この記事でわかること
- レキサルティがなぜ認知症のBPSDに使われるようになったのか(適応承認の経緯)
- 対象となる症状と、対象外の症状・疾患の違い
- 用法・用量と、適応ごとの使い分けのポイント
- 厚労省BPSDガイドライン(第3版)での位置づけ
- 薬剤師が確認すべき副作用・相互作用・服薬指導のポイント
- 患者・家族への説明で役立つQ&A
はじめに:なぜ今レキサルティが注目されているの?
認知症の患者さんを在宅や施設で支える場面では、本人・家族・介護者を最も疲弊させる問題のひとつが「興奮・暴言・暴力」といったBPSD(認知症の行動・心理症状)です。これまでBPSDに対する向精神薬はすべて「適応外使用」でした。ところが2024年9月24日、レキサルティ(一般名:ブレクスピプラゾール)がアルツハイマー型認知症に伴うアジテーションに対して国内初の保険適用を取得しました。
「BPSD治療薬として正式に保険が使える薬」は、これが日本で初めてです。処方が増えていると感じられている方もいるのではないでしょうか。薬剤師としてしっかり理解しておきましょう!

「認知症に効く薬」と思って飲んでいる患者さんや家族も多いけれど、レキサルティが効くのは「認知機能そのもの(記憶・判断力など)」ではなく「興奮・焦燥・易刺激性といったアジテーション症状」なの。この違いをきちんと伝えることが服薬指導の最初のポイントよ。
BPSDとアジテーションの基礎知識
BPSDとは?
BPSDとは「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の略で、認知症に伴って現れる行動症状と心理症状の総称です。記憶障害などの中核症状とは異なり、適切な対応や環境調整で改善できる可能性があることから、まず非薬物的介入を優先することがガイドラインでも求められています。
- 行動症状:徘徊、攻撃的行動、過食・異食、不潔行為など
- 心理症状:不安、抑うつ、幻覚・妄想、無気力など
アジテーションとは?
国際老年精神医学会(IPA)の定義では、認知症に伴うアジテーションは「情動的な苦痛を背景要因とする攻撃的・非攻撃的な症状を含み、活動亢進・攻撃的発言・攻撃的行動のうち少なくとも1つ以上の症状からなり、患者の日常生活・社会生活・人間関係のいずれかに支障を来した状態」とされています。
具体的には、悪態・暴言・叩く・蹴る・物を投げる・叫ぶ・何度も同じ動作を繰り返す・全般的な落ち着きのなさ・拒絶行動などが含まれます。アルツハイマー型認知症の患者さんのおよそ半数でこうした症状が認められると報告されており、介護者の負担を著しく増大させます。

「徘徊」は焦燥感・易刺激性・興奮を伴わない場合は今回のレキサルティの適応にはなっていないの。徘徊そのものにはガイドラインでも「非薬物的介入を推奨」となっているから、処方意図を確認することが大切ね。
レキサルティの基本情報・作用機序
薬剤の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | ブレクスピプラゾール |
| 分類 | 非定型抗精神病薬(SDAM:セロトニン・ドーパミン アクティビティ モジュレーター) |
| 開発 | 大塚製薬(2006年創製)/ルンドベックと共同開発 |
| 国内承認歴 | 2018年1月(統合失調症)→2023年12月(うつ病・うつ状態)→2024年9月(AD伴うアジテーション) |
| 剤型 | OD錠0.5mg・1mg・2mg(錠剤1mg・2mgは2025年3月末経過措置期間満了) |
作用機序のポイント
レキサルティはアリピプラゾール(エビリファイ)の後継として開発されたSDAMに分類されます。ドーパミンD2受容体およびセロトニン5-HT1A受容体への部分アゴニスト作用を持ちながら、セロトニン5-HT2A受容体・アドレナリンα1B・α2C受容体にはアンタゴニストとして働きます。
アリピプラゾールと比較して、ドーパミン刺激作用をよりマイルドにしつつ、セロトニン・アドレナリン系への作用をより強化しています。この特性が、アジテーションに対する効果と相対的に低い錐体外路症状(EPS)発現率につながっていると考えられています。

SDAMという分類、「受容体を完全に塞ぐわけでも完全に刺激するわけでもない」部分作動薬の特性が鍵です。神経伝達物質の過剰も不足も調整できるイメージ。患者さんへの説明では「脳内の興奮を鎮めるバランス調整薬」と伝えるとわかりやすいですかね。
適応と用法・用量の整理
国内3つの適応
| 適応 | 用法・用量 |
|---|---|
| 統合失調症 | 1日1回1mgから開始 → 4日以上の間隔をあけて増量 → 1日1回2mgを経口投与 |
| うつ病・うつ状態(既存治療で効果不十分な場合に限る) | 1日1回1mgを経口投与。忍容性に問題なく効果不十分な場合は1日2mgに増量可 |
| AD型認知症に伴う焦燥感・易刺激性・興奮に起因する過活動または攻撃的言動 | 1日1回0.5mgから開始 → 1週間以上の間隔をあけて増量 → 1日1回1mgを経口投与。忍容性・有効性確認後は1日1回2mgへ増量可 |
認知症適応では開始用量が0.5mgと最も低く設定されている点が重要です。0.5mg投与にはレキサルティOD錠0.5mgを使用することが添付文書に明記されています。
投与期間に関する注意
認知症適応では、投与開始10週間後までを目途に効果を評価し、有効性が認められない場合は投与を中止して治療法を再考することが求められています。また24週間を超える継続投与の安全性は確立していないため、漫然投与は避け、投与量・期間は必要最小限とする必要があります。

「10週間で評価」「24週間超の安全性は未確立」というポイントは、患者さんや家族への説明でも触れておきたいところ。「一生飲み続ける薬」という誤解を持たれると困るし、逆に効果がなくても漫然と続いてしまわないよう、定期的な再評価の仕組みが大切ね。
BPSDガイドラインでの位置づけ
厚労省「BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」
厚生労働省が発行している「かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」では、BPSDに対してはまず非薬物的介入を検討し、効果不十分な場合に薬物療法を検討するという原則が示されています。
アジテーション(焦燥感・易刺激性・興奮)に対しては、ブレクスピプラゾールが保険適用を有する薬剤として明記され、メマンチン・抑肝散と並ぶ選択肢として位置づけられています。なお、ブレクスピプラゾールが無効であった場合や、アルツハイマー型認知症以外の認知症に伴う同様の症状については、ガイドライン内で別途の対応が示されています。
適応範囲の注意:アルツハイマー型認知症に限定
レキサルティのBPSD適応はアルツハイマー型認知症に限定されています。レビー小体型認知症・血管性認知症・前頭側頭型認知症などに伴うアジテーションに対する有効性・安全性は確認されていません。処方せんを受け取った際は、診断名の確認が必要です。

実際の現場では「認知症」とだけ書かれた処方が来ることもあるから、病名確認は薬剤師としての重要なチェックポイントよ。特にレビー小体型では抗精神病薬に対する過敏性が問題になるから、疑わしい場合は処方医に確認してね。
副作用・安全性の重要ポイント
高齢認知症患者への死亡リスク
添付文書の重要な基本的注意として、高齢認知症患者への抗精神病薬投与により死亡リスクが増加するとの海外報告が明記されています。国内プラセボ対照試験においても、投与との関連性は明確でないものの、死亡例が本剤群のみで報告されています。患者選択と投与中の状態観察が特に重要です。
認知症適応で特に注意すべき副作用
| 副作用 | 注意点 |
|---|---|
| 錐体外路症状(アカシジア・パーキンソニズム・遅発性ジスキネジア) | 第2世代抗精神病薬の中では相対的に少ないが注意が必要。特にアカシジアは主観的な症状で見逃されやすい |
| 転倒・骨折 | 傾眠・起立性低血圧・めまい・ふらつきにより転倒リスクが増加。認知症患者は元々転倒リスクが高い |
| 誤嚥性肺炎 | 認知症患者では嚥下機能が低下していることが多く、嚥下障害の発現・悪化に注意 |
| 脳血管イベント | 抗精神病薬全般で高齢者への脳卒中等のリスク増加が示唆されている |
| 高血糖・糖尿病悪化 | 糖尿病既往・家族歴のある患者では特に注意 |
薬物相互作用:CYP代謝の確認が必須
レキサルティは主にCYP3A4およびCYP2D6で代謝されます。これらの阻害薬と併用すると血漿中濃度が上昇するため、可能な限り避けることが求められています。やむを得ず併用する場合は用量調節が必要です。
- CYP2D6阻害薬:パロキセチン(パキシル)、フルオキセチン、キニジンなど
- CYP3A4阻害薬:イトラコナゾール、クラリスロマイシン、ジルチアゼムなど
- CYP3A4誘導薬:リファンピシン、カルバマゼピンなど(血中濃度が低下)
なお、CYP2D6のpoor metabolizer(PM)頻度は欧米白人で5〜10%とされている一方、日本人を含むアジア人では1%未満(約0.3%程度)と著しく低いことが報告されています。頻度は低いものの、該当する場合は血中濃度が通常より上昇する可能性があります。

認知症の患者さんはポリファーマシーになりやすいから、併用薬チェックが特に大事!うつを合併していてパキシル(パロキセチン)が出ている患者さんにレキサルティが追加されたら、CYP2D6阻害による血中濃度上昇に要注意してくださいね。
服薬指導のポイント:薬剤師が押さえておきたいこと
処方確認のチェックリスト
- 診断名はアルツハイマー型認知症であるか(レビー小体型・血管性などは適応外)
- 非薬物的介入が先行して行われているか(添付文書上の条件)
- 焦燥感・易刺激性・興奮に起因する症状であるか(徘徊のみ・無気力のみは対象外)
- 他の抗精神病薬との併用はないか(原則として併用不可)
- CYP2D6・CYP3A4阻害薬・誘導薬との相互作用はないか
- 開始用量は0.5mgから(OD錠0.5mgが必要)
患者・家族への服薬指導のポイント
- この薬は「記憶を改善する薬」ではなく「興奮・焦燥感を和らげる薬」であることを説明する
- 効果の評価は10週間を目途に行い、漫然投与しないことを共有する
- 転倒リスクが上がる可能性があるため、床の整理・手すりの活用などの環境整備を促す
- 嚥下が気になる場合や、何か変化があれば早めに医師・薬剤師に相談するよう伝える
- 急に飲むのをやめないよう説明する(急な中断は症状再燃のリスク)
患者・家族からよくある質問(Q&A)
Q. 認知症が治る薬ですか?

いいえ、認知症そのものを治したり、記憶力を回復させる薬ではありません。お父さん(お母さん)が興奮したり、焦ったり、攻撃的になってしまう症状を和らげることを目的としたお薬です。介護している方の負担を少し軽くする助けになることを期待して使います。
Q. ずっと飲み続けるの?

この薬は必要最小限の期間・量で使うことが大切です。10週間ほど服用して効果を確認し、先生と一緒に続けるかどうかを判断していきます。24週間を超えた長期使用の安全性についてはまだ十分なデータがないため、定期的に見直しが必要です。
Q. どんな副作用に気をつければいい?

最も日常的に気をつけていただきたいのは転倒です。この薬でふらつきやめまいが出ることがあり、認知症の方はもともと転びやすいので、環境の整備が大切です。また、飲み込みにくさや嚥下の変化を感じたらすぐにご連絡ください。
Q. 他に飲んでいる薬と一緒に飲んで大丈夫?

この薬は肝臓で特定の酵素によって分解されるため、一部の薬と組み合わせると効き目が強くなりすぎることがあります。お薬手帳を必ず持参してください。市販薬やサプリメントも含め、飲んでいるものをすべてお知らせいただけると安心です。
Q. 急に飲むのをやめても大丈夫?

急な中断は症状が戻ってしまうことがありますので、自己判断でやめないようにお願いします。副作用が気になる・効いていないと感じる場合は、まず医師や薬剤師に相談してください。
まとめ
- レキサルティ(ブレクスピプラゾール)は2024年9月24日、アルツハイマー型認知症に伴うアジテーション(焦燥感・易刺激性・興奮に起因する過活動・攻撃的言動)に対して国内初の保険適用を取得した
- BPSD治療薬として正式承認された薬剤は日本でこれが初めてであり、処方増加の背景になっている
- 適応はアルツハイマー型認知症に限定。レビー小体型・血管性認知症などへの有効性・安全性は確認されていない
- 認知機能(記憶・判断力)そのものを改善する薬ではない
- 開始用量はOD錠0.5mg。10週間で効果を評価し、24週間を超える安全性は未確立のため漫然投与は避ける
- 厚労省BPSDガイドライン第3版でアジテーションの選択肢として明記されており、非薬物的介入が前提
- 高齢認知症患者への死亡リスク増加の報告があり、患者選択と継続的な状態観察が不可欠
- CYP2D6・CYP3A4阻害薬との相互作用に注意。認知症患者はポリファーマシーになりやすいため特に確認が重要
- 服薬指導では「記憶の薬ではない」「転倒注意」「定期的に効果を再評価する薬」の3点が特に重要
参考情報
- 大塚製薬 プレスリリース「抗精神病薬『レキサルティ』日本における効能追加の承認取得について」2024年9月24日
- レキサルティ 電子添付文書(2024年9月改訂版)独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)
- 厚生労働省「かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」日本認知症学会
- 大塚製薬 レキサルティ リスク管理計画書(RMP)安全性説明資材
- Grossberg GT, et al. JAMA Neurol. 2023;80(12):1307-1316.(国際第III相試験)
- 大塚製薬 プレスリリース「FDA、AD型認知症に伴う行動障害へのブレクスピプラゾールを承認」2023年5月11日