【2025年11月27日発売】ボルズィ錠(ボルノレキサント)の特徴、作用機序

『みなさん、こんにちは。今回は2025年11月に新たに発売された不眠症治療薬「ボルズィ錠」について、簡単にまとめました。』

はじめに:ボルズィ錠とは

不眠症は、入眠困難(なかなか眠れない)、中途覚醒(途中で何度も目が覚める)、早朝覚醒(早く目が覚めてしまう)といった睡眠の不調が続き、その結果として日中の倦怠感、意欲の低下、集中力の低下、食欲低下などを引き起こし、仕事や学業、家事・育児など日常生活の質(QOL)を下げてしまう疾患です。一般成人の30~40%が何らかの不眠症状を持つとされ、女性に多く、加齢とともに増加する傾向が報告されています。

不眠の背景には、ストレス、精神疾患、神経疾患、身体疾患、アルコールや薬剤の影響など、さまざまな要因が関与しており、治療では睡眠衛生指導(生活リズム・光暴露・運動・カフェイン摂取の見直し等)とともに、必要に応じて薬物療法を行います。薬物療法としては、ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬などから、患者さんの不眠タイプや背景に応じて慎重に薬剤選択を行うことが求められます。

ボルズィ錠(一般名:ボルノレキサント水和物)は、覚醒維持に重要な役割を担う「オレキシンA・B」が結合する受容体(OX1R・OX2R)を選択的にブロックするオレキシン受容体拮抗薬です。消半減期を短く抑えることを意識して設計されたオキサアジナン誘導体であり、夜間の過剰な覚醒状態を抑えつつ、日中の機能低下を最小限にすることを目指して開発された、新しい不眠症治療薬のひとつです。

製品概要(承認日、発売日、製造販売元など)

  • 商品名:ボルズィ錠2.5mg・5mg・10mg
  • 一般名:ボルノレキサント水和物
  • 薬効分類:オレキシン受容体拮抗薬/不眠症治療薬
  • 製造販売元:大正製薬株式会社
  • 販売元:大正製薬株式会社、Meiji Seika ファルマ株式会社
  • 効能・効果:不眠症
  • 用法・用量:通常、成人にはボルノレキサントとして1日1回5mgを就寝直前に経口投与。症状により適宜増減するが、1日1回10mgを超えない。
  • 製造販売承認取得日:2025年8月25日
  • 薬価基準収載日:2025年10月22日
  • 発売日:2025年11月27日

作用機序と特徴

覚醒状態の維持には、視床下部から放出される神経ペプチド「オレキシンA・オレキシンB」が重要な役割を果たします。これらはOX1R・OX2Rと呼ばれる受容体に結合し、覚醒系の神経ネットワークを活性化することで、覚醒状態を保っています。不眠症では、こうした覚醒シグナルが過剰に働いている「過覚醒状態」が病態の一因と考えられています。

ボルズィ(ボルノレキサント)は、OX1R・OX2Rの両方を阻害する二重オレキシン受容体拮抗薬(DORA)であり、オレキシンA・Bが受容体に結合するのを競合的にブロックします。その結果、覚醒シグナルが抑制され、過剰な覚醒状態から睡眠状態へスムーズに移行させると考えられています。

本剤はオキサアジナン誘導体で、オキサアジナン環を導入することにより、オレキシン受容体阻害活性脂溶性の低減(消半減期短縮)を両立させた薬物動態プロファイルを目指して開発されています。実際の臨床試験では、睡眠潜時の短縮、睡眠維持の改善とともに、日中の主観的眠気や認知機能への影響は大きくないことが示されており、夜間の睡眠改善と日中のパフォーマンス維持の両立が期待される薬剤です。

効能・効果・適応症

効能・効果:
不眠症

入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒などの症状を有し、日中の生活に支障をきたしている不眠症患者が対象となります。なお、睡眠衛生指導等の非薬物療法を十分に行った上で、それでも十分な改善が得られない場合に薬物療法の適応が検討されます。

用法・用量と投与時の注意点

基本用法・用量(成人):

  • 通常、成人にはボルノレキサントとして1日1回5mgを就寝直前に経口投与する。
  • 症状により適宜増減するが、1日1回10mgを超えないこと。

用量調節に関する主な注意点(添付文書より抜粋要約):

  • 中程度のCYP3A阻害薬(例:フルコナゾール、エリスロマイシン、ベラパミル塩酸塩等)との併用時は、本剤の血漿中濃度が上昇し傾眠等の副作用が増強するおそれがあるため、1日1回2.5mgとすること。
  • 中等度肝機能障害(Child-Pugh分類B)の患者でも同様に血漿中濃度上昇・傾眠の増強が懸念されるため、1日1回2.5mgとすること。
  • 重度肝機能障害(Child-Pugh分類C)を有する患者は禁忌とされている。
  • 他の不眠症治療薬との併用時の有効性および安全性は確立していないため、基本的には単剤投与が前提となる。

重要な基本的注意(患者指導に関わるポイント):

  • 不眠症あるいは本剤の影響により、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがある。
  • 自動車運転や高所作業など危険を伴う機械操作の可否を慎重に判断し、眠気等がある場合は従事させないよう指導する。
  • 症状が改善した場合には、漫然と投与を継続せず、本剤継続の要否を適宜検討する。

相互作用・代謝経路

ボルノレキサントは主としてCYP3Aで代謝されるとされており、CYP3A阻害薬・誘導薬との相互作用が重要です。また中枢神経抑制作用を有する薬剤・アルコールとの併用にも注意が必要です。

1. 併用禁忌(併用しないこと)

強いCYP3A阻害薬(本剤の血中濃度が著明に上昇)

  • イトラコナゾール
  • ポサコナゾール
  • ボリコナゾール
  • クラリスロマイシン
  • リトナビル含有製剤
  • エンシトレルビルフマル酸
  • コビシスタット含有製剤
  • セリチニブ

これらの薬剤は強いCYP3A阻害作用を有し、ボルノレキサントの代謝を強く抑制することで血漿中濃度が大きく上昇し、傾眠などの中枢抑制作用が過度に増強するおそれがあるため、添付文書上併用禁忌とされています。

2. 併用注意(併用に注意すること)

(1)中程度のCYP3A阻害薬

  • フルコナゾール
  • エリスロマイシン
  • ベラパミル塩酸塩 など

これらの薬剤は中程度のCYP3A阻害作用を有し、本剤の代謝を抑制することで血漿中濃度を上昇させ、傾眠等の副作用が増強するおそれがあります。そのため、併用時はボルズィの用量を1日1回2.5mgに減量して使用することとされています。

(2)CYP3A誘導薬

  • リファンピシン
  • カルバマゼピン
  • フェニトイン など

これらはCYP3A誘導作用により、本剤の代謝を促進し血漿中濃度を低下させることで、本剤の作用を減弱させるおそれがあります。必要性を慎重に検討し、併用する場合には不眠症状の変化を十分に観察します。

(3)グレープフルーツジュース

  • 本剤の作用を増強させるおそれがある。
  • グレープフルーツ由来成分がCYP3Aを阻害し、ボルノレキサントの代謝を抑制することで、血漿中濃度が上昇すると考えられています。

患者には服用時はグレープフルーツジュースを避けるよう指導します。

(4)中枢神経抑制薬

  • フェノチアジン誘導体
  • バルビツール酸誘導体 など

これら中枢神経抑制薬と併用すると、相互に抑制作用が増強され、過度の眠気、ふらつき、転倒リスクなどが高まるおそれがあります。併用が避けられない場合は、用量調整や活動制限を含め慎重な管理が必要です。

(5)アルコール(飲酒)

  • アルコールと本剤はともに中枢神経抑制作用を有し、精神運動機能の相加的低下を来す可能性があります。
  • ふらつき、判断力低下、転倒・事故のリスクが増大するため、服用中の飲酒は避けるよう指導します。

(6)他の不眠症治療薬

  • 他の睡眠薬との併用時の有効性・安全性は確立していません。
  • 原則として単剤で使用し、他剤から切り替える場合は休薬や漸減を検討します。

代謝経路のまとめ

  • 主としてCYP3Aによる代謝を受ける。
  • 肝機能障害(特に中等度以上)では血中濃度が上昇しやすいため、用量調整または禁忌対象となる。
  • 強いCYP3A阻害薬との併用でAUCが大きく上昇することが薬物動態試験で確認されている。

食事の影響について

ボルズィ錠は就寝直前に服用することが推奨されており、添付文書上、通常の食事に関する大きな制限は示されていません。一方で、グレープフルーツジュースはCYP3A阻害作用により血中濃度を上昇させる可能性があるため、服用前後の摂取は避けることが望まれます。

また、アルコールは中枢抑制作用が相加的に強まり、翌朝まで眠気やふらつきが残るリスクがあるため、服用中の飲酒は控えるよう指導することが重要です。

主な副作用と安全性情報

臨床試験および市販後情報から、以下のような副作用が報告されています。

  • 傾眠(眠気):最も重要かつ頻度の高い副作用。5mg群・10mg群ともに数%台で認められ、長期投与試験でも主要な副作用でした。
  • 浮動性めまい
  • 悪夢などの睡眠関連精神症状
  • 倦怠感
  • 血中乳酸脱水素酵素(LDH)増加などの検査値異常

添付文書上は、「傾眠」「日中の眠気」「注意力・集中力低下」に特に注意するよう記載されており、自動車運転や危険を伴う機械操作を避けるべき状況について、医師から患者さんへ十分な説明を行うことが求められています。

また、重度肝機能障害患者は禁忌とされ、中等度肝機能障害では用量減量(1日1回2.5mg)と慎重な観察が必要です。

処方時のチェックリスト(医師向け)

  • 不眠症状が慢性的に存在し、日中の機能低下を伴う「不眠症」と診断できているか。
  • 睡眠衛生指導(生活リズム、光環境、カフェイン・アルコール等)の介入が行われているか。
  • 他の睡眠薬からの切り替えの場合、減量・中止スケジュールを検討しているか。
  • 肝機能障害の有無(特に中等度〜重度)を確認しているか。
  • 強いCYP3A阻害薬(イトラコナゾール等)との併用がないか(あれば禁忌)。
  • 中程度のCYP3A阻害薬(フルコナゾール等)併用時には用量2.5mgへの減量が必要であることを認識しているか。
  • リファンピシン等のCYP3A誘導薬の併用により効果減弱が予想される症例では、必要性を慎重に評価したか。
  • アルコール多飲や中枢抑制薬併用など、転倒リスク因子を把握しているか。
  • 症状改善後には漫然と継続せず、減量や中止も含め投与継続の要否を定期的に評価する計画があるか。

服薬指導のポイント(薬剤師向け)

  • 「就寝直前に1日1回服用する薬」であることを明確に伝える。
  • 飲み忘れた場合、その夜を過ぎてから気づいたときは服用しないことを説明する(翌日に2回分をまとめて飲まない)。
  • 服用中は飲酒を控えること、グレープフルーツジュースは避けることを案内する。
  • 日中の眠気・ふらつき・注意力低下を感じた場合は、すぐに主治医へ相談するよう促す。
  • 他の睡眠薬や精神科薬、感冒薬(鎮静成分含有)を自己判断で追加しないよう注意喚起する。
  • 中等度のCYP3A阻害薬を併用中で用量が2.5mgに設定されている場合、その理由(相互作用と安全性)をわかりやすく説明する。

ケアポイント(看護師向け)

  • 入院中・外来ともに、日中の眠気・ふらつき・転倒の有無を定期的に確認する。
  • 夜間の睡眠状況(入眠までの時間、中途覚醒の回数など)を聞き取り、薬剤効果の評価に役立てる。
  • 高齢患者や多剤併用患者では、他の中枢抑制薬やアルコール摂取の有無を確認し、必要に応じて医師・薬剤師と情報共有する。
  • 肝機能障害の既往や検査値の変化がないかを確認し、中等度以上の障害が疑われる場合は速やかに報告する。
  • 自動車運転や危険作業に従事している患者には、眠気や注意力低下のリスクを丁寧に説明し、勤務・生活調整の必要性を一緒に検討する。

まとめ

『ボルズィは、オレキシンをターゲットにした新しいタイプの睡眠薬で、夜の「過覚醒」をやわらげてくれるお薬ですね。飲み方や一緒に使うお薬、アルコールとの関係にはちょっとした注意が必要ですが、患者さんの生活リズムに寄り添いながら、無理のない睡眠リズムづくりのお手伝いができたらうれしいな、と思います。』

執筆者:薬剤師(大学病院)
参考・引用資料:添付文書、インタビューフォーム、適正使用ガイド、メーカープレスリリース資料など
※掲載内容には細心の注意を払っておりますが、古い情報や誤りを含む場合があります。最新の添付文書などをご確認ください。
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