必要です。定期的な血液検査は続けてください。

薬を飲み始めて2週間で髪の毛がごっそり抜けてきました。どうしたらいいですか?

それはすぐに処方した先生に連絡してください!アザニンによる副作用の可能性があります。脱毛に気づいたときは骨髄への影響が出ている場合もあります。自己判断で飲み続けず、今日中に受診してください。

子どもが白血病でメルカプトプリンを飲んでいます。遺伝子検査は関係ありますか?

はい、関係あります。特に小児の急性リンパ性白血病の維持療法でメルカプトプリン(ロイケリン)が使われる場合、NUDT15の遺伝子型によって耐用量が大きく変わります。主治医の先生が検査を指示していると思いますが、確認されていない場合は一度聞いてみるといいでしょう。


まとめ

  • NUDT15はチオプリンの最終活性代謝産物(6-TGTP)を分解する酵素。「代謝の最後のブレーキ役」として機能している。
  • コドン139がCysに変わる遺伝子多型(R139C)で酵素活性が著しく低下→6-TGTPが蓄積→骨髄抑制・全脱毛が起きる。
  • Cys/Cys型(ホモ)の患者はチオプリン製剤の使用を原則回避。服用後8週以内に93.5%以上で重篤な副作用が起きる。
  • Arg/Cys型(ヘテロ)は通常量の半分程度から慎重に開始が推奨される。
  • この多型は日本人でヘテロが約20%・ホモが約1%と決して珍しくない一方、白人ではヘテロでも1%未満と極めてまれ──日本・東アジア人固有の問題。
  • 2019年2月よりNUDT15遺伝子多型検査が保険適用(2,100点)。初回のチオプリン投与前に1回算定可。
  • NUDT15で予測できるのは「急性白血球減少・全脱毛」のみ。肝障害・感染症は遺伝子型に関わらず定期モニタリングが必要。
  • 検査未実施のまま死亡した症例が複数報告されている。薬局も積極的に「検査を受けましたか?」と確認する姿勢が大切。

ゲノム医療・個別化医療の話題になると「難しそう」と距離を置きがちですが、保険適応されているNUDT15検査は知っておく必要はありますね。
アザチオプリンが処方されたとき、「この患者さん、遺伝子検査はしたのかな?」と考える習慣を持つだけで、重篤な副作用を防げることがある。これが薬剤師の「最後の砦」としての仕事の一つだと思います。


参考情報

  • MBL「MEBRIGHT™ NUDT15 キット 解説(よくあるご質問)」(MBL臨床検査薬)
  • 日本炎症性腸疾患学会「炎症性腸疾患患者に対するチオプリン製剤使用に関する通知」(2019年2月)
  • 日本リウマチ学会「リウマチ性疾患に対するアザチオプリン使用に関する通知」(2019年2月22日)
  • 日本小児血液・がん学会「NUDT15遺伝子多型検査の保険適用と臨床活用について」(2019年)
  • AMED「チオプリン製剤の重篤な副作用を予測する日本人に最も適切な遺伝的マーカーを同定」(2018年)
  • 飼沼実優ほか「NUDT15遺伝子多型のためアザチオプリンによる再生不良性貧血をきたした水疱性類天疱瘡」皮膚科の臨床 63巻3号(2021年)
  • 厚生労働省研究班「アザチオプリンの副作用発現頻度に係る調査研究 総括研究報告書」
  • 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 令和3年度改訂版

※本記事は2026年4月現在の情報に基づいています。最新の診療ガイドライン・添付文書等を必ずご確認ください。

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