レクビオ皮下注(インクリシラン)の特徴・作用機序

開発の経緯について
 レクビオ(一般的名称:インクリシランナトリウム)は、プロ蛋白質転換酵素サブチリシン/ケキシン 9 型(PCSK9)蛋白質をコードする mRNA を標的とした低分子干渉リボ核酸(siRNA)製剤である。
 『脂質異常症改善薬の臨床評価に関するガイドライン 2020』では、「脂質異常症を治療する主たる目的は脳心血管イベントの抑制であり、それらが原因となる死亡を防ぐことである」とされている。低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)高値と心血管イベント発症には関連が認められており、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)予防のため LDL-C を管理することが重要とされているが、LDL-C 低下を目的とした薬物療法として、第一選択薬であるスタチンをはじめ、複数の脂質低下療法が利用可能であるにもかかわらず、LDL-C を管理目標値まで低下させることが困難な患者が一定数存在するのが現状である。国内の診療情報データを用いた調査研究(調査期間:2018 年 7 月~2021 年 6 月)において、二次予防患者の LDL-C 管理目標値達成率は、目標値が 70mg/dL 未満のより厳格な管理が必要と考えられる患者で 25.4%、100mg/dL 未満の患者で 60.6%、また一次予防高リスク患者の LDL-C 管理目標値(120mg/dL 未満)達成率は 65.5%であったことが報告されている。管理目標値達成のためには、服薬アドヒアランスの改善が課題のひとつであり『動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022 年版』では、「薬剤の処方にあたっては、服薬回数をできるだけ少なくし、食前後などの服薬タイミングもできる限り煩雑とならないように配慮する。」とされている。これらのことから、持続的な LDL-C 低下効果及び服薬回数が少なく良好なアドヒアランスが見込める新たな治療法が望まれていた。
 レクビオは持続型 LDL コレステロール低下 siRNA 製剤であり、肝細胞内に取り込まれた後、細胞質内に放出され、PCSK9 mRNA の分解を促進することにより PCSK9 の発現を低下させる。このような作用機序から、レクビオの投与により、LDL 受容体の発現を増加させ、LDL の取り込みが促進することで、血中 LDL-C 値が低下することが期待される。また、レクビオは初回、3 ヵ月後、以降 6 ヵ月に 1 回の間隔で医療従事者により投与される薬剤であるため、患者への投与頻度の負担軽減や患者の服薬遵守率に依存しない医療従事者による確実性の高い投与が期待できる。以上より、レクビオは日本の高コレステロール血症患者でのLDL-C値の管理に貢献するものと考えられることから、日本においてスタチン治療下で効果不十分又はスタチンによる治療が適さない家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症患者を対象とする臨床開発が着手された。
 海外においては、欧州では 2020 年 12 月に「原発性高コレステロール血症(家族性ヘテロ接合体及び非家族性)及び混合型脂質異常症」、米国では 2021 年12 月に「HeFH 及び ASCVD の既往を有する高コレステロール血症」を効能又は効果として承認された。米国では 2023 年 7 月に、ASCVD の既往がないものの心血管イベントの発現リスクが高い患者も新たに投与対象に追加され、効能又は効果が「HeFH を含む LDL-C 高値の原発性高脂血症」に変更された。
 2023 年 7 月現在、80 超の国又は地域で承認を取得している。国内においては、国内第 II 相臨床試験(ORION-15)を実施し、日本人における有効性・安全性を検討した上で承認申請を行い、2023 年 9 月、「家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症」を効能又は効果注)として承認を取得した。

作用機序

 インクリシランナトリウムは、PCSK9 mRNA を標的とした二本鎖の siRNA であり、センス鎖に結合する 3 分岐型GalNAc を介して肝臓に取り込まれ、肝臓の PCSK9 mRNA の分解を促進する。これにより、肝細胞上の LDL 受容体の発現は増加し、LDL の取り込みが促進され、血中 LDL コレステロール値は低下する 。

製品情報

商品名レクビオ皮下注300mgシリンジ
一般名
(洋名)
インクリシランナトリウム
(Inclisiran Sodium)
承認年月日2023 年 9 月 25 日
発売年月日2023 年 11 月 22 日
メーカーノバルティスファーマ株式会社
名前の由来LEQVIO は以下の要素を由来としている。
・この製品を通じて(VIO)
・LDL を正常レベルに戻す(LDL Equilibrium)
ステムsmall interfering RNA:-siran

[こちらも参照:ステムで薬の名前を暗記!【一覧リスト】薬が覚えられない人必見!]

効能又は効果

家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症
ただし、以下のいずれも満たす場合に限る。
・心血管イベントの発現リスクが高い
・HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分、又はHMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない

禁忌
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

用法及び用量

通常、成人にはインクリシランナトリウムとして1回300mgを初回、3ヵ月後に皮下投与し、以降6ヵ月に1回の間隔で皮下投与する。

注意
HMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない場合を除き、HMG-CoA還元酵素阻害剤と併用すること。

代謝・代謝酵素について

インクリシランはヌクレアーゼ(エキソヌクレアーゼ及びエンドヌクレアーゼ)による加水分解を介して代謝される。

食事の影響

該当データなし

副作用(抜粋)

主な副作用として、注射部位反応(注射部位疼痛、注射部位紅斑、注射部位発疹等)5%以上、肝機能障害 5%未満が報告されている。

こちらのサイトは記載日時点の添付文書、インタビューフォームをまとめたものです。記載内容には十分な注意を払っておりますが、医療の情報は日々新しくなるため、誤り等がある場合がございます。参考にする場合は必ず最新の添付文書等をご確認ください。

情報更新日:2024年1月

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です