タシグナカプセル(ニロチニブ)の特徴・作用機序

開発の経緯について
 慢性骨髄性白血病(CML)は、染色体相互転座によって形成される BCR-ABL融合遺伝子の産物であるBcr-Ablチロシンキナーゼが、造血幹細胞において異常な細胞増殖を引き起こす白血病のひとつである。
 従来、CML治療にはBcr-Ablチロシンキナーゼインヒビター(TKI)であるイマチニブメシル酸塩(以下、イマチニブ)が第一選択薬として広く用いられ、臨床効果及び長期予後の改善が報告されてきた。しかし、イマチニブによる治療を受けても十分な効果が得られない患者、病期進行が認められる患者や不耐容のため継続あるいは標準用量の投与が困難な患者、すなわちイマチニブ抵抗性又は不耐容の存在も顕在化してきた。したがって、初発の慢性期のCML患者の予後のさらなる向上のためには、初回の薬物治療により、イマチニブ抵抗性又は不耐容となる患者の割合を低下させることが重要だと考えられている。ニロチニブ塩酸塩水和物(販売名:タシグナ)は、Bcr-Ablチロシンキナーゼに対する親和性の向上を目的として分子設計されたTKIである。タシグナは、本邦では2007年3月に希少疾病用医薬品の指定を受け、タシグナカプセル200mgが2009年1月に「イマチニブ抵抗性の慢性期又は移行期の慢性骨髄性白血病」を適応症として承認を取得した。
 初発の慢性期のCMLに対しては、日本を含む国際共同第Ⅲ相試験において、主要評価項目である治療開始12ヵ月時点のMMR達成率に関し、タシグナが標準治療薬であるイマチニブを上回り、安全性プロファイルも良好であった。本邦では2010年12月に「慢性期又は移行期の慢性骨髄性白血病」を新効能としてタシグナカプセル200mgの承認事項一部変更承認並びにタシグナカプセル150mgの製造販売承認を取得した。2017年9月に投与時の利便性や飲みやすさの向上と、CMLの小児患者に対する用法及び用量追加のために開発されたタシグナカプセル50mgの製造販売承認を取得した。

作用機序

 慢性骨髄性白血病患者においては、造血幹細胞内のBcr-Ablチロシンキナーゼが恒常的に活性化されており、基質となる蛋白質を過剰にリン酸化することによって細胞内シグナル伝達系が活性化され、細胞増殖経路及び抗アポトーシス経路が亢進されている。ニロチニブは、ATPと競合的に拮抗し、Bcr-Ablチロシンキナーゼを阻害することによって、Bcr-Abl発現細胞の細胞死を誘導する
 ニロチニブは、Bcr-Ablだけでなく、幹細胞因子(SCF)受容体のKIT及び血小板由来成長因子受容体(PDGFR)チロシンキナーゼを阻害するが、KIT及びPDGFRチロシンキナーゼの阻害作用はイマチニブと同程度であるのに対し、野生型Bcr-Ablにはイマチニブと比較して約30倍強力な阻害作用を有し、Bcr-Abl選択的に抗腫瘍作用を発揮する。Ablキナーゼとの共結晶構造解析の結果は、ニロチニブがイマチニブよりもAblキナーゼのATP結合部位のポケットに対し、より適した構造を有し、ニロチニブとAblキナーゼの結合には、変異による構造変化に影響を受け難い疎水性相互作用がより重要な役割を担うことを示している。ニロチニブは、イマチニブ抵抗性Bcr-Abl変異体発現細胞株33種のうちT315I変異体を除く32種に対し、細胞増殖を抑制する

製品情報

商品名タシグナカプセル50mg、150mg、200mg
一般名
(洋名)
ニロチニブ塩酸塩水和物
(Nilotinib Hydrochloride Hydrate)
発売年月日2009年3月13日
メーカーノバルティス ファーマ株式会社
名前の由来TA:target(標的分子=Bcr-Abl)
SIGNA:signal(白血病細胞の増殖シグナルを阻害)
ステムチロシンキナーゼ阻害剤:-tinib

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効能又は効果

慢性期又は移行期の慢性骨髄性白血病

警告
・本剤は、緊急時に十分対応できる医療施設において、造血器悪性腫瘍の治療に対して十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤の投与が適切と判断される症例についてのみ投与すること。また、本剤による治療開始に先立ち、患者又はその家族に有効性及び危険性を十分に説明し、同意を得てから投与を開始すること。
・本剤投与後にQT間隔延長が認められており、心タンポナーデによる死亡も報告されているので、患者の状態を十分に観察すること。
禁忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・妊婦又は妊娠している可能性のある女性

用法及び用量

 通常、成人にはニロチニブとして1回400mgを食事の1時間以上前又は食後2時間以降に1日2回、12時間毎を目安に経口投与する。ただし、初発の慢性期の慢性骨髄性白血病の場合には、1回投与量は300mgとする。なお、患者の状態により適宜減量する。
 通常、小児には体表面積に合わせて添付文書等に記載の投与量(ニロチニブとして1回約230mg/m2)を食事の1時間以上前又は食後2時間以降に1日2回、12時間毎を目安に経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。

注意
・イマチニブ抵抗性の慢性骨髄性白血病患者に対する本剤の投与は、イマチニブで効果不十分又はイマチニブに忍容性のない患者を対象とすること。
・食後に本剤を投与した場合、本剤の血中濃度が増加するとの報告がある。食事の影響を避けるため食事の1時間前から食後2時間までの間の服用は避けること。

代謝・代謝酵素について

 本剤は主に代謝酵素CYP3A4及び一部CYP2C8で代謝され、またP糖蛋白(Pgp)の基質であることから、本剤の吸収と消失はCYP3A4又はPgpに影響を及ぼす薬剤により影響を受けると考えられる。

食事の影響

 外国人健康成人48例(男性40例、女性8例)にニロチニブ400mgを食後(高脂肪食又は通常食)又は空腹時(一晩絶食後に投与し、さらに投与後4時間絶食)に単回経口投与し、ニロチニブのバイオアベイラビリティに対する食事の影響を検討した。ニロチニブを通常食摂取30分後及び2時間後に投与したときのCmaxは空腹時に比べてそれぞれ1.55倍及び1.33倍、AUC0-tは1.32倍及び1.19倍であった。また、高脂肪食摂取30分後に投与したときのCmax及びAUC0-tは空腹時に比べてそれぞれ2.12倍及び1.82倍であった。ニロチニブのバイオアベイラビリティは食事により増加し、高脂肪食でその影響は顕著であったことから、食事による影響を最小限にするため、ニロチニブは空腹時に投与し、少なくとも投与前2時間及び投与後1時間は食事の摂取を避ける必要があると考えられた。

副作用(抜粋)

 重大な副作用として、骨髄抑制、QT間隔延長、心筋梗塞、狭心症、心不全、末梢動脈閉塞性疾患、脳梗塞、一過性脳虚血発作、高血糖、心膜炎、出血、感染症、肝炎、肝機能障害、黄疸、膵炎、体液貯留、間質性肺疾患、脳浮腫、消化管穿孔、腫瘍崩壊症候群が認められている。

 その他、頻度の多い副作用として、発疹、掻痒感、脱毛症、皮膚乾燥、頭痛、筋骨格通、関節痛、悪心、嘔吐、便秘、下痢、ビリルビン増加、AST・ALT増加、疲労、リパーゼ増加などがある。

こちらのサイトは記載日時点の添付文書、インタビューフォームをまとめたものです。記載内容には十分な注意を払っておりますが、医療の情報は日々新しくなるため、誤り等がある場合がございます。参考にする場合は必ず最新の添付文書等をご確認ください。

情報更新日:2022年1月

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