ルマケラス®錠120mg(一般名:ソトラシブ、以下「本剤」)は米国Amgen社が開発した世界初のRas阻害剤で、KRASタンパクの12番目にあるアミノ酸がグリシン(G)からシステイン(C)に変異したKRAS G12Cタンパク(以下「KRAS G12C」)に選択的に結合し、KRASの活性型への構造変化を不可逆的に阻害する。
標的となるKRAS G12Cを生じさせる遺伝子変異(以下「KRAS G12C変異」)は非小細胞肺癌(NSCLC)において認められる発癌ドライバーの1つであり、白人では肺腺癌の約13%、日本人では非扁平上皮癌の約4.5%に認められる。KRAS G12C変異によってタンパク構造が変化する結果、KRASが活性型に維持されて下流のシグナル伝達が亢進し、腫瘍細胞の増殖及び生存につながると考えられている。ヒトの癌(NSCLCを含む)におけるKRASの役割については数十年前から知られていたものの、KRAS G12Cを標的とする承認された治療薬はなかった。
本剤は、KRAS G12C変異を有するKRASに対して、選択的阻害作用を示す低分子化合物である。本剤がKRASG12C変異を有するKRASに結合することにより、KRASの活性化及び下流のシグナル伝達が阻害され、腫瘍増殖が抑制される。2018年8月より、KRAS G12C変異を有する進行固形癌患者を対象とした、本剤の安全性、忍容性、薬物動態、薬力学及び有効性を検討する国際共同第Ⅰ/Ⅱ相非盲検試験(20170543試験)が開始され、現在も実施中である(2022年1月時点)。
米国では2020年12月に画期的治療薬に指定され、20170543試験の第Ⅱ相部分の有効性及び安全性を主な臨床成績として、2021年5月に「少なくとも1回の全身治療歴があり、FDAが承認したKRAS G12C変異検査で陽性と判定された成人の局所進行性又は転移性のNSCLC」を適応とする迅速承認を取得した。米国に続いてカナダ及び英国、EUで承認されている(2022年1月時点)。本邦では2021年3月に希少疾病用医薬品に指定され、アムジェン株式会社が2021年4月に製造販売承認申請を行い、2022年1月に「がん化学療法後に増悪したKRAS G12C変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」に対する治療薬として承認を取得した。
作用機序
Kirstenラット肉腫ウイルス腫瘍遺伝子ホモログ(KRAS)は、細胞の増殖、分化及び生存における重要な調節因子である。KRAS変異は、多くの癌において腫瘍形成に関与する発癌ドライバーとして特定されている。KRASG12C変異は一塩基の変異に起因しており、12番目のアミノ酸がグリシンからシステインに変換される。このタンパクの構造変化によりKRAS G12Cが活性型に安定化し、下流のシグナル伝達が亢進することで腫瘍細胞の増殖及び生存を引き起こす。
ソトラシブは、KRAS G12Cの変異した12番目のシステイン(C12)に隣接するSwitchⅡポケットにおいてシステイン残基と共有結合するとともに、95番目のヒスチジン(H95)により形成される特有の溝構造とも相互作用する選択的KRAS G12C阻害剤である。ソトラシブが結合することで、KRAS G12Cタンパクが不活性状態に維持され、KRASとRAFプロトオンコジーン セリン・スレオニンキナーゼなどのエフェクターとの相互作用を阻害する。この阻害作用により、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)のリン酸化を含む、下流のシグナル伝達を抑制すると考えられている。
製品情報
商品名 | ルマケラス錠120mg |
一般名 (洋名) | ソトラシブ (Sotorasib) |
承認年月日 | 2022年1月20日 |
発売年月日 | 2022年4月20日 |
メーカー | アムジェン株式会社 |
名前の由来 | LUMA(ラテン語で「光」や「明るさ」を意味する語源を持ち、明確な道筋を照らすことを意味する) KRAS(NSCLCに認められる変異の1つであるKRAS G12C変異を標的とすることを意味する) |
ステム | Rasタンパク質阻害薬: -rasib |
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効能又は効果
がん化学療法後に増悪したKRAS G12C変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
本剤は、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤の使用が適切と判断される症例についてのみ投与すること。また、治療開始に先立ち、患者又はその家族に有効性及び危険性を十分説明し、同意を得てから投与すること。
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
用法及び用量
通常、成人にはソトラシブとして960mgを1日1回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。
・十分な経験を有する病理医又は検査施設における検査により、KRAS G12C変異陽性が確認された患者に投与すること。検査にあたっては、承認された体外診断用医薬品又は医療機器を用いること。
・本剤投与により副作用が発現した場合には、添付文書に記載の基準を考慮して、休薬・減量・中止すること。240mg/日の投与量に対して忍容性が認められない場合は投与を中止すること。
代謝・代謝酵素について
ソトラシブの代謝に関与する主な代謝酵素はCYP3Aである。
食事の影響
健康被験者(14例)に本剤360mgを単回経口投与注)したとき、空腹時投与に対する高脂肪食後投与におけるソトラシブのCmax及びAUClastの最小二乗幾何平均値の比は、それぞれ1.03及び1.38であった。
副作用(抜粋)
肝機能障害:ALT増加(16.3%)、AST増加(16.3%)等の肝機能障害があらわれることがある。
間質性肺疾患:肺臓炎(1.1%)等があらわれることがある。
また、5%以上の頻度の副作用として、胃腸障害(下痢(27.9%)、悪心(16.3%)、嘔吐、腹痛)、疲労(11.1%)が報告されている。
情報更新日:2022年10月