
みなさん、こんにちは。今回は2025年12月に新たに発売された片頭痛治療薬「ナルティークOD錠75mg」について、簡単にまとめました。国内初の『1剤で急性期治療と発症抑制の両方に対応できる経口薬』として非常に注目されています。医療現場で役立つポイントを整理しましたので、ぜひチェックしてくださいね。
はじめに:ナルティークOD錠75mgとは
片頭痛は、脈打つような中等度から重度の頭痛が4~72時間持続する慢性の機能性神経疾患です。国内の有病率は成人の約8.4%(男性3.6%、女性12.9%)と報告されており、特に活動性の高い世代の日常生活やQOL(Quality of Life:生活の質)を大きく阻害します。症状は頭痛だけでなく、悪心・嘔吐、光過敏や音過敏を伴うことが特徴です。
これまでの片頭痛治療は、発作時に服用する「急性期治療薬(トリプタン系、NSAIDsなど)」と、発作頻度を減らすための「予防療法(経口予防薬、抗CGRP抗体注射製剤など)」に分かれていました。しかし、患者様によっては急性期薬の使いすぎによる薬剤の使用過多による頭痛(MOH:Medication Overuse Headache)のリスクや、自己注射への心理的ハードルが課題となっていました。
今回登場したナルティークOD錠75mg(一般名:リメゲパント硫酸塩水和物)は、国内初の経口CGRP(Calcitonin Gene-Related Peptide:カルシトニン遺伝子関連ペプチド)受容体拮抗薬です。最大の特徴は、片頭痛発作が起きた時の「急性期治療」と、発作を未然に防ぐ「発症抑制」の両方に適応を持つ点にあります。水なしで服用可能なOD錠(Orally Disintegrating tablet:口腔内崩壊錠)であり、ミントフレーバーの採用など、患者様の利便性にも配慮された薬剤です。
製品概要
| 販売名 | ナルティークOD錠75mg |
|---|---|
| 一般名 | リメゲパント硫酸塩水和物(Rimegepant Sulfate Hydrate) |
| 薬効分類 | 経口CGRP受容体拮抗薬 |
| 製造販売承認日 | 2025年9月19日 |
| 発売日 | 2025年12月16日 |
| 製造販売元 | ファイザー株式会社 |
作用機序と特徴
ナルティークの有効成分であるリメゲパントは、経口投与可能なCGRP受容体拮抗薬です。片頭痛の病態生理において重要な役割を果たすCGRPの作用を抑制します。具体的には、CGRP受容体に対して強力かつ選択的に結合(K値:32.9pmol/L)し、CGRPが受容体に結合するのを競合的に阻害することで、血管拡張や神経原性炎症、痛みの伝達を抑制すると考えられています。
既存の抗CGRP抗体製剤(注射剤)がCGRP分子そのものや受容体に結合して長時間作用するのに対し、本剤は低分子化合物であるため経口摂取が可能であり、血中半減期は約10時間(日本人健康成人75mg単回投与時)と、急性期・予防の両面で使いやすい動態プロファイルを有しています。
効能・効果・適応症
片頭痛発作の急性期治療及び発症抑制
用法・用量と投与時の注意点
用法・用量
<片頭痛発作の急性期治療>
通常、成人にはリメゲパントとして1回75mgを片頭痛発作時に経口投与する。
<片頭痛発作の発症抑制>
通常、成人にはリメゲパントとして75mgを隔日経口投与する。
投与時の注意点
- 1日あたりの総投与量はリメゲパントとして75mgを超えないこと。
- 急性期治療において、本剤投与により効果が認められない場合は、再検査の上、頭痛の原因を確認し、他の治療法を検討すること。
- 発症抑制において、投与開始後3ヵ月を目安に有益性を評価し、改善が認められない場合は投与中止を考慮すること。
- 新医薬品であるため、2026年11月末日までは1回14日分が処方制限の限度となります。
相互作用・代謝経路
本剤は主にCYP3A4(Cytochrome P450 3A4)で代謝され、一部はCYP2C9で代謝されます。また、P-gp(P-glycoprotein:P糖蛋白質)の基質でもあります。
| 薬剤名等 | 措置方法・機序 |
|---|---|
| 強いCYP3A4阻害剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン等) | 併用を避けることが望ましい。本剤の血漿中濃度が著しく上昇(イトラコナゾール併用でAUCが4.14倍)し、副作用が増強されるおそれがあります。 |
| 強い・中程度のCYP3A4誘導剤(リファンピシン、フェニトイン、セント・ジョーンズ・ワート等) | 併用を避けることが望ましい。本剤の血中濃度が低下し、作用が減弱するおそれがあります。 |
| P-gp阻害剤(シクロスポリン、キニジン、ベラパミル等) | 併用注意。本剤の消化管吸収が増大し、血漿中濃度が上昇するおそれがあります。 |
食事の影響について
健康成人に本剤75mgを高脂肪食摂取後に単回経口投与したとき、空腹時と比較してCmax(最高血漿中濃度)は41%、AUC(血中濃度-時間曲線下面積)は32%低下したとのデータがあります。食事により曝露量が低下する傾向がある点に留意が必要です。
主な副作用と安全性情報
主な副作用として、便秘、浮動性めまい、悪心、下痢などが報告されています。国内第II/III相試験(急性期治療)における副作用発現割合は2.5%と比較的低めですが、以下の重大な副作用には注意が必要です。
- 過敏症(頻度不明):呼吸困難や発疹等のアナフィラキシーを含む過敏症があらわれることがあります。投与から数日後に症状が現れる遅延型の重篤な過敏症の報告もあるため、注意深い観察が必要です。
また、末期腎不全(eGFR 15mL/min/1.73m2未満)および重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)の患者様への投与は、血漿中濃度上昇の懸念から避けることが望ましいとされています。
処方時のチェックリスト(医師向け)
- 国際頭痛学会の診断基準に基づき、片頭痛の確定診断がなされているか。
- 重度の肝機能障害(Child-Pugh C)や末期腎不全(eGFR < 15)に該当しないか。
- 強いCYP3A4阻害剤や誘導剤を常用していないか(併用を避けることが望ましい薬剤の確認)。
- 発症抑制目的の場合、月複数回の発作があり、日常生活に支障をきたしているか。
- 14日分の処方制限(2026年11月末まで)を考慮した処方設計になっているか。
服薬指導のポイント(薬剤師向け)
- OD錠の扱い:吸湿性があるため、使用直前に乾いた指で取り出すこと。非常に柔らかい錠剤なので、裏面のシートを完全に剥がしてから取り出し、押し出さないよう説明する。
- 服用方法:水なしで服用可能。舌の上などで唾液を含ませて崩壊させてから服用する(水での服用データが未整備のため、水なし服用を推奨)。
- 服用上限:急性期・発症抑制のいずれの目的であっても、1日1回75mgを超えて服用しないこと。
- 副作用の遅延:発疹や息苦しさなどの過敏症状が、服用から数日経ってから出る可能性を伝える。
- 保管方法:ブリスターシートから出したまま保管せず、直前に取り出すことを徹底する。
ケアポイント(看護師向け)
- 頭痛ダイアリーの活用:発症抑制で使用する場合、隔日投与が守られているか、発作回数や痛みの程度が軽減しているかを患者と一緒に確認する。
- 随伴症状のモニタリング:頭痛そのものだけでなく、悪心やめまいなどの随伴症状の変化についても聞き取る。
- 過敏症の早期発見:特に初回投与時や開始数日間は、皮膚症状や呼吸器症状の有無を注意深く観察する。
- OD錠の誤飲防止:高齢者などの場合、ブリスターシートを誤って飲み込まないよう、取り出し方の指導を補助する。
- QOLの評価:「仕事や家事ができるようになったか」など、日常生活動作への貢献度を評価し共有する。

ナルティークOD錠75mgは、1剤で「今ある痛み」と「未来の発作」の両方にアプローチできる、患者様にとっても非常に利便性の高い薬剤です。特に自己注射に抵抗感のある方や、既存薬で十分な効果が得られなかった方への福音となることが期待されます。現場の皆様の適切なサポートで、片頭痛に悩む患者様の笑顔が増えると嬉しいですね。