フェトロージャ点滴静注用(セフィデロコルトシル酸塩硫酸塩水和物)の特徴・作用機序

開発の経緯について
 β-ラクタム系抗生物質に対するグラム陰性菌の主要な耐性機序は、β-ラクタマーゼによる抗生物質の不活化、ポーリンの変異による外膜透過性の低下、及び排出ポンプの発現亢進による菌体内からの抗生物質排出の増加である。フェトロージャ点滴静注用 1g(一般名:注射用セフィデロコルトシル酸塩硫酸塩水和物)は、塩野義製薬株式会社が創製した新規の注射用シデロフォアセファロスポリン系抗生物質であり、これらの耐性機序への対応を目指し、開発された。
 本剤は、抗菌薬耐性グラム陰性菌に対する活性を高めるため、いくつかの特有の分子構造特性を有している。第三~第四世代のセファロスポリン系抗生物質であるセフタジジムやセフェピムは、クラス C のセファロスポリナーゼである AmpC や基質拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)を含む様々なβ-ラクタマーゼに対する高い安定性により、グラム陰性菌に対して良好な活性を示す。本剤は、これらの抗生物質と同様の安定性を得るため、セフェピムと同様に 3 位にピロリジニウム基を、セフタジジムと同様に 7 位側鎖にカルボキシプロピルオキシイミノ基を有している。更に本剤は、カルバペネマーゼに対するさらなる安定性獲得のため、3 位側鎖にカテコール基を有している。
 また、グラム陰性菌の薬剤耐性機序として、β-ラクタマーゼによる抗生物質の不活化の他に、ポーリンの変異や排出ポンプ過剰産生がある。これらの機序は、β-ラクタマーゼの過剰産生等と相乗的に働いてβ-ラクタム系抗生物質に対する耐性を引き起こすため、高度耐性株においてはこれらの耐性機序を同時に獲得していることが多い。本剤は、グラム陰性菌の能動的鉄輸送システムを介して細胞外膜を通過することでこの耐性機序を克服することを目指し、3 位側鎖のカテコール基がシデロフォアとして機能し、3 価鉄と錯体を形成するよう設計された。
本剤は、米国で 2019 年 11 月に「18 歳以上の患者における、グラム陰性菌による腎盂腎炎を含む複雑尿路感染症治療」を適応症として申請、承認(販売名:FETROJA)され、2020 年 9 月に「18 歳以上の患者における、グラム陰性菌による院内肺炎治療」の適応症が追加された。欧州連合(EU)及び英国では 2020 年 4 月に感染部位を限定しない「成人患者における、治療選択肢が限定されるグラム陰性菌による感染症治療」を適応症として申請、承認(販売名:Fetcroja)された。
 本邦では、2023 年 11 月に「〈適応菌種〉セフィデロコルに感性の大腸菌、シトロバクター属、肺炎桿菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア・マルセスセンス、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、緑膿菌、バークホルデリア属、ステノトロホモナス・マルトフィリア、アシネトバクター属 ただし、カルバペネム系抗菌薬に耐性を示す菌株に限る。〈適応症〉各種感染症」を効能・効果として製造販売承認を取得した。
 また、本剤は希少疾病用医薬品として 2022 年 3 月 29 日に指定され、再審査期間は 10 年である。

作用機序

 セフィデロコルは 3 位側鎖に 3 価鉄と結合できるシデロフォア構造を有するセファロスポリンであり、ポーリンチャネルを介する受動拡散と、鉄取り込み系を介する能動輸送により外膜からペリプラズム内に取り込まれ、ペニシリン結合蛋白に結合することで細胞壁合成を阻害する。本薬は Ambler クラス A~D のβ-ラクタマーゼに対する安定性を有する。

製品情報

商品名フェトロージャ点滴静注用1g
一般名
(洋名)
セフィデロコルトシル酸塩硫酸塩
(Cefiderocol Tosilate Sulfate Hydrate)
承認年月日2023 年 11 月 30 日
発売年月日2023 年 12 月 20 日
メーカー塩野義製薬株式会社
名前の由来フェトロージャ(Fetroja)=Fe(鉄)+Trojan horse(トロイの木馬)
ステム抗生物質、セファロスポリン酸誘導体:cef

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効能又は効果

〈適応菌種〉
セフィデロコルに感性の大腸菌、シトロバクター属、肺炎桿菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア・マルセスセンス、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、緑膿菌、バークホルデリア属、ステノトロホモナス・マルトフィリア、アシネトバクター属

ただし、カルバペネム系抗菌薬に耐性を示す菌株に限る。

〈適応症〉
各種感染症

警告
本剤の耐性菌の発現を防ぐため、下記を熟読の上、適正使用に努めること。
・感染症の治療に十分な知識と経験を持つ医師又はその指導の下で行うこと。
・使用にあたっては、原則として感受性を確認し、疾病の治療上必要な最小限の期間の投与にとどめること。
禁忌
・本剤の成分に対し重篤な過敏症の既往歴のある患者
・他のβ-ラクタム系抗生物質に対し重篤な過敏症(アナフィラキシー等の重度の全身性アレルギー反応)の既往歴のある患者

用法及び用量

通常、成人には、セフィデロコルとして1回2gを8時間ごとに3時間かけて点滴静注する。なお、腎機能に応じて適宜増減する。

注意
腎機能障害のある患者では、添付文書記載の基準を目安に用法・用量を調節すること。

代謝・代謝酵素について

 ヒト肝細胞を用いた in vitro 試験において、セフィデロコルはほとんど代謝されなかった。代謝物として、セフィデロコルカテコール 3-メトキシが同定され、分解生成物として、pyrrolidine chlorobenzamide(PCBA)及び aminothiazole amide aldehyde(ATAA)が同定された。また、PCBA の代謝物(推定)も検出された。
 健康成人男性 6 例に [14C]-セフィデロコル 1 gを 1 時間かけて※単回点滴静注したとき、血漿中では主にセフィデロコル未変化体が検出された(総放射能 AUC の 92.3%)。総放射能の AUC0-16 に対する分解生成物である PCBA の AUC0-16 の割合は、4.70%であり、その他の代謝物はいずれも、総放射能の AUC0-16 に対して 2%未満であった(外国人データ)。

食事の影響

該当データなし

副作用(抜粋)

 重大な副作用:ショック、アナフィラキシー、偽膜性大腸炎、肝機能障害、痙攣、てんかん発作、好中球減少症があらわれることがある。

 その他1%以上の報告がある副作用は、ALT上昇、γ-GTP上昇、下痢などがある。

こちらのサイトは記載日時点の添付文書、インタビューフォームをまとめたものです。記載内容には十分な注意を払っておりますが、医療の情報は日々新しくなるため、誤り等がある場合がございます。参考にする場合は必ず最新の添付文書等をご確認ください。

情報更新日:2024年1月

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