
『みなさん、こんにちは。今回は2025年11月に新たに発売された麻酔前投薬治療薬「ドルミカムシロップ2mg/mL」について、簡単にまとめました。』
はじめに:ドルミカムシロップとは
ドルミカムシロップ2mg/mL(一般名:ミダゾラム)は、小児を対象とした麻酔前投薬専用の経口ミダゾラム製剤です。手術や麻酔は患者さんにとって大きなストレスとなりますが、とくに小児では、保護者と離れる不安や環境の変化から泣いたり興奮したりしやすく、麻酔導入や気管挿管が困難になることがあります。その結果、分泌物による気道閉塞や嘔吐による誤嚥、不整脈など、周術期合併症のリスクが高まることが知られています。
小児麻酔の現場では、こうした不安や興奮を和らげ、スムーズな麻酔導入をサポートする麻酔前投薬(プレメディケーション)が重要な役割を担っています。理想的な麻酔前投薬は、効果発現が速やかで持続は長すぎず、投与経路はできる限り侵襲の少ない経口投与が望まれます。しかし、これまで国内で麻酔前投薬として承認されていたミダゾラム製剤は筋肉内投与のみであり、「小児向けの経口プレメディケーション製剤がほしい」という現場のニーズが大きく、学会からも開発要望が出されていました。
ドルミカムシロップは、こうした背景を受けて誕生した、国内初の小児麻酔前投薬用ミダゾラムシロップ製剤です。ストロベリー様のにおいを有し、小児でも受け入れやすい味と剤形に配慮されている点も特徴です。GABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位を介して抑制性神経伝達を増強し、催眠・鎮静・抗不安作用を発揮することで、小児の不安を軽減し、麻酔導入を円滑に進めることが期待されます。
製品概要(承認日、発売日、製造販売元など)
- 商品名:ドルミカムシロップ2mg/mL
- 一般名:ミダゾラム
- 薬効分類:催眠鎮静剤
- 剤形・性状:無色澄明のシロップ剤で、ストロベリー様のにおいがある。
- 効能・効果:麻酔前投薬(小児を対象)
- 製造販売元:丸石製薬株式会社
- 製造販売承認取得日:2025年9月19日
- 薬価基準収載日:2025年11月12日
- 発売日:2025年11月27日
作用機序と特徴
ミダゾラムは、ベンゾジアゼピン系に分類される催眠鎮静薬で、脳内のGABAA受容体に存在する「ベンゾジアゼピン結合部位」に結合し、抑制性神経伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)の作用を増強します。これにより、神経細胞へのクロライドイオンの流入が促進され、神経の興奮性が低下することで、催眠・鎮静・抗不安・健忘作用を発揮すると考えられています。
ドルミカムシロップ2mg/mLの主な特徴は以下の通りです。
- 経口投与可能な麻酔前投薬:小児に対して侵襲の少ない経口投与が可能で、筋注に比べて心理的負担を軽減しやすい。
- 比較的速やかな効果発現:全身麻酔前に投与することで、不安軽減および鎮静を得て、麻酔導入・気管挿管をスムーズに行うことが期待される。
- シロップ剤で小児に服用しやすい:ストロベリー様のにおいを付与し、小児が受け入れやすい剤形に工夫されている。
- 薬物動態:主にCYP3A4で代謝され、活性代謝物(1-ヒドロキシ体など)が生じる。小児においては体重や年齢によってクリアランスや半減期に差がみられるため、投与量は添付文書に基づき慎重に調整する必要がある。
一方で、ベンゾジアゼピン系薬剤であることから、呼吸抑制や呼吸停止、循環動態の変動をきたすリスクがあり、添付文書では十分なモニタリング体制のある施設で、経験ある医師のもとで使用するよう強く警告されています。
効能・効果・適応症
効能・効果:
麻酔前投薬
なお、生後6ヵ月未満の小児における有効性および安全性は確立していないとされており、この年齢層に対しては適応外となります。
用法・用量と投与時の注意点
基本用法・用量(添付文書):
- 通常、小児にはミダゾラムとして1回0.25~1.0mg/kg(最大用量20mg)を、麻酔開始前に経口投与する。
用法・用量に関連する主な注意点:
- 投与量は、国内外の臨床成績や最新のガイドラインを参考に、年齢・全身状態・併用薬などを考慮して個別に決定する。
- 肥満小児では、標準体重に基づいて投与量を算出する。
- ミダゾラムへの反応には個人差が大きく、特に衰弱患者、心不全患者、肝機能障害患者、他の中枢神経抑制薬併用時では作用が強くあらわれやすいため、投与量を減じることが推奨されている。
- 投与タイミングは、麻酔導入の予定時刻や効果発現時間を考慮し、適切な時間帯に設定する。
- 本剤は経口投与専用であり、注射には用いない。
重要な警告・注意点(概要):
- 呼吸抑制・呼吸停止により、速やかな処置が行えなかった症例では、死亡や低酸素脳症に至った報告がある。
- 呼吸・循環動態を連続的に観察できる設備と、緊急時対応が可能な施設でのみ使用する。
- 小児の鎮静管理に熟練した医師が、リスクとベネフィットを十分に評価した上で投与する。
- 過量投与が疑われる場合は、必要に応じてベンゾジアゼピン受容体拮抗薬(フルマゼニル)の使用を検討するが、作用時間の違いによる再鎮静にも注意が必要。
相互作用・代謝経路
ミダゾラム(ドルミカムシロップ)は、主としてCYP3Aで代謝される薬剤であり、CYP3Aを阻害・誘導する薬剤との相互作用が重要です。また、中枢神経抑制作用を有する薬剤との併用により、鎮静および呼吸・循環抑制が増強される可能性があります。
1. 併用禁忌(併用しないこと)
HIVプロテアーゼ阻害剤など強力なCYP3A阻害薬
- リトナビルを含有する薬剤(ノービア、カレトラなど)
- ホスアンプレナビル(レクシヴァ)
- ダルナビルを含有する薬剤(プリジスタ、プレジコビックス、シムツーザ)
- コビシスタット含有薬剤(ゲンボイヤ、プレジコビックス、シムツーザ など)
- ニルマトレルビル・リトナビル(パキロビッドパック)
- ロナファルニブ(ゾキンヴィ)
これらの薬剤は強力なCYP3A阻害作用を有し、ミダゾラムの代謝を著明に抑制することで、血中濃度を大きく上昇させます。その結果、過度の鎮静や呼吸抑制、呼吸停止を起こすおそれがあるため、併用禁忌とされています。
2. 併用注意(併用に注意すること)
(1)中枢神経抑制作用を有する薬剤・アルコール
- 中枢神経抑制剤(フェノチアジン誘導体、バルビツール酸誘導体、麻薬性鎮痛剤など)
- モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤
- アルコール(飲酒)
これらと併用すると、鎮静・麻酔作用が増強され、呼吸数や血圧、心拍出量の低下が生じるおそれがあります。相加的に中枢神経抑制作用(鎮静・麻酔作用、呼吸・循環動態への影響)を増強するため、併用の必要性を慎重に検討し、投与量減量やモニタリング強化が必要となります。
(2)主にCYP3Aで代謝される薬剤
- カルバマゼピン
- クロバザム
- トピラマート など
ミダゾラムと同じくCYP3Aで代謝される薬剤では、代謝の競合により、本剤または相手薬剤の血中濃度が上昇し、作用が増強されるおそれがあります。抗てんかん薬などを併用している小児では、薬物治療全体のバランスを考慮し、必要に応じて血中濃度モニタリングや用量調整を検討します。
(3)CYP3Aを阻害する薬剤
- カルシウム拮抗薬:ベラパミル塩酸塩、ジルチアゼム塩酸塩
- アゾール系抗真菌薬:ケトコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール など
- シメチジン
- マクロライド系抗菌薬:エリスロマイシン、クラリスロマイシン
- ホスネツピタント塩化物塩酸塩
- カロテグラストメチル
- ピミテスピブ
- エンシトレルビルフマル酸
- ベルモスジルメシル酸塩
- カピバセルチブ
- グレープフルーツジュースなど
これらはCYP3Aを阻害し、ミダゾラムの代謝を抑制することで、本剤の血中濃度を上昇させ、中枢抑制作用を増強させるおそれがあります。併用が避けられない場合には、投与量の減量や投与間隔の調整、呼吸・循環の厳重なモニタリングが必要となります。グレープフルーツジュースも同様にCYP3A阻害作用を持つため、服用前後の摂取は避けるよう指導します。
(4)CYP3Aを誘導する薬剤
- リファンピシン
- カルバマゼピン
- エンザルタミド
- ダブラフェニブ
- ミトタン
- アメナメビル
- ロルラチニブ
- イプタコパン塩酸塩水和物
- フェニトイン
- フェノバルビタール
- セイヨウオトギリソウ(St. John’s Wort)含有食品など
これらはCYP3Aを誘導することで、ミダゾラムの代謝を促進し、血中濃度を低下させます。その結果、本剤の鎮静作用が減弱し、期待する効果が得られない可能性があります。併用時は効果の変化を慎重に観察し、必要に応じて用量調整を行います。
(5)抗悪性腫瘍剤・プロポフォール
- ビノレルビン酒石酸塩、パクリタキセル等:骨髄抑制等の副作用が増強するおそれがある。本剤がCYP3Aを阻害し、これらの薬剤の代謝を抑制することで、血中濃度が上昇すると考えられている。
- プロポフォール:麻酔・鎮静作用が増強され、血圧低下や心拍出量低下などの循環抑制が強く出る可能性がある。相互に中枢抑制作用を増強し、さらにCYP3A阻害により本剤の血中濃度が上昇したとの報告もある。
代謝経路のまとめ
- ミダゾラムは肝臓のCYP3A4により主に1-ヒドロキシ体、4-ヒドロキシ体へと代謝される。
- 代謝物は主として尿中に排泄される。
- 肝機能障害やCYP3A阻害薬の併用により、半減期延長・血中濃度上昇が生じやすい。
食事の影響について
ドルミカムシロップそのものは、通常の食事との間に明確な制限は設けられていませんが、グレープフルーツジュースはCYP3A阻害作用により本剤の血中濃度を上昇させる可能性があるため、服用前後の摂取は避けることが望まれます。
また、アルコールは中枢抑制作用を相加的に増強させるため、成人患者への応用が検討される場面などでは、飲酒の回避を指導する必要があります。小児への使用が中心となる本剤においては、保護者への説明の中で、他の薬やサプリメント、ハーブ製品(セイヨウオトギリソウを含む)などの摂取状況も確認しておくと安全です。
主な副作用と安全性情報
ベンゾジアゼピン系薬剤の特徴を踏まえ、ドルミカムシロップでも以下のような副作用が注意喚起されています。
- 呼吸抑制・呼吸停止:最も重要な安全性上のリスクであり、適切な監視と緊急対応体制が必須。
- 過鎮静・傾眠・錯乱:意識レベルの低下や反応性の低下がみられることがある。
- 循環動態の変動:血圧低下、心拍数変動、心拍出量低下など。
- 興奮、逆説的反応:まれに不穏・興奮・攻撃性が出現することがあり、投与中止や対症療法を検討する。
- 消化器症状:悪心、嘔吐など。
過量投与や感受性の高い患者では、過鎮静から呼吸抑制へ進行するリスクがあるため、経過観察とモニタリング(呼吸数、SpO2、血圧、心拍など)を十分に行うことが重要です。必要に応じてフルマゼニルの使用を考慮しますが、作用時間の違いによる再鎮静には十分注意が必要です。
処方時のチェックリスト(医師向け)
- 麻酔前投薬としての使用目的が明確であり、小児麻酔に精通した医師が管理できる体制か。
- 施設として、呼吸・循環を連続的に観察できるモニタリング設備と、緊急時の蘇生・気道確保が可能な環境が整っているか。
- 対象が生後6ヵ月以上の小児であることを確認しているか。
- 基礎疾患(心不全、呼吸器疾患、肝・腎機能障害、神経疾患など)を把握し、必要な用量調整を行っているか。
- HIVプロテアーゼ阻害剤など併用禁忌薬の有無を確認しているか。
- CYP3A阻害・誘導薬、他の中枢神経抑制薬、抗てんかん薬等との併用状況を確認しているか。
- 肥満児では標準体重に基づいて投与量を算出しているか。
- 投与タイミング(麻酔導入との間隔)を、効果発現時間を踏まえて設定しているか。
- フルマゼニルなど緊急時使用薬がすぐに使用できるように準備されているか。
服薬指導のポイント(薬剤師向け)
- ドルミカムシロップは麻酔開始前の一時的な投与であり、家庭で継続内服する薬ではないことを保護者に説明する。
- 医師が指示した投与量(mL換算)を、体重に応じて正確に調製し、投与直前に確認する。
- ストロベリー様のにおいがあるが、嫌がる場合は看護師・医師と連携し、無理な投与で誤嚥を招かないよう配慮する。
- グレープフルーツジュースや一部の薬剤が相互作用を起こす可能性があることを注意
- フルマゼニル投与歴がある患者では、本剤の鎮静作用が変化・遅延する可能性があることを念頭に置き、医師に情報提供する。
ケアポイント(看護師向け)
- 投与前に、体重・全身状態・バイタルサインを確認し、予定投与量が妥当かどうか医師と情報共有する。
- 投与後は、意識レベル、呼吸数、SpO2、血圧、心拍数などを連続的または頻回に観察し、異常があれば速やかに医師へ報告する。
- 小児が保護者と離れるタイミングや環境に配慮し、不安や恐怖を軽減する声かけ・環境調整を行う。
- 飲み込みが不十分な場合や、嫌がって暴れる場合は、誤嚥リスクを考慮して投与方法を見直す必要があるため、安易に再投与しない。
- 手術室・麻酔科スタッフとの情報連携(投与時刻、投与量、投与後の様子)を確実に行い、麻酔導入時の判断材料として共有する。
まとめ

『ドルミカムシロップは、小児の手術前の不安をやわらげて、麻酔導入をスムーズにしてくれるお薬ですね。呼吸や循環への影響にはしっかり注意が必要ですが、チームで連携しながら使っていくことで、親子ともに少しでも安心して手術に臨めるようなお手伝いができるといいな、と思います。』