造血幹細胞移植(HSCT)や固形臓器移植(SOT)後はサイトメガロウイルス(CMV)感染の罹患率が高いことが知られており、臓器障害や高い死亡率を招くとともに、医療費の増大とも関連している。そのため、移植後の CMV 感染管理では、抗 CMV 治療薬によって血漿中 CMV DNAを検出不能なレベルまで低下させることにより、免疫抑制期間中の CMV 感染症への進行及び合併症の発症を抑制することが求められる。
リブテンシティ錠 200mg(以下、本剤)は、CMV の DNA 複製やカプシドの核外放出の過程で必要な UL97 遺伝子によりコードされるプロテインキナーゼを標的とし、その活性を阻害することで CMV の複製過程を阻害する抗 CMV 治療薬である。
本剤の臨床試験は、海外で先行して開始され、米国では既存の抗 CMV 治療に難治性又は抵抗性の CMV 感染/感染症を有するHSCT 又は SOT 患者を対象とした海外第Ⅲ相検証試験(SHP620-303 試験)の結果に基づき、「ガンシクロビル、バルガンシクロビル、cidofovir※1又はホスカルネット※2 による治療に難治性(遺伝子型耐性の有無を問わない)の移植後 CMV 感染/CMV 感染
症を有する成人及び小児患者(12 歳以上、体重 35kg 以上)の治療」の効能又は効果で 2021 年 11月に承認を取得した。
また、欧州では「ガンシクロビル、バルガンシクロビル、cidofovir※1又はホスカルネット※2を含む 1 種類以上の前治療に抵抗性及び/又は難治性の移植後 CMV 感染及び/又は感染症を有する成人患者の治療」の効能又は効果で 2022 年 11 月に承認を取得し、英国及びカナダ等においても、既存治療に難治性の CMV 感染/感染症に対する治療薬として承認されている(英国:2022 年 11月承認、カナダ:2022 年 9 月承認)。
国内では、CMV 感染/感染症を有する日本人の HSCT 又は SOT 患者を対象とした国内第Ⅲ相試験(TAK-620-3001 試験)を実施し、本剤の有効性、安全性が検討され、海外第Ⅲ相検証試験(SHP620-303 試験)の結果も踏まえ、医薬品製造販売承認申請を行い、2024 年 6 月に成人において「臓器移植(造血幹細胞移植も含む)における既存の抗サイトメガロウイルス療法に難治性のサイトメガロウイルス感染症」を効能又は効果として承認を取得した。
※1:本邦未承認薬、※2:SOT 患者に対する適応は本邦承認外
作用機序
サイトメガロウイルス(CMV)は、ヒトの宿主細胞に吸着して侵入すると、ウイルス DNA が核内へ放出され、ウイルス合成機能によって複製される。複製された DNA はカプシドに封入され、核外に放出された後、テグメントやエンベロープといった構造を獲得し、完全な CMV となって細胞外へ放出され、他の細胞へと感染が広がる。
マリバビルは、CMV の増殖に必須である UL97 プロテインキナーゼを阻害することで、ウイルス DNA の複製 、カプシド形成、形成されたカプシドの核外放出など、CMV の複製過程における複数の段階に作用し、CMV の増殖を抑制する。
製品情報
商品名 | リブテンシティ錠200mg |
一般名 (洋名) | マリバビル (Maribavir) |
承認年月日 | 2024年6月24日 |
発売年月日 | 2024年8月28日 |
メーカー | 武田薬品工業(株) |
名前の由来 | “Living with Tenacity”を示唆する造語 |
ステム | VIR:抗ウイルス剤 |
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効能又は効果
臓器移植(造血幹細胞移植も含む)における既存の抗サイトメガロウイルス療法に難治性のサイトメガロウイルス感染症
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・ガンシクロビル又はバルガンシクロビルを投与中の患者
・リファンピシン又はセイヨウオトギリソウ(St. John’s Wort、セント・ジョーンズ・ワート)含有食品を投与中の患者
用法及び用量
通常、成人にはマリバビルとして1回400mgを1日2回経口投与する。
強い又は中程度のCYP3A4誘導剤(リファンピシン及びセイヨウオトギリソウ含有食品を除く)と本剤との併用は避け、代替薬への変更を考慮すること。併用が避けられない場合は、マリバビルとして1回1,200mgまでの増量(1日2回経口投与)を考慮すること。
代謝・代謝酵素について
マリバビルは主に肝臓において代謝される。
主な代謝経路は、肝臓中の CYP3A4 を介した酸化的脱アルキル化であり、これにより主要代謝物として薬理学的に不活性な VP 44469 が生成される。また、CYP1A2 も VP 44469 の生成に関与している可能性があり、in vitro 試験の結果から、ヒトにおけるマリバビルの CYP 代謝には CYP3A4が約 70~85%、CYP1A2 が約 15~30%寄与すると考えられる。
一方、ヒトにおけるマリバビルのグルクロン酸抱合には複数の UGT(UGT1A1、UGT1A3、UGT2B7及び UGT1A9)が関与することが示されているが、in vitro 試験の結果から、ヒトにおいてグルクロン酸抱合はマリバビルの主要な代謝経路でないと考えられた。
食事の影響
健康成人(30例)にマリバビル400mgを単回経口投与したとき、高脂肪食後投与の空腹時投与に対するCmax、AUC∞及びAUClastの最小二乗幾何平均値の比は、それぞれ0.716、0.878及び0.874であった。また、低脂肪/低カロリー食後投与の空腹時投与に対するCmax、AUC∞及びAUClastの最小二乗幾何平均値の比は、それぞれ0.766、0.847及び0.841であった (外国人データ)。
副作用(抜粋)
主な副作用(発現頻度 10%以上)は、味覚障害、悪心、嘔吐、下痢、疲労である
情報更新日:2024年8月