グリベック錠(イマチニブ)の特徴・作用機序

開発の経緯について
 グリベックはノバルティス ファーマ社(スイス)において、慢性骨髄性白血病(CML)の本態がフィラデルフィア(Ph)染色体上に形成された遺伝子産物Bcr-Abl であることに着目し、Bcr-Abl のチロシンキナーゼ活性を選択的に阻害する分子標的薬として 1992 年に創薬・開発された。
 海外では、1998 年より Ph 染色体陽性白血病患者を対象に第Ⅰ相試験、1999 年より急性期、移行期及び慢性期の CML 患者を対象に第Ⅱ相試験を開始した。第Ⅱ相試験の中間解析において本剤の推奨用量、有効性及び安全性が確認されたことから、2001年2月に欧米で承認申請を行い、同年5月、米国にて申請より約2.5ヵ月で承認・発売された。
 グリベックは、Bcr-Abl のチロシンキナーゼ活性のみならず、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)及び KIT のチロシンキナーゼ活性の阻害作用も有している。そこで、KIT チロシンキナーゼの異常活性が腫瘍の増殖に関与している消化管間質腫瘍(GIST)に対しても効果が期待されることから、開発を進めた。2000年より切除不能又は転移性 GIST 患者を対象とした第Ⅱ相試験を開始し、中間解析結果に基づき他に有効な薬剤がない GIST に対し有効性を示すと判断され、2001 年 10 月、米国で承認申請を行い、2002 年 2 月に GIST の適応追加承認を取得した。
 Ph 染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ ALL)も、Bcr-Abl チロシンキナーゼ活性の異常亢進が病因として重要な役割を果たしており、グリベックの効果が期待された。Ph+ ALL 患者を対象とした第Ⅱ相試験及び研究者主導の臨床試験において有効性及び安全性が確認されたことから、2005 年 12 月、欧米で適応追加の承認申請を行い、2006 年 9 月に欧州、10 月に米国にて Ph+ ALL の適応追加承認を取得した。
 日本では、2000 年より慢性期 CML 患者を対象とした第Ⅰ / Ⅱ相試験、移行期及び急性期 CML 患者を対象とした第Ⅰ相試験を開始し、2001 年 4 月、日本及び海外の試験成績の相互補完にて有効性及び安全性が認められたことから承認申請を行い、同年 11 月、CML に対しグリベックカプセル 100mg の輸入承認を取得した。2002 年からは切除不能又は転移性 GIST 患者を対象に第Ⅱ相試験を開始し、2003 年 1 月、適応追加の承認申請を行い、同年 7 月、グリベックカプセル100 mg として GIST の適応追加承認を取得した。その後、2005 年 12 月、日本及び外国の試験成績に基づいて Ph+ ALL の適応追加に関する承認申請を行い、2007 年 1 月に Ph+ ALL の適応追加承認を取得した。
 さらに、FIP1L1-PDGFR αもグリベックの標的分子のひとつであり、FIP1L1-PDGFR α陽性の好酸球増多症候群又は慢性好酸球性白血病(HES/CEL)の分子病態から当該疾患に対するグリベックの効果が期待された。海外では、2001年 2 月よりチロシンキナーゼに起因する HES/CEL を含む様々な疾患を対象とした第 II 相試験が開始され、当該試験成績ならびに HES/CEL 患者にグリベックを投与した症例報告等の公表論文に基づき、2006 年 3 月、欧米で HES/CEL の適応追加に関する承認申請を行い、米国では同年 10 月、欧州では 11 月に承認された(なお米国においては、FIP1L1-PDGFR α陰性もしくは不明の患者に対しても併せて承認されている)。日本では、医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議において公知申請への妥当性が認められたことから、2011 年 5 月に FIP1L1-PDGFRα陽性 HES/CEL の治療薬として適応追加の公知申請を行い、2012 年 2 月に承認を取得した。

作用機序

 イマチニブはチロシンキナーゼ活性阻害剤であり、in vitro試験において、Bcr-Abl、v-Abl、c-Ablチロシンキナーゼ活性を阻害する。更に、血小板由来成長因子(PDGF)受容体及びSCF受容体であるKITのチロシンキナーゼ活性を阻害し、PDGFやSCFが介する細胞内シグナル伝達を阻害する。N-脱メチル体代謝物は、in vitro試験において、c-Abl、PDGF受容体及びKITチロシンキナーゼ活性を、未変化体とほぼ同程度に阻害する。
 イマチニブはSCF刺激によるKITチロシンキナーゼの活性化及びGIST患者由来細胞において亢進されたKITチロシンキナーゼ活性をそれぞれ阻害した。

製品情報

商品名グリベック錠100mg
一般名
(洋名)
イマチニブメシル酸塩
(Imatinib Mesilate)
発売年月日2005年 7月
メーカーノバルティス ファーマ株式会社
ステムtyrosine kinase inhibitors:-tinib

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効能又は効果

・慢性骨髄性白血病
・KIT(CD117)陽性消化管間質腫瘍
・フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病
・FIP1L1-PDGFRα陽性の好酸球増多症候群、慢性好酸球性白血病

警告
本剤の投与は、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本療法が適切と判断される症例についてのみ投与すること。また、治療開始に先立ち、患者又はその家族に有効性及び危険性を十分に説明し、同意を得てから投与を開始すること。
禁忌
・本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
・妊婦又は妊娠している可能性のある女性
・ロミタピドを投与中の患者

用法及び用量

〈慢性骨髄性白血病〉
慢性期:通常、成人にはイマチニブとして1日1回400mgを食後に経口投与する。なお、血液所見、年齢・症状により適宜増減するが、1日1回600mgまで増量できる。
移行期又は急性期:通常、成人にはイマチニブとして1日1回600mgを食後に経口投与する。なお、血液所見、年齢・症状により適宜増減するが、1日800mg(400mgを1日2回)まで増量できる。

〈KIT(CD117)陽性消化管間質腫瘍〉
通常、成人にはイマチニブとして1日1回400mgを食後に経口投与する。なお、年齢・症状により適宜減量する。

〈フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病〉
通常、成人にはイマチニブとして1日1回600mgを食後に経口投与する。なお、血液所見、年齢・症状により適宜減量する。

〈FIP1L1-PDGFRα陽性の好酸球増多症候群又は慢性好酸球性白血病〉
通常、成人にはイマチニブとして1日1回100mgを食後に経口投与する。なお、患者の状態により、適宜増減するが、1日1回400mgまで増量できる。

注意
〈効能共通〉
・消化管刺激作用を最低限に抑えるため、本剤は食後に多めの水で服用すること。
・肝機能検査値(ビリルビン、AST、ALT)の上昇が認められた場合は添付文書等に記載された値を参考に投与量を調節すること。
・好中球減少、血小板減少が認められた場合は添付文書等に記載された値を参考に投与量を調節すること。
〈慢性骨髄性白血病〉
・重篤な有害事象がなく、白血病に関連がない重篤な好中球減少や血小板減少が認められず、下記に該当する場合は、「添付文書の用法及び用量」に従って本剤を増量することができる。
 病状が進行した場合(この場合はいつでも)
 本剤を少なくとも3ヵ月以上投与しても、十分な血液学的効果がみられない場合
 これまで認められていた血液学的効果がみられなくなった場合

代謝・代謝酵素について

 本剤は主に薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP3A4)で代謝される。一方、本剤はCYP3A4/5、CYP2D6及びCYP2C9の競合的阻害剤であることがin vitro試験で示されている。

食事の影響

 絶食下又は標準高脂肪食摂取直後に本剤を投与(2 期クロスオーバー法)し、その後の血漿中未変化体濃度推移を測定したところ、Cmax 及び AUCは減少したが、それぞれ 11 及び 7%の低下であり臨床的に問題にならないと考えられた。

副作用(抜粋)

 重大な副作用として、骨髄抑制(30%未満)、出血(脳出血、硬膜下出血)、消化管出血、胃前庭部毛細血管拡張症(Gastric antral vascular ectasia: GAVE)、消化管穿孔、腫瘍出血、肝機能障害(10%未満)、黄疸、肝不全、重篤な体液貯留(胸水、腹水、肺水腫、心膜滲出液、うっ血性心不全、心タンポナーデ)、感染症、重篤な腎障害(5%未満)、間質性肺炎(5%未満)、肺線維症、重篤な皮膚症状、ショック、アナフィラキシー、心膜炎、脳浮腫、頭蓋内圧上昇、麻痺性イレウス、血栓症、塞栓症、横紋筋融解症、腫瘍崩壊症候群、肺高血圧症が報告されている。

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