【2025年12月18日発売】ビルベイ顆粒(オデビキシバット水和物)の特徴、作用機序

みなさん、こんにちは。今回は2025年12月に新たに発売された進行性家族性肝内胆汁うっ滞症治療薬「ビルベイ顆粒200μg・600μg」について、簡単にまとめました。国内ではわずか数名という極めて稀な疾患に光を当てる、革新的な新薬の登場です。

はじめに:ビルベイ顆粒(オデビキシバット水和物)とは

進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC:Progressive Familial Intrahepatic Cholestasis)は、肝細胞における胆汁輸送に関わる遺伝子の変異により、胆汁がうっ滞し肝障害を引き起こす極めて稀な遺伝性疾患です。全世界的な疫学としては、5万から10万出生に1名の患者発生率が推測されていますが、本邦では症例報告が散見されるのみで、推定患者数は約100人とされています。

PFICの主な症状は、胆汁酸の蓄積による「重度のかゆみ(そう痒)」です。このかゆみは極めて激しく、皮膚を掻きむしり、出血や睡眠障害、さらには注意力低下など、日常生活のあらゆる面に深刻な影響を及ぼします。これまでは肝機能の維持や症状管理において有効な経口治療薬が乏しく、最終的に肝移植を必要とすることも少なくありませんでした。

「ビルベイ」は、国内で初めてPFICに伴うそう痒を適応とした、1日1回経口投与の回腸胆汁酸トランスポーター(IBAT:Ileal Bile Acid Transporter)阻害剤です。遠位回腸での胆汁酸再吸収を抑えることで、血清中胆汁酸濃度を低下させ、患者様を苦しめる激しいかゆみを改善することが期待されています。

製品概要

販売名ビルベイ顆粒200μg、ビルベイ顆粒600μg
一般名オデビキシバット水和物(Odevixibat Hydrate)
薬効分類回腸胆汁酸トランスポーター阻害剤
製造販売承認日2025年9月19日
発売日2025年12月18日
製造販売元IPSEN株式会社

作用機序と特徴

オデビキシバットは、小腸末端の遠位回腸に発現する回腸胆汁酸トランスポーター(IBAT:Ileal Bile Acid Transporter)を強力かつ選択的に阻害します。通常、胆汁酸の約95%は回腸で再吸収されて肝臓に戻る「腸肝循環」を行っていますが、本剤はこの再吸収プロセスをブロックします。

その結果、胆汁酸は再吸収されずに結腸へと排出され、糞便中へのクリアランスが増加します。これにより、体内の過剰な胆汁酸プールが減少し、血清中胆汁酸濃度が低下することで、かゆみの原因物質である胆汁酸の皮膚への刺激が軽減されると考えられています。本剤は全身への曝露が極めて少なく、局所的に作用を発揮する点も大きな特徴です。

効能・効果・適応症

進行性家族性肝内胆汁うっ滞症に伴うそう痒

用法・用量と投与時の注意点

用法・用量

通常、成人及び小児にはオデビキシバットとして40μg/kgを1日1回朝食時に経口投与する。なお、効果不十分な場合には、120μg/kgを1日1回に増量することができるが、1日最高用量として7200μgを超えないこと。

投与時の注意点

  • 服用形態の注意:本剤はカプセルに入っていますが、このカプセルは容器です。カプセルごと服用せず、必ず開封して中の顆粒のみを飲食物に混ぜて服用してください。
  • 投与タイミング:1日の最初の食事(朝食)の際に投与することが推奨されています。
  • 肝機能不全患者:重度の肝機能障害患者への投与は、血漿中濃度が上昇する可能性があるため推奨されません。

相互作用・代謝経路

オデビキシバットは主にCYP3A4(Cytochrome P450 3A4)による代謝をほとんど受けず、糞便中への未変化体排泄が主体です。全身への吸収が最小限であるため、全身性の薬物相互作用のリスクは低いと考えられています。

食事の影響について

本剤は食事とともに投与されることが前提となっており、臨床試験では朝食時に投与されました。空腹時に投与した場合と比較して、食後投与では血漿中濃度がさらに低くなる傾向がありますが、回腸での局所的なIBAT阻害作用が主目的であるため、臨床上の効果に影響はないと考えられています。指示通り「朝食時」の服用を徹底してください。

主な副作用と安全性情報

臨床試験において認められた主な副作用は、下痢(約10%)や腹痛です。これは回腸での胆汁酸吸収阻害により、大腸に流入する胆汁酸が増加することに起因します。

  • 肝機能値の上昇:ALT(Alanine Aminotransferase)、AST(Aspartate Aminotransferase)の上昇が報告されています。投与前および投与中は定期的な検査が必要です。
  • 脂溶性ビタミンの減少:胆汁酸の吸収阻害に伴い、脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)の吸収が低下する可能性があります。血中ビタミン濃度やプロトロンビン時間(PT-INR)の定期的測定を行い、必要に応じて補充を検討してください。
  • 重度の下痢:脱水症状を引き起こす可能性があるため、腹痛や下痢が持続する場合は、減量や投与中断を検討します。

処方時のチェックリスト(医師向け)

  • PFICの確定診断がなされており、中等度〜重度のそう痒を伴っているか。
  • ベースラインの肝機能検査値(ALT, AST, ビリルビン等)を確認したか。
  • 脂溶性ビタミン(A, D, E, K)の血中濃度およびPT-INRの事前測定を行ったか。
  • 妊婦又は妊娠している可能性がないか(動物実験で催奇形性、禁忌に該当)。
  • 体重に基づいた正確な投与量(開始用量:40μg/kg)が算出されているか。

服薬指導のポイント(薬剤師向け)

  • カプセル服用禁止の徹底:カプセルは「薬を測るための容器」であり、丸飲みせず、必ず開けて中の顆粒を出すように説明する(万が一カプセルを服用しても安全性について特段の懸念はないとされている)。
  • 飲食物への混ぜ方:少量の柔らかい食べ物(アップルソース、ヨーグルト等)や飲み物に混ぜ、噛まずに速やかに摂取させる。
  • 朝食時の服用:1日の最初の食事に合わせて服用し、飲み忘れた場合は、当日中であればすぐに服用していただく。
  • 下痢への注意:便が緩くなる可能性があるため、症状が続く場合やぐったりしている(脱水疑い)場合はすぐに受診するよう伝える。
  • 保管方法:光を避けるため、ボトル開封後も元のボトルのまま保管することを徹底する。

ケアポイント(看護師向け)

  • そう痒の変化の確認:皮膚の掻き傷(スクラッチマーク)の改善や、夜間の睡眠状況が良くなったか聞き取る。
  • 体重測定の継続:成長期の子どもが多いため、用量調節の指標となる体重変化をこまめにチェックする。
  • 脱水症状のサイン:下痢に伴う皮膚の乾燥、活気のなさ、尿量の減少などがないか観察する。
  • ビタミン欠乏症状の観察:皮膚の乾燥(V.A)、骨の痛み(V.D)、出血傾向(V.K)などの兆候がないか留意する。
  • 家族への心理的ケア:稀な難病であるため、家族の負担は非常に大きいです。治療によるQOL向上の喜びを共有し、支える姿勢が重要です。

「ビルベイ」の登場は、激しいかゆみに耐え、日常生活が制限されていたPFICの患者様とそのご家族にとって、大きな希望の光となりますね。1日1回の内服でかゆみが改善され、子どもたちが元気に過ごせるようになることを、私も心から願っています。

執筆者:薬剤師(大学病院)
参考・引用資料:添付文書、インタビューフォーム、適正使用ガイド、メーカープレスリリース資料など
※掲載内容には細心の注意を払っておりますが、古い情報や誤りを含む場合があります。最新の添付文書などをご確認ください。
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