
『みなさん、こんにちは。今回は2025年11月に新たに発売されたインフルエンザウイルス感染症治療薬「ゾフルーザ顆粒2%分包」について、簡単にまとめました。』
はじめに:ゾフルーザ顆粒2%分包とは
インフルエンザは、A型・B型インフルエンザウイルスによる急性呼吸器感染症であり、毎年冬季を中心に流行を繰り返す疾患です。国内ではしばしば大規模な流行が起こり、学齢期の児や高齢者、基礎疾患を有する方では重症化リスクが高いことが知られています。典型的な症状は、突然の高熱、悪寒、倦怠感、頭痛、筋肉痛・関節痛、咽頭痛、咳などで、学校・職場・家庭といった集団生活の場を通じて急速に広がります。
インフルエンザの治療では、ノイラミニダーゼ阻害薬やキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬といった抗インフルエンザウイルス薬が用いられますが、服薬回数や剤形の制約から、小児や嚥下困難な患者さんでは十分に使いこなせない場面もありました。ゾフルーザ(一般名:バロキサビル マルボキシル)は、インフルエンザウイルスの「mRNA合成」を標的とするキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬として2018年に錠剤が登場し、「1回内服で治療を完結できる」点が大きな特徴です。
今回新たに発売されたゾフルーザ顆粒2%分包は、同じ有効成分を含有する内用顆粒製剤であり、小児や錠剤の嚥下が難しい患者さんにも使用しやすい剤形として開発されました。特に、従来は錠剤での投与が難しかった低年齢児や体重10kg未満の小児まで投与対象が拡大されたことにより、「ゾフルーザ顆粒 特徴」「ゾフルーザ顆粒 作用機序」といった観点からも、今後の日常診療での活用が期待される薬剤です。
製品概要
- 商品名:ゾフルーザ顆粒2%分包
- 一般名:バロキサビル マルボキシル
- 薬効分類:抗インフルエンザウイルス剤
- 製剤・規格:顆粒剤 2%分包(1包500mg中 バロキサビル マルボキシル10mg含有)
- 製造販売元:塩野義製薬株式会社
- 効能・効果:A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の治療及びその予防
- 製造販売承認取得日:2025年9月19日(顆粒製剤および小児用量追加)
- 薬価基準収載日:2025年11月12日
- 発売日:2025年11月12日
- その他:治療目的で使用した場合のみ保険給付対象(予防投与は自費負担に留意)
作用機序と特徴
バロキサビル マルボキシルはプロドラッグであり、体内で加水分解されて活性体(S-033447)となった後に、インフルエンザウイルス特有の酵素である「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ」を選択的に阻害します。この酵素は、ウイルスが宿主mRNAのキャップ構造を“盗む(cap-snatching)”ことで自身のmRNA合成を行う際に必須の酵素です。本剤はこのプロセスをブロックすることで、ウイルスmRNAの産生を抑制し、ウイルス増殖そのものを抑えます。
ノイラミニダーゼ阻害薬が「増えたウイルスの放出・拡散」を抑えるのに対し、バロキサビルは「ウイルス増殖段階のもっと上流」を標的とする点が特徴であり、ウイルス力価の低下が早いことが報告されています。これにより、症状の持続時間短縮だけでなく、周囲への感染性低下にも寄与する可能性が示唆されています。
ゾフルーザ顆粒2%分包の主な特徴は以下のとおりです。
- キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害による新規機序の抗インフルエンザウイルス薬であること
- 体重別の用量設定に基づく「単回経口投与」で治療が完結すること
- 顆粒製剤であり、小児や嚥下困難な患者にも投与しやすいこと
- 治療のみならず「インフルエンザ発症予防(暴露後予防)」にも使用可能なこと
- 一方で、低感受性株(I38変異など)の出現や地域社会への伝播が懸念されており、小児への安易な投与拡大は慎重に行うべきとされていること
添付文書の警告でも、「体重20kg未満の小児への投与は、他剤の使用を十分検討したうえで必要性を慎重に判断すること」が明記されており、バロキサビル マルボキシルの作用機序の特性と耐性リスクを踏まえた適正使用が重要です。
効能・効果・適応症
ゾフルーザ顆粒2%分包の効能・効果は以下の通りです(添付文書記載のまま)。
効能・効果:
A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の治療及びその予防
なお、10mg錠は「治療」のみ、20mg錠および顆粒2%分包は「治療および予防」の両方に適応を有している点が整理ポイントです。
用法・用量と投与時の注意点
ゾフルーザ顆粒2%分包の用法・用量は以下の通りです(顆粒製剤に関する部分を抜粋)。
治療時の用法・用量(単回経口投与)
通常、以下の用量を単回経口投与する。
- 成人および12歳以上の小児
・体重80kg以上:顆粒8包(バロキサビル マルボキシルとして80mg)
・体重80kg未満:顆粒4包(同40mg) - 12歳未満の小児
・体重40kg以上:顆粒4包(40mg)
・体重20kg以上40kg未満:顆粒2包(20mg)
・体重10kg以上20kg未満:顆粒1包(10mg)
・体重10kg未満:顆粒50mg/kg(バロキサビル マルボキシルとして1mg/kg)
予防時の用法・用量(単回経口投与)
通常、以下の用量を単回経口投与する。
- 成人および12歳以上の小児
・体重80kg以上:顆粒8包(80mg)
・体重80kg未満:顆粒4包(40mg) - 12歳未満の小児
・体重40kg以上:顆粒4包(40mg)
・体重20kg以上40kg未満:顆粒2包(20mg)
(2025年11月時点では、予防での10kg以上20kg未満・10kg未満への用量設定は治療と異なる場合があるため、最新の添付文書を必ず確認する)
用法・用量に関連する主な注意点
- 治療は症状発現後できるだけ早期(通常48時間以内)に開始することが望ましい。
- 予防投与は、インフルエンザ患者との接触後2日以内に開始することが推奨されており、1回服用後10日を超える予防効果は確認されていない。
- 10mg錠と20mg錠・顆粒2%分包の生物学的同等性は示されていないため、10mg用量を投与する際は顆粒を使用し、20mg以上の用量では10mg錠を用いないなど、剤形ごとの使い分けが必要である。
- 本剤の投与によりインフルエンザが完全に治癒するわけではなく、細菌性二次感染が疑われる場合は適切な抗菌薬投与を検討する。
相互作用・代謝経路
ゾフルーザ顆粒2%分包(バロキサビル マルボキシル)は、添付文書上、相互作用(10.2 併用注意)としてワルファリンのみが明記されています。その他の抗凝固薬・抗血小板薬との具体的な相互作用は添付文書には列挙されていませんが、出血関連の安全性情報から、臨床的には注意が望まれます。
ワルファリンとの併用(併用注意)
- 併用後にプロトロンビン時間(PT)の延長が報告されており、出血(血便、鼻出血、血尿など)があらわれる可能性がある。
- 機序は明確ではないものの、非臨床試験ではビタミンK不足下でPT・APTT延長が認められており、ビタミンK依存性凝固因子への影響が示唆される。
- ワルファリン服用中の患者にゾフルーザ顆粒を投与する場合には、出血症状の有無を慎重に観察し、必要に応じてPT-INR測定間隔の調整や用量調整を検討する。
代謝経路の概要
- バロキサビル マルボキシルは、小腸・血液・肝臓中のエステラーゼにより速やかに活性体へ加水分解される。
- 活性体は主としてUGT1A3によるグルクロン酸抱合、CYP3Aによる酸化などで代謝される。
- 放射性試験では投与量の約8割が糞中、約1〜2割弱が尿中へ排泄される。
ただし、UGT1A3やCYP3Aの阻害薬・誘導薬との具体的な併用注意は添付文書上には記載されておらず、現時点で臨床的に問題となるレベルの相互作用は明確ではありません。実臨床では、ワルファリン併用時の出血リスクに特に注意しつつ、他の多剤併用状況も含め総合的に観察することが重要です。
食事の影響について
バロキサビル マルボキシル40mgを空腹時および普通食摂取後に単回投与した試験では、食後投与で活性体のCmaxは約半分、AUCは約3分の2程度に低下することが示されています。一方で、国内外の第III相試験では食事条件を特に規定せず有効性が確認されていることから、添付文書上は「食事に関する特段の規定はなし」とされています。
現場での運用としては、
- 原則として食事の有無にかかわらず投与可能であるが、吸収低下を避けるためには可能であれば空腹時投与が望ましいと考えられること
- 二価金属イオン(カルシウム、マグネシウムなど)を多く含む食品・サプリメントや制酸剤を同時に摂取する場合、理論上はキレート形成による吸収低下の可能性があること
を踏まえ、「ゾフルーザ顆粒 特徴」として、単回投与であることを優先し、患者の服用しやすさに配慮しつつ、可能なら食前または食間での服用を検討するといった柔軟な指導が現実的です。
主な副作用と安全性情報
ゾフルーザ(錠剤・顆粒共通)の主な副作用としては、以下が報告されています。
- 消化器症状:下痢、悪心、嘔吐、腹痛など
- 肝機能検査値異常:AST・ALTの上昇など
- 頭痛、咽頭痛などの軽度の全身症状
一方、重要な安全性情報として特に留意すべき点は次の通りです。
- 出血傾向:血便、鼻出血、血尿など出血関連事象が市販後に一定数報告されており、「重要な特定されたリスク」として位置づけられている。ビタミンK不足があるとPT/APTT延長をきたす可能性があることから、新生児・乳児などビタミンK欠乏リスクが高い症例では特に注意。
- 異常行動:他の抗インフルエンザウイルス薬と同様、服用の有無や種類にかかわらず、インフルエンザ罹患時には小児・未成年者を中心に異常行動が報告されている。転落などの事故防止が重要。
- 耐性・低感受性ウイルス:特に小児でI38変異などの低感受性株出現が問題となっており、体重20kg未満の小児では安易な投与拡大を避けるべきとされている。
添付文書の【警告】には、
- 本剤投与の必要性を慎重に検討すること
- 体重20kg未満の小児には他の抗インフルエンザウイルス薬の使用を考慮したうえでとくに慎重に投与を検討すること
- 予防使用はワクチン接種に替わるものではないこと
などが明記されており、「便利な単回投与薬」である一方で、耐性や安全性を意識した慎重な運用が求められます。
処方時のチェックリスト(医師向け)
- インフルエンザの診断が臨床的・検査的に妥当か(細菌感染症や他疾患の可能性がないか)。
- 症状発現から48時間以内か、予防であれば患者との接触後2日以内かを確認したか。
- 患者の年齢・体重に応じたゾフルーザ顆粒2%分包の用量を正しく選択しているか。
- 体重20kg未満の小児に対して、オセルタミビル等の他剤との比較検討を十分行ったうえで、本剤投与の必要性を慎重に判断したか。
- 出血リスクのある基礎疾患(肝障害、血小板減少症など)やワルファリン服用の有無を確認したか。
- ワルファリン併用中の患者では、投与後のPT-INRモニタリング計画と出血時の対応を検討しているか。
- ワクチンによる予防が基本であり、本剤の予防投与は補助的手段であることを患者に説明したか。
- 小児・未成年患者では、異常行動に関する説明と家庭内での見守り体制について保護者へ指導したか。
- 「治療」として保険給付されること、予防使用時の保険適用(自費)の扱いについて、必要に応じて患者・家族に説明したか。
服薬指導のポイント(薬剤師向け)
- ゾフルーザ顆粒2%分包は単回投与で治療・予防が完結する薬であることを説明し、その1回を確実に服用してもらうよう強調する。
- 顆粒は水や少量の飲料・食物と混ぜて服用可能であるが、指示に従い確実に全量を摂取するよう説明する。
- 体重別の用量に基づいて分包数が決まるため、保護者に「全部で何包を1回で飲むのか」を具体的に確認してもらう。
- 可能であれば食前や食間など、医師の方針に沿った「飲むタイミング」を決めてもらい、飲み忘れを防ぐ。
- ワルファリン服用中の場合は、血便・黒色便、鼻出血、血尿、皮下出血などの出血症状に注意するよう説明する。
- 投与後数日してから出血が現れることもあるため、「薬を飲んだ翌日以降もしばらく様子を見て異常があれば受診する」よう伝える。
- インフルエンザ罹患時は薬の有無にかかわらず異常行動が起こりうること、そのため発熱後2日間程度は保護者の目の届く環境で過ごす重要性を説明する。
- ゾフルーザは細菌感染症には効かないこと、発熱や咳が長引く・悪化する場合は肺炎などの合併症を疑って再受診が必要であることを案内する。
- ワクチン接種は引き続き重要であり、「ゾフルーザを飲んだからワクチンが不要」という誤解を避けるよう説明する。
ケアポイント(看護師向け)
- 入院・外来を問わず、ゾフルーザ顆粒の投与前に体重と年齢を再確認し、分包数が適切かダブルチェックする。
- 小児・高齢者では、顆粒の溶解方法・飲ませ方を保護者・家族と共有し、誤飲や飲み残しがないようサポートする。
- 投与後は、出血症状(便の色、尿の色、鼻出血など)、皮下出血、倦怠感の変化などを観察し、異常があれば医師に速やかに報告する。
- 発熱後2日間は異常行動による転落・飛び出し事故などに十分注意し、自宅療養中の保護者には「目が届く環境で過ごす」よう再度伝える。
- 耐性・低感受性株の問題も踏まえ、「なんとなく毎回ゾフルーザ」という運用にならないよう、医師と相談しつつ症例ごとに薬剤選択の妥当性を確認する。
- ワルファリン等を併用している患者では、採血スケジュール(PT-INR測定)の調整や、出血徴候の観察ポイントをチーム内で共有する。
- 家庭内に高リスク患者(高齢者、妊婦、基礎疾患を持つ家族)がいる場合には、予防投与の適応やワクチン接種状況について、医師・薬剤師と連携しながら情報提供を行う。
- インフルエンザ流行期には、ゾフルーザ以外の抗インフルエンザ薬との違い(服薬回数・剤形・適応年齢など)も簡潔に説明できるよう準備しておく。
まとめ

『ゾフルーザ顆粒2%分包は、1回飲むだけで治療や予防ができて、小さなお子さんにも使いやすいお薬ですね。その分、低感受性ウイルスや出血のリスクにも気を配りながら、ワクチンや他のお薬とうまく組み合わせて、その子その人に合ったインフルエンザ対策を一緒に考えていけたらいいな、と思います。』