
『みなさん、こんにちは。今回は2025年11月に新たに発売された全身型重症筋無力症(gMG)治療薬「アイマービー」について、簡単にまとめました。』
はじめに:アイマービー点滴静注1200mgとは
重症筋無力症(MG:myasthenia gravis)は、自己免疫機序により神経筋接合部での神経伝達が阻害されることで、筋力低下や易疲労性が生じる疾患であり、日本では指定難病に指定されています。2024年度の特定医療費受給者証所持者数は28,323人と報告されており、その約80%が全身型MG(gMG)、残り20%ほどが眼筋型MGです。
MGは、自己抗体(抗AChR抗体・抗MuSK抗体など)が病態に深く関与しており、特にIgG抗体の病原性が重要と考えられています。標準治療としては、少量ステロイド、免疫抑制薬、抗コリンエステラーゼ薬などが用いられ、症状が改善しない場合には血液浄化療法(PE/DFPP)、免疫グロブリン静注(IVIg)、さらに新規の抗補体抗体製剤や抗FcRn抗体製剤が検討されます。
日本の診療ガイドラインでも、治療抵抗性MGや、効果の不十分な症例に対して新たな薬物療法が強く望まれており、長期的な症状改善と寛解導入を目的とした治療選択肢が求められていました。
アイマービー(一般名:ニポカリマブ)は、FcRn(新生児Fc受容体)を標的とした抗FcRnモノクローナル抗体製剤で、病原性IgGの選択的低下を目指す新しい作用機序の治療薬です。成人および12歳以上の小児に使用でき、2週間間隔で点滴投与することでIgG濃度を低下させ、症状改善を誘導します。新たな治療選択肢として、難治性MG領域での活用が期待されています。
製品概要
- 商品名:アイマービー点滴静注1200mg
- 一般名:ニポカリマブ(遺伝子組換え)
- 薬効分類:抗FcRnモノクローナル抗体製剤
- 製造販売元:ヤンセンファーマ株式会社
- 効能・効果:全身型重症筋無力症(ステロイド剤又はステロイド剤以外の免疫抑制剤が十分に奏効しない場合に限る)
- 承認取得日:2025年9月19日
- 薬価基準収載日:2025年11月12日
- 発売日:2025年11月12日
- ※300mg製剤:薬価収載済みだが未発売(2025年11月12日時点)
作用機序と特徴
アイマービー(ニポカリマブ)は、FcRn(新生児Fc受容体)に結合し、内因性IgGが細胞内でリサイクルされる仕組みを阻害することで、IgGのリソソーム分解を促進します。
● FcRnの役割
- IgGは血管内皮細胞などで取り込まれ、FcRnと結合することで分解から逃れ再放出される
- FcRn阻害によりIgGの再利用が阻害され、IgGは分解方向へ
● アイマービーの作用機序
- FcRnに高親和性で結合し、IgGのリサイクルをブロック
- 病原性自己抗体(抗AChR抗体などを含むIgG)も血中で低下
- IgG以外の免疫グロブリン(IgA、IgMなど)への影響は少ないとされる
従来治療で十分な改善が得られないgMG患者では、IgG自己抗体を標的としたFcRn阻害薬は作用機序的に理にかなった治療法であり、症状改善を目指す新たな選択肢となります。
効能・効果・適応症
効能・効果(添付文書記載そのまま):
全身型重症筋無力症(ステロイド剤又はステロイド剤以外の免疫抑制剤が十分に奏効しない場合に限る)
用法・用量と投与時の注意点
用法・用量(添付文書記載):
- 通常、成人および12歳以上の小児には、ニポカリマブとして初回に30mg/kgを点滴静注
- 以降は1回15mg/kgを2週間隔で点滴静注
投与に関わる注意点:
- 初回から24週までに症状改善が得られない場合、投与継続要否を検討
- IgGが低下するため、感染症の発症・悪化のリスクがある
- 治療中および終了後も定期的に血液検査(IgG、血球、炎症マーカー等)を行う
- 感染症徴候(発熱、咳、悪寒、傷の化膿など)があれば速やかに受診
- 点滴投与後のアレルギー反応に注意し、投与中は適切な観察が必要
相互作用・代謝経路
ニポカリマブは抗体製剤であり、CYP阻害や誘導を介した薬物相互作用はほとんどありません。しかし、IgGを低下させる作用から、以下の点が臨床的に重要な注意点となります。
● 相互作用(添付文書・インタビューフォームに基づく要点)
1. ワクチン
- IgG低下によりワクチンの効果が減弱する可能性
- 不活化ワクチン:接種可だが効果減弱に注意
- 生ワクチン:原則接種を避けること(免疫抑制状態によるリスク増大)
2. 免疫抑制剤
- ステロイド・タクロリムス・シクロスポリンなどとの併用は可能だが、感染症リスクが相加的に増加
- 白血球減少などが出現しやすい
3. 静注免疫グロブリン(IVIg)
- IVIgは大量IgGを投与する治療であり、FcRn阻害によるIgG低下が「相殺」される可能性
- 併用する場合は投与計画を慎重に調整する必要がある
4. 血漿交換(PE)・免疫吸着(IA)
- IgGが直接除去される治療であり、本剤の効果持続が短縮
- タイミングによっては効果が大きく変動
※CYP阻害/誘導・P-gp・BCRPなどの取り扱い:
抗体医薬品のため、これらによる薬物相互作用は基本的にありません。
● 代謝経路
- 通常の抗体医薬品と同様、網内系での分解が主体
- 腎排泄や肝代謝酵素によるクリアランスは主要経路ではない
- 半減期は中等度で、2週間隔投与が薬物動態的に適する
食事の影響について
点滴静注製剤のため、食事の影響は受けません。 ただし、治療開始前後の体調管理(発熱・感染症徴候を避けるための生活指導)は重要です。
主な副作用と安全性情報
- 感染症(最重要):上気道感染、肺炎、尿路感染など
- IgG低下:免疫低下により細菌/ウイルス感染症リスク増大
- 頭痛、倦怠感、悪心:比較的高頻度
- 注射部位反応:疼痛、発赤、腫脹など
- アレルギー反応:投与中の観察が必要
- 貧血・白血球減少:定期的な血液検査が必要
添付文書の【重要な基本的注意】では、 「治療期間中および治療終了後も、IgG低下による感染症に十分注意し、異常時は速やかに受診」 と明記されています。
処方時のチェックリスト(医師向け)
- gMGであり、既存の免疫抑制治療で十分な効果が得られていないか
- 成人または12歳以上であるか
- IgG低下による感染リスクについて説明し、同意を得ているか
- ワクチン接種計画(生ワクチン回避など)を確認したか
- IVIg・PE/IAなど急性治療とのスケジュール調整を行ったか
- 投与前にIgG・白血球・CRP・肝腎機能などの検査を実施したか
- 投与中も適切なタイミングで血液検査を行う計画を立てたか
- 感染兆候(発熱、咳、化膿など)への初期対応の指示を患者へ行ったか
- 2週間隔の点滴通院が可能か確認したか
服薬指導のポイント(薬剤師向け)
- IgG低下→感染しやすくなる点を丁寧に説明
- 発熱・咳・喉の痛み・傷の悪化などあれば早期受診を促す
- ワクチン接種(特に生ワクチン)に関して医師へ必ず確認させる
- IVIg併用やPEなどとスケジュールが重ならないよう注意喚起
- 通院間隔が2週間であること、点滴時間がある程度かかることを説明
ケアポイント(看護師向け)
- 投与前後のバイタル・症状(感染徴候)の観察
- 点滴中のアレルギー反応、血管痛、血圧低下などに注意
- 治療後のIgG低下に伴う感染管理(手洗い・マスクなど)を指導
- 体調変化(倦怠感、悪心、微熱、咳)を見逃さないよう声かけ
- 2週間隔の受診スケジュールを共有し、通院支援が必要か確認
- IVIg・PEなど別治療の計画と重複しないよう部門間で情報共有
まとめ

『アイマービーは、重症筋無力症でお悩みの方に、新しい治療の選択肢を提供してくれるお薬なんですね。感染症にはちょっと気をつけないといけませんが、一人ひとりの症状に寄り添いながら、より安心して過ごせる毎日につないでいけたら…そんなふうに思います。』