
みなさん、こんにちは。今回は2025年12月に新たに発売された、てんかん重積状態治療薬「スピジア点鼻液」について、簡単にまとめました。ついに、成人の方でも医療機関外で介助者が投与できる点鼻タイプのレスキュー薬が登場しました。緊急時に迷わず正しく使えるよう、重要なポイントを確認していきましょうね。
はじめに:スピジア点鼻液(ジアゼパム)とは
てんかんは、脳の神経細胞の過剰な興奮により、繰り返し発作が起こる慢性疾患です。国内の患者数は約60万〜100万人と推定されています。多くの発作は自然に収まりますが、発作が5分以上持続する「てんかん重積状態」は、脳に不可逆的なダメージを与えるリスクがあるため、一刻も早い治療介入が求められます。
これまで、重積状態への第一選択薬であるジアゼパムは、主に静脈内投与(IV:Intravenous injection)が行われてきました。しかし、病院外の現場では静脈路の確保が困難であり、経口薬も意識障害がある場合には誤嚥のリスクから使用できませんでした。口腔用液の適応は小児に限られており、成人の患者においては院外で介助者が使用できる適切な薬剤が限られていたのが現状です。
「スピジア点鼻液」は、ジアゼパムを有効成分とする国内初の経鼻投与型(Intranasal)抗けいれん薬です。鼻粘膜から速やかに吸収されるため、静脈路確保が不要で、嘔吐や口腔内分泌物が多い状況でも簡便に投与可能です。成人および2歳以上の小児が対象となり、てんかん患者とそのご家族にとって、社会生活を送る上での大きな安心材料となることが期待されています。
製品概要
| 販売名 | スピジア点鼻液5mg、7.5mg、10mg |
|---|---|
| 一般名 | ジアゼパム(Diazepam) |
| 薬効分類 | 抗けいれん剤(ベンゾジアゼピン系) |
| 製造販売承認日 | 2025年6月24日 |
| 発売日 | 2025年12月24日 |
| 製造販売元 | アキュリスファーマ株式会社(発売:ヴィアトリス製薬株式会社) |
作用機序と特徴
有効成分であるジアゼパムは、脳内の抑制性神経伝達物質であるGABA(Gamma-Amino Butyric Acid:γ-アミノ酪酸)の受容体に結合します。これにより、GABA作動性神経の働きを強め、神経細胞の過剰な興奮を抑制することで、速やかにけいれん発作を停止させます。
本剤の最大の特徴は、その独自の製剤設計にあります。鼻粘膜への付着性を高め、限られた鼻腔内のスペースでも効率的に吸収されるよう設計されており、投与後速やかに有効血中濃度に到達します。また、1回使い切りの単回投与デバイスを採用しており、緊急時でも焦らず正確な用量を片鼻に投与できる仕組みになっています。
効能・効果・適応症
てんかん重積状態
用法・用量と投与時の注意点
用法・用量
通常、成人及び2歳以上の小児にはジアゼパムとして、患者の年齢及び体重を考慮し、5~20mgを1回鼻腔内に投与する。効果不十分な場合には4時間以上あけて2回目の投与ができる。ただし、6歳未満の小児の1回量は15mgを超えないこと。
投与時の注意点
- 年齢による制限:2歳未満の幼児、低出生体重児、新生児、乳児には使用経験がなく、安全性が確立されていません。
- 小児への監視:2歳以上6歳未満の小児に投与する場合は、救急蘇生設備が整った医療機関において、医師の監視下でのみ使用可能です。
- 空打ち禁止:本剤は1回使い切りです。試験噴霧(空打ち)をすると薬液がなくなってしまうため、絶対に避けるよう指導が必要です。
相互作用・代謝経路
ジアゼパムは主に肝代謝酵素CYP3A4およびCYP2C19で代謝されます。
- 中枢神経抑制剤・アルコール等:作用が強く現れすぎ、呼吸抑制などのリスクが高まるため併用注意です。
- シメチジン、オメプラゾール、オメプラゾール、エソメプラゾール、ランソプラゾール:ジアゼパムの代謝を阻害し、血中濃度を上昇させる可能性があります。
- 強いCYP誘導剤(リファンピシン等):ジアゼパムの血中濃度を低下させ、十分な効果が得られない可能性があります。
- ミルタザピン:相加的な鎮静作用を示し、鎮静効果が増強するおそれがある。また、精神運動機能及び学習獲得能力が減退するとの報告がある
などその他複数あり
食事の影響について
本剤は点鼻投与されるため、食事による直接的な吸収への影響は受けません。
主な副作用と安全性情報
主な副作用として、傾眠、浮動性めまい、意識レベルの低下、貧血、鼻の不快感、頭痛などが報告されています。
- 呼吸抑制:ベンゾジアゼピン系薬剤に共通する重大な副作用です。投与後は呼吸状態、意識状態を十分に観察する必要があります。
- 依存性:長期連用により依存性が生じる可能性がありますが、本剤は緊急時の単回投与を目的としているため、適正使用を守ることが重要です。
- 投与部位の反応:鼻粘膜への刺激感、鼻閉、鼻出血などが起こる場合があります。
処方時のチェックリスト(医師向け)
- 患者(または介助者)が、てんかん発作のパターンや緊急投与が必要な状態を正しく理解しているか。
- 急性閉塞隅角緑内障や重症筋無力症などの禁忌事項に該当しないか。
- 体重・年齢に基づいた適切な用量(5mg/7.5mg/10mg)が選択されているか。
- 2歳以上6歳未満の場合、適切な監視体制下で使用されることが保証されているか。
- 本剤交付時に、介助者が使用方法(点鼻デバイスの操作)を習得できているか。
服薬指導のポイント(薬剤師向け)
- 警告事項の伝達:介助者が「いつ、どうやって」使うかを確実に理解していることが交付の条件であることを伝える。
- デバイスの操作指導:1回使い切りであること、空打ちをしないこと、ノズルを鼻の奥まで入れすぎないことを説明する。
- 投与後の対応:投与後も発作が続く場合や呼吸が弱まった場合の救急要請基準について、あらかじめ家族と確認しておく。
- 保管方法:室温保存で、高温多湿や直射日光を避けること。また、いざという時にすぐに取り出せる場所に保管するよう指導する。
- 使用後の記録:いつ投与し、その後発作が何分で止まったかを「頭痛・てんかんダイアリー」等に記録するよう促す。
ケアポイント(看護師向け)
- 介助者の不安に寄り添う:「発作中に鼻に薬を入れる」ことに不安を感じる家族は多いため、手技のシミュレーションを行い自信を持ってもらう。
- 呼吸状態の観察ポイント:投与後の異常な眠気や、呼吸が浅くなっていないかを確認する具体的な見方を家族に教える。
- 鼻腔の状態確認:鼻炎などで鼻粘膜が著しく荒れている場合や、鼻閉がある場合に吸収が不安定になる可能性を念頭に置く。
- 投与後の安全確保:発作停止後のふらつきによる転倒や、誤嚥に注意し、回復体位(横向き)をとらせるよう指導する。
- 社会生活へのアドバイス:学校や職場での介助者にどのように依頼しておくべきか、連携の相談に乗る。

スピジア点鼻液の登場により、これまで病院に着くまで「見守るしかなかった」ご家族や周囲の方々に、新たな「守る手段」が加わりました。迅速な処置が脳を守ることに繋がります。このお薬が患者様の安全と、ご家族の心の安心を支える大きな一歩になりますように。