ADC(抗体薬物複合体)とは?日本承認薬を承認順に全解説|作用機序・適応・副作用を薬剤師がまとめ

悪性リンパ腫の記事でも登場したブレンツキシマブ ベドチン(アドセトリス®)やポラツズマブ ベドチン(ポライビー®)。これらは「ADC(抗体薬物複合体)」という革新的なカテゴリーの薬剤です。近年その数が急速に増え、2025年5月時点で日本で承認されたADCおよびADC関連薬は14品目にのぼります。今回はADCの基本構造から、日本で承認済みの全薬剤を承認年順に整理しました。放射免疫複合体(ゼヴァリン®)や光免疫療法薬(アキャルックス®)など「広義のADC」についてもまとめて解説します。薬剤師として外来・病棟・薬局で役立つ1枚まとめ的な記事を目指しました!

目次

この記事でわかること

  • ADCの作用機序(抗体・リンカー・ペイロードの3要素)と「魔法の弾丸」コンセプト
  • 従来の抗がん剤・抗体医薬品との違い
  • 日本承認済みADCおよびADC関連薬(放射免疫複合体・光免疫療法薬含む)を承認年順に一覧で把握できる
  • 各薬剤の標的・適応疾患・ペイロードの特徴
  • ADCに共通する副作用プロファイルと薬剤別の注意点
  • ゼヴァリン®・アキャルックス®・ブーレンレップ®の特徴と薬剤師として押さえるべき注意点
  • 患者さんへの説明トーク例

ADCとは?「魔法の弾丸」が現実に

ADC(Antibody-Drug Conjugate:抗体薬物複合体)とは、がん細胞の表面にある特定の分子(標的抗原)を認識するモノクローナル抗体に、細胞傷害性の薬物(ペイロード)をリンカーで結合させたバイオ医薬品です。

そのコンセプトは「がん細胞だけに薬を届けるミサイル」あるいは「魔法の弾丸(Magic Bullet)」と表現されることがあります。ノーベル賞受賞者のパウル・エールリヒが20世紀初頭(1907年頃)に提唱したこの概念が、100年以上の時を経て現実の医薬品として結実したのがADCです。

日本では2005年にゲムツズマブ オゾガマイシン(マイロターグ®)が初のADCとして承認されました。その後、なかなか新薬開発が続かず、しばらく「可能性は大きいが難しい」カテゴリーとされていましたが、2020年代に入り技術革新とともに次々と承認品目が増え、2026年5月時点で狭義のADCだけで11品目、放射免疫複合体・光免疫療法薬を含む広義のカテゴリーでは14品目が日本で承認されています。

ADCは「抗体」の標的特異性と「抗がん剤」の殺細胞力を組み合わせたハイブリッド薬剤です。薬剤師として「どの抗原を狙っているか」「どのペイロードが入っているか」を把握しておくと、副作用予測がぐっとしやすくなりますよ!

ADCの3要素:抗体・リンカー・ペイロード

ADCは以下の3つの要素で構成されています。それぞれの質がADCの有効性・安全性を左右します。

①抗体(Antibody)

がん細胞表面に過剰発現している特定の抗原を認識するモノクローナル抗体。抗体の選択が「どのがんに効くか」を決定します。抗体自体にも抗腫瘍作用(ADCC=抗体依存性細胞傷害など)を持つものがあります。

②リンカー(Linker)

抗体とペイロードをつなぐ橋渡し役。血中ではペイロードを安定的に保持し(リンカーが切れると全身毒性が増す)、がん細胞内に取り込まれた後に切断されてペイロードを放出します。「切断可能型(切断型)」と「切断不可能型」があります。

③ペイロード(Payload)=薬物

放出後にがん細胞を殺傷する薬物。通常の抗がん剤として使うには毒性が強すぎるような超強力な化合物が使われます。主なペイロードの種類は後の表を参照ください。

また、1つの抗体分子に何個のペイロードが結合しているかを示す指標をDAR(Drug-to-Antibody Ratio)といいます。DARが高いほど多くの薬物を運べますが、安定性や毒性とのバランスが重要で、一般的に2〜8程度です。エンハーツ®はDAR約8と高く、これが高い奏効率の一因とされています。

ADCの作用機序(内在化からペイロード放出まで)

  1. 抗体部分ががん細胞表面の標的抗原(HER2、CD30、Trop-2など)に特異的に結合する
  2. ADC-抗原複合体が細胞内に「内在化(エンドサイトーシス)」される
  3. 細胞内のリソソーム(リソソーム内の低pH・プロテアーゼなど)でリンカーが切断される
  4. 細胞内にペイロードが放出される
  5. ペイロードがDNA・微小管など細胞増殖に必須の標的に作用してがん細胞を死滅させる

「バイスタンダー効果」も重要なポイント!リンカーが切れて遊離したペイロード(低分子化合物)は、近隣の抗原陰性のがん細胞にも拡散して殺傷効果を発揮できる場合があります。これが「不均一な抗原発現のがんにも効く」理由のひとつで、特にエンハーツ®などで重要な機序となっています。詳しくは後述します。

従来の抗がん剤・モノクローナル抗体との比較

特徴従来の抗がん剤(細胞傷害性)モノクローナル抗体単体ADC
がん特異性低い(正常細胞も障害)高い(標的抗原に特異的)高い(抗体による標的誘導)
殺細胞力強い弱〜中等度(ADCC等のみ)非常に強い(超強力ペイロード)
骨髄抑制高率低い中〜高率(ペイロードによる)
使用可能薬物量毒性制限あり局所濃度を高められる
抗原陰性細胞への効果ありなしバイスタンダー効果で一部あり

日本承認済みADC一覧(承認年順)

2025年5月時点で日本で承認されているADCおよびADC関連薬を発売・承認年の早い順に示します。

狭義のADC(細胞傷害性薬物を抗体に結合したもの)

承認年商品名一般名標的抗原ペイロード開発・販売会社主な適応疾患
2005年マイロターグ®ゲムツズマブ オゾガマイシンCD33カリケアマイシン(DNA傷害)ファイザー急性骨髄性白血病(AML)
2013年カドサイラ®トラスツズマブ エムタンシンHER2エムタンシン(微小管阻害)中外製薬(ロシュ)HER2陽性乳がん
2013年アドセトリス®ブレンツキシマブ ベドチンCD30MMAE(微小管阻害)武田薬品工業ホジキンリンパ腫、ALCL、PTCL、CTCLなど
2018年ベスポンサ®イノツズマブ オゾガマイシンCD22オゾガマイシン(DNA傷害)ファイザー再発・難治性CD22陽性急性リンパ性白血病(ALL)
2020年エンハーツ®トラスツズマブ デルクステカンHER2DXd(トポイソメラーゼI阻害)第一三共HER2陽性/低発現/超低発現乳がん、HER2陽性胃がん、HER2変異非小細胞肺がん、HER2陽性固形がん(臓器横断)※
2021年ポライビー®ポラツズマブ ベドチンCD79bMMAE(微小管阻害)中外製薬(ロシュ)再発・難治性DLBCL、未治療DLBCL(Pola-R-CHPとして)
2021年パドセブ®エンホルツマブ ベドチンNectin-4MMAE(微小管阻害)アステラス製薬根治切除不能な尿路上皮がん(単剤または+ペムブロリズマブ)
2024年トロデルビ®サシツズマブ ゴビテカンTrop-2SN-38(トポイソメラーゼI阻害)ギリアド・サイエンシズ手術不能または再発のトリプルネガティブ乳がん(TNBC)
2024年ダトロウェイ®ダトポタマブ デルクステカンTrop-2DXd(トポイソメラーゼI阻害)第一三共化学療法歴のあるHR陽性/HER2陰性手術不能または再発乳がん
2025年テブダック®チソツマブ ベドチンTF(組織因子)MMAE(微小管阻害)ジェンマブがん化学療法後に増悪した進行または再発の子宮頸がん
2025年ブーレンレップ®ベランタマブ マホドチンBCMA(B細胞成熟抗原)MMAF(微小管阻害・切断不可能型)グラクソ・スミスクライン再発または難治性の多発性骨髄腫(ボルテゾミブまたはポマリドミド+デキサメタゾン併用)

※エンハーツ®の「HER2陽性固形がん」は臓器横断的な承認で、2026年3月に日本でも追加承認されました(胆道がん・膀胱がん・子宮内膜がんなど、HER2タンパク質過剰発現またはHER2遺伝子増幅が認められる固形がん)。

広義のADC関連薬(放射免疫複合体・光免疫複合体)

以下の薬剤は「抗体+殺細胞能を持つ物質を結合させた医薬品」という点でADCと同じ発想に基づきますが、ペイロードが放射性同位元素(β線)や光感受性物質であり、従来の細胞傷害性薬剤ADCとはメカニズムが異なります。

承認年商品名一般名標的抗原結合物質(ペイロード相当)開発・販売会社主な適応疾患
2008年ゼヴァリン® インジウム(111In)静注用セットイブリツモマブ チウキセタンCD20放射性同位元素インジウム111(γ線:画像診断用)PDRファーマ(ムンディファーマ)CD20陽性再発・難治性低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫・マントル細胞リンパ腫(治療前の適格性確認用)
2008年ゼヴァリン® イットリウム(90Y)静注用セットイブリツモマブ チウキセタンCD20放射性同位元素イットリウム90(β線:治療用)PDRファーマ(ムンディファーマ)CD20陽性再発・難治性低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫・マントル細胞リンパ腫
2020年アキャルックス® 点滴静注250mgセツキシマブ サロタロカンナトリウムEGFRIRDye® 700DX(光感受性物質:レーザ照射により活性酸素産生)楽天メディカルジャパン切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん(光免疫療法)

MMAEを使ったADCが多いことに気づきましたか?アドセトリス®・ポライビー®・パドセブ®・テブダック®の4剤でMMAEがペイロードとして使われています。一方、第一三共はDXd(デルクステカン)という独自ペイロードを複数のADCに展開しており、エンハーツ®・ダトロウェイ®に続いてパイプラインにも多数擁しています。ブーレンレップ®はMMAEのフッ素化誘導体であるMMAF(マホドチン)を使用しており、切断不可能なリンカーが採用されている点がユニークです。

各薬剤の解説

①マイロターグ®(ゲムツズマブ オゾガマイシン)|2005年承認

日本初のADCです。CD33陽性AML(急性骨髄性白血病)を標的とし、ペイロードはDNA鎖を切断するカリケアマイシンです。当初単剤での承認でしたが、現在は化学療法(ダウノルビシン+シタラビン)との併用が主な使い方です。主な注意点は肝毒性(特に類洞閉塞症候群:SOS/VOD)で、造血幹細胞移植前後には使用禁忌です。

②カドサイラ®(トラスツズマブ エムタンシン:T-DM1)|2013年承認

HER2を標的とするトラスツズマブ(ハーセプチン®)に微小管阻害薬エムタンシン(DM1)を結合させたADCです。HER2陽性乳がんの二次治療(術後補助療法を含む)として長らく標準治療でした。エンハーツ®の登場後もHER2陽性乳がんの術後補助療法での位置づけは確固たるものです。主な副作用は血小板減少、末梢神経障害、肝機能障害です。

③アドセトリス®(ブレンツキシマブ ベドチン)|2013年承認

CD30を標的とした最初のADCです。悪性リンパ腫の記事でも詳しく紹介しましたが、日本国内では以下の適応を有します。

  • 再発・難治性CD30陽性ホジキンリンパ腫および未分化大細胞リンパ腫(ALCL)(2014年〜)
  • 未治療のCD30陽性ホジキンリンパ腫(A-AVDとして)(2018年〜)
  • CD30陽性末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)(2019年〜)
  • 再発・難治性CD30陽性皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)(2023年〜)

主な副作用は末梢性感覚ニューロパチー、好中球減少、発熱性好中球減少症です。進行期ホジキンリンパ腫一次治療のA-AVD使用時はG-CSF予防投与が必須です。

④ベスポンサ®(イノツズマブ オゾガマイシン)|2018年承認

B細胞由来ALLの約99%が陽性であるCD22を標的とします。ペイロードはマイロターグ®と同じカリケアマイシン系のオゾガマイシンです。再発・難治性CD22陽性ALLの成人・小児(2024年追加)に使用されます。主な注意点はSOS/VOD(肝類洞閉塞症候群)で、造血幹細胞移植前後は特に注意が必要です。マイロターグ®と同様、オゾガマイシン系のADCでは「肝毒性」が重要な管理ポイントになります。

⑤エンハーツ®(トラスツズマブ デルクステカン:T-DXd)|2020年承認

第一三共が独自開発したDXd ADC技術の旗艦品。HER2を標的とするトラスツズマブをベースに、高活性トポイソメラーゼI阻害薬DXdをDAR約8という高いDARで結合させています。バイスタンダー効果も高く、HER2低発現・超低発現の乳がんにも効果が示されたことで、HER2治療の概念を大きく変えました。日本での現在の承認適応は以下のとおりです。

  • HER2陽性手術不能または再発乳がん(2020年〜)
  • HER2陽性胃がん(2020年〜)
  • 化学療法歴のあるHER2低発現乳がん(2023年〜)
  • HER2変異を有する根治切除不能な進行・再発非小細胞肺がん(2023年〜)
  • HR陽性HER2低発現または超低発現の手術不能または再発乳がん(2025年8月〜)
  • HER2タンパク質過剰発現またはHER2遺伝子増幅が認められるHER2陽性固形がん(臓器横断)(2026年3月〜)

最も注意すべき副作用は間質性肺疾患(ILD)です。発現率は数%〜10%程度ですが、重篤化すると致死的となりえます。乾性咳嗽・息切れに早期に気づくことが重要で、添付文書では投与中断・中止の基準が厳密に定められています。

エンハーツ®はILDの管理が最重要!患者さんには「咳や息切れを感じたら我慢せずすぐ連絡してください」と繰り返し伝えましょう。また、悪心や脱毛も多い薬剤です。制吐薬の適切な使用と、脱毛への心理的サポートも薬剤師が担える大切なケアです。

⑥ポライビー®(ポラツズマブ ベドチン)|2021年承認

B細胞リンパ腫の細胞に発現するCD79bを標的とします。2021年に再発・難治性DLBCLに承認され、その後POLARIX試験の結果に基づき、未治療DLBCLへのPola-R-CHP療法としての使用が承認されました。ペイロードはMMAE(微小管阻害)で、末梢神経障害・骨髄抑制が主な副作用です。

⑦パドセブ®(エンホルツマブ ベドチン)|2021年承認

尿路上皮がん細胞に高発現するNectin-4を標的とします。2021年に後治療として承認後、2024年には一次治療でのペムブロリズマブ(キイトルーダ®)との併用療法が追加承認されました(EV-302/KEYNOTE-A39試験)。ペイロードはMMAEで、皮膚障害(発疹、皮膚乾燥、落屑)、末梢神経障害、高血糖、骨髄抑制が主な副作用です。皮膚障害は発現率が高く、早期対応が重要です。

⑧トロデルビ®(サシツズマブ ゴビテカン)|2024年承認

多くのがん細胞で高発現しているTrop-2(トロホブラスト細胞表面抗原2)を標的とします。ペイロードはイリノテカンの活性代謝物SN-38で、トポイソメラーゼI阻害により作用します。手術不能または再発のトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の二次治療として承認されました。主な副作用は好中球減少、下痢(SN-38による)、悪心、脱毛です。

⑨ダトロウェイ®(ダトポタマブ デルクステカン)|2024年12月承認・2025年3月発売

トロデルビ®と同じTrop-2を標的としますが、ペイロードは第一三共のDXd(デルクステカン)です。TROPION-Breast01試験にもとづき、HR陽性/HER2陰性の手術不能または再発乳がんに対して化学療法と比較して有意なPFS延長を示し、日本初承認となりました。エンハーツ®と同じDXdペイロードを使用するため、ILDへの注意が同様に必要で、添付文書の「警告」欄にILDが記載されています。

⑩テブダック®(チソツマブ ベドチン)|2025年3月承認・5月発売

子宮頸がん細胞に高発現する組織因子(TF:Tissue Factor)を標的とする、子宮頸がん領域初のADCです。ペイロードはMMAEで、innovaTV 301試験にもとづき、化学療法既治療の進行・再発子宮頸がんに対してOSの延長を示し承認されました。

特徴的な副作用として眼障害(結膜炎・角膜障害)があります。重篤化すると失明に至る可能性があるため、厚生労働省からも事務連絡が発出されており、投与前からの眼科的管理(点眼薬の使用など)が必須です。患者さんへの説明と眼科受診の推奨が非常に重要な薬剤です。

テブダック®は「眼科管理」が鍵です!投与前の眼科評価、クーリング点眼薬の処方、コンタクトレンズ使用の一時中止など、眼専門家との連携が求められます。処方箋を受けたら眼科との連携状況を確認するフローを作っておくといいですね。

⑪ブーレンレップ®(ベランタマブ マホドチン)|2025年5月承認

多発性骨髄腫の形質細胞にほぼ選択的に発現するBCMA(B細胞成熟抗原)を標的とする、多発性骨髄腫領域初のADCです。ペイロードはMMAFという点がユニークで、MMAEとは異なり細胞膜透過性が低い「切断不可能型リンカー」を採用しており、バイスタンダー効果を意図的に抑えた設計です。

DREAMM-7試験(ブーレンレップ+ボルテゾミブ+デキサメタゾン:BelaVd療法)およびDREAMM-8試験(ブーレンレップ+ポマリドミド+デキサメタゾン:BelaPd療法)の結果にもとづき、少なくとも1ライン以上の治療歴を有する再発または難治性の多発性骨髄腫に対して承認されました。DREAMM-7試験ではPFSに加えてOSの有意な延長も示されています。

最も重要な副作用は眼障害(角膜障害・点状表層角膜症)です。添付文書の「警告」欄にも眼障害が記載されており、テブダック®と同様に投与前から投与中の定期的な眼科受診(細隙灯顕微鏡検査を含む)が必須です。DREAMM-7・DREAMM-8試験では眼障害による治療中止率はいずれも約9%でした。そのほかの主な副作用は血小板減少症・好中球減少症などの骨髄抑制です。

ブーレンレップ®もテブダック®と同じく「眼科管理ファースト」な薬剤です!初回から4回目までの各投与前は必ず眼科受診(視力検査・細隙灯顕微鏡検査)が必要とされています。多発性骨髄腫の患者さんは高齢者も多く、眼科受診の交通手段やスケジュール調整のサポートも薬剤師の大切な役割ですよ。

広義のADC関連薬の解説

ゼヴァリン® インジウム(111In)/ イットリウム(90Y)静注用セット|2008年承認

ゼヴァリン®は、CD20を標的とする抗体イブリツモマブに放射性同位元素をキレート結合させた放射免疫複合体(RIC:Radioimmuno Conjugate)です。通常のADCのペイロードが細胞傷害性薬剤であるのに対し、ゼヴァリン®のペイロードは放射線(β線)であるため、メカニズムは大きく異なります。

2種類のセットが一対で使用される点が特徴で、投与は必ず下記の順序で行います。

  • ゼヴァリン インジウム(111In):インジウム111はγ線を放出するため画像診断(シンチグラフィ)に使用します。投与後48〜72時間後にガンマカメラで全身撮像し、適切な集積パターンが確認できた場合(=正常臓器への異常な集積がない場合)のみ、治療用のイットリウム製剤の投与へ進みます。
  • ゼヴァリン イットリウム(90Y):イットリウム90はβ線(治療用放射線)を放出し、CD20陽性リンパ腫細胞を直接攻撃します。β線は照射範囲が抗体が結合した細胞周囲に及ぶため、近傍のがん細胞にも効果があります(クロスファイア効果)。

CD20陽性の再発・難治性低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫およびマントル細胞リンパ腫が適応で、投与前にリツキシマブを点滴静注したうえで投与します。主な副作用は重度の骨髄抑制(汎血球減少、血小板減少、発熱性好中球減少症)です。放射線を扱う特殊な薬剤のため、取り扱いには放射線管理区域での調製・投与が必要です。

ゼヴァリン®は「まずインジウムで診断・適格性確認→次にイットリウムで治療」という2段階のプロセスが必須です。β線の特性上、患者さんから微量の放射線が出るため、投与後一定期間は密接接触(特に小さな子ども・妊婦)に注意が必要です。調剤・投与施設も限られる特殊な薬剤なので、処方を受けた際は施設体制の確認を忘れずに。

アキャルックス® 点滴静注250mg(セツキシマブ サロタロカンナトリウム)|2020年承認

アキャルックス®は、EGFR(上皮成長因子受容体)を標的とする抗体セツキシマブに、光感受性物質IRDye® 700DXを結合させた光免疫療法(PIT:Photoimmunotherapy)用薬剤です。世界初の光免疫療法用薬として2020年に日本で先駆け承認されました。通常のADCが「薬剤の内在化→ペイロード放出」で作用するのに対し、アキャルックス®は体外からの近赤外線レーザ照射を受けることで初めて細胞傷害効果が発現するという、まったく新しい機序です。

使い方は以下の流れです。

  1. アキャルックス® 640mg/m²を2時間以上かけて点滴静注する
  2. 投与終了から20〜28時間後(抗体ががん細胞に集積するのを待つ時間)にレーザ光(波長690nm付近の近赤外線)を病巣部位に照射する
  3. IRDye® 700DXがレーザ光を受けて活性化し、活性酸素種(ROS)を産生してがん細胞膜を破壊する

適応は「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」で、完全奏効が得られない場合は4週間以上の間隔を空けて最大4回まで投与できます。主な注意点は、頸動脈出血・腫瘍出血(病変部位の性質上、出血リスクがある)、舌腫脹・咽頭浮腫、Infusion reaction、重度の皮膚障害(光感受性による)です。レーザ照射後の光感受性反応を防ぐため、投与後は直射日光などへの曝露管理も必要です。

アキャルックス®は「薬+レーザ照射」がセットで初めて効く、非常にユニークな薬です。「点滴だけでは効かない」「照射のタイミング(20〜28時間後)が非常に重要」という特性を患者さんに理解してもらうことが大切です。また照射後しばらくは強い光(日光・手術室の照明など)に注意が必要で、外来治療後の帰宅指導も薬剤師の腕の見せどころです!

ADCに共通する副作用と薬剤別の注意点

ADC全体に共通する副作用

ペイロードの種類に関わらず、ADC全般で共通して注意すべき副作用があります。

  • 骨髄抑制(好中球減少・血小板減少):ペイロードによる全身性毒性が一部あるため
  • 末梢神経障害:特にMMAEを使用するADCで高率
  • 疲労感・倦怠感
  • 投与関連反応:初回投与時の発熱・悪寒・血圧変動など(特に初回投与時に注意)

ペイロード別の特徴的副作用

ペイロード主な薬剤特徴的副作用
MMAE(微小管阻害)アドセトリス®、ポライビー®、パドセブ®、テブダック®末梢神経障害、骨髄抑制、皮膚障害(パドセブ®)、眼障害(テブダック®)
MMAF(微小管阻害・切断不可能型)ブーレンレップ®眼障害(点状表層角膜症・角膜潰瘍)(最重要)、血小板減少、好中球減少
DXd(トポイソメラーゼI阻害)エンハーツ®、ダトロウェイ®間質性肺疾患(ILD)(最重要)、悪心・嘔吐、骨髄抑制、脱毛
SN-38(トポイソメラーゼI阻害)トロデルビ®骨髄抑制、下痢(好発)、悪心・嘔吐、脱毛
オゾガマイシン/カリケアマイシン系(DNA傷害)マイロターグ®、ベスポンサ®肝毒性(SOS/VOD)(最重要)、骨髄抑制、出血傾向
エムタンシン(微小管阻害)カドサイラ®血小板減少、末梢神経障害、肝機能障害
放射性同位元素β線(イットリウム90)ゼヴァリン® イットリウム重度骨髄抑制(汎血球減少・血小板減少)、放射線被曝管理
光感受性物質(IRDye® 700DX)アキャルックス®頸動脈出血・腫瘍出血、舌腫脹・咽頭浮腫、皮膚光感受性反応、Infusion reaction

薬剤別の重大副作用チェックポイント一覧

薬剤最も重要な副作用薬剤師として特に確認すること
マイロターグ®肝類洞閉塞症候群(SOS/VOD)造血幹細胞移植との前後関係の確認
カドサイラ®血小板減少、末梢神経障害定期的な血小板値モニタリング、しびれ確認
アドセトリス®末梢神経障害、FN(A-AVD使用時)G-CSF予防投与のタイミング確認、しびれ確認
ベスポンサ®肝類洞閉塞症候群(SOS/VOD)造血幹細胞移植との前後関係の確認
エンハーツ®間質性肺疾患(ILD)乾性咳嗽・息切れの確認、投与中断基準の把握
ポライビー®末梢神経障害、骨髄抑制しびれ・手足の脱力の確認
パドセブ®皮膚障害、末梢神経障害、高血糖皮膚症状(皮疹・落屑)の早期確認、血糖モニタリング
トロデルビ®好中球減少、下痢下痢の程度と持続日数の確認
ダトロウェイ®間質性肺疾患(ILD)エンハーツ®同様、咳・息切れの監視が最重要
テブダック®眼障害(角膜障害・失明リスク)眼科管理の状況確認、点眼薬使用の確認
ブーレンレップ®眼障害(点状表層角膜症・角膜潰瘍)投与前〜4回目まで毎回の眼科受診確認、細隙灯顕微鏡検査の実施状況確認
ゼヴァリン® イットリウム重度骨髄抑制血球数の定期モニタリング、放射線被曝管理(密接接触者への注意指導)
アキャルックス®頸動脈出血・腫瘍出血、皮膚光感受性反応レーザ照射後の光曝露制限の説明、出血兆候の患者教育

「バイスタンダー効果」とは

ADCの注目すべき特性のひとつが「バイスタンダー効果(Bystander Effect)」です。ADCがリソソーム内でリンカーを切断されて放出されたペイロードの一部は、膜透過性を持つ場合、細胞外に漏出して周囲の細胞にも作用します。この際、標的抗原を発現していない隣接がん細胞にも殺傷効果が及ぶことがあります。

これが特に重要なのがエンハーツ®です。HER2の発現が低い(1+や2+/ISH陰性)あるいは超低発現(IHC 0で一部陽性細胞あり)の乳がんに対しても有効性が示された背景には、このバイスタンダー効果の寄与が大きいと考えられています。バイスタンダー効果が高いペイロードは有効性を高める一方で、非標的細胞への毒性(副作用)の一因にもなります。

患者説明トーク(Q&A)

Q:ADCという薬の名前を聞いたのですが、普通の抗がん剤とどう違うんですか?

ADCは「抗体薬物複合体」といって、がん細胞の目印(抗原)を認識する抗体と、がん細胞を直接攻撃する薬剤(抗がん剤)を組み合わせた新しいタイプの薬です。簡単にいうと「がん細胞に抗がん剤を運ぶミサイル」のようなイメージです。抗体がお目当てのがん細胞にくっついてから薬剤が放出されるため、正常な細胞への影響を抑えながら、がん細胞により直接的に強力に作用できるよう設計されています。

Q:エンハーツ®の治療中に注意することはありますか?

特に気をつけていただきたいのは「間質性肺疾患」という肺の炎症です。発生頻度はそれほど高くないですが、重くなると危険なため、乾いた咳が続く・息が切れる・動いたときに息苦しいといった症状が出たら、次の診察を待たずにすぐに病院に連絡してください。また、吐き気や脱毛も出やすい薬ですので、制吐薬を処方されている場合はしっかり服用してください。気になることがあればいつでもご相談ください。

Q:テブダック®の治療を始めるにあたって、目の管理が必要と聞いたのですが?

はい、テブダック®(チソツマブ ベドチン)は目に影響が出ることがある薬剤で、場合によっては視力に影響することもあるため、治療前と治療中に眼科の先生にも診ていただくことが大切です。点眼薬が処方されている場合は毎回きちんと使ってください。また、コンタクトレンズは治療期間中は使用を控えるよう指示される場合があります。目がごろごろする・充血する・見えにくいといった症状が出たらすぐに担当医に知らせてください。

まとめ

  • ADCは「抗体」「リンカー」「ペイロード」の3要素で構成される、がん細胞標的型の革新的抗がん剤カテゴリー
  • 日本では2005年のマイロターグ®から始まり、2025年5月時点で狭義のADC11品目、広義のADC関連薬(放射免疫複合体・光免疫療法薬)を含めると14品目が承認済み
  • MMAEペイロード(アドセトリス®・ポライビー®・パドセブ®・テブダック®)の共通副作用は末梢神経障害。MMAFペイロードのブーレンレップ®ではILDではなく眼障害(角膜症)が最重要
  • DXdペイロード(エンハーツ®・ダトロウェイ®)ではILD(間質性肺疾患)、オゾガマイシン系(マイロターグ®・ベスポンサ®)では肝類洞閉塞症候群(SOS/VOD)が特に重要な管理ポイント
  • ゼヴァリン®(放射免疫複合体)はインジウム製剤で適格性確認→イットリウム製剤で治療という2段階プロセスが必須。アキャルックス®(光免疫療法薬)は点滴後にレーザ照射が必要な特殊な薬剤
  • テブダック®・ブーレンレップ®はいずれも眼障害が添付文書「警告」に記載され、投与前からの定期的な眼科管理が不可欠
  • 「どの標的→どのペイロード→どの副作用」という軸で整理しておくと、複数のADCを横断的に理解しやすい

参考情報

  • 各薬剤添付文書・インタビューフォーム(PMDA):マイロターグ®、カドサイラ®、アドセトリス®、ベスポンサ®、ゼヴァリン® インジウム/イットリウム、エンハーツ®、アキャルックス®、ポライビー®、パドセブ®、トロデルビ®、ダトロウェイ®、テブダック®、ブーレンレップ®
  • 武田薬品工業 プレスリリース「アドセトリス適応追加について」
  • 第一三共 プレスリリース「ダトロウェイ日本承認取得について」(2024年12月27日)
  • 第一三共 プレスリリース「エンハーツ HER2陽性固形がん承認取得について」(2026年3月23日)
  • 第一三共 プレスリリース「エンハーツ HR陽性HER2低発現/超低発現乳がん承認取得について」(2025年8月25日)
  • ジェンマブ プレスリリース「テブダック日本発売について」(2025年5月21日)
  • グラクソ・スミスクライン プレスリリース「ブーレンレップ日本承認取得について」(2025年5月19日)
  • グラクソ・スミスクライン プレスリリース「ブーレンレップ日本発売について」(2026年3月18日)
  • 楽天メディカルジャパン プレスリリース「アキャルックス日本承認取得について」(2020年9月25日)
  • PMDA 審議結果報告書「ブーレンレップ点滴静注用100mg」(令和7年4月25日)
  • 厚生労働省 医薬安発・薬審発 事務連絡「チソツマブ ベドチン製剤の使用にあたっての留意事項について」(令和7年3月27日)
  • AnswersNews「次世代抗体の本格的な普及期に…ADCと二重特異性抗体」(2025年4月)
  • 国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部「抗体薬物複合体」承認品目リスト

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