開発の経緯について
メプセヴィ®点滴静注液10mg(以下本剤)は、グリコサミノグリカン(GAG)の分解酵素であるβ-グルクロニダーゼ(GUS)が遺伝的に欠損しているために引き起こされるライソゾーム病(指定難病19)、ムコ多糖症VII型に対する世界初の治療薬である。
本剤は、チャイニーズハムスター卵巣細胞株を用いて生産される遺伝子組換えヒトGUSであり、ムコ多糖症VII型患者における内因性GUSの活性低下又は欠損を補うことを目的とした酵素補充療法製剤である。
ムコ多糖症VII型(スライ症候群)は、ムコ多糖症の中でも特に発症頻度の低いものの1つであり(推定有病率は100万人当たり1人未満)、GAGの分解が妨げられることにより長年にわたって全身の細胞にGAGが蓄積し、組織の損傷、臓器・器官系の機能障害及び機能不全をもたらす、進行性かつ衰弱性で生命を脅かす疾患である。ムコ多糖症VII型の疾患特性は不均一であり、臨床症状は胎児水腫として出生時に認められることもあれば、青年期又は成人になってから骨変形などの所見として現れることもある。ムコ多糖症VII型の症状には、特異顔貌、肺障害、心血管合併症、肝脾腫、関節拘縮、低身長、認知障害、及び多発性異骨症と呼ばれる特徴的な骨変形など、他のムコ多糖症でも一般的に認められる症状を呈するが、これらの症状の有無、重症度及び経過は極めて多様であることが知られている。多くは、合併症が原因で10代又は若年の年齢で死亡する。胎児水腫のために出生後1年以内に死亡する例もある。このため、臨床開発には困難を伴ったが、疾患のアンメットメディカルニーズを満たすべく、初の治療薬として開発された。
本剤はムコ多糖症の治療薬として開発された5番目の酵素補充療法薬(ERT)であり、既に承認されたERTの知見を踏まえて臨床開発が計画された。第Ⅰ/Ⅱ相用量設定試験(UX003-CL201試験)、第Ⅲ相無作為化試験(UX003-CL301試験)、5歳未満の患者における有用性を評価した第Ⅱ相無作為化試験(UX003-CL203試験)などから得られた海外臨床試験データは、本剤が尿中グリコサミノグリカン(uGAG)排泄量を有意に減少させ、ムコ多糖症VII型の種々の臨床症状(歩行、運動機能、肝腫大、疲労/活力低下、呼吸、心機能など)に関して有意義な効果が検証され、2017年11月に米国で、2018年8月に欧州でそれぞれ承認された。
本邦においては、日本先天代謝異常学会及びムコ多糖症患者家族の会から、医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議に対して本剤の開発要望書が提出され、当該小児ワーキンググループにおいて「医療上の必要性に係る基準」である「適応疾病の重篤性(病気の進行が不可逆的で、日常生活に著しい影響を及ぼす疾患)」並びに「医療上の有用性(既存の療法が国内にない)」に該当すると判断され、2018年7月に開催された第35回検討会議に報告された結果、医療上の必要性が高いという評価を得た。これを受けてアミカス・セラピューティクス株式会社が2019年1月に本剤の開発意思の申し出を行った。また、国内ムコ多糖症VII型患者に対する本剤の早期開発・早期承認が切望されていることを踏まえ、大阪市立大学医学部附属病院において医師主導治験の準備が行われ、2019年1月より国内臨床試験が開始された。国内臨床試験(SDG001試験)の結果、主要評価項目である24週後までのuGAGの減少は3例(うち小児1例)のいずれの症例においても50%以上の減少が認められ、有効性と安全性が示唆された。
本邦では、これらの結果を踏まえて、2022年1月「ムコ多糖症VII型」の効能又は効果で承認された。
その後2022年7月Ultragenyx Japan株式会社に製造販売承認が承継された。
作用機序
ムコ多糖症VII型は、ライソゾーム酵素であるβ-グルクロニダーゼ(GUS)の遺伝子変異による常染色体劣性遺伝疾患である。GUSはグリコサミノグリカン(GAG)のデルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸及びヘパラン硫酸のグルクロニダーゼ残基を加水分解するが、ムコ多糖症VII型ではGUSが欠損あるいは欠乏しているため、GAGが蓄積し、胎児水腫、骨変形等を呈する。遺伝子組換えGUS製剤である本剤をムコ多糖症VII型患者に投与すると、オリゴ糖鎖上にあるマンノース-6-リン酸(M6P)部分を介して、酵素が細胞表面のM6P受容体と特異的に結合して細胞内に取り込まれ、蓄積したGAGを分解する。
製品情報
商品名 | メプセヴィ点滴静注液10mg |
一般名 (洋名) | ベストロニダーゼ アルファ (Vestronidase Alfa) |
承認年月日 | 2022年1月20日 |
発売年月日 | |
メーカー | Ultragenyx Japan株式会社 |
名前の由来 | 特になし |
ステム | 酵素:-ase |
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効能又は効果
ムコ多糖症VII型
警告
・Infusion reaction、アナフィラキシーが発現する可能性があるので、緊急時に十分な対応のできる準備をした上で投与を開始し、投与中及び投与終了後は十分な観察を行うこと。また、重篤なinfusion reaction、アナフィラキシーが発現した場合には、本剤の投与を直ちに中止し、適切な処置を行うこと。
・急性熱性疾患又は呼吸器疾患のある患者に投与した場合、過敏症反応により症状の急性増悪が起こる可能性があるので、患者の状態を十分に観察し、必要に応じて適切な処置を行うこと。
禁忌
本剤の成分に対しアナフィラキシーショックの既往歴のある患者
用法及び用量
通常、ベストロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)として、1回体重1kgあたり4mgを隔週点滴静注する。
注意
・日局生理食塩液で希釈した後に投与すること。本剤の投与は輸液ポンプを用いて、総量を4時間以上かけて投与すること。初めの1時間で総量の2.5%を投与し、その後、患者の忍容性を十分確認しながら投与速度を上げて投与すること。
・本剤の投与によりinfusion reaction(蕁麻疹、発疹等)が発現することがある。これらの症状を軽減させるため、抗ヒスタミン剤を単独又は解熱鎮痛剤との併用で本剤投与開始30~60分前に前投与すること。
代謝・代謝酵素について
本剤の有効成分であるベストロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)はヒトの生体内酵素の遺伝子組換えタンパク質であり、主にタンパク質による加水分解により代謝されると考えられる。また、本剤は内因性ヒト酵素の遺伝子組換え型であり、チトクロームP450による代謝を受けない。
食事の影響
該当資料なし
副作用(抜粋)
重大な副作用としてInfusion reaction(8.7%)、アナフィラキシー(4.3%)の記載がある。
その他の報告されている副作用として10%以上のものには、蕁麻疹、発疹、注入部位血管外漏出、注入部位腫脹、10%未満のものには下痢、掻痒症の記載がある。
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情報更新日:2022年10月