
『みなさん、こんにちは。今回は2025年5月に新たに発売されたEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん治療薬「ラズクルーズ錠」について、簡単にまとめました。』
はじめに:ラズクルーズとは
ラズクルーズ(一般名:ラゼルチニブメシル酸塩水和物)は、2025年5月21日にヤンセンファーマ株式会社から新たに発売された、EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)を対象とする第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)です。非小細胞肺がんは全肺がんの約80~85%を占め、そのうち腺がんではアジア人を中心にEGFR遺伝子変異が約40〜50%の高頻度で認められています。特にEGFRエクソン19欠失変異やエクソン21 L858R変異は“ドライバー変異”として知られており、これらを標的としたEGFR-TKIが治療の中心となっています。
しかし、EGFR-TKIによる初回治療後も、時間経過とともに薬剤耐性の出現は避けられず、特に第3世代EGFR-TKIであるオシメルチニブをはじめとした標準治療後の治療抵抗例への対応が喫緊の課題となっていました。治療経過中の再発・進行や薬剤耐性メカニズムは多岐にわたり、個々の症例に最適な分子標的治療の選択が求められています。
ラズクルーズは、EGFRエクソン19欠失変異やエクソン21 L858R変異のみならず、耐性変異T790Mにも変異選択的に強く結合・阻害できる設計となっており、野生型EGFRへの作用が比較的低いことからオフターゲットによる有害事象も抑制されています。本剤はEGFRの細胞内チロシンキナーゼ領域に結合し、腫瘍細胞増殖シグナルを強力に遮断することで抗腫瘍効果を発揮します。
加えて、EGFR/METの細胞外ドメインを標的とするアミバンタマブ(遺伝子組換え)との併用により、2つの異なる機序でシグナル伝達を阻害する“デュアルブロック”治療が可能となりました。この併用療法により、EGFR-TKI単剤治療に比べて耐性出現リスクの低減や治療効果の持続が期待されています。また、深部静脈血栓症や肺塞栓症リスク対策として抗凝固薬(アピキサバン)の併用も推奨されており、治療全体を通じてきめ細かな安全管理が求められます。
このようにラズクルーズは、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対する新しい治療オプションとして、臨床現場における個別化医療・チーム医療の発展にも寄与する薬剤です。今後は、適切な遺伝子診断や副作用管理、患者指導とあわせて、多様な治療戦略の中で幅広く活用されることが期待されます。
製品概要
- 商品名:ラズクルーズ錠80mg、同錠240mg
- 一般名:ラゼルチニブメシル酸塩水和物
- 製造販売元:ヤンセンファーマ株式会社
- 薬効分類:抗悪性腫瘍剤/チロシンキナーゼ阻害剤
- 効能・効果:EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺癌
- 承認日:2025年3月27日
- 発売日:2025年5月21日
- 包装:80mg・240mg 各14錠(PTP)
作用機序と特徴
ラゼルチニブは、EGFRエクソン19欠失変異・エクソン21 L858R変異および耐性変異T790Mを含む活性型EGFRチロシンキナーゼを変異選択的に阻害します。EGFRの細胞内キナーゼドメインに結合し、EGFR遺伝子変異陽性腫瘍の増殖抑制作用を発揮します。アミバンタマブ(抗EGFR/MET抗体)との併用で、さらなる相加的抗腫瘍効果が期待されています。
効能・効果・適応症
EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺癌。
検査でEGFRエクソン19欠失変異またはエクソン21 L858R変異が確認された患者が対象です。
用法・用量と投与時の注意点
アミバンタマブ(遺伝子組換え)との併用において、通常、成人にはラゼルチニブとして240mgを1日1回経口投与します。副作用が発現した場合は160mg→80mgへ段階的に減量し、重篤な場合は休薬・中止します。投与開始後4カ月間は静脈血栓塞栓症予防のため、アピキサバン2.5mgを1日2回投与します。PTPシートは必ず取り出して服用するよう指導が必要です。
相互作用・代謝経路
主にグルタチオン抱合およびCYP3A4で代謝されます。CYP3A阻害薬(イトラコナゾールなど)併用時は血中濃度上昇、副作用増強リスクがあるため減量を考慮。CYP3A誘導薬(リファンピシン、フェニトインなど)は有効性低下リスクがあるため、可能な限り併用を避けます。BCRP基質薬(ロスバスタチン等)との併用にも注意が必要です。グレープフルーツやセイヨウオトギリソウは摂取を避けます。
食事の影響について
高脂肪食摂取時でも血中濃度への大きな影響はありません。食事の有無に関係なく服用可能です。
主な副作用と安全性情報
- 重篤な副作用:間質性肺疾患(1.2%)、肺炎(1.4%)、肺塞栓症(6.2%)、深部静脈血栓症(4.5%)、肝機能障害(31.8%)、重度の下痢(1.9%)、重度の皮膚障害(発疹17.1%、ざ瘡様皮膚炎8.3%)、心不全(1.0%)
- その他の副作用:発疹(68.4%)、爪囲炎(65.1%)、口内炎(39.4%)、ざ瘡様皮膚炎(31.4%)、皮膚乾燥(22.8%)、そう痒症(20.4%)、疲労、食欲減退、下痢(22.6%)、悪心、便秘、嘔吐、錯感覚(27.3%)など
副作用出現時はNCI-CTCAE v5.0に基づき休薬・減量・中止を行います。間質性肺疾患や静脈血栓塞栓症のリスクが高いため、症状が出た場合は直ちに受診・相談するよう患者指導が重要です。
処方時のチェックリスト(医師向け)
- EGFR遺伝子変異(エクソン19欠失・エクソン21 L858R)確認済みか
- 間質性肺疾患・静脈血栓塞栓症・心不全・肝障害など既往の有無確認
- 副作用発現時の減量・休薬・中止基準を確認
- アピキサバン併用(初回4か月)指示・管理
- 相互作用薬・併用薬(CYP3A/BCRP基質薬など)の確認
- 妊婦・授乳婦・生殖年齢女性への避妊指導
- PTPシートの誤飲防止指導
服薬指導のポイント(薬剤師向け)
- 副作用(発疹・下痢・肝機能障害・間質性肺疾患・血栓症等)の説明
- 異常時(呼吸困難、咳、発熱、皮膚異常、下肢浮腫・疼痛等)の早期受診指導
- 併用薬(CYP3A4/BCRP基質薬・グレープフルーツ等)の確認
- 食事の有無を問わず服用できること、PTPシートから取り出して服用
- 妊娠・授乳・避妊指導
- 定期的な肝機能・血液検査の重要性の説明
ケアポイント(看護師向け)
- 投与前後の副作用症状観察(特に間質性肺疾患・静脈血栓塞栓症)
- 皮膚・爪・口腔・消化器症状の観察とスキンケア
- 投与開始初期は入院・準ずる管理下で安全確認
- 定期的な検査(胸部画像・肝機能・凝固能等)の案内
- 患者・家族への副作用・生活指導・心理的サポート
まとめ

『ラズクルーズは、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対し、新たな作用機序と併用療法で治療の幅を広げる薬剤です。副作用管理とチーム医療で患者さんのQOL向上を目指したいですね。』