
『みなさん、こんにちは。今回は2025年3月に新たに発売された多発性骨髄腫治療薬「テクベイリ皮下注」について、簡単にまとめました。』
はじめに:テクベイリとは
テクベイリ(一般名:テクリスタマブ(遺伝子組換え))は、2025年3月19日にヤンセンファーマから発売された、再発または難治性の多発性骨髄腫に対する二重特異性抗体製剤です。多発性骨髄腫は造血幹細胞由来の形質細胞ががん化する治癒困難な血液がんで、国内患者数も増加傾向にあります。標準治療歴のある患者でも再発や難治化を繰り返す例が多く、新規治療選択肢が求められていました。
製品概要
- 商品名:テクベイリ皮下注30mg、同皮下注153mg
- 一般名:テクリスタマブ(遺伝子組換え)
- 製造販売元:ヤンセンファーマ株式会社
- 薬効分類:その他の腫瘍用薬(二重特異性抗体製剤)
- 効能・効果:再発または難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)
- 承認日:2024年12月27日
- 発売日:2025年3月19日
- 包装:30mg(3mL×1バイアル)、153mg(1.7mL×1バイアル)
作用機序と特徴
テクリスタマブは、B細胞成熟抗原(BCMA)とT細胞のCD3に対するヒト化二重特異性モノクローナル抗体です。BCMAとCD3の両者に結合することでT細胞を活性化し、BCMAを発現する腫瘍細胞を標的として傷害します。IMiDs、プロテアソーム阻害剤、抗CD38抗体製剤による治療歴を有する難治例に対して新たな治療選択肢となります。
効能・効果・適応症
再発または難治性の多発性骨髄腫(標準的な治療が困難な場合に限る)。少なくとも免疫調節薬、プロテアソーム阻害剤、抗CD38抗体製剤を含む治療が無効または再発した患者が対象です。
用法・用量と投与時の注意点
通常、成人には漸増期として1日目に0.06mg/kg、2~4日間隔で0.3mg/kg、1.5mg/kgを皮下投与。継続投与期は1.5mg/kgを1週間間隔で皮下投与します。部分奏効以上の奏効が24週間以上持続している場合、投与間隔を2週間に延長可能です。サイトカイン放出症候群リスクがあるため、漸増期(初回~3回目)は48時間の入院管理が必要です。副腎皮質ホルモン剤、抗ヒスタミン剤、解熱鎮痛剤の前投与を推奨します。
相互作用・代謝経路
テクリスタマブ自体の主な代謝は記載されていませんが、サイトカイン放出症候群発現時にはCYP酵素が抑制されるため、治療域の狭いCYP基質薬(ワルファリン、シクロスポリン、タクロリムス等)の副作用増強に注意。生ワクチン接種もB細胞傷害作用によるリスクあり。
食事の影響について
皮下注射製剤のため、食事の影響は受けません。
主な副作用と安全性情報
- サイトカイン放出症候群(70~80%)
- 好中球減少症(65~66%)、リンパ球減少、貧血、血小板減少
- 注射部位反応(約35%)、発熱、疲労
- 免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(4%)、頭痛、痙攣、意識低下
- 感染症(上気道感染、肺炎、敗血症、日和見感染)
- 低γグロブリン血症(約20%)、腫瘍崩壊症候群、間質性肺疾患(頻度不明)
- その他:咳嗽、下痢、悪心、注射部位の発赤・腫脹、発疹、筋骨格痛など
副作用出現時は、ガイドラインに従って休薬・中止等の対処を行います。
処方時のチェックリスト(医師向け)
- 標準治療(IMiDs, PI, 抗CD38抗体)を含む治療歴の有無を確認
- 患者・家族への有効性とリスクの十分な説明・同意取得
- 初回~3回目投与後48時間は必ず入院管理
- サイトカイン放出症候群・神経毒性症候群への備え(トシリズマブ等準備)
- 血球減少・感染症・低γグロブリン血症への定期的モニタリング
- 治療域の狭いCYP基質薬、ワクチン等との相互作用確認
- 妊娠・授乳中の女性への適切な説明・避妊指導
服薬指導のポイント(薬剤師向け)
- 治療開始時・治療中の副作用(サイトカイン放出症候群、感染症、神経症状等)を説明
- 発熱、発疹、意識低下、感染症状など異常時はすぐ受診を指導
- 注射部位の異常(赤み・腫れ・痛みなど)は医療スタッフへ申告
- 生ワクチン接種や併用薬(ワルファリン等)の申告を徹底
- 妊娠・授乳中の投与制限、適切な避妊指導の重要性を説明
ケアポイント(看護師向け)
- 投与前後のバイタルサイン・意識・呼吸状態観察
- サイトカイン放出症候群や神経学的症状の早期発見
- 注射部位の観察と適切なスキンケア
- 血球減少・感染兆候の確認、必要時の迅速な対応
- 患者・家族への副作用・注意点の説明と心理的サポート
まとめ

『テクベイリは、多発性骨髄腫の難治例に対して新たな治療の可能性を広げる薬剤です。副作用や安全管理に注意しながら、患者さんの生活の質向上につなげていきたいですね。』