
『みなさん、こんにちは。今回は2025年11月に新たに発売された全身麻酔・鎮静用剤「アネレム静注用20mg」について、簡単にまとめました。』
はじめに:アネレム静注用20mgとは
アネレム静注用20mg(一般名:レミマゾラムベシル酸塩)は、全身麻酔の導入および維持、さらに消化器内視鏡診療時の鎮静に用いられる超短時間作用型ベンゾジアゼピン系静脈麻酔薬です。国内では、これまで全身麻酔薬としてプロポフォールやミダゾラムが広く用いられてきましたが、循環抑制や持続時間、覚醒遅延、注射部位反応など、それぞれに注意すべき特徴がありました。また、消化器内視鏡診療では患者さんの苦痛や不安を軽減し、検査・処置の質を保つために鎮静が行われることが増加しています。
一方で、既存の鎮静薬は効果発現・持続時間や循環動態への影響の点から、長時間の内視鏡治療には適していても、短時間の検査では扱いにくいケースがあるなど、臨床現場には新たな選択肢が求められていました。アネレムは、こうしたニーズに応えるべく開発された薬剤で、既存の50mg規格に加えて、今回新たに消化器内視鏡診療時の鎮静の適応を踏まえた低用量規格(20mg)が追加されたことで、よりきめ細かな用量調整と安全な鎮静管理が期待されます。
製品概要
- 商品名:アネレム静注用20mg
- 一般名:レミマゾラムベシル酸塩
- 薬効分類:全身麻酔・鎮静用剤(ベンゾジアゼピン系)
- 製造販売元:ムンディファーマ株式会社
- 効能・効果:
・全身麻酔の導入及び維持
・消化器内視鏡診療時の鎮静
- 製造販売承認取得日:2025年6月24日
- 薬価基準収載日:2025年8月14日
- 発売日:2025年11月4日
作用機序と特徴
アネレム(レミマゾラム)は、ベンゾジアゼピン系に属する超短時間作用型静脈麻酔薬です。主な抑制性神経伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)がGABAA受容体に結合する作用を増強し、中枢神経系における抑制性神経伝達を促進することで、鎮静・催眠作用を発揮すると考えられています。具体的には、GABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位に作用することで、GABAが結合した際のCl⁻イオン流入を増強し、神経の興奮性を低下させます。
本剤は、主に肝臓のエステラーゼにより速やかに加水分解され、代謝物は薬理活性をほとんど持たないとされています。そのため、半減期が短く、投与を中止すると比較的速やかに効果が減弱する点が特徴です。また、同じくベンゾジアゼピン系であるフルマゼニルにより拮抗可能であり、過鎮静や覚醒遅延が問題となる場面でも可逆性を担保しやすいという利点があります。
さらに、プロポフォールと比較して循環抑制作用や注射部位反応が少ないことが報告されており、全身麻酔だけでなく、消化器内視鏡診療時の鎮静においても有用な選択肢になり得る薬剤と位置付けられています。
効能・効果・適応症
効能・効果:
- 全身麻酔の導入及び維持
- 消化器内視鏡診療時の鎮静
用法・用量と投与時の注意点
〈全身麻酔の導入及び維持〉
- 導入:
通常、成人にはレミマゾラムとして12mg/kg/時の速度で、患者の全身状態を観察しながら、意識消失が得られるまで静脈内へ持続注入する。なお、患者の年齢、状態に応じて投与速度を適宜減速する。
- 維持:
通常、成人にはレミマゾラムとして1mg/kg/時の速度で静脈内への持続注入を開始し、適切な麻酔深度が維持できるよう患者の全身状態を観察しながら、投与速度を適宜調節する。ただし上限は2mg/kg/時とする。
覚醒徴候が認められた場合は、最大0.2mg/kgを静脈内投与してもよい。
〈消化器内視鏡診療時の鎮静〉
- 通常、成人にはレミマゾラムとして3mgを、15秒以上かけて静脈内投与する。
- 効果が不十分な場合は、少なくとも2分以上の間隔を空けて、1mgずつ15秒以上かけて静脈内投与する。
- 患者の年齢、体重、全身状態等を考慮し、適切な鎮静深度が得られるよう投与量を適宜減量する。
投与時の注意点:
- 〈消化器内視鏡診療時の鎮静〉では、呼吸状態・循環動態など全身状態を注意深く継続的に監視できる設備、ならびに緊急時対応が可能な体制を備えた医療施設でのみ使用する。
- 鎮静深度には個人差が大きいため、過鎮静や呼吸抑制を避けるべく、少量から慎重に投与し、段階的に増量する。
- 必要に応じてベンゾジアゼピン拮抗薬であるフルマゼニルを手元に準備しておくことが望ましい。
- 本剤の影響が完全に消失するまでは、自動車の運転や危険を伴う機械操作に従事しないよう患者へ十分に説明する。
相互作用・代謝経路
代謝経路の概要:
レミマゾラムは主に肝臓の組織エステラーゼにより加水分解され、CYP(チトクロームP450)による代謝への依存性は低いとされています。そのため、薬物代謝酵素CYPを介した薬物相互作用は比較的少なく、臨床上問題となる薬物相互作用は主に薬力学的(中枢抑制作用の増強)なものが中心となります。
併用禁忌:
添付文書上、特定の薬剤が明確な「併用禁忌」として示されているわけではなく、主に併用注意薬が中心となります。
併用注意(添付文書記載の代表例):
- 中枢神経抑制剤全般
・他の麻酔・鎮静剤(プロポフォール、デクスメデトミジン、ケタミン、セボフルランなどの揮発性吸入麻酔薬 など)
・麻薬性鎮痛剤(レミフェンタニル等)
・抗不安薬・抗アレルギー性緩和精神安定剤(ヒドロキシジン等)
・局所麻酔剤(リドカイン等)
・アルコール(飲酒)
これらはいずれも中枢神経抑制作用を有するため、アネレムとの併用により鎮静作用が相互に増強され、血圧低下、呼吸抑制、覚醒遅延などが起こるおそれがあります。併用する際は、アネレムの投与速度・投与量を減量し、バイタルサインを厳重にモニタリングしながら慎重に投与します。
レミマゾラム自体はエステラーゼで速やかに代謝されるため、CYP阻害薬・誘導薬による血中濃度変動の影響は比較的小さいとされていますが、全身状態が不安定な患者では相互作用の影響が顕在化しやすいため、併用薬の薬理作用を十分に考慮した上で投与設計を行う必要があります。
食事の影響について
アネレム静注用20mgは静脈内投与製剤であり、経口吸収を介さないため、食事による影響は基本的には受けません。ただし、消化器内視鏡診療時の鎮静に使用する場面では、検査自体が絶飲食を前提として行われることが多いため、施設ごとの絶飲食指示に従うことが重要です。
主な副作用と安全性情報
重大な副作用:
- 依存性:
連用により薬物依存を生じることがあり、投与量の急激な減少や中止により、痙攣発作、せん妄、振戦、不眠、不安、幻覚、妄想、不随意運動などの離脱症状があらわれることがあります。長期連用は避け、必要最小限の期間にとどめることが求められます。 - 徐脈:
徐脈があらわれることがあり、異常が認められた場合には抗コリン薬(例:アトロピン)の静脈内投与などを行います。 - 低血圧:
血圧低下があらわれることがあり、必要に応じて頭部挙上・輸液・昇圧薬の投与など適切な処置を行います。 - 低酸素症・呼吸抑制:
呼吸抑制や低酸素血症があらわれることがあり、異常が認められた場合には気道確保、酸素投与、必要に応じて人工呼吸などを行います。 - 覚醒遅延:
覚醒が遅延することがあり、特に高齢者や肝機能障害のある患者では慎重な投与と十分な観察が必要です。
その他の副作用:
- 血圧低下、心拍数減少
- 酸素飽和度低下、呼吸数減少
- 注射部位反応(疼痛、発赤などは比較的少ないと報告)
- 悪心・嘔吐
- 頭痛、めまい
- 一過性の健忘
いずれの副作用も、麻酔科医または鎮静管理に習熟した医師の管理下で、適切なモニタリングと対応が行われることが前提となります。
処方時のチェックリスト(医師向け)
- 全身麻酔もしくは消化器内視鏡鎮静において、アネレムの適応・用量が妥当か確認したか。
- ASA分類、持病(心疾患、呼吸器疾患、脳器質疾患など)、高齢者・肥満・睡眠時無呼吸など、リスク因子を把握しているか。
- 呼吸状態・循環動態を継続的にモニタリングできる環境(モニター、酸素、気道管理器具等)が整備されているか。
- 麻薬性鎮痛薬、その他の中枢神経抑制薬との併用時に、過鎮静にならないよう投与設計を行っているか。
- 必要に応じてフルマゼニルを使用できる体制があるか。
- 鎮静後の覚醒状況を評価し、自動車運転など危険作業禁止について患者へ説明したか。
服薬指導のポイント(薬剤師向け)
- 本剤が超短時間作用型のベンゾジアゼピン系静脈麻酔薬であることを医療スタッフ間で共有する。
- 調製時は添付文書に従い、適切な溶解液・濃度で調製し、使用期限・保管条件を遵守する。
- 他の麻酔薬・鎮痛薬・鎮静薬との併用状況を確認し、重複や相互作用のリスクを医師へ情報提供する。
- フルマゼニルを含む関連薬剤(麻酔関連薬)の在庫・ロット・期限管理を行う。
- 患者向けには、検査・処置後の眠気やふらつきに注意し、当日の自動車運転や危険作業を控えるべきであることをわかりやすく説明する(院内掲示や書面での説明も有用)。
ケアポイント(看護師向け)
- 投与前にバイタルサイン(血圧、心拍数、SpO₂、呼吸数)と意識レベルを確認しておく。
- 投与中は呼吸状態・循環動態を連続的にモニタリングし、呼吸抑制や低血圧の早期兆候を見逃さない。
- 肥満、睡眠時無呼吸症候群、上気道閉塞リスクのある患者では、気道管理器具の準備と、迅速な対応ができるようチーム内で連携しておく。
- 検査・処置終了後は、覚醒状況と呼吸状態を十分に観察し、歩行やトイレ移動の際は転倒リスクに配慮する。
- 患者・家族には、「当日は眠気やふらつきが残ることがある」「自動車や自転車の運転はしない」などの注意点をやさしい言葉で繰り返し伝える。
まとめ

『アネレムは、全身麻酔にも内視鏡の鎮静にも使える、ちょっと頼もしい新しいお薬やね。短くしっかり効いて、必要なときにはフルマゼニルで戻せるっていうのも安心ポイント。チームみんなでモニタリングを丁寧にしながら、患者さんにとって“こわくない麻酔・鎮静”を一緒につくっていきたいなぁ』