ラゲブリオカプセル(モルヌピラビル)の特徴・作用機序

開発の経緯について
 モルヌピラビル(MOV) は、当初 Ridgeback 社により季節性、流行性及びパンデミック株を含む、流行性及び新興(連続変異及び不連続変異)A 型及び B 型インフルエンザウイルスのすべての亜型による合併症を伴わないインフルエンザの治療薬として、開発が開始されたものの RNA ウイルスの複製を阻害することから、SARS-CoV-2による感染症の治療薬としても開発が進められることとなった。
 コロナウイルスは、SARS-CoV 及び MERS-CoV を含むエンベロープを有するプラス鎖 RNA ウイルスのファミリーであり、主にヒト及び動物の呼吸器系を標的とする。新型のコロナウイルスである SARS-CoV-2によって引き起こされる感染症は、2019年12月に中国の武漢市で初めて報告され、その後他の地域へと急速に広がり、2020年3月11日に WHO により世界的なパンデミックと宣言された。SARS-CoV-2による疾患は COVID-19と命名された。2021年11月25日時点で、世界での総感染者数は258,164,425例、総死亡例は5,166,192例である。本邦においては、2020年1月に初めて患者が報告され、2020年2月1日に感染症法に基づく指定感染症及び検疫法に基づく検疫感染症に指定された。2020年4月7日には改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく1度目の緊急事態宣言が発出され、その後は解除、発出を繰り返している。2021年11月25日時点で、本邦での総感染者数は1,722,111例、死亡者数は18,352例である。
SARS-CoV-2に曝露されてから発症するまでの潜伏期は約5日間(最長14日間)である。
 SARS-CoV-2はまず鼻咽頭などの上気道に感染すると考えられる。約40%の患者は発症から1週間程度で治癒に向かうが、約60%の患者では感染は下気道まで進展すると考えられる。肺炎の症状(酸素飽和度の低下、高熱の持続、激しい咳等)は発症から1週間程度で明らかになり、さらに約20%の患者では酸素投与が必要となり、約5%の患者が急性呼吸窮迫症候群に移行して人工呼吸器による治療を要すると考えられる。COVID-19の症状は、神経学的合併症(虚血性及び出血性脳卒中など)、凝固亢進状態による血栓性合併症、胃腸障害、皮膚及び眼症状などの肺以外の症状にまで及ぶ。高齢及び基礎疾患はCOVID-19の重症化リスク因子であり、死亡例の大部分は、高齢又は1つ以上の基礎疾患を有する COVID-19患者で認められる。
 COVID-19のような感染症管理の基本は、予防と早期治療である。本邦においては、「SARS-CoV-2による感染症の予防」としてワクチン接種が進んでいる。治療薬としては重症度が中等症から重症の患者に対してはレムデシビル、バリシチニブ及びデキサメタゾンが用いられ、重症化リスク因子を有する軽症から中等症の患者に対してはカシリビマブ/イムデビマブ及びソトロビマブといった点滴静注の抗 SARS-CoV-2モノクローナル抗体が用いられている。しかしながら、SARS-CoV-2のスパイク蛋白質の変異が懸念されており、抗 SARS-CoV-2モノクローナル抗体では中和活性が低い SARS-CoV-2変異株に対しては有効性が期待できない可能性がある。今後の感染拡大時の医療体制のひっ迫への対策のためにも、軽症から中等症患者の重症化を防ぎ、医療従事者と患者の直接的な接触を短時間に抑え、自宅で簡便に服薬可能な SARS-CoV-2に対する直接作用型の経口の抗ウイルス薬を開発することは極めて重要である。
 MOV は、経口剤のため点滴静注液と比較し利便性が高く、SARS-CoV-2のスパイク蛋白質上の変異の影響を受けない作用機序を有しており、SARS-CoV-2に対する in vitro での活性、動物モデルにおけるコロナウイルスに対する有効性及び耐性ウイルスの発現が起こりにくいことが実証された有望な薬剤候補である。

作用機序

 モルヌピラビルはN-ヒドロキシシチジン(NHC)のプロドラッグであり、NHCに代謝され細胞内に取り込まれた後、活性型であるリボヌクレオシド三リン酸化体(NHC-TP)にリン酸化される。NHC-TPがウイルス由来RNA依存性RNAポリメラーゼによりウイルスRNAに取り込まれた結果、ウイルスゲノムのエラー頻度が増加し、ウイルスの増殖が阻害される

NHC :N-ヒドロキシシチジン(β-D-N4-hydroxycytidine)、NHC-TP: N-ヒドロキシシチジン三リン酸化体
RdRp:RNA 依存性 RNA ポリメラーゼ

製品情報

本剤は、本邦で特例承認されたものであり、承認時において有効性、安全性、品質に係る情報は限られており、引き続き情報を収集中である。そのため、本剤の使用に当たっては、あらかじめ患者又は代諾者に、その旨並びに有効性及び安全性に関する情報を十分に説明し、文書による同意を得てから投与すること。

商品名ラゲブリオカプセル200mg
一般名
(洋名)
モルヌピラビル
(Molnupiravir)
発売年月日2021年 12月
メーカーMSD株式会社
名前の由来
ステム

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効能又は効果

SARS-CoV-2による感染症

禁忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・妊婦又は妊娠している可能性のある女性

用法及び用量

通常、18歳以上の患者には、モルヌピラビルとして1回800mgを1日2回、5日間経口投与する。

注意
SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始すること。臨床試験において、症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。

代謝・代謝酵素について

モルヌピラビルはN-ヒドロキシシチジン(NHC)のプロドラッグであり、全身循環へ到達する前に主要代謝物であるNHCへ加水分解される。NHCは内因性ピリミジンの代謝と同じ経路でウリジン及びシチジンへ代謝され、消失する。

食事の影響

健康成人にモルヌピラビル200mgを単回経口投与 注5) した際、高脂肪食摂取後投与では空腹時投与に比べてNHCのCmaxは35%減少し、AUCは両条件下で同程度であった(外国人データ)。本剤は、食事とは関係なく投与可能である。

副作用(抜粋)

副作用発現頻度は、モルヌピラビル800mg群で12.4%(48/386例)であり、主な副作用(発現割合1%以上)は、下痢3.1%(12/386例)、悪心2.3%(9/386例)、浮動性めまい1.3%(5/386例)、頭痛1.0%(4/386例)であった。

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情報更新日:2022年2月

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