「目薬が2種類あるときは、5分あけてさしてくださいね」
薬局でこう説明されたことがある方、多いと思います。でも、「なんで5分?」って思ったことはありませんか?私も薬剤師として何百回とこの説明をしてきたのですが、改めてちゃんと調べてみたら、予想以上に興味深い話が出てきました。
今日は一般の方にも伝わるように、できるだけわかりやすくお話しします!
この記事でわかること
- 「5分あける」と言われる理由(目の中で何が起きているか)
- その根拠になっている研究はどんなものか
- 「間隔をあけなくても効果は同じ」という研究もある、という事実
- 国際ガイドラインでは2025年に「最低2分」へ推奨が緩和されたこと
- 結局、5分あけたほうがいいのか?現実的な答え
そもそも、なぜ流れてしまうの?
目薬をさすと、薬液は涙と混ざって目の表面に広がります。でも、目はとても小さな空間。涙の通り道(鼻涙管)を通じて、余分な液体はどんどん流れ出てしまうんです。
目の中にある涙の量は、だいたい7マイクロリットル(7μL)ほど。スポイト1滴が約30〜50μLですから、目薬1滴だけでもほぼ満杯になってしまいます。
そこへ続けてもう1種類の目薬をさすとどうなるか——先にさした目薬が後の目薬に「押し流されて」しまうんです。

目からあふれた液体は鼻涙管を通って鼻に流れます。点眼後に「薬の味がした!」という経験のある方はまさにこれです。苦い緑内障の目薬でよく起こりますよ。
「5分」の根拠になっている研究
根拠① ウサギを使った薬の実験(1974年・1976年)
1970年代にアメリカの研究者グループ(ChaiとRobinson)が、ウサギの目を使って実験を行いました。放射性の追跡物質を使い、目薬がどのように流れ出るかを詳しく調べたのです。
この実験の結果、目薬と目薬の間隔を5分あけると、鼻涙管への薬の流出ロスが最も少なくなることがわかりました(Chrai SS et al., J Pharm Sci, 1974)。
また別の実験(Sieg JW & Robinson JR, J Pharm Sci, 1976)では、ウサギにピロカルピン(緑内障の薬)をさした後、すぐに次の液体をさすと先の薬が大幅に洗い流されること、そして5分待つことでその影響が大きく減ることが実証されました。この「5分でほぼ安全」というデータが、現在の添付文書の記載のもとになっています。
という結果が出ました。この「5分でほぼ安全」というデータが、現在の添付文書の記載のもとになっています。

これ、ウサギのデータなんですよね。ウサギはまばたきの回数が人間より少ないので、厳密には「人間でも同じ」とは言い切れないのが正直なところです。ただ、裏付けとなる計算値(次で説明)もあるので、目安として5分は理にかなっています。
根拠② 国際的なガイドラインにも明記(EGS第4版・2017年)
欧州緑内障学会(EGS)が発行する国際ガイドライン第4版(Br J Ophthalmol. 2017)にも、この5分間隔の根拠が明確に記載されていました。ガイドラインでは次のように説明されています。
- 目の中の涙液量は平均約7μLで、ターンオーバー(入れ替わり)速度は約15%/分
- 目薬(約30〜50μL)をさすと涙液の入れ替わりが一時的に加速する
- 点眼後5分以内に、さした目薬は涙の流れによってほぼ完全に洗い流される
- 30秒間隔で次の目薬をさすと、先の薬の約50%が失われる
- 5分間隔をあけると、洗い流しの影響は15%未満に抑えられる
ウサギ実験のデータが、人間の臨床ガイドラインとして正式に採用されているという点で、「5分」の信頼性をさらに裏付けています。

EGSのガイドラインは緑内障治療の国際標準として世界中の眼科医が参照する文書です。ここに明記されているということは、「5分間隔」が世界レベルで認められた根拠のある指導だということですね。なお、このガイドラインはその後も改訂が続いており、最新版については記事の後半で紹介しています。
根拠③ 涙液の入れ替わり時間の計算(1966年)
「5分」には、理論的な計算からも裏付けがあります。
1966年に眼科の研究者Mishimaらが、人間の目の涙の動きを精密に測定しました。その結果、
- 目の中の涙液量:約7μL
- 涙の産生速度:約1.2μL/分
この数字から計算すると、目の中の涙が完全に入れ替わるまで約5〜6分かかることがわかります(7 ÷ 1.2 ≒ 5.8分)。
「先にさした目薬が十分に吸収されるまで涙で置き換わるのを待つ=5分」という理屈は、人間の目のデータからも支持されています。
「間隔をあけても変わらない」という研究もある
ここが面白いところなのですが、実は「5分あけても意味がない」という人間の実験結果も存在します。
1985年にイスラエルの研究者Geyerらが、63人の健康な被験者を使って散瞳薬(瞳を開く目薬)2種類を使った実験を行いました。
「同時にさした」グループと「10分間隔でさした」グループの散瞳効果に、差がなかったというのです(Geyer O et al., Aust N Z J Ophthalmol, 1985)。
これは長らく「5分間隔に疑問を投げかける唯一のヒト試験」として引用されてきました。

「じゃあ間隔いらないじゃん!」と思いますよね。ただこれ、散瞳薬という特定の薬の組み合わせでの結果なんです。すべての目薬に当てはまるとは言えません。それに……次の話があります。
最新研究では「やっぱり5分必要」という結果に
2017年、フランスの研究者Labbéらが、20人の健常者(40眼)を対象に、より精密な方法で再検証しました(Labbé A et al., Optom Vis Sci, 2017)。
同じく散瞳薬2種類を使い、デジタル写真で瞳の面積を詳細に比較した結果——
5分間隔でさしたグループは、即時点眼グループより瞳孔面積が5.6%有意に大きかったという結果になりました。
つまり、5分待ったほうが薬がより効いていたということです。

5.6%という数字は「劇的な差」ではありませんが、統計的に有意(偶然ではない)な差でした。目薬の種類や目の状態によって影響の大きさは変わってくると思いますが、「5分待つ意味はある」という結論は支持されています。
国際ガイドラインの最新動向:2025年に推奨が「2分」へ緩和
実はこの記事を書くにあたって調べていて、とても重要な最新情報を見つけました。
欧州緑内障学会(EGS)は2025年9月に第6版ガイドライン(Br J Ophthalmol. 2025)を発行しました。このガイドラインのp.184に、点眼間隔についてこう書かれています。
- 目薬をさすと、生理的な涙液ターンオーバーにより5分以内に完全に洗い流される
- 2種類の目薬が処方される場合、最低2分間隔を推奨する
- まばたきも洗い流しに影響する可能性がある
つまり、「5分」から「最低2分」へと推奨が緩和されたのです。これは50年以上にわたって「5分」とされてきた常識が、国際的な専門家集団によって見直されたことを意味します。

これ、正直びっくりしました。「5分」という数字は変わらず、「それだけ待てば十分」という意味は同じです。ただ「最低限必要な間隔」の目安が、2分に更新されたということです。日本の添付文書はまだ「5分以上」のままですので、日本国内では引き続き5分を目安にするのが安全です。でも「どうしても2〜3分しか待てない」という方にとっては、少し気が楽になる情報かもしれません。
「5分」をめぐる研究の流れをまとめると
| 年 | 研究者 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1966年 | Mishima et al. | 人間(涙液測定) | 涙の完全入れ替えに約5〜6分と計算 |
| 1974年 | Chrai et al. | ウサギ | 5分間隔で薬の排出ロスが最小化 |
| 1976年 | Sieg & Robinson | ウサギ | 間隔が短いほど先の薬が洗い流され、5分待つと影響が大幅に減ることを実証 |
| 1985年 | Geyer et al. | 人間63名 | 同時点眼と10分間隔で効果に差なし(散瞳薬) |
| 2017年 | 欧州緑内障学会(EGS)第4版 | 国際ガイドライン | 30秒間隔で約50%が失われる、5分で影響15%未満と明記 |
| 2017年 | Labbé et al. | 人間20名 | 5分間隔で効果が5.6%有意に向上(散瞳薬) |
| 2025年 | 欧州緑内障学会(EGS)第6版 | 国際ガイドライン | 「最低2分間隔を推奨」へ更新。5分以内に完全洗い流しと明記 |
患者さんからよくある質問
Q. 5分きっちり待てなかったら効果がなくなる?

大丈夫です。2分でも3分でも、まったく待たないよりはずっとよいです。間隔が短くても薬の一部は吸収されており、全くの無駄にはなりません。「5分待てないから飛ばそう」は一番もったいない選択です。できる範囲で待つことが大切です。
Q. 3種類以上ある場合は何分かかるの?

3種類なら最低10分、4種類なら15分、という計算になります。多い方は、朝の点眼だけで30分近くかかることも。タイマーアプリを活用するのがおすすめです!
Q. 順番はどうすればいい?

基本は水っぽいもの(水性点眼液)から先にさします。次に懸濁性(白濁したもの)、最後に目薬をさした後にドロっとするもの(ゲル化製剤)や目軟膏の順番です。特に指示がない場合は薬剤師に確認してみてください。
Q. 目を閉じてじっとしていれば5分待たなくていい?

目を閉じる・目頭を押さえる(鼻涙管を圧迫する)は、薬が鼻に流れ出るのを減らす効果があってよい方法です。ただ、これと「次の目薬をさすタイミング」は別の話です。次の目薬をさすまでは5分間隔を守りましょう。
まとめ
- 「5分あける」のは、先にさした目薬が後の目薬に流されるのを防ぐため
- 根拠は1970年代のウサギ実験と、人間の涙液ターンオーバー計算(約5〜6分)
- 1985年に「間隔不要」という人間の研究結果が出て話題になったが、2017年の研究で「やっぱり5分待つ方が効果が高い」と再確認された
- 欧州緑内障学会(EGS)の2025年最新ガイドライン(第6版)では推奨が「最低2分」へ緩和された
- 日本の添付文書はまだ「5分以上」のままのため、国内では5分を目安にするのが安全
- 「5分待てなかった」は0点ではない。できる範囲で間隔をあけることが大切

調べてみたら、「5分」って意外とちゃんとした根拠があったんですよね。「なんとなく昔から言われてきたこと」じゃなく、きちんと研究があった。そして最新のガイドラインでは「2分」に緩和されるという新展開も。科学は常にアップデートされていくもの。薬剤師として、根拠も最新情報も両方お伝えするのが大事だなと改めて思いました。
参考情報
- Chrai SS, Makoid MC, Eriksen SP, Robinson JR. Drop size and initial dosing frequency problems of topically applied ophthalmic drugs. J Pharm Sci. 1974;63(3):333-358.
- Sieg JW, Robinson JR. Mechanistic studies on transcorneal permeation of pilocarpine. J Pharm Sci. 1976;65(12):1816-1822. PMID: 1032669.
- Mishima S, Gasset A, Klyce SD, Baum JL. Determination of tear volume and tear flow. Invest Ophthalmol. 1966;5(3):264-276.
- Geyer O, Godel V, Lazar M. The concurrent application of ophthalmic drops. Aust N Z J Ophthalmol. 1985;13(1):63-66.
- Labbé A et al. A 5-Minute Interval between Two Dilating Eye Drops Increases Their Effect. Optom Vis Sci. 2017. PMID: 28727614.
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 4th Edition – Chapter 3. Br J Ophthalmol. 2017;101(6):130-195. PMC5583689.
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025;109(Suppl 1):1-212. PMID: 41026937.
- 日本眼科医会 監修「点眼剤の適正使用ハンドブック Q&A」東京医薬品工業協会 点眼剤研究会・大阪医薬品協会 点眼剤研究会(2011年9月初版)